名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
キュアシンシアと、怪盗団ファントムの二人の幹部による激闘は続いていた。
元々運動神経が良く、身体の使い方の理を熟知しているこころがプリキュアへ変身したことで、キュアシンシアの戦闘能力は極めて高い水準にあった。
得意の近接戦、特にしなやかで鋭い足技による猛攻に、ニジーとゴウエモンは防戦を強いられていた。
「はぁぁぁっ!」
シンシアの鋭い回し蹴りが空気を切り裂く。
腕を交差させて防御したニジーとゴウエモンだったが、その重い衝撃に耐えきれず、後方へと軽く吹き飛ばされた。
「ちっ! 君は相変わらず厄介だね」
「まさか俺たち二人がかりでも、こんなに苦戦させられるなんてな」
靴底をすり減らして着地した二人は、忌々しそうに、しかし素直にシンシアの強さを認めた。
「いくぜ!」
ゴウエモンが扇子を大きく振るうと、鋭い刃のような桜吹雪が様々な方向からシンシアへ襲い掛かる。
しかし、シンシアはアクロバティックな動きでそのすべてを紙一重で躱していく。
その回避行動の隙を突き、ニジーが死角から肉薄した。
「甘いよ!」
放たれたニジーの攻撃を、シンシアは両手をクロスさせて的確に防御し、バク転で距離を取って着地した。
「そっちこそ相変わらずの戦闘力。悔しいけど、やっぱり二人相手はキツイね」
「戦いの内容がこんなんじゃ、皮肉にしか聞こえないよ。ベイビー」
「ああ、こっちも決め手がないのは事実だ」
両者ともに決定打を欠き、張り詰めた膠着状態が続く。
――その時だった。
『ドゴォォォォン……ッ!!』
るるか達が向かった湖の方角から、地響きのような重い爆発音が轟いた。
空高く、黒い砂煙が舞い上がる。
「えっ……」
シンシアの動きがピタリと止まる。その隙を見逃さず、ニジーが意地悪く口角を上げた。
「まさかと思うが。君の姉が、一人でウソノワール様に本気で勝てるとでも思っていたのかい?」
「な……なにを……」
「いや何、もしそうならあまりにも滑稽なものでね」
動揺を隠せないシンシアに対し、ニジーは残酷な事実を突きつける。
「君達はウソノワール様の力を侮りすぎだ。ウソノワール様はまさしく、誰もが『ウソ』だと思いたくなるほどの強さの持ち主なんだよ」
「その通り。ウソノワール様に勝てるヤツなんていやしねぇ」
ゴウエモンの念を押すような言葉に、シンシアの瞳が激しく揺らいだ。
「そ、そんな。だって……お姉ちゃんは……」
「悪いが、彼女を一人行かせた所で僕たちの目的に狂いなんてない」
「寧ろ、お前さん一人を足止めできた事で、より目的達成が確実になったってことだ。そこは、お前さんに感謝してるぜ」
「残念だったね。ベイビー」
ドヤ顔で言い放つニジー。
シンシアはギリッと奥歯を噛み締め、両拳を強く握りしめた。
一刻も早く、姉の元へ向かわなければいけない。
最悪の想像が頭をよぎり、心臓が早鐘のように鳴る。
「……お姉ちゃん!」
るるかの身を案じたシンシアは、ニジー達から大きく距離を取った。
「二人には悪いけど、そこをどいてもらう」
シンシアの脚部に、今までとは比にならないほどの莫大なエネルギーが集束していく。
そのただならぬ気配に、ニジーとゴウエモンが顔色を変えた。
「ニジー! くるぞ!」
「言われなくても分かってる!」
「そこをどけぇーーっ!!」
大地を蹴り砕くような踏み込み。
猛スピードで接近したシンシアの動きに、二人は全く反応できなかった。
閃光のような右足からの必殺の一撃が炸裂し、ニジーとゴウエモンの身体が木の葉のように吹き飛ばされる。
「お姉ちゃん、くれ姉、マシュタン、シュシュタン……」
シンシアは倒れた二人には目もくれず、急いで湖へと駆け出した。
「嘘だよ。お姉ちゃんが負けるはず……お願い。無事でいて!」
祈るような言葉を口にしながら、シンシアは木々の間を全力で駆け抜けていった。
一方、少し前の湖畔。
るるか達は、ウソノワールがマコトジュエルを手にする寸前で間に合っていた。
そこにはウソノワールと、幹部の一人であるアゲセーヌの姿があった。
「そこまでよ!」
るるかはキュアアルカナへと変身し、ウソノワールの野望を砕くべく立ち向かった。
プリキュアに変身できないくれあと、妖精のマシュタン、シュシュタンは、祈るように木の陰からその戦いを見守っていた。
だが――。
アルカナの洗練された攻撃は、ウソノワールには何一つとして通用しなかった。
「うっ……。あぁっ!」
ウソノワールの理不尽なまでの力が、次々とアルカナを襲う。
すでに全身ボロボロになりながらも、アルカナは何とか立ち上がった。
「はぁっ、はぁっ……」
肩で息をするアルカナへ向け、ウソノワールが無造作に手をかざす。
放たれた紫色のエネルギー弾を、アルカナは上空へ飛躍して何とか回避した。
しかし。
「――遅い」
「はっ!」
空中に逃れたアルカナの背後には、一瞬で空間を移動したかのように、すでにウソノワールが回り込んでいた。
振り返った時には、もう遅かった。
先程よりも遥かに強大で禍々しい紫色のエネルギー弾が、至近距離からアルカナの背中へ炸裂する。
「うわあぁぁぁぁっ!!」
悲痛な叫び声を上げ、アルカナは湖畔の地面へと激しく叩きつけられた。
容赦のない追撃。
倒れ伏すアルカナへ向け、さらにもう一発のエネルギー弾が放たれ、直撃する。
轟音と共に、爆発の煙が立ち上った。
「アルカナ!!」
隠れて見守っていたくれあ達から、悲鳴のような声が上がる。
煙が晴れたそこには、うつ伏せで倒れ、ピクリとも動かないボロボロのキュアアルカナの姿があった。
やがてアルカナの身体が淡い光に包まれ、光が弾けると共に、変身が強制的に解除され、るるかの姿へと戻ってしまった。
服も、顔も、髪も、埃と煤で汚れきっている。
プリキュアの力で命に関わる致命傷こそ免れたものの、蓄積されたダメージによって、るるかの身体は限界を迎えていた。
「はぁっ、はぁ、はぁ……」
うつ伏せのまま、るるかは腕に力を込め、何とか起き上がろうする。
しかし、激しい痛みと疲労で身体が言うことを聞かない。
小刻みに震えながら、辛うじて頭を上げることしかできなかった。
視界がひどく霞む。
何度も瞬きをして焦点を合わせる。
そこには、目的のマコトジュエルへとゆっくりと手を伸ばすウソノワールの姿があった。
「くっ……!」
悔しさに、唇から血が滲むほど歯を食いしばる。
(勝てなかった……。私の力じゃ……全く敵わない。こんなの、どうすれば……)
ロンドンで天才探偵とまで呼ばれた己の誇りが、純粋な力の前に無惨に砕け散っていくのを感じた。
「るるか……」
木の陰で、くれあは震える声でその名を呼んだ。
探偵ではない自分を助手として認め、今日まで共に過ごしてくれた大切なパートナー。
お供のシュシュタンが側にいるのに、未だにプリキュアに変身する力を持たない無力な自分。
無惨に倒れるるるかの姿を見て、くれあの瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。
その涙が、彼女の胸元のペンダントへと落ちた瞬間。
ペンダントが眩い光を放ち、その形を大きく変えた。
「え……?」
くれあの身体が光を帯び、ふわりと宙へ浮かび上がる。
倒れていたるるかは、背後から放たれた強烈な光に反応し、痛む首を何とか巡らせた。
そこには、空中で光に包まれる少女の姿があった。
「あれは……くれあ……なの?」
次の瞬間、新たなプリキュア「キュアエクレール」へと変身を遂げたくれあが、青い閃光となってウソノワールへと一直線に突撃した。
「ウソノワール様がマコトジュエルをとった、チョベリグ記念っしょ!」
アゲセーヌが呑気にチェキのカメラを構えた、その横を。
猛烈な突風を伴って、青い閃光が通り過ぎる。
「ん?」
「うわーっ!?」
巻き起こった風圧に、アゲセーヌが悲鳴を上げて吹き飛ばされる。
気配に気づき、ウソノワールが振り返った。
「うん?」
エクレールの渾身の突撃を、ウソノワールは何とか受け止める。
「ぐぅ……。新たな……プリキュアだと?」
エクレールを力で押し返そうとするウソノワールだったが、大切なものを守ろうとするエクレールの「きらめき」の力が、ウソノワールの腕力を上回った。
「ウゥッ。グワァァッ!」
後方へと吹き飛ばされたウソノワールは、その背中からマコトジュエルへと激突する。
パリンッ! という甲高い音と共に、マコトジュエルは粉々に砕け散った。
これで、ウソノワールにマコトジュエルの強大な力が渡るという最悪の展開だけは防ぐことができた。
しかし。
初変身でウソノワールを退けるほどの力を引き出した代償は大きかった。
力を使い果たしたエクレールは、空中でふっと気を失い、変身が解除されてしまう。
そして、意識を失ったくれあの胸元から、彼女自身の『マコトジュエル』が現れ、無防備に宙を舞う。
体勢を立て直したウソノワールが、そのマコトジュエルを容赦なく奪い取った。
気を失ったくれあの身体は、そのまま冷たい湖へと落ちていく。
「くれあ!!」
シュシュタンが悲鳴を上げ、くれあを追って湖へと飛び込んだ。
「くれあ……っ」
るるかもまた、彼女を助けるために起き上がろうとする。
しかし、酷使した身体はもう微塵も言うことを聞かない。
無理に上半身を起こそうとしたものの、途中で力が抜け、再び地面へと崩れ落ちてしまった。
「くっ……!」
地面を叩くが、己の無力さを呪うことしかできない。
空中から地面へとゆっくりと着地したウソノワールが、倒れ伏するるかの元へと、静かに、そして威圧的に歩みを進めてくる。
「るるか! お願い、起きて!」
マシュタンが涙ながらに叫ぶが、るるかの体は動かなかった。
一歩、また一歩と、ウソノワールの足音が近づいてくる。
「名探偵プリキュア。よくも私の邪魔をしてくれたな」
「くっ……!」
「あぁっ!」
何度も起き上がろうとしては、無様に倒れ込む。
圧倒的な絶望が、るるかの視界を真っ暗に染め上げようとしていた。
――その時だった。
「お姉ちゃん!!」
静寂を引き裂くような、悲痛な叫び声。
荒い息を吐き、額からとめどない汗を流しながら駆けつけてきたのは、キュアシンシアだった。
「こ……ころ。ごめん……。私の力じゃ……勝てなかった……」
泥だらけになり、立ち上がることもできない無残な姉の姿。
誰よりも強く、誰よりも尊敬していた姉の、信じられないような敗北の光景。
シンシアは驚愕に目を見開き、やがて、その視線をウソノワールへと移す。
「ウソノワール……!!」
シンシアの瞳に、激しい怒りの炎が宿った。
彼女は倒れた姉を庇うように、圧倒的な力を持つ絶望の化身を、真っ直ぐに睨みつけた。
ボロボロになって倒れ伏す姉の姿。
そして、その姉を見下ろすウソノワール。
シンシアは燃え盛るような怒りを瞳に宿して、仇敵を真っ直ぐに睨みつけた。
しかし、彼女は激昂に我を忘れてはいなかった。
生身のまま地面に倒れている姉を、このまま戦いの余波に巻き込むわけにはいかない。
ただ闇雲に突っ込んでも、姉と同じ結末を辿るだけだ。
(先ずは、何としてでもお姉ちゃんを助けて、あの場から離さないと……)
シンシアは荒ぶる呼吸を整え、極限まで冷静さを保とうと努めた。
「キュアシンシア。お前が残っていたか」
ウソノワールの冷酷な声と同時に、背後から気配がした。
先程、エクレールの突風で吹き飛ばされていたアゲセーヌが戻ってきたのだ。
「てか、ニジーとゴウエモンがあんたを足止めしてたハズっしょ!」
「なるほど。あの二人を退けたのか」
(何とかしてお姉ちゃんを助けなきゃ!)
シンシアは思考を加速させる。
ウソノワールに小手先の技など通用しないことは、姉の惨状を見れば火を見るより明らかだった。
彼女は自身の最大の武器である「スピード」を全開にして、戦場を駆け巡り始めた。
「ほぅ……」
「チョッ、早すぎるんですけど!」
残像を置き去りにするほどのシンシアの動きに、アゲセーヌは何とか辛うじて目で追うのが精一杯だった。
シンシアは縦横無尽に飛び回りながら、右脚に莫大なエネルギーを集中させていく。そして、彼女が狙いを定めたのはウソノワールではなく、アゲセーヌだった。
「ハァァァァッ!!」
「うわーっ!?」
咄嗟に防御姿勢をとったアゲセーヌだったが、エネルギーを纏ったシンシアの渾身の蹴りを防ぎきれるはずもなかった。
強烈な衝撃と共に、アゲセーヌの身体が砲弾のような速度で吹き飛ばされる。
その先にいるのは、ウソノワールだった。
「!!」
さすがのウソノワールも、直属の部下であるアゲセーヌを見捨てるわけにはいかなかったのだろう。
凄まじい勢いで飛んできたアゲセーヌを、両腕でしっかりと受け止める。
ズザザァッ!と、その衝撃でウソノワールの巨体が後方へと数メートル押し流された。
「今だ!」
千載一遇の隙。シンシアは弾かれたように、るるかの元へと駆け寄った。
「お姉ちゃん! 大丈夫?」
「こ……ころ。ごめん……ね。勝てなかった」
うつ伏せで倒れたまま、辛うじて顔だけを上げた姉の痛ましい姿に、シンシアの胸が締め付けられる。
「ごめんね、痛いかもしれないけど我慢してね」
シンシアは、るるかをその場から避難させるために、そっと彼女の身体に手を伸ばした。
「あ、っ……!」
触れられた瞬間、激痛が走り、るるかの身体が大きくビクつき、悲鳴にも似た声が漏れる。
「ごめん。もう少し我慢してね」
「ぐっ……!」
るるかの身体をそっと抱き上げ、シンシアは少し離れた安全な場所。
マシュタンが身を隠している場所へと急いだ。
痛みを堪える姉の身体は、シンシアの腕の中で小刻みに震えていた。
「るるか! 大丈夫?」
「マシュタン。くれ姉とシュシュタンは?」
姉を静かに仰向けに寝かせながら、シンシアはこの場にいるはずの二人の行方を尋ねた。
「簡単に言うと、るるかが負けた後、くれあがプリキュアに変身したの。そしてマコトジュエルを砕いて、ウソノワールの手に渡ることは防いだけど……力尽きたくれあは湖に落ちて、シュシュタンはくれあを助けに行ったわ」
マシュタンの言葉に、シンシアは目を見開いた。
くれ姉がプリキュアに? マコトジュエルが砕けた?
驚くことばかりだったが、今は目の前の現実に集中しなければならない。
くれあも、るるかもこの状態なのだ。
ウソノワールをどうにか退けなければ、二人を助け出すことすら叶わない。
シンシアは、荒い息を吐くるるかの傍らで、静かに立ち上がった。
「マシュタン。お姉ちゃんをお願い」
「ちょっと、どうする気?」
「私は……何とかしてウソノワールを退ける」
その言葉に、マシュタンが血相を変えた。
「一人では無茶よ! アイツは、一人で何とか出来るような次元の相手じゃない!」
「そうかもね。それでも……お姉ちゃんとくれ姉を救うには、それしかない!」
シンシアの瞳には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
その悲壮な決意を背中で感じ取り、仰向けに寝かされているるるかが、掠れた声を絞り出す。
「こころ……無茶よ。とてもじゃないけど……敵わない」
「…………」
「おね……がい……、わ……わたしの……事はいいか……ら、マシュタンを連れて、貴女だけでも……にげ……て」
ボロボロになったるるかは、せめて最愛の妹だけでも生きて逃げてほしいと、震える声で懇願した。
シンシアは振り返り、姉に向かって優しく微笑んだ。
そして、るるかの顔の横に膝をつく。
「そんな事、出来るわけないよ。私ね……お姉ちゃんが好き。大好き」
「こころ……」
「くれ姉も、マシュタンも、シュシュタンも。皆で過ごした探偵事務所も、思い出も。全部が私の宝物。全部が大好き。だから……皆を置いて逃げるなんて出来ない」
ぽつりぽつりと紡がれる言葉には、一切の迷いがなかった。
「お姉ちゃんが私を心配してくれてるのは分かるよ。でもね……お姉ちゃんが思うように……私だって、お姉ちゃんが心配」
シンシアは、るるかの汚れた頬にそっと手を添えた。
「いつも心配かけてるのは私で……助けてもらってるのも私なのに、今は逆転しちゃったね。たまには、私にもお姉ちゃんを助けさせてよ」
「だめ……」
「私は、森亜こころ。お姉ちゃんの自慢の妹だよ。だから……ごめんね、お姉ちゃん。今回ばかりは、お姉ちゃんの言う事聞けないよ」
るるかにとびきりの笑顔を見せると、シンシアは立ち上がり、静かに背を向けた。
「行ってくるね。お姉ちゃん」
歩き出した妹の小さな背中へ向けて、るるかは必死に右手を伸ばした。
「駄目。お願い……行かないで……ここ……ろ。行っちゃ……だめ!」
激痛に耐え、何とか腕だけを伸ばす。
しかし、限界を超えた身体はそれ以上動かず、その指先が妹に届くことは決してなかった。
「こころ……お姉ちゃんの言う事聞いて。お願い……逃げて……うぐっ……!」
身体に走った激痛に耐えきれず、るるかの腕が力なく地面へと落ちた。
「るるか! 無茶しないで。貴女、今ボロボロなのよ!」
「どうして……どうして体が動かないの。妹が戦う時に……どうして……私は……」
涙で滲む視界の中、遠ざかっていく妹の背中を見守ることしかできない。るるかは地面に爪を立て、己の底知れぬ無力さに絶望の涙を流した。
歩みを進めるシンシアの前方に、悠然とウソノワールが姿を現した。
「見事な物だ。私ではなく、あえてアゲセーヌを狙うことで、アルカナを救い出すとは。あの状況で、よく判断したものだ」
「どうもありがとう」
「しかし……どうして逃げなかった。勝てないのは分かっているのだろう」
純粋な疑問を投げかけるウソノワールに対し、シンシアは鋭い視線を返す。
「今の状況で逃げたって直ぐに追いつけるくせに、何を言ってるの。下手な嘘はつかなくてもいいよ。それに……まだ戦ってもいない内に勝敗を決めつけるのはどうかと思うよ」
「ふむ。事実を述べたまでだったが、確かに一理あるか」
「余裕ぶってて、ムカつく」
「実際そうだからな」
ウソノワールは、その仮面の奥で冷酷に目を細めた。
「お前も、あそこで倒れている姉のようになるぞ。大した強さもなく私に挑んできたのだから」
「それ以上、お姉ちゃんを侮辱するな! お姉ちゃんは、弱くない!」
姉を愚弄された怒りで、シンシアの全身から強烈な闘気が立ち上る。
彼女は低く腰を落とし、臨戦態勢をとった。
「仕方ない。貴様らのせいでマコトジュエルが手にはいらなかった。その憂さ晴らしを、貴様でさせてもらうとしようか。キュアシンシア」
「そう簡単にやらせるもんか!」
姉を、仲間を、そして日常を取り戻すために。
圧倒的な強さを持つ、絶望の化身へと向けて、キュアシンシアの、悲壮で無謀な戦いが幕を開けた。