名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜   作:暁 蒼空

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名探偵プリキュア! 第10話「絵の謎を解き明かせ!」を元に作成した話となります。


第4話:秘められた愛情、真実のキャンバス(前編)

翌朝。

るるかは、額にひんやりとした感覚があるのを感じて、ゆっくりと重い目を開けた。

 

「あれ……私……」

 

高熱でうなされていた後の寝起きの為、頭がまだぼんやりとしていた。

天井のシミを見つめながら、額の心地よい冷たさに意識を向ける。

 

「何だか、頭が冷たくて気持ちいい……」

 

るるかの額には、氷水の入った氷嚢が丁寧に当てられていた。

 

「るるか」

 

横から声がして、るるかが視線を向ける。

 

「おはよう、るるか。体は大丈夫?」

 

心配そうに覗き込んでいたのは、マシュタンだった。

 

「マシュタン。おはよう。うん、多分……大丈夫」

 

マシュタンは、るるかの額に当てていた氷嚢をそっと外し、自分の小さな手をるるかの額に当てた。

 

「良かったわ。熱は下がったみたいね」

「マシュタン。もしかして、ずっと私の看病を……?」

 

夜通し付き添ってくれていたのだと気づき、るるかはマシュタンを真っ直ぐに見つめた。

 

「当然でしょ! アタシは、貴女のおとも妖精。貴女のパートナーなんだから!」

 

マシュタンは少し照れたように、でも誇らしげに胸を張った。

 

「それに、寝ているるるかが凄く苦しそうにしてたから……放って置くことなんて出来なかったわ」

 

その優しさに触れ、るるかは俯いてしまった。

 

「マシュタン……ごめんなさい……」

「どうして謝るの?」

 

「だって、私が……私が無理なんてしたから……。私が体調悪い事を隠したりなんてして、意地張って我慢してたから……。だから余計に悪化させて……マシュタンに迷惑をかけて……」

 

自己嫌悪に陥るるるか。

そんな彼女を見て、マシュタンは「はぁ~」と大きくため息をついた。

 

「全く。そう思ってくれてるなら、隠し事とか、無理だけはしないって約束してもらいたいんだけど」

 

マシュタンの要求に、るるかは言葉を詰まらせた。

 

「それは……」

 

こころを救うためには、無理をしないわけにはいかない。

だから、素直に約束できない。

 

「わかってるわ」

 

マシュタンは、るるかの心境を見透かしたように言った。

 

「きっと貴女は、また無理や無茶をするんでしょうね。くれあの事もあるけど……きっと一番は、こころちゃんの為に」

 

図星を突かれ、るるかは目を伏せる。

 

「だからね、るるか。なるべくしては貰いたくないけど……止めはしないわ」

「えっ……」

「でも、私にもちゃんと共有して。辛い時は、ちゃんとアタシを頼って」

 

マシュタンの真っ直ぐな言葉を聞いて、るるかの胸の奥で何かが静かに溶けていくのを感じた。

 

(私……バカだな。そうだよね。ずっとマシュタンは私の隣にいてくれたのに……。世界が敵になっても私の味方だって、言い続けてくれてたのに)

 

怪盗という暗い道。

その泥を被るのは、自分一人だけでいいと思っていた。

 

(私……マシュタンに迷惑をかけたくなくて。無理するのは1人でいいと思ってた。だって怪盗になる道を選んだのも、私が勝手に決めたことだったから)

(本当にバカだったな。どんな道を選んでも、私の隣にはマシュタンがいたのに。どうして……こんなになるまで自覚できなかったんだろう。普段からマシュタンには感謝しているのに……結局は、マシュタンを心から頼ってなかった)

 

誰にも頼らず、一人で完璧にこなさなければいけない。

そんな『天才探偵』としての古い殻が、崩れ落ち始めた。

 

(これじゃあ、パートナー失格だな)

 

「ごめんね、マシュタン。私、バカだった」

 

るるかは、涙ぐんだ瞳で微笑んだ。

 

「マシュタンはずっと隣にいてくれてるのに。マシュタンに迷惑かけたくないって我慢してた」

 

るるかは、マシュタンの小さな両手を、自分の両手でそっと包み込んだ。

 

「ありがとう、マシュタン。無理はしないって約束は出来ないけど……辛かったら、必ずマシュタンの事頼るね」

「るるか……」

 

「だから……これからも宜しく。私の大切なパートナー。ううん、相棒」

 

るるかは、マシュタンに向けて、心からの笑顔を向けた。

それは、重圧から少しだけ解放された、昔のるるかが見せてくれていた純粋な笑顔だった。

 

「もちろんよ! 任せて、るるか!」

 

マシュタンも、満面の笑顔で元気よく答える。

この時だけは、二人は昔のように……こころ達と名探偵をやっていた頃のように、心から笑い合うことができていた。

 

***

 

それから数日。

 

1999年のまことみらい市。

あんなとみくるは、学校に探偵と慌ただしい日々を過ごしていた。

そして今日も、キュアット探偵事務所に一つの依頼が舞い込んでいた。

 

依頼人は、『斉木萌絵(さいき もえ)』という女性。

彼女の依頼内容は、「母が生前描いた自画像について調べてほしい」というものだった。

彼女の母である『クリスティーナ・ピポポヴィッチ文江(ふみえ)』は、30年前に海外で有名だった画家だ。

しかし彼女は生前、一貫して『風景画』しか描かなかった。

それなのに、なぜ死後に『自画像』が残されていたのか。

その謎を解き明かすのが今回の依頼だった。

 

二人は萌絵と共に、色々と聞き込みをして調査を進めるが、ハッキリとした手がかりは見つからなかった。

 

「絵の構図や色使いに関してはおかしな点はなさそうって(画廊の人が)言ってたけど……」

「はっきりとした手がかりは、なかなか見つからないね」

 

「「はあー……」」

 

ため息をつく二人。

後ろからついてきている萌絵さんも、浮かない顔をしている。

どうしたものかと頭を抱えていると、不意に声をかけられた。

 

「浮かない顔してどうしたんですか?」

 

顔を上げると、そこには美しい青髪のロングヘアをなびかせた少女が立っていた。

 

「あっ、パティスリーの!」

「帆羽くれあです」

 

初めてジェット先輩と会った日、そしてエリザさんのペンが奪われた場所。

あの洋菓子店『パティスリーチュチュ』にいたパティシエの少女だった。

 

「お疲れみたいですね。よかったら、お店で休憩していきませんか?」

 

そういうわけで、三人は洋菓子店『パティスリーチュチュ』へとやって来た。

エリザさんのペンが奪われた日は、食事どころじゃなかったからゆっくりできなかった。

初めて食べることになるお店のお菓子に、あんなとみくるはわくわくしていた。

萌絵さんも疲れているはずだから、ここで一服することになった。

 

「うわー!」

「はなまるかわいい!」

 

テーブルに並べられた様々な種類の美しい洋菓子。

あんなはブルーベリータルト、みくるは好物のミルフィーユ、萌絵さんはチーズケーキを注文した。

 

「お菓子を食べて元気だしてね」

 

くれあは優しい笑顔をみせて、店の中へと戻っていく。

しっかりした素敵な女性だ、と思うあんなとみくる。

 

「うーん! すっごく美味しい!」

「ミルフィーユも最高! 昔、海外にいた時、おばあちゃんと一緒によく食べてて、それで好きになったんだよね」

「そうなんだ!」

 

美味しいスイーツに、あんなとみくるの顔がほころぶ。

 

「素敵な所ね。今度娘と来てみようかな」

 

萌絵も、店内の幸せそうなお客さん達を見て少しだけ表情を和らげた。

 

「私、プリホリ(プリティ・ホリック)にも娘と一緒に行ったんですよ。キュアット探偵事務所を知ったのもその時に」

「そうだったんですね」

 

***

 

そんな中。

パティスリーチュチュから少し離れた歩道。

 

紙袋に大量のどら焼きを入れた男が、どら焼きをむしゃむしゃと食べながら歩いていた。

 

「ふふふ、やっぱりどら焼きは最高だぜ!」

 

ゴウエモンだ。

 

「うん? あれは?」

 

ゴウエモンは、少し離れた位置にある店のテラス席にいるあんなとみくるを見つけた。

 

「ああー! ササッ」

 

プリキュアに見つからないよう、すばやく草むらに隠れる。

 

「そういえば、このあたりにマコトジュエルが現れるとウソノワール様が言っていたな」

 

マコトジュエルを奪う気満々のゴウエモン。

「ライライサー」と小声で気合を入れた。

 

***

 

 

一方で。

少し離れた公園のベンチに座って、2段アイスを食べているるるかとマシュタン。

 

「『どら焼き買ってくるから待ってろ!』だなんて、ほんと意味わかんない」

 

マシュタンが呆れ顔で呟く。

 

「ねっ。アイスの方が美味しいのに」

 

体調がすっかり良くなり、いつもの調子に戻ったるるか。

最近になり、再びアイスをおいしく食べられるようになった。

彼女は黙々と、しかし明らかに幸せそうな顔でアイスを食べている。

 

「ああ、そうじゃなくて」

 

困惑ぎみのマシュタン。

 

(私が言ったのは『任務中にどら焼きを買いに行く意味がわからない』っていう意味だったんだけど……。まったくこの子は、アイスの事になると目がないんだから)

 

美味しそうにアイスを食べているるるかを見つめる。

 

(アイスを食べてる時や、アイスが絡むと、本当に子供みたいなのよね、るるかって。まっ、そんな所も可愛いんだけど。こころちゃんもクレープの事になると、るるかみたいになってたわね)

 

この子が幸せでいられる時間が、ほんの少しでもある事はいいことだ。

そう思い、マシュタンは優しく微笑んだ。

 

***

 

再びパティスリーチュチュ。

 

あんなは、こっそりとポチタンにミルクを飲ませていた。

 

『ゴクゴク、ポチポチ……』

 

ポチタンにミルクを飲み終わらせたのと同時に、くれあが店内からテラス席にやってきた。

 

「私が作った新作、良かったら食べてみて」

 

小皿に乗っていたのは、可愛らしいパステルカラーのマカロンだった。

 

「マカロンだ」

「かわいい」

「「うーん! 美味しい!」」

 

味も見た目も最高だった。

 

「海外にいた時に母がよく買ってきてくれました。あの頃を思い出します」

 

萌絵が目を細める。

しかし、その後に続いた言葉は意外なものだった。

 

「でも正直、あまり美味しいとは思えなくて。なんだか形もいびつでしたし」

「そう……ですか……」

 

くれあが、少し困った表情を浮かべる。

パティシエとして、自分の作ったものと似たお菓子が『美味しくない』と評され、何か思うところがあったのだろう。

 

「萌絵さん?」

「あの、文江さんのことについて教えてくれませんか?」

「え?」

「お母さんが実際にどんな人だったのか、萌絵さんはどう思っていたのかなって」

 

あんなの質問に、萌絵は静かに語り始めた。

 

「母は、美とおしゃれを愛した人でした。ファッションや食べ物、住む場所、何もかもすべてにこだわる人で……」

「芸術家らしいですね」

「私もそういったものに触れて、その良さを知ることもできました。でも、そんなものよりも……」

 

寂しそうな顔をする萌絵。

 

「母は我が道を進み、好きなように生きた。一緒に調べていてそれが分かりました。母にとって、『自分自身』が最高の幸せなんだろうって」

「自分自身?」

「それが、最高の幸せ?」

 

静まり返る空気。

そんな中、何かを思ったくれあが口を開いた。

 

「あの、マカロン……。少しで良いので、召し上がってみてもらえませんか?」

「ええ、少しだけなら……」

 

言われた通りに、くれあの作ったマカロンを口に運ぶ萌絵。

その瞬間。

 

「おいしい! なんで……」

 

驚く萌絵。

 

「萌絵さんが食べたマカロン、本当に『買ったもの』だったんでしょうか?」

 

くれあがそう言って、静かに微笑んだ。

 

「えっ……」

「そうか! くれあさんのおかげでピンと来た!」

 

あんなが立ち上がる。

 

「きっと、そのマカロンはお母さんの『手作り』だったんだよ! だからお店のものに比べると味や形がいまいちだったのかも!」

「でも、母が作っているところなんて一度も見たことないですし……」

「この絵と同じですよ! 風景画ばかり描いてた文江さんの自画像だって、誰も見たことなんてなかったじゃないですか!」

「うん! もしかしたら、隠されている本当の姿があるのかも!」

「萌絵さん、実際の絵を見せてもらえませんか?」

「写真だとわからないことが、謎を解く手がかりが見つかるかもしれません!」

 

萌絵が住んでいるマンションへと向かった二人。

 

「どうぞ」

 

実際の絵画を見せてもらう。

 

「うーん……」

「写真と違う部分は、特にないね」

「やっぱり私、母があんないびつなマカロンを作ったとは思えなくて」

「本当にそうなのかな?」

「ううん。きっと他に重要な手がかりが隠されているはず!」

 

他の手がかりを探す二人。

 

「オープン! プリキットミラールーペ!」

 

ルーペ越しに絵画の周囲を覗き込む。

 

「「あっ!」」

 

なにかが浮かび上がった。

 

「はなまる発見!」

「これは……絵を持った時についた『手の跡』かも」

「あれ? ここにもある」

「あっ、こっちにも」

「なんでこんなところに?」

 

額縁の『上下』に、不自然な手形が残っていたのだ。

 

「あっ、これって……そうか! 絵の上と下にある手の跡は、文江さんのものだよ!」

「え?」

「絵の文江さん、左手の小指に指輪してるでしょ。だからここで(手形の跡が)途切れてるんだ!」

「でも、なんで上と下を持ったの? 絵を持つなら普通、横側を持つよね?」

 

その不自然な持ち方から連想される、一つの動作。

 

「「あっ!」」

 

何かに気づいたあんなとみくる。

 

「「見えた! これが答えだ!」」

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