名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
怪盗団ファントムのアジト。
一羽のフクロウが、どこからともなく飛んでくる。
フクロウは、ニジーの元へ手紙を運んできた。
「ウソノワール様、知らせです。ロンドンの『キュアット探偵事務所』本部から、こちらの支部に秘密の手紙が送られたとのことです」
「手紙……。大した内容ではないだろう。放っておけ」
ウソノワールは、座ったまま興味なさげに言い放つ。
「分かりました」
(秘密の手紙。あのプリキュア達の事だ、恐らく内容は……)
ウソノワールは、仮面の奥で静かにるるかへと視線を向けた。
るるかは無表情のまま、膝の上のマシュタンを虚無の瞳で撫で続けている。
(キュアアルカナ・シャドウの事でも気になって、本部に探りを入れていたのだろう)
***
るるか達の部屋にて。
「マシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュ……マシュー!」
マシュタンが水晶玉で占いをしていた。
「見えたわ。秘密の手紙には、るるかが『知られたくない秘密』が書いてあるって占いにでたわ」
「秘密……ね。今の私に知られた所で困る内容なんて……」
無機質な声で考えるるるか。
正体を知られたところで、痛くも痒くもない。
しかし。
「……いや、一応確認してくる」
「1人で大丈夫? 私も一緒に行こうか?」
「いや。命令が出てるわけでもないのに動くの。私一人でいいわ」
「分かった。気をつけてね、るるか」
***
一方、まことみらい市の『キュアット探偵事務所』。
あんな、みくる、ジェット先輩、ポチタンは、ロンドン本部から届いた厳重な封筒を開いていた。
ジェット先輩が手紙を取り出し、折り目を広げると、手紙の端に写真が数枚クリップでとめられていた。
「『森亜るるか』」
手紙に書かれた文字を読み上げるみくる。
「アルカナ・シャドウ、るるかさんって言うんだ」
「るるか、るるか」
キュアアルカナ・シャドウの変身前の名前を知るあんな達。
「1983年11月1日生まれ」
「今年で16歳か」
「まことみらい市の探偵事務所に来る前は、ロンドンで数多くの難事件を解決。『天才探偵』と言われていたそうよ」
みくるが資料を読み進める。
「写真は2年前のもの。ロンドンにいた頃みたいね」
「14歳、今の私と同じ歳だ」
写真のるるかは、フリルがあしらわれた白い服を着て、日傘を差し、カメラに向かって眩しいほどに純粋な笑顔を見せていた。
あんな達の知っている彼女とは、まるで別人のようだった。
「他にも書いてるな。なになに……天才探偵と言われてた一方、『美少女姉妹探偵』などとも言われており、ロンドンでは探偵としても人としても、かなり好かれていたとのこと」
「へぇ~。……うん? 姉妹探偵?」
「るるかさんには、姉か妹がいたってこと?」
「だろうな。他の写真とこのもう1枚の紙に書かれてるんだろう」
ジェット先輩が、クリップで止められていた写真をめくっていく。
そこには、るるかに似ているが、るるかを少し幼くした様な可愛らしい少女が一緒に写っていた。
数枚の写真は2人で写っているものが大半で、彼女がるるかに背中から無邪気に抱きついている写真など、仲の良さが痛いほど伝わってくるものばかりだった。
2人とも、心から幸せそうに笑っている。
ジェット先輩が、もう1枚の紙を見る。
紙には、るるかと写っている少女が個人で写っている写真が止められていた。
「『森亜こころ』。1984年11月1日生まれ」
「妹だな。年は違うが、誕生日が一緒なんだな」
「姉である森亜るるかと同様に、ここに来る前はロンドンで数多くの難事件を解決。姉と比べて天才探偵と言うまでではないが、運動神経がかなり良く、体を使った調査が得意。森亜るるかとのコンビ相性は良く、依頼達成率は100%。彼女達以上の名探偵は居ないのではないかと言われる程、ロンドンを騒がせた……」
「人柄も良く、誰からも好かれるような少女で、探偵としても人としても信頼されていた」
「信頼されている一方、彼女たち姉妹はなぜ、幼いながらも学校に通わず探偵をしていたのか疑問に思われていたそう……」
「森亜こころ……」
みくるは、腕を組んで考え込んだ。
「でも……ファントムの中にこんな人、居なかったよ」
「そうだよね」
「悩んでも仕方ない。もう1枚の手紙に、マコトジュエルが砕けたとされる場所の地図が入っていた。行ってみよう」
その言葉で、一同は探偵事務所から外へと出た。
***
一同は、郊外にある静かな『湖』へとやってきた。
「ここ、来たことある」
あんなが懐かしそうに言う。
「え、そうなの?」
「うん。小学校の遠足で。あそこでお弁当のハンバーグ落としたんだよ、楽しみにとっておいたのにー!」
「それって最悪だね」
「ポチー」
「あっ、あそこの取水塔の色、私の時代と違う!」
「って、話してる場合じゃないだろ。森亜るるかの調査をしに来たんだぞ」
ジェット先輩が呆れてたしなめる。
「「はい」」
反省するあんなとみくる。
「それに」
ジェット先輩が、少し真面目な顔になる。
「やっぱり未来のことは、知らない方がいい。ウソノワールが『未來自由の書』を使っているのを見て思ったんだ。答えありきで動くなんて、まっぴらだって」
「そうだよね。未来は自分で作っていくものだもんね」
「うん! まずは調査だね!」
そんな前向きな会話を。
少し離れた取水塔の裏から、静かに聞いている人物がいた。
「手紙によると、半年ほど前にここで『マコトジュエルが砕けた』そうよ」
みくるが資料を読み上げる。
「ウソノワールが言ってたやつだね。この町に散らばっていったんだよね」
「ええ。その直後に、森亜るるかと森亜こころは姿を消したって」
「手紙で分かったことはそれだけか」
「なるほどね」
背後から、不意に冷たい声が聞こえた。
振り返るとそこには、黒いケープを着て、俯いて立っているるるかの姿があった。
「大したこと、書いてないんだ」
「アルカナ・シャドウ……ううん。森亜るるかさん!」
警戒するあんなとみくる。
「どうしてファントムにいるの?」
「……知ってどうするの」
るるかが、ゆっくりと顔を上げた。
「「「!?」」」
あんな、みくる、ジェット先輩、ポチタンは、その顔を見て言葉を失い、一斉に背筋を凍らせた。
るるかの紫色の瞳は、今までと完全に違っていた。
感情も、意思も、光(ハイライト)も、すべてが完全に失われた、虚無そのもののガラス玉のような瞳。
「るるか……さん……?」
「その目……!」
「おい! 一体どうしたんだよ!」
ジェット先輩が思わず叫ぶ。
「別に。いつも通りよ。何を言っているの?」
るるかは、首を小さく傾げて無表情で答えた。
彼女自身には、自分の瞳が完全に死んでいるという自覚が全くなかった。
「るるかさん……森亜こころさんは、どこにいるの?」
あんなが、核心を突く質問を投げかけた。
「……」
るるかの虚無の瞳の奥で、一瞬だけ赤黒い炎が揺らめいた。
「だから……それを知ってどうするの?」
るるかの声に、はっきりと拒絶の力と、冷たい怒りがこもる。
「何も知らない貴女達が、私達に関わらないで」
明らかに、『森亜こころ』の話をされた瞬間に態度が硬化した。
るるかは身を翻し、歩き出した。
「待って!」
追いかけようとするあんなだったが、突然、突風が激しく吹き荒れ、砂埃が舞った。
「きゃっ!」
目を開くと、そこにはもうるるかの姿は無かった。
***
怪盗団ファントムのアジト。
アジトには、ウソノワール、ニジー、ゴウエモンの姿が。
「うん? アルカナ・シャドウは?」
「いえ、見ていませんが。また勝手に動いているのでは? 彼女も元は名探偵プリキュア。何をするか分かりませんよ」
ニジーが肩をすくめる。
そんな時、るるかの定位置の椅子から声が聞こえた。
「いるわよ」
「ずっとね」
「いやいやいや」
ニジーが、ジト目でその椅子を見下ろした。
「さあ、迷宮へ誘いましょう」
そこには、自分の小さなサイズに合わせたキュアアルカナ・シャドウの服を着て、ティアラまで被ったマシュタンが立っていた。
「無理があるでしょ」
ニジーが冷静にツッコむ。
「マシュタンかわいい」
るるかが、音もなくアジトへと帰ってきた。
「ありがとう。あなたのフリしてごまかすの、大変だったんだから」
「ごまかしきれてないよ、ベイビー」
「どこへ行っていた」
ウソノワールが低く問う
。
「手紙の情報を探りに。……大した内容は書いていなかった。あの子達、私のことを探ってたみたい。調べるだけ無駄だったわ」
淡々と報告するるるかを、マシュタンは悲しそうな目で見つめていた。
***
部屋に戻り、占いをするマシュタン。
「マシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュ……マシュー!」
水晶玉が光る。
「見えたわ。やっぱり、あれは『重要な手紙』だって占いに出た」
「でも、大した情報はなかったわ」
「手紙をきっかけに、名探偵が『新たな秘密』を見つけるって占いに出てるわ」
「秘密……」
るるかは、空虚な瞳で何かを考え込んだ。
「でも……エクレールの事は、ロンドン本部でも把握は出来ていない筈。……一体、何に気付くって言うの……」
「さぁ。そこまでは占いで出ないから。こればっかりは考えるしかないわね」
「……」
「私が考えた所で無駄か……。2回も取り返しのつかない失敗をした私が推理した所で、また間違えるだけかも知れないし……」
こころの事で、決定的な失敗を犯したるるか。
その結果、今のるるかは全く自分を信用していなかった。
天才探偵であった頃の自信やプライドは、完全に砕け散っていたのだ。
「るるか……。そんなこと……」
(そんな事ない。そう言ってあげたい。でも今のるるかには、そんな言葉きっと届かないんでしょうね)
マシュタンは唇を噛んだ。
(それでも……こころちゃんの事は何としてでも救う。それがアタシ達の願い)
「今は、流れに身を任せてみてもいいんじゃない?」
「うん。……そうする」
るるかは、ただ頷いた。
***
再び、湖。
「あんな?」
みくるが声をかけると、あんなはしゃがみ込んだりして、何かを必死に探していた。
「なにかるるかさんの手がかりないかなって」
「このあたりは、徹底的にロンドンの探偵事務所のみんなが調べたそうだ。そんな簡単に見つかるとは……」
ジェット先輩が首を振る。
「自分の目で確かめたいの。悪い人じゃないから。あの時も、やっぱり私たちを助けてくれたんだと思う」
あんなは顔を上げる。
「ファントムにいる理由がなにかあるんだよ。私、その理由を知りたい。それに、さっきの瞳……。この間までは普通だったのに。るるかさんに何があったのか知りたい!」
「あんな……」
「それに……森亜こころさん。きっと彼女のことが分かれば、るるかさんの事も分かる気がする」
「そうだよね。ウソで覆われた世界を、あんな天才探偵が望むはずないもんね」
みくるも同意する。
「ポチ!」
「僕が作ったミラールーペを使えよ。肉眼で見えない、新しい手がかりが見つかるかも」
「そっか! オープン、プリキットミラールーペ!」
あんなはミラールーペのレンズ越しに、湖畔の地面を覗き込みながら探す。
すると、不自然な反応を見つけた。
「はなまる発見!」
あんなが透間から何かを引き抜く。
「紙?」
「これが……手がかりなの?」
それは、泥にまみれ、ひどく汚れた一枚の紙切れだった。