名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
「失恋しちゃった、アハハ」
まさみが、切れたミサンガを握りしめて自嘲気味に笑った。
「まさみさん……」
「君のせいじゃないって。ミサンガが切れたら願いが叶うなんて嘘、あたしが勝手に信じちゃってたから」
「そんな、嘘だなんて……」
あんなが胸を痛める。
「嘘かもしれません」
不意に、横から声がかかった。
るるかだった。
「でも、そのミサンガ……捨てるつもりですか?」
「だって、嘘だったからもう要らないもん」
まさみが、ゴミ箱にミサンガを捨てようとする。
「ミサンガは……ずっとあなたを見守っていた」
「えっ」
静かだが、真っ直ぐな声で呼びかけるるるか。
「あなたの気持ちに、寄り添ってくれてた」
「あたしの……気持ち」
「そう。彼のことが好きだった気持ち。あなたが彼を想っていたその気持ちを、ミサンガはずっとあなたのそばで見てくれていたのよ」
「あっ……そっか」
まさみは、手のひらに乗った切れたミサンガを愛おしそうに見つめた。
「ミサンガが見守ってくれたことも、まさみさんが彼の事を真剣に想っていた気持ちも、どちらも『嘘』じゃない。本当の事でしょう?」
「……うん」
「だったら、その気持ちを大事にして。絶対に、忘れちゃダメ」
るるかは、まさみの両手を、自分の両手でしっかりと握りしめた。
その言葉は、まさみへの慰めであると同時に、自分自身へ言い聞かせるような切実な響きを持っていた。
(私の『想い』も……嘘じゃないから)
言葉を発しながら、るるかの脳裏には、記憶をなくしたくれあ、そして精神が壊れてしまったこころの姿が浮かんでいた。
「るるか?」
るるかの悲痛な様子が気になり、ポケットからマシュタンが小声で呼びかける。
「ハッ」
我に返るるるか。
「私ったら、まだ仕事中だった。失礼します」
足早にその場を立ち去るるるか。
「行っちゃった……」
「あたし、今のお姉さんの話聞いてさ……もうちょい、このミサンガ大事にしたくなっちゃった」
まさみは、切れたミサンガを大事そうにカバンの中にしまった。
「はなまるすてき!」
「よし、私たちも調査に戻ろう」
「うん!」
二人は、アルカナ・シャドウの聞き込みを再開する。
「あ、あの! すみません! この人、見たことないですか?」
「うーん、いや、ないっすね」
CDショップの店員も知らない様子だった。
「ありがとうございます」
「手がかりなしだね……」
「他をあたりましょう」
「あ、その前に……さっきの親切な店員のお姉さんに、挨拶してこうよ!」
あんなが提案する。
「え? うちの店、男の店員しかいないっすよ?」
「「え?」」
「「エェェェー!?」」
驚愕するあんなとみくる。
***
店の外の路地裏。
るるかとゴウエモンが合流していた。
「ミサンガは切れた。でも、ミサンガへのあの子の『想い』は切れてない。マコトジュエルはミサンガに宿ったまま」
「かたじけねえ!」
るるかの機転に、ゴウエモンが深く頭を下げる。
「私の占いによると、まさみさんには近いうちに『素敵な彼』ができるって!」
マシュタンが水晶玉を抱えて得意げに言う。
「そう」
るるかは少しだけ安堵したように微笑んだ。
「はなまる発見!」
そこへ、あんなとみくるが息を切らして走ってきた。
「あら、どうしたの?」
るるかが、また店員の声色でとぼける。
「あなたの足跡をたどってきたの!」
「あなたはショップの店員さんじゃない!」
「「キュアアルカナ・シャドウだ!」」
「フフッ」
るるかの身体が光に包まれ、店員の制服から元の黒いケープの私服へと戻る。
「やるじゃない、名探偵さんたち」
「でも、勝てやしないんだから!」
余裕の笑みを浮かべるるるかと、強気なマシュタン。
「……オープン……」
胸元のペンダントが強い光を放つ。
光は細く伸び、形を作り、るるかの手の中で長くしなやかな『杖』へと変貌した。
「ティアアルカナロッド」
その声と表情は大人びながらも、可愛らしい。
指先を添えた瞬間、るるかの身体はふわりと舞い上がる。
衣装は紫の光を帯び、周囲へと輝きを弾けさせる。
マコトジュエルを静かにロッドへ装着する。
円を描くように一回転。
足元に広がる魔方陣が妖しく光った。
「シャッフル」
ロッド上部のカードがくるりと回転した瞬間、るるかの髪は漆黒へ。
もう一度、指先でカードを弾けば、闇は一転して金色へ。
かきあげた髪の先には、鮮やかなピンク色のグラデーション。
「リバース」
髪はさらに長く伸び、ふわりと広がる毛先。
ロッドから流れる光がるるかの体を次々と包み込む。
ノースリーブのワンピースが身体を包み、黒を基調とした衣装と明るく揺れる髪が、お互いを強調し合う。
スカートには紫色の雫が散りばめられ、静かに揺れる。
カンッ。
ロッドを地に打ち付けた瞬間、露わだった脚は濃い紫色のサイハイソックスと濃紺色のショートブーツに包まれる。
祈りを捧げるように両手でロッドを握ると、手首には繊リストカフスが装着される。
頭には、黒いダイヤ型が並ぶ髪飾りを装着、その中央下には雫型の石飾りが付けられている。
目元へ右手を当てて下に下ろすと、瞳は紫から赤へと変化、瞳の奥にハートの光が宿っている。
耳元には雫型のピアス。
頭の後ろには黒い蝶の飾りを添えた薄紫のヴェールが静かに寄り添う。
ロッドの先端を胸元へと当てると、紫色の光が体を包み込む。
黒いケープが肩を覆い、胸元にはネクタイ型のリボンが可憐に結ばれる。
「神秘と秘密で包み込む――『キュアアルカナ・シャドウ』」
ロッドのカードに映るのは、彼女の横顔。
一歩、また一歩と進むだけで、神秘が満ちていく。
ロッドをくるりと回し、持ち替える。
「さあ……迷宮へ誘いましょう」
るるかがキュアアルカナ・シャドウへと変身した。
駆けつけたジェット先輩が、その変身を目の当たりにして驚く。
「本当に……プリキュアだ!」
「さあ、来なさい」
「「うん!」」
アルカナ・シャドウの挑発に乗り、あんな達も変身する。
「「オープン!! ジュエルキュアウォッチ!」」
あんなとみくるの手にあるペンダントがまばゆい光を放ち、カラフルな懐中時計『ジュエルキュアウォッチ』へと姿を変える。
二人はそれぞれのマコトジュエルを取り出し、ウォッチに装着した。
「「プリキュア、ウェイクアップタイム!」」
二人の声が重なった瞬間、光が溢れ出す。
「サン!見つける!」
ジュエルキュアウォッチの長針が、3の位置へと揃えられた。
あんなの髪が風にほどけるように一気に伸び、足首に届くほどの長さになる。
毛先はハート型に整い、頭頂部の左右は可愛らしいお団子のツインテール。
髪色は鮮やかな紫へと変わり、毛先に向かって淡いピンクのグラデーションが広がった。
みくるの髪も同時に伸び、やわらかな三つ編みへと姿を変える。
髪色は、明るいピンクに。
瞳の色も変化する。
あんなは澄んだ青緑、みくるは神秘的な紫へ。
「ロク、向き合う!」
長針が6を指す。
みくるの身体を、淡いピンクのオフショルダーワンピースが包み込む。
フリルの揺れるスカートが、彼女の可憐さを際立たせた。
背中には、水色の大きなリボン。
あんなもまた、フリフリの紫色のワンピースを身に纏い、背中には鮮やかな黄色の大きなリボンが現れる。
「キュー!奇跡の二人!」
長針が9へ。
二人の足元に光が集まった。
あんなは紫色、みくるはピンク色のブーツを履き、同時にニーハイソックスが脚を彩る。
あんなの手には薄い水色のフィンガーレスグローブ。
その上から薄紫色のオープンフィンガーグローブが重なる。
みくるの手にも薄紫のフィンガーレスグローブと、薄ピンクのオープンフィンガーグローブ。
指先には、それぞれの色のネイルがきらりと輝いた。
「くるっと回して、キュートに決めるよ!」
長針が11へと進む。
あんなの左右のお団子には華やかな髪飾りが添えられ、耳元にはピアスが揺れる。
みくるの髪には大きなリボンの髪飾り。
そして同じく、両耳にピアス。
さらに二人の胸元にはネクタイ型のリボン。
肩には短めのケープが重なり、装いが完成へと近づいていく。
ジュエルキュアウォッチは光となって収束し、衣装の腰にあるキャリーへと収められた。
「どんな謎でも、はなまる解決!名探偵『キュアアンサー』!」
「重ねた推理で、笑顔にジャンプ!名探偵『キュアミスティック』!」
可愛らしい決めポーズを決める。
最後に二人は自然と歩み寄り、並び立つ。
「「名探偵プリキュア!」」
ミスティックが、ビシッとアルカナ・シャドウを指差した。
「私の答え、見せてあげます!」
アンサーとミスティックは、二人で連携してアルカナ・シャドウへと攻撃を始める。
しかし、その全てをアルカナ・シャドウは見透かしたかのように、最小限の動きで軽々と躱していく。
「言ったはず、動きが単純すぎって」
指摘するキュアアルカナ・シャドウ。
アンサーとミスティックが続けて攻撃をするが簡単に避けられてしまう。
「どうして怪盗なんかに! 困った人を助けるのが、名探偵プリキュアでしょ!」
ミスティックが怒りをぶつける。
「へえ、そうなんだ」
アルカナ・シャドウは涼しい顔でとぼけた。
戦いを見ているジェット先輩の元へ、マシュタンが飛んでやってくる。
「お前、占いの妖精だな」
「ええ。アルカナ・シャドウのおとも妖精、マシュタンよ。よろしく」
挨拶をするマシュタン。
アルカナ・シャドウは、ティアアルカナロッドのカードをくるりと回した。
「アルカナスターレイン」
無数のレーザーが発射され、逃げ場を失った二人に直撃する。
前に食らったときよりも威力は抑えられていたが、それでもダメージを受け、二人は地面に倒れ伏した。
「あの攻撃は……!」
ジェット先輩が、何かに気がついた。
「自分の身も守れない人が、人を助けるなんてね」
見下ろすアルカナ・シャドウの前に、ジェット先輩が立ちはだかった。
「お前、助けてくれたよな?」
「「えっ!?」」
その言葉に、アンサーとミスティックが驚く。
「今の光……あのときと同じだ。ツバメのハンニンダーの攻撃から僕たちを助けてくれたのは、お前だろ?」
「ポチ?」
「ハァ……」
アルカナ・シャドウは呆れたように深いため息をついた。
「ハズレ。推理がまるでなってないわね」
アルカナ・シャドウは、ポチタンをスッと指さした。
「私はただ、あの子の『力』に興味があっただけよ」
「ポチ?」
「ポチタンの……力?」
「それって……」
アルカナ・シャドウの言葉に疑問を持つ3人
「ポチー!!」
突然、ポチタンが叫んだ。
「マコトジュエルが捕られたのか!?」
「ゴウエモンね」
マシュタンが言う。
「私が興味あるのは、あの子がマコトジュエルの危険を感じる力。そして、ジュエルをあるべき場所に戻す力よ」
「ポチ?」
「あるべき場所?」
「どういうこと?」
「えっ……」
ポチタンの力について、本人たちが何も理解していないことに、アルカナ・シャドウは本気で驚いた。
「なにも……知らないの?」
アルカナ・シャドウの中で、少しだけ怒りがこみ上げる。
(自分のおとも妖精の事も知らない人達が、探偵を名乗っているなんて……!)
当然それを外に出すことはしないが、かつての『名探偵』としての誇りが、彼女たちの未熟さを許せなかった。
そこへ。
「よっと。マコトジュエルを手に入れたぞ!」
ゴウエモンが、上機嫌で現れた。
アルカナ・シャドウにとっては丁度いいタイミングだった。
一旦自分を冷静にすることができるから。
「まさみさんのミサンガ!」
「プリキュア!?」
ゴウエモンはアンサー達を見て驚くが、すぐにニヤリと笑った。
「アルカナ・シャドウ、借りは返す! ウソよ覆え! 来やがれハンニンダー!」
ミサンガ型のハンニンダーが出現し、アンサー達に攻撃を仕掛けてくる。
それを躱す二人。
「まさみさんのミサンガに、なんてことするの!」
「見てたでしょ。私は、切れたミサンガに想いがあると伝えただけよ」
「!?」
「ミサンガの価値を彼女に教えなければ、ゴミ箱に捨てられていたはず。いらなくなった物に価値を与えて、それをもらっただけでしょ?」
「でも、あなたの言葉で、まさみさんは大切だと思ったんだから!」
「それを奪うなんて許せない!」
激怒する二人。
「だったら……止めてみなさい」
「「オープン! プリキットミラールーペ!」」
「「ポチタン!」」
「「マコトジュエル!」」
二人がマコトジュエルをセットし、ルーペの鏡を開く。
「見て!」
「感じて!」
「「謎を解く!!」」
「「これが私たちの答え(アンサー)だ!」」
「「プリキュア! フライング・スペクトル!!」」
巨大な白い鳥の光が空を切り裂き、ハンニンダーを正確に撃ち抜いた。
「「キュアット解決!!」」
ハンニンダーは浄化され、マコトジュエルはポチタンへと吸収される。
「くっ……。まあ、アルカナ・シャドウに借りを返したからよしとするか」
そう言って撤退するゴウエモン。
「(どこがよ! やられてるじゃない!)全然返してないから!」
マシュタンが鋭くツッコむ。
アルカナ・シャドウは、建物の屋上へと飛んだ。
振り返り、眼下のアンサー達を見下ろす。
「用済みの探偵事務所に、あなたたちは『価値』を与えた。あのミサンガみたいにね」
「「え?」」
「あの探偵事務所……『私達』が使ってたの」
「「「えっ!?」」」
爆弾発言に、三人は絶句した。
「事務所の窓、押し上げてから開けるのがコツ」
それだけを言い残し、アルカナ・シャドウは消えていった。
***
事務所に戻ったあんな達。
「押し上げる……」
『ガラッ』
今まで力いっぱい押していた固い窓が、いとも簡単に開いた。
「開いた……」
「ポチー」
そして、ポチタンを見る一同。
「ポチタンの力って……?」
「それに……『私達』って言ってた……」
「ますます謎が深まる。手紙が来るのを待つしかないか……」
ジェット先輩が腕を組んで唸った。
***
怪盗団ファントムのアジト。
ゴウエモンに、約束通りアイスを奢ってもらったるるか。
その手にあるのは、『5段アイス』だった。
「わぁぁぁぁ……っ!」
5段重ねの巨大なアイスに目を輝かせて、るるかは満面の笑顔になった。
ペロッ。
さっそく一番上のアイスから、幸せそうに舐め始める。
(昨日の今日で、こんな風にアイスを食べられると凄く複雑なんだけど……。もう、どうしてアイスのことになるとこんなに子供みたいに夢中になって。まぁ、幸せそうならいいか)
それを見ているマシュタンも、呆れながらも笑顔になっていた。
「マコトジュエルが手にはいらず、申し訳ございません」
ゴウエモンが、ウソノワールへ深く頭を下げる。
「『未來自由の書』に記された時は近い。……この目で確かめよう」
ウソノワールが、静かに立ち上がった。
「ウソノワール様が、自ら!?」
「うそでしょ!」
ゴウエモンもマシュタンも、驚愕して叫んだ。
るるかも、アイスを舐める手を止めてウソノワールの方を向く。
絶対的な支配者であるウソノワールが動く。
それはファントムにとっても、るるか個人にとっても、非常に不都合で危険な事態だった。
しかし。
ペロッ。
るるかは、一瞬だけ視線を向けた後、再び無心でアイスを舐め始めた。
「いや、るるか! そこはもう少し興味を持ちましょうよ!」
マシュタンがたまらずツッコむ。
「ウソノワール様が動かれるかもしれないのよ!?」
「ごめん、マシュタン。それは分かってる」
るるかは至極真面目な顔で答えた。
「でも……今食べなきゃ、アイスが溶けちゃう。それはアイスへの冒涜よ。アイスに対して失礼な事だから」
「……はぁ」
思わず深いため息をはくマシュタン。
(貴女の場合は、本当にただアイスを食べたいだけでしょ。まったく……)
美味しそうにアイスを食べるるるかを見つめながら、マシュタンは次なる嵐の予感に身震いしていた。