名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
キュアット探偵事務所。
あんなとみくるは、いつものようにソファに座っていた。
あんなが、膝の上にいるポチタンに小さな哺乳瓶でミルクを与えている。
「ポチタン、ミルクおいしい?」
「ポチ!」
満足気なポチタン。
そして、お腹がいっぱいになると、すぐにスヤスヤと眠ってしまった。
「寝ちゃった」
ポチタンが眠ったのと同時に、隣にいたみくるがパタンと本を閉じる。
「おもしろかったー!」
みくるの目が、感動でキラキラと輝いている。
「みくる、何読んでたの?」
「探偵小説! すっごく面白いの!」
みくるが、表紙をあんなに見せてくる。
本の題名は『名探偵エリーの事件簿』。
「ねえ見て、この本の作者」
みくるが、作者の名前を指さす。
「来栖エリザ……あ! 前にパティスリーで会った作者さんだ」
雨の日にみくるに傘を届けに行った日、そして、キュアット探偵事務所の最初の事件の依頼人だった女性だ。
「主人公のエリーがとってもかっこいいの!」
すると突然。
「『私はあきらめない』」
開いたままの事務所のドアから、凛とした声が聞こえた。
「『あきらめない心が、真実のページを刻む』!」
格好良くポーズを決めて、エリザ本人が探偵事務所にやって来た。
「エリザさん!」
「ちょうど、エリザさんの小説を読み終えたところです!」
「ありがとう。今日はね、あなたたちに『依頼』があって来たんだ」
「依頼?」
エリザが、探偵のようなトレンチコートの襟を正して言った。
「私を……探偵として雇ってほしいの!」
「「ええー!?」」
予想外のお願いに、みくるとあんなは目を丸くしてびっくりした。
***
一方、外の公園では。
「ミーコ! どこにいるのー?」
一人の小さな男の子が、草むらを必死に覗き込んで何かを探しているようだった。
「おや?」
そこに、スーパーの袋を下げた買い物帰りのジェット先輩が通りかかる。
気になったジェット先輩は、泣きそうな顔をしている子供へ駆け寄った。
再び、キュアット探偵事務所。
「次回作の執筆のためですか?」
「ええ。今、探偵エリーの続編を考えててね」
「続編! 楽しみ!」
「実際に探偵になれば、いいアイデアが浮かぶと思って。2人にもいろいろ教えてもらいたいの」
アイデアの為に、リアルな探偵の仕事を肌で感じたいというエリザの頼みだった。
「任せてください!」
みくるが気合十分に胸を叩く。
「おーい、依頼人だぞ」
そこに、ジェット先輩がさっきの子供を連れて帰ってきた。
「ようこそ! あんな、みくる、お茶の準備を!」
素早く立ち上がり、完全に探偵事務所の主のように振る舞うエリザ。
「いきなり仕切ってる」
「教えてほしいって言ってたのにね」
その行動力に、あんなとみくるは顔を見合わせて笑った。
「どうなってるんだ?」
「小説のアイデアが浮かぶまで、一緒に探偵をすることになったの」
みくるが、首を傾げるジェット先輩にも事情を説明する。
「うう……ミーコ……」
ソファに座った子供が、ポロポロと泣いている。
「この子が、ミーコちゃん」
ジェット先輩が、一枚の写真を出した。そこには、首輪に鈴をつけた可愛い三毛猫が写っていた。
「昨日からずっと探しているそうだ」
「大丈夫!」
「私たちが絶対見つけるから」
あんなとみくるが、子供を元気づける。
「早速、調査開始よ!」
エリザが探偵手帳を取り出し、張り切って声を上げた。
***
怪盗団ファントムのアジト。
いつも通りの席に、各々が座っていた。
るるかは、マシュタンを膝に乗せ、無表情のままアイス(今回はストロベリー味)を食べていた。
「なるほど。新たなマコトジュエルのありかが分かった」
ウソノワールが『未來自由の書』を開くと、空白のページに文字が浮かび上がった。
「はいはーい! アゲが行くっしょ!」
アゲセーヌが、元気よく手を挙げてウソノワールにアピールする。
「いや。……アルカナ・シャドウだ」
アゲセーヌを完全に無視して、ウソノワールはるるかに行かせようとした。
るるかとマシュタンが、ウソノワールの方を向く。
「私の元へ、マコトジュエルを」
「……分かったわ」
るるかは、感情の読めない声で短く了承した。
「むうー。アルカナ・シャドウばっか贔屓してズルいし!」
ほっぺを膨らませてむくれるアゲセーヌ。
***
再びキュアット探偵事務所。
「なるほど……。ミーコちゃんは3歳の女の子で、性格はおとなしい。ちなみにいなくなったのは、何時くらい?」
エリザが、子供に質問を続ける。
「分かんない。お母さんが美容室に行って……その後いなくなったって……」
「美容室? 多分、お昼ぐらいかな」
エリザは手帳にペンを走らせる。
「エリザさん、調査は行かないんですか?」
「これも立派な調査よ。ミーコちゃんの『プロファイリング』」
「プロファイリング?」
「データを分析して、犯人……この場合は猫の行動を予想するってやつね」
みくるが補足する。
「ミーコの事を知ることで、どこにいるかを推理するんだな」
「なるほど!」
納得するあんな。
「プロファイリングから導き出せる移動範囲……」
地図を広げ、考えるエリザ。
「猫が集まる場所といえば公園だけど、あの公園はエサやり禁止だし、性格を考えるといきなりあそこへ行く可能性としては低そうね」
「となると、ここよ!」
ペンを取り出し、地図の一点に赤い◯を書くエリザ。
「「おお!」」
「いってきまーす!」
調査へ向かう三人。
落ち込んでいる子供とジェット先輩が事務所に残った。
「チラシでも配ってみるか。ほら、準備するぞ」
ジェット先輩が、子供の頭を優しく撫でる。
「うん」
少し元気を取り戻した子供と一緒に、二人はチラシ作りに取り掛かった。
***
アゲセーヌは、まことみらい市の路地裏にいた。
「アゲは散歩してるだけだし~。それで、たまたま『先』にマコトジュエルを見つけちゃったら、しょうがないよね~」
ウソノワールの命令を無視し、手柄を横取りしようと勝手に行動を始めていたアゲセーヌ。
「なーんだ、いないか」
ゴミ箱の蓋を開け覗き込むが、ハズレ。
「猫の持ち物に宿ってるっぽいけど……」
今回のマコトジュエルの欠片は、特定の『猫の持ち物(首輪)』に宿っているらしい。
探していると、路地裏のブロック塀の上に一匹の猫が歩いているのを見つけた。
「ニャー」
「逃さないよ!」
襲いかかるアゲセーヌ。
見事に猫を捕まえた。
「ニャーハハハ! 楽勝だし!」
高笑いするアゲセーヌ。
すると。
「えっ、」
「シャァァァーッ!!」
怒った猫が、アゲセーヌの顔面に思い切り爪を立てた。
「いったいニャー!!」
「うう……もうチョベリバ……」
顔に引っ掻き傷を作り、アゲセーヌは涙目で路地裏にしゃがみ込んだ。
***
一方、あんな達。
目的地へとやってきたあんなとみくるは、エリザの行動を見て驚きの声を上げた。
「「ええ!」」
「ミーコちゃんは、きっとここにきたはず……そして、このあとの行動を探るには」
「エリザさん?」
「まずは、猫になって考えればいいニャン!」
エリザは、どこから取り出したのか、頭に猫耳のカチューシャと、お尻に猫のしっぽをつけて、完全に猫になりきっていた。
「うわあ! 可愛い!」
あんなとみくるも大喜び。
「なりきりひらめき! 猫になりきれば、猫ちゃんの行動がわかるニャン!」
「そうそう、小説のエリーも、こうやって犯人になりきることで事件を解決してた!」
そこへ、一匹の野良猫がやってきた。
「フシャーッ! ニャーニャー!」
エリザを見て、激しく威嚇する野良猫。
「むう。……きっとミーコちゃんも、こうやって威嚇されたニャン。そして……」
ミーコちゃんの行動を予想するエリザ。
「ニャニャニャー!」
野良猫がエリザに飛びかかる。
「きゃー!」
「ニャー!」
そのまま、野良猫に追いかけられるエリザ。
「こっちに逃げたはずニャー!」
全力で走るエリザ。
「ハア、ハア……」
なんとかジャングルジムの上に逃げて、一息つくエリザ。
「大丈夫ですか?」
「は!」
なにか気づいたエリザ。
「私の推理によれば……こうして、いろいろなところを移動して……」
土管に入ったり、草むらに入ったり、泥だらけになりながら猫のルートを辿るエリザ。
「ニャーン! 分かった、こっちに行ったニャン!」
勢いよく走り出す。追いかけるあんなとみくる。
「そして、ミーコちゃんはここにたどり着いたニャ!」
河川敷の茂みへたどり着いた一同。
「間違いない。あそこにいるニャン!」
草を掻き分けるエリザ。
「いた!」
そこに、一匹の三毛猫が丸まっていた。
「ミーコちゃん?」
「あ、でも……毛の色は一緒だけど、この子は毛が短いね」
「首輪もしてないわ」
「違う猫かな」
写真で見たミーコとは違う猫だった。
「ニャ」
あんな達に気づき、猫が逃げる。
「あ、逃げた」
「あの子じゃないみたいね……」
「絶対ここにいるはずなのに……!」
エリザが悔しがる。
「ピンときた! 猫に聞いてみればいいんだ!」
あんなが名案を思いついた。
「オープン! プリキットグミ!」
あんなが探偵ガジェットを召喚する。
『プリキットグミ』を食べると、3分間だけ、どんな動物の言葉も分かって話せるようになるという、ジェット先輩の発明品だ。
あんなとみくるがグミを食べる。
そして、近くの土手に座っていた黒猫に、あんなが話しかけた。
「ちょっといいですか、私たち、この子を探してて」
ミーコの写真を見せるあんな。
「どれどれ?」
人間の言葉で返してくる猫。
「おっ、さすがニャン! 猫になりきって話してるニャン!」
エリザには、あんなが猫語を喋っているように聞こえ、感心している。
「うーん……知らないわね」
「そっか……」
黒猫は、ミーコの事を知らないようだった。
***
「お願いしま~す! ネコを捜していま~す!」
「情報くださ~い!」
一方、ジェット先輩は虎太郎と手作りのチラシを手に、通りを歩きながら呼びかけを続けていた。
「推理と情報収集。協力すれば、すぐに見つかるはずだ」
ジェット先輩が、落ち込む虎太郎を元気づけようとする。
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
素直にお礼をいう虎太郎。
「む、むこうの人に渡してくるっ」
『お兄ちゃん』と呼ばれ、照れているのか顔を赤くしてそっぽを向くジェット先輩。
「うん、じゃあ僕はあっちに」
虎太郎は、ジェット先輩と反対方向に向かってチラシを配り始めた。
すると、前を歩いていた一人の女性が足を止め、虎太郎に声をかけてきた。
「ねえ、それもらえる?」
マシュタンを抱いた、黒いケープの少女――るるかだった。
「はい、おねがいします!」
虎太郎は元気よくチラシをるるかに渡す。
虎太郎は元のるるかを知らない為か、彼女のハイライトのない虚無の瞳を見ても、特に怖がる様子はなく、あまり気にしていなかった。
「ふーん……なるほどね」
チラシの写真を見ただけで、るるかの天才的な頭脳が何かに気付く。
***
「うーん、見てないな」
「そうですか……」
調査を続けるあんな達。
「ごめんね、私が二人の足を引っ張っちゃって……」
エリザがすっかり落ち込んでしまっていた。
「そんなことは……」
「やっぱり、小説と違うよね。こうして推理も失敗ばかりだし……。無理だよ。小説みたいにはうまくいかない」
あんなが励まそうとするが、エリザはすっかり自信を無くしていた。
「たしかに、小説と全然違います」
突然、みくるがキッパリと言った。
「みくる……!」
あんなが慌ててみくるを窘めようとするが、みくるは言葉を続ける。
「エリザさんは諦めかけてる。でも……探偵のエリーは言っていました」
みくるは、エリザの目を真っ直ぐに見た。
「『あきらめない心が真実のページを刻む』って」
「あっ……」
「エリーなら絶対、最後の最後まで真実を解き明かそうと頑張るはずです!」
みくるの真っ直ぐな言葉に、エリザの瞳に再び光が戻った。
「……そうだよね。私もあきらめない!」
元気を取り戻すエリザ。
「きあめない!」
ポチタンも喋って応援した。
まだ「諦めない」と上手く言えない模様。
「「ああ!」」
ポチタンが人前で喋ったことで、焦る二人。
「え?」
「ああ、えっと! 探偵の道を『極めないと』って!」
「そうそう! 私たち探偵の道を極めたいんです!」
必死にごまかすあんなとみくる。
「とにかく、調査再開しましょう!」
「だったらまず、虎太郎くんに改めて話を聞いてみない? 虎太郎くん、ミーコちゃんがいなくなってすごく戸惑ってたでしょ」
エリザが探偵の顔に戻って提案する。
「そうか! なにか私たちに伝え忘れたことがあるかも!」
「猫の行動だけじゃなく、依頼人の気持ちにも寄り添う。……エリーならそうするはずよ」
虎太郎達の元へ向かうあんな達。
「ミーコについて?」
「改めて聞かせてくれる? なにか、いつもと違ったなってこととか」
虎太郎とジェット先輩と合流し、聞き込みを再開する。
「そういえば、お母さん、美容室に行ったんだよね」
「いつもと違う髪型になって帰ってきたから、ミーコちゃんが驚いて逃げちゃったとか?」
あんなが推理を披露する。
「ううん。お母さん、全然髪切ってなかったよ」
虎太郎が首を振る。
あんなの推理は外れた。
「じゃあ、髪の色を変えた?」
「変わってなかった」
「どういうことだ?」
考える一同。
「……あのお店?」
みくるが、通りにある一軒の店を見つめた。そこは『ペットサロン』だった。
「「は!」」
あんなとみくるが顔を見合わせる。
「「見えた。これが答えだ!」」
「ミーコちゃんは、」
「きっとあそこだ!」
二人はついに、ミーコの行方の答えにたどり着いた。
***
先程、あんな達が来た河川敷。
再びそこへ戻ってきた一同。
「虎太郎くんのお母さんは、『美容室』には行ったけど髪の毛の長さも色も変わってなかった」
「うん」
もう一度、推理をおさらいするみくる。
「ということは……美容室に行ったのは『ミーコちゃん』の方だったんだよ!」
あんながビシッと指を差す。
「つまりそれって、トリミングサロンで長い毛を切ってもらっていたんだ。実は、もう私たちはミーコちゃんにあっていたの!」
「エリザさんの推理は、最初から正しかったんです」
「うん!」
「ここで最初に見つけた『あの短い毛の猫』が、ミーコちゃんだよ!」
河川敷で最初に会って逃げられた猫こそが、トリミングで毛を短くしたミーコだったのだ。
「ミーコ、どこにいるの?」
虎太郎が周囲を探す。
「なりきりひらめき! 私の推理によれば……」
エリザが、再び猫の思考になりきる。
「ここにいるニャ!」
草むらのなかを探すエリザ。
「あっ!」
草むらの先には、猫がたくさん集まっていた。
そしてその中心に、一人の女性が立っていた。
「おそい」
るるかとマシュタンがいた。
るるかは、ミーコを抱きかかえていた。
「るるかさん……」
警戒するあんなとみくる。
「ミーコ!」
「ニャー」
るるかの腕から、ミーコが虎太郎の元へ走って逃げる。
「ミーコ! 良かった……!」
虎太郎がミーコを抱きしめる。
「どうして、ミーコちゃんを……」
みくるが問う。
「その子の『首輪』に、マコトジュエルが宿っているからよ」
「「え?」」
マコトジュエルが宿っていたのは、ミーコちゃんの首輪だったのだ。
「え、あれ、首輪がない!」
虎太郎が、ミーコの首元に首輪がないことに気づく。
「首輪はどこ!?」
あんなはるるかを問い詰める。
「(私たちが盗んだと思ってるの!?)はあ?」
あんなの決めつけに、マシュタンが怒る。
「さあ、どこかしら」
るるかは、あんな達を試すように不気味に笑った。
「あんな」
「うん!」
頷き合う二人。
「え、なに? どういうこと?」
状況が飲み込めないエリザ。
「2人ともこっちだ!」
ジェット先輩が、一般人である二人を安全な場所へと誘導する。
「「オープン!! ジュエルキュアウォッチ!」」
あんなとみくるの手にあるペンダントがまばゆい光を放ち、カラフルな懐中時計『ジュエルキュアウォッチ』へと姿を変える。
二人はそれぞれのマコトジュエルを取り出し、ウォッチに装着した。
「「プリキュア、ウェイクアップタイム!」」
二人の声が重なった瞬間、光が溢れ出す。
「サン!見つける!」
ジュエルキュアウォッチの長針が、3の位置へと揃えられた。
あんなの髪が風にほどけるように一気に伸び、足首に届くほどの長さになる。
毛先はハート型に整い、頭頂部の左右は可愛らしいお団子のツインテール。
髪色は鮮やかな紫へと変わり、毛先に向かって淡いピンクのグラデーションが広がった。
みくるの髪も同時に伸び、やわらかな三つ編みへと姿を変える。
髪色は、明るいピンクに。
瞳の色も変化する。
あんなは澄んだ青緑、みくるは神秘的な紫へ。
「ロク、向き合う!」
長針が6を指す。
みくるの身体を、淡いピンクのオフショルダーワンピースが包み込む。
フリルの揺れるスカートが、彼女の可憐さを際立たせた。
背中には、水色の大きなリボン。
あんなもまた、フリフリの紫色のワンピースを身に纏い、背中には鮮やかな黄色の大きなリボンが現れる。
「キュー!奇跡の二人!」
長針が9へ。
二人の足元に光が集まった。
あんなは紫色、みくるはピンク色のブーツを履き、同時にニーハイソックスが脚を彩る。
あんなの手には薄い水色のフィンガーレスグローブ。
その上から薄紫色のオープンフィンガーグローブが重なる。
みくるの手にも薄紫のフィンガーレスグローブと、薄ピンクのオープンフィンガーグローブ。
指先には、それぞれの色のネイルがきらりと輝いた。
「くるっと回して、キュートに決めるよ!」
長針が11へと進む。
あんなの左右のお団子には華やかな髪飾りが添えられ、耳元にはピアスが揺れる。
みくるの髪には大きなリボンの髪飾り。
そして同じく、両耳にピアス。
さらに二人の胸元にはネクタイ型のリボン。
肩には短めのケープが重なり、装いが完成へと近づいていく。
ジュエルキュアウォッチは光となって収束し、衣装の腰にあるキャリーへと収められた。
「どんな謎でも、はなまる解決!名探偵『キュアアンサー』!」
「重ねた推理で、笑顔にジャンプ!名探偵『キュアミスティック』!」
可愛らしい決めポーズを決める。
最後に二人は自然と歩み寄り、並び立つ。
「「名探偵プリキュア!」」
ミスティックが、ビシッとるるかを指差した。
「私の答え、見せてあげます!」
ジャンプするキュアアンサーとキュアミスティック。
「ミーコちゃんの首輪を……」
「返して!」
首輪を取り戻す為に、変身していないるるかへと向かっていくアンサーとミスティック。
しかし、それをるるかはただ黙って見ているだけだった。
まるで、慌てる必要など全くないと言っているように。
アンサー達には、そんな風に無表情で立っているるるかの、ハイライトの消えた瞳がひどく不気味に見えた。
向かってくる二人が至近距離まで近づいた瞬間。
るるかはスッと身体を翻して、二人の突撃を難なく躱した。
変身もしていない生身の身体で、プリキュアに変身した二人の動きに完全に対応したのだ。
二人はそれだけで、元・天才探偵であるるるかに遠く及ばないような気がした。
着地の衝撃で、周りにいた野良猫達が驚いて逃げていった。
「あーあ、逃げちゃった」
「……」
「もう少し、触れ合いたかったのに……」
純粋に、もう少し猫と触れ合いたいと思っていたるるかは、少し拗ねたような声を出した。
しかし、あんな達から見れば、そのハイライトの消えた瞳のせいで、ただただ不気味な挑発に見えてしまう。
「ちょっとるるかー! 煽らないの!」
誤解を生むるるかの態度を注意するように、腕の中でマシュタンが暴れる。
「ふふ、冗談よ」
「「はああぁぁぁぁ!!」」
再び全速力で向かっていく二人。
「まだまだ未熟ね」
るるかは小悪魔っぽく笑うと、首から下げたペンダントにそっと手を添えた。
「……オープン……」
胸元のペンダントが強い光を放つ。
光は細く伸び、形を作り、るるかの手の中で長くしなやかな『杖』へと変貌した。
「ティアアルカナロッド」
その声と表情は大人びながらも、可愛らしい。
指先を添えた瞬間、るるかの身体はふわりと舞い上がる。
衣装は紫の光を帯び、周囲へと輝きを弾けさせる。
マコトジュエルを静かにロッドへ装着する。
円を描くように一回転。
足元に広がる魔方陣が妖しく光った。
「シャッフル」
ロッド上部のカードがくるりと回転した瞬間、るるかの髪は漆黒へ。
もう一度、指先でカードを弾けば、闇は一転して金色へ。
かきあげた髪の先には、鮮やかなピンク色のグラデーション。
「リバース」
髪はさらに長く伸び、ふわりと広がる毛先。
ロッドから流れる光がるるかの体を次々と包み込む。
ノースリーブのワンピースが身体を包み、黒を基調とした衣装と明るく揺れる髪が、お互いを強調し合う。
スカートには紫色の雫が散りばめられ、静かに揺れる。
カンッ。
ロッドを地に打ち付けた瞬間、露わだった脚は濃い紫色のサイハイソックスと濃紺色のショートブーツに包まれる。
祈りを捧げるように両手でロッドを握ると、手首には繊リストカフスが装着される。
頭には、黒いダイヤ型が並ぶ髪飾りを装着、その中央下には雫型の石飾りが付けられている。
目元へ右手を当てて下に下ろすと、瞳は紫から赤へと変化、瞳の奥にハートの光が宿っている。
耳元には雫型のピアス。
頭の後ろには黒い蝶の飾りを添えた薄紫のヴェールが静かに寄り添う。
ロッドの先端を胸元へと当てると、紫色の光が体を包み込む。
黒いケープが肩を覆い、胸元にはネクタイ型のリボンが可憐に結ばれる。
「神秘と秘密で包み込む――『キュアアルカナ・シャドウ』」
ロッドのカードに映るのは、彼女の横顔。
一歩、また一歩と進むだけで、神秘が満ちていく。
ロッドをくるりと回し、持ち替える。
「さあ……迷宮へ誘いましょう」
変身を終え、向かってくる二人にアルカナ・シャドウも急接近する。
「探偵なら、観察力を磨きなさい」
そう言って、容赦のない回し蹴りを放つアルカナ・シャドウ。
「「うわっ……ああ!!」」
二人は強烈な蹴りで吹き飛ばされる。
距離を取りながらなんとか着地した二人へ、アルカナ・シャドウが首輪について口を開く。
「首輪は……きっと、なにかの拍子に外れたってとこかしら。いずれにしても、私はとってないわ」
「ポチ!」
慌てるポチタン。
「あれ~? もしかして?」
堤防の方から、特徴的なギャル語の高い声が聞こえ、顔を上げる。
「アゲセーヌ!?」
「これを探してる感じ~?」
「あっ、首輪!?」
既に、ミーコの首輪を手に入れたアゲセーヌがそこにいた。
最近は明らかに、二人以上で相手にしてくることが増えている。
そう感じる二人。
「今~、その茂みに落ちてるの見つけたし~。運も実力のうちだし? イェーイ!」
「「え?」」
盗んだのではなく、偶然落ちていた首輪を拾ったら、たまたまマコトジュエルが宿っていたということなのか。
「プリキュアを倒せば~、アゲの評価もさらに爆上がりっしょ!」
「………!!」
(毎回思うけど、どうしてここで撤退せず、プリキュアを倒すという無駄な選択を取るんだろ……)
アルカナ・シャドウは心の中でため息をつく。
(ニジーといい、一部を除いて誰も過去の失敗から学ぼうとしていないわね)
「ウソよ覆え!チョベリグにしちゃって~!ハンニンダー!」
不敵な笑みを浮かべながら、アゲセーヌがハイビスカスを首輪に添えた。
宿っていたマコトジュエルが瞬く間に真っ黒に染まり、新たなハンニンダーが姿を現す。
「ハンニンニャー!」
「ニャー!?」
「ネコ!?」
アルカナ・シャドウがマシュタンを抱いて、アゲセーヌの元へ歩いてくる。
「あとは、ご自由に」
アルカナ・シャドウはそう言い残し、戦いには参加せずにどこかへ歩いていった。
「ニャニャ!ハンニンニャー!!」
突然、ハンニンダーが猫の強みである跳躍力を活かして跳び上がり、鋭い爪を二人へ向かって叩きつけた。
砂埃が舞い上がり、二人は後退してなんとか躱したが、ハンニンダーはすかさず素早い追撃を仕掛けてくる。
「ミスティックリフレクション!」
一足先にミスティックがバリアを展開し、ハンニンダーの一撃を受け止めたと思ったが。
「ハンニンニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャ……!!」
「ううっ!?」
ハンニンダーが腕を止めなかった。
『猫パンチ』の要領で、バリアを何度も何度も引っ掻き続ける連続攻撃。
目にも留まらぬ速さで爪が叩きつけられるたびに、ミスティックの表情が苦しそうに歪んでいく。
「ぐっ……うっ!?」
まだ止まらない。
ついに、バリアにヒビが入った。
それでも攻撃はひたすら続き、亀裂はどんどん大きく広がっていく。
「ハンニンニャニャニャニャニャニャニャニャニャ……!! ハンニンニャー!!」
『バリーン!!』
「え!?」
最後の一振りで、バリアが完全に砕け散った。
アンサーとミスティックの二人が、信じられないというように息を呑む。
ついにハンニンダーにまでミスティックのバリアが破壊されるようになってしまった。
ハンニンダーはそんな二人に目もくれず、今度は大きなしっぽを振り回して薙ぎ払う。
「ハンニンニャぁぁぁー!!」
「「うわああぁぁ!!」」
防御する間もなく攻撃をまともに食らい、二人は激しく吹き飛ばされた。
「チョベリグー!」
「ハンニンニャー!」
久しぶりに一矢報いたハンニンダーに、アゲセーヌは上機嫌。
ハンニンダーは周囲をぐるぐると走り回りながら、倒れたアンサーとミスティックへじりじりと近づいていく。
二人の視線が、地面に落ちているミーコの写真へと向いた。
「「……あ」」
二人の声が、ほぼ同時に漏れた。
『探偵なら観察力を磨きなさい』
先ほどの、キュアアルカナ・シャドウの言葉を思い出す二人。
「オープン! プリキットライト!」
写真を見て何かを閃いたのか、アンサーがプリキットライトを取り出し、空中に向かって素早く何かを描き始めた。
描かれたのは『大きなボール』の光の絵。
「いっくよ~!」
「ハン……ニャニャ?」
アンサーがプリキットライトで作り出した光のボールを高く放り投げ、ミスティックへとパスする。
「ボール遊びが好きなんだよね!」
「掴まえてごらん!」
ミスティックが受け取ったボールを、そのままアタックでハンニンダーへと打ち込んだ。
ボールが目に入った瞬間、ハンニンダーの雰囲気ががらりと変わり、さっきまでの狂暴さが嘘のように消えていく。
「ハン! ハンニンニャ~!」
ボールをキャッチしたハンニンダーは、戦闘をそっちのけにして、夢中でボールを追いかけ始めた。
猫の首輪を素体にしているからだろうか、性格まで猫のそれに染まっている。
猫の習性を利用し、ボール遊びに夢中にさせることで、プリキュアへの警戒が完全に消えた。
アルカナ・シャドウのヒントの言葉のおかげで思いつくことが出来た、とっさの機転だった。
「チョ……チョベリバ~!? 遊んでる場合じゃないっしょ!?」
優勢だったのに突然戦いを放棄したハンニンダーに、アゲセーヌが怒鳴りつける。
けれどハンニンダーは聞く耳を持たない。
「今だ!」
「ええ!」
アンサーの声に合わせて、ミスティックが前へ飛び出す。
「オープン!プリキットミラールーペ!」
「ポチタン!」
「ポチー!」
ポチタンからマコトジュエルを受け取り、ミラールーペへと装着する。
「マコトジュエル!」
装着した瞬間、ミスティックの全身から光が噴き上がった。
「キュアミスティックが、解決!」
中央の宝石が回転する。
一回。二回。三回。
その先に現れたのは、ミラールーペから伸びる一振りの刃。
細身の片手剣『レイピア』。
ピンクに輝く鋭い剣身が、その存在感をさらに際立たせた。
「プリキュア! ミスティックストライク!」
名乗りと同時に、空が割れたように光が広がる。
青空に、純白の羽根が舞う。
「はああああああああっ!!」
ミスティックの刺突が一気にハンニンダーへと迫り、ハンニンダーは咆哮を上げる間もなく光が走った。
一閃。
ミスティックはレイピアを軽く払う。
次の瞬間には、巨大な胴体が静かに貫かれていた。
「キュアット解決!」
「ハン……ニン……ニャー……」
ハンニンダーが浄化され、マコトジュエルと首輪に分離する。
「ぐう、やっぱりチョベリバ……っ」
形勢逆転され、アゲセーヌは悔しそうに消えていった。