名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
キュアット探偵事務所。
「ぬぬぬ……っ!」
「ぐー!」
あんなが、窓の取手を掴んで何やら一生懸命に力を込めている。
「ポチ?」
そこへやってくるポチタン。
「あっ、ポチタン! ちょうどよかった!」
あんながポチタンに助けを求める。
窓が硬くて開かない。
「ぐぬぬ……!」
「ポチチ……!」
二人で力を合わせ、ぐぐぐっと窓を押し上げる。
ガチャン。
「開いた!」
「ふぅ……」
窓が開き、力尽きたあんな。
そこへ。
「おはよう」
部屋にみくるがやって来た。
「えっ!?」
朝から窓で力尽きているあんなを見て、みくるは目を丸くする。
ソファに座る二人。
「窓を開けようとしたら固くてさ。っていうかみくる、今日は早いね」
「うん。……アルカナ・シャドウのことが気になって」
「私も!」
「だよね!」
昨夜の事件。
『プリキュアでありながら、怪盗団ファントムに所属している』という、キュアアルカナ・シャドウの存在。
あの美しくも恐ろしい堕天使の姿が、二人の頭から離れずにいた。
「そいつのことなら、ロンドンのキュアット探偵事務所本部に問い合わせといた」
「あそこの連中なら、世界中のいろんな情報を持ってるからな」
みくるの隣で飲み物を飲んでいたジェット先輩が言う。
「それで!?」
「どうだった!?」
身を乗り出す二人。
「いや、詳しいことは『手紙』で届くんだよ」
「手紙? 電話して今聞こうよ!」
気になりすぎて、あんなが身を乗り出して詰め寄る。
「超重要な情報は、手紙でやりとりするんだ。ハッキングや盗聴のリスクを避けるために、探偵業界では一番確実な方法なんだぞ」
「そうなんだ……」
「ロンドンからなら、数日かかるね」
「待ってられないよー!」
あんなは頭を抱える。
「よし! それまで、私たちでアルカナ・シャドウの事を調査しよう!」
「そうこなくっちゃ!」
「ポチー!」
やる気満々の二人と一匹。
「怪盗団ファントムの事件を調べたら、なぜかいつも『この街(まことみらい市)』でばかり事件を起こしてるの」
外に出るあんな、みくる、ポチタン、ジェット先輩。
「ということは……」
「うん?」
「アルカナ・シャドウの似顔絵を見せて街で聞き込みをすれば、彼女について知っている人がきっといるはず!」
「なるほど!」
「ポチー!」
「じゃあ、早速聞き込みからだね!」
みくるがプリキットブックを取り出し、記憶を頼りにキュアアルカナ・シャドウの変身前の似顔絵と特徴を走り書きする。
「はあ……」
ジェット先輩は、アメを舐めながら少し呆れたようにため息をついた。
「あの、この人知りませんか?」
「さあ?」
街で見かけた夏川と秋田のラブラブカップルに似顔絵を見せるが、アルカナ・シャドウのことなど知る由もなかった。
「見たことないね」
別の女性に聞いても、答えは同じ。
「この人……」
「ハッハッハッハッ」
犬のワンちゃんに聞いても……分かるわけがなかった。
その後も、色んな人達に手当たり次第に聞き込みをする。
しかし。
「全然分からない……」
「手がかりがなさすぎる……」
すっかり落ち込むあんなとみくる。
全く目撃情報が手にはいらない。
「もうー!」
あんながイライラして声を荒げる。
その横で、みくるが「はっ!」と何かに気付いた。
「あんな……。もしかして、この『似顔絵』がダメなのかな?」
「ええ? 似てると思うんだけどなー」
みくるが描いたプリキットブックの似顔絵。
それは、黒いケープを着た少女の絵ではあったが……正直、ポチタンの似顔絵を描いたみくるの『画伯っぷり』がいかんなく発揮されており、恐らく誰が見ても「似てる」とは言わないだろうという前衛的な仕上がりだった。
***
一方、その似顔絵の本人であるるるかは、街の噴水前に座って、のんびりと2段アイスを食べていた。
「なんだか……良くないことが起きてる気がする」
るるかが、アイスをかじりながら不吉な予感を口にする。
「占ってみましょうか」
マシュタンが帽子を被り、水晶玉を取り出した。
「マシュマシュマシュマシュマシュマシュ……マシュー!」
水晶玉が光る。
「見えたわ。るるか、あなたの前に『めんどくさいお願い事』が来るでしょうって」
「嫌な結果ね……」
結果を聞いて、心底嫌そうに眉をひそめるるるか。
すると。
「大変だー!」
「助けてくれ新人! いや、アルカナ・シャドウさん!」
遠くから、情けない声を上げてゴウエモンが走ってきた。
「来た」
マシュタンが冷静にツッコミを入れる。
***
るるかはゴウエモンに連れられ、近くのCDショップへとやってきた。
「いらっしゃいませ~」
店内に有線放送の音楽が流れている。
「ここ、CDショップだけど」
るるかが尋ねると、ゴウエモンは棚の影から、ヘッドホンで熱心に音楽を聴いている一人の女性客を指差した。
「『未來自由の書』によると、あの女の『ミサンガ』にマコトジュエルが宿っているらしいのだが……」
女性の左腕には、カラフルな糸で編まれたミサンガが付けられていた。
「ミサンガ。自然に切れたら願いが叶うっていうアクセサリーね」
「そこが問題なんだ!」
ゴウエモンが頭を抱える。
「ミサンガを盗むには、手首から外すために『切らなきゃならん』だろ? でも、途中で無理やり切ったら、ミサンガへの『想い』は消えちまう。逆に、自然に切れたとしても、願いが叶えばミサンガに用はなくなる!」
「つまり、どちらにしてもミサンガが切れた瞬間に、マコトジュエルもなくなるわけね」
マシュタンがゴウエモンの悩みを要約する。
『切らずに盗まなければいけない』という矛盾。
それがゴウエモンを悩ませていた。
「一体どうしたらいいんだ!」
「……切らなければいいのよ」
「だから! 切らないと奪えないだろ!」
「切らないのは、『想い』の方よ」
「想い?」
るるかの言葉の意味を理解できていないゴウエモン。
「見せてあげる。そのかわり……後でアイス奢って」
「なんでもいいから助けてくれー!」
るるかの要求に、ゴウエモンはすがりつくように頷いた。
「オープン。プリキットグロス」
るるかは口元にグロスを塗り、姿を変える。
光が収まると、そこにはCDショップの女性店員へと変装したるるかがいた。
「いらっしゃいませ」
店員になりきるるるか。
「ショップの店員さんか、やるわね」
マシュタンは、るるかの制服のポケットにスッと隠れた。
「『想いを切らない』ってどういうことだ?」
物陰から覗き見ながら、ゴウエモンが首を傾げる。
るるかは、自然な足取りで女性客『まさみ』に近づき、声をかけた。
「その歌、いいですよね」
「え?」
「私も好きなんです。特に……歌詞が」
「あっ、それ超分かる! なんか、片思いの女の子って感じの歌詞なんだよね!」
まさみが、嬉しそうにヘッドホンをずらして答える。
「もしかして……そのミサンガの叶いごと、『恋が叶いますように』とか?」
「ええ! 当たり。お姉さん、占い師とか?」
「ふふ、たまたまですよ」
自然な会話の中で、ミサンガに込められた願いをあっさりと聞き出す(言い当てる)るるか。
「おしゃべりしてるだけじゃねえか……?」
覗いているゴウエモンが不満げに呟く。
『ウィーン』
「いらっしゃいませ」
自動ドアが開き、店内に新たな客がやってきた。
「ん?」
ゴウエモンが入り口を見ると、そこにはあんなとみくるが立っていた。
「プ、プ、プ、プリキュア!?」
ゴウエモンは慌てて棚の影に隠れた。
「あの、この人知りませんか?」
なんと、あんなとみくるは、るるか(変装中)の目の前で、るるかの似顔絵を見せてきた。
(似顔絵、全然似てないし!)
ポケットの中で、マシュタンが密かに怒りのツッコミを入れる。
「うーん。ごめん、知らないや」
まさみが首を振る。
「私も、存じ上げません」
るるかも、しれっと嘘をつく。
「そっかー」
「ありがとうございます」
二人が立ち去ろうとした、その時。
「ん? わー! ミサンガだ。かわいい!」
あんなが、まさみの腕のミサンガに気がついた。
「ほんとだ! 素敵」
「この時代にも、ミサンガってあったんだねー」
あんなが無邪気に言った一言。
「ゔっ!?」
みくるの目が、驚愕に見開かれる。
あんなが『未来人』だと言うことがバレてしまう可能性がある、超絶危険な発言だった。
「なに? 時代?」
まさみが不思議そうに聞き返す。
「あっ、いや! なんでもないんです!」
みくるが必死にごまかす。
「あたし、まさみって言うんだ。さっきもこのお姉さん(るるか)とミサンガの話で盛り上がったんだけどさ。見てこれ、もうちょいで切れそうなんだ」
まさみが見せてくれたミサンガは、確かに糸が擦り切れて、今にも切れそうになっていた。
「ほんとだ!」
「願い事はなんなんですか?」
「それなんだけど、実は……」
『すみません、トイレ借りてもいいですか?』
一人の男性客が、るるかに声をかけてきた。
「どうぞ。あちらです」
男性がトイレを借りに店の奥へ向かう。
それを見た瞬間。
「はうっ」
まさみの顔が、ゆでダコのように真っ赤に染まった。
「まさみさん? どうしたんですか?」
「あんな、答えは簡単だよ」
みくるが、名探偵の顔でニヤリと笑う。
「ずばり! まさみさんは、『彼』のことが好きなんですね?」
「声がでかいってー!」
まさみが慌てて二人を静める。
「じゃあ、ミサンガの願いって……」
「か、か、か、彼と結ばれますように……って」
「「きゃー!」」
恋バナの展開に、あんなとみくるがキャッキャと盛り上がる。
「実は、ここのCDショップに通ってるのも彼に会えるからでさ。しゃべったこととかはないんだけど、音楽を聴いてる時の真剣な目がかっこよくて……。このミサンガも、その時初めて作ったんだよね。てか、あたし語りすぎちゃったかも」
照れるまさみに、あんなは力強く拳を握った。
「まさみさん! すっごく応援してます!」
「あ、ありがとう」
「あら?」
るるかが、トイレから戻ってきた男性の動きに気付いた。
「彼、何か探してる?」
「まさみさん! これって話しかけてみるチャンスでは?」
「え、でも、そんな勇気……」
まさみが一歩踏み出そうとした、その時だった。
『プチッ』
「あっ……」
まさみの腕で、ミサンガが自然に切れた。
「ああー! ミサンガが!」
「ああー! ミサンガがぁぁぁ!!」
まさみと、隠れているゴウエモンが同時に落ち込む。
それを横目で見ているるるか。
すると。
男性の元へ、店の外から一人の女性が親しげに駆け寄ってきた。
男性には、既に彼女が存在していたのだ。
二人は仲良く腕を組んで、店を出ていってしまった。
「ああ……マコトジュエルが、いなくなっちまう!!」
ゴウエモンが焦って頭を抱えた。