名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜   作:暁 蒼空

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名探偵プリキュア! 第16話 「探偵エリーの事件簿!?」を元に作成した話です。


第9話:探偵作家と消えた猫、そして狂気の影(前編)

キュアット探偵事務所。

 

あんなとみくるは、いつものようにソファに座っていた。

あんなが、膝の上にいるポチタンに小さな哺乳瓶でミルクを与えている。

 

「ポチタン、ミルクおいしい?」

「ポチ!」

 

満足気なポチタン。

そして、お腹がいっぱいになると、すぐにスヤスヤと眠ってしまった。

 

「寝ちゃった」

 

ポチタンが眠ったのと同時に、隣にいたみくるがパタンと本を閉じる。

 

「おもしろかったー!」

 

みくるの目が、感動でキラキラと輝いている。

 

「みくる、何読んでたの?」

「探偵小説! すっごく面白いの!」

 

みくるが、表紙をあんなに見せてくる。

本の題名は『名探偵エリーの事件簿』。

 

「ねえ見て、この本の作者」

 

みくるが、作者の名前を指さす。

 

「来栖エリザ……あ! 前にパティスリーで会った作者さんだ」

 

雨の日にみくるに傘を届けに行った日、そして、キュアット探偵事務所の最初の事件の依頼人だった女性だ。

 

「主人公のエリーがとってもかっこいいの!」

 

すると突然。

 

「『私はあきらめない』」

 

開いたままの事務所のドアから、凛とした声が聞こえた。

 

「『あきらめない心が、真実のページを刻む』!」

 

格好良くポーズを決めて、エリザ本人が探偵事務所にやって来た。

 

「エリザさん!」

「ちょうど、エリザさんの小説を読み終えたところです!」

 

「ありがとう。今日はね、あなたたちに『依頼』があって来たんだ」

「依頼?」

 

エリザが、探偵のようなトレンチコートの襟を正して言った。

 

「私を……探偵として雇ってほしいの!」

 

「「ええー!?」」

 

予想外のお願いに、みくるとあんなは目を丸くしてびっくりした。

 

***

 

一方、外の公園では。

 

「ミーコ! どこにいるのー?」

 

一人の小さな男の子が、草むらを必死に覗き込んで何かを探しているようだった。

 

「おや?」

 

そこに、スーパーの袋を下げた買い物帰りのジェット先輩が通りかかる。

気になったジェット先輩は、泣きそうな顔をしている子供へ駆け寄った。

 

再び、キュアット探偵事務所。

 

「次回作の執筆のためですか?」

「ええ。今、探偵エリーの続編を考えててね」

「続編! 楽しみ!」

「実際に探偵になれば、いいアイデアが浮かぶと思って。2人にもいろいろ教えてもらいたいの」

 

アイデアの為に、リアルな探偵の仕事を肌で感じたいというエリザの頼みだった。

 

「任せてください!」

 

みくるが気合十分に胸を叩く。

 

「おーい、依頼人だぞ」

 

そこに、ジェット先輩がさっきの子供を連れて帰ってきた。

 

「ようこそ! あんな、みくる、お茶の準備を!」

 

素早く立ち上がり、完全に探偵事務所の主のように振る舞うエリザ。

 

「いきなり仕切ってる」

「教えてほしいって言ってたのにね」

 

その行動力に、あんなとみくるは顔を見合わせて笑った。

 

「どうなってるんだ?」

「小説のアイデアが浮かぶまで、一緒に探偵をすることになったの」

 

みくるが、首を傾げるジェット先輩にも事情を説明する。

 

「うう……ミーコ……」

 

ソファに座った子供が、ポロポロと泣いている。

 

「この子が、ミーコちゃん」

 

ジェット先輩が、一枚の写真を出した。そこには、首輪に鈴をつけた可愛い三毛猫が写っていた。

 

「昨日からずっと探しているそうだ」

 

「大丈夫!」

「私たちが絶対見つけるから」

 

あんなとみくるが、子供を元気づける。

 

「早速、調査開始よ!」

 

エリザが探偵手帳を取り出し、張り切って声を上げた。

 

***

 

怪盗団ファントムのアジト。

 

いつも通りの席に、各々が座っていた。

るるかは、マシュタンを膝に乗せ、無表情のままアイス(今回はストロベリー味)を食べていた。

 

「なるほど。新たなマコトジュエルのありかが分かった」

 

ウソノワールが『未來自由の書』を開くと、空白のページに文字が浮かび上がった。

 

「はいはーい! アゲが行くっしょ!」

 

アゲセーヌが、元気よく手を挙げてウソノワールにアピールする。

 

「いや。……アルカナ・シャドウだ」

 

アゲセーヌを完全に無視して、ウソノワールはるるかに行かせようとした。

 

るるかとマシュタンが、ウソノワールの方を向く。

 

「私の元へ、マコトジュエルを」

 

「……分かったわ」

 

るるかは、感情の読めない声で短く了承した。

 

「むうー。アルカナ・シャドウばっか贔屓してズルいし!」

 

ほっぺを膨らませてむくれるアゲセーヌ。

 

***

 

再びキュアット探偵事務所。

 

「なるほど……。ミーコちゃんは3歳の女の子で、性格はおとなしい。ちなみにいなくなったのは、何時くらい?」

 

エリザが、子供に質問を続ける。

 

「分かんない。お母さんが美容室に行って……その後いなくなったって……」

「美容室? 多分、お昼ぐらいかな」

 

エリザは手帳にペンを走らせる。

 

「エリザさん、調査は行かないんですか?」

「これも立派な調査よ。ミーコちゃんの『プロファイリング』」

「プロファイリング?」

 

「データを分析して、犯人……この場合は猫の行動を予想するってやつね」

 

みくるが補足する。

 

「ミーコの事を知ることで、どこにいるかを推理するんだな」

「なるほど!」

 

納得するあんな。

 

「プロファイリングから導き出せる移動範囲……」

 

地図を広げ、考えるエリザ。

 

「猫が集まる場所といえば公園だけど、あの公園はエサやり禁止だし、性格を考えるといきなりあそこへ行く可能性としては低そうね」

 

「となると、ここよ!」

 

ペンを取り出し、地図の一点に赤い◯を書くエリザ。

 

「「おお!」」

「いってきまーす!」

 

調査へ向かう三人。

落ち込んでいる子供とジェット先輩が事務所に残った。

 

「チラシでも配ってみるか。ほら、準備するぞ」

 

ジェット先輩が、子供の頭を優しく撫でる。

 

「うん」

 

少し元気を取り戻した子供と一緒に、二人はチラシ作りに取り掛かった。

 

***

 

アゲセーヌは、まことみらい市の路地裏にいた。

 

「アゲは散歩してるだけだし~。それで、たまたま『先』にマコトジュエルを見つけちゃったら、しょうがないよね~」

 

ウソノワールの命令を無視し、手柄を横取りしようと勝手に行動を始めていたアゲセーヌ。

 

「なーんだ、いないか」

 

ゴミ箱の蓋を開け覗き込むが、ハズレ。

 

「猫の持ち物に宿ってるっぽいけど……」

 

今回のマコトジュエルの欠片は、特定の『猫の持ち物(首輪)』に宿っているらしい。

 

探していると、路地裏のブロック塀の上に一匹の猫が歩いているのを見つけた。

 

「ニャー」

 

「逃さないよ!」

 

襲いかかるアゲセーヌ。

見事に猫を捕まえた。

 

「ニャーハハハ! 楽勝だし!」

 

高笑いするアゲセーヌ。

すると。

 

「えっ、」

「シャァァァーッ!!」

 

怒った猫が、アゲセーヌの顔面に思い切り爪を立てた。

 

「いったいニャー!!」

「うう……もうチョベリバ……」

 

顔に引っ掻き傷を作り、アゲセーヌは涙目で路地裏にしゃがみ込んだ。

 

***

 

一方、あんな達。

目的地へとやってきたあんなとみくるは、エリザの行動を見て驚きの声を上げた。

 

「「ええ!」」

「ミーコちゃんは、きっとここにきたはず……そして、このあとの行動を探るには」

「エリザさん?」

 

「まずは、猫になって考えればいいニャン!」

 

エリザは、どこから取り出したのか、頭に猫耳のカチューシャと、お尻に猫のしっぽをつけて、完全に猫になりきっていた。

 

「うわあ! 可愛い!」

 

あんなとみくるも大喜び。

 

「なりきりひらめき! 猫になりきれば、猫ちゃんの行動がわかるニャン!」

「そうそう、小説のエリーも、こうやって犯人になりきることで事件を解決してた!」

 

そこへ、一匹の野良猫がやってきた。

 

「フシャーッ! ニャーニャー!」

 

エリザを見て、激しく威嚇する野良猫。

 

「むう。……きっとミーコちゃんも、こうやって威嚇されたニャン。そして……」

 

ミーコちゃんの行動を予想するエリザ。

 

「ニャニャニャー!」

 

野良猫がエリザに飛びかかる。

 

「きゃー!」

「ニャー!」

 

そのまま、野良猫に追いかけられるエリザ。

 

「こっちに逃げたはずニャー!」

 

全力で走るエリザ。

 

「ハア、ハア……」

 

なんとかジャングルジムの上に逃げて、一息つくエリザ。

 

「大丈夫ですか?」

「は!」

 

なにか気づいたエリザ。

 

「私の推理によれば……こうして、いろいろなところを移動して……」

 

土管に入ったり、草むらに入ったり、泥だらけになりながら猫のルートを辿るエリザ。

 

「ニャーン! 分かった、こっちに行ったニャン!」

 

勢いよく走り出す。追いかけるあんなとみくる。

 

「そして、ミーコちゃんはここにたどり着いたニャ!」

 

河川敷の茂みへたどり着いた一同。

 

「間違いない。あそこにいるニャン!」

 

草を掻き分けるエリザ。

 

「いた!」

 

そこに、一匹の三毛猫が丸まっていた。

 

「ミーコちゃん?」

「あ、でも……毛の色は一緒だけど、この子は毛が短いね」

「首輪もしてないわ」

「違う猫かな」

 

写真で見たミーコとは違う猫だった。

 

「ニャ」

 

あんな達に気づき、猫が逃げる。

 

「あ、逃げた」

「あの子じゃないみたいね……」

 

「絶対ここにいるはずなのに……!」

 

エリザが悔しがる。

 

「ピンときた! 猫に聞いてみればいいんだ!」

 

あんなが名案を思いついた。

 

「オープン! プリキットグミ!」

 

あんなが探偵ガジェットを召喚する。

『プリキットグミ』を食べると、3分間だけ、どんな動物の言葉も分かって話せるようになるという、ジェット先輩の発明品だ。

あんなとみくるがグミを食べる。

 

そして、近くの土手に座っていた黒猫に、あんなが話しかけた。

 

「ちょっといいですか、私たち、この子を探してて」

 

ミーコの写真を見せるあんな。

 

「どれどれ?」

 

人間の言葉で返してくる猫。

 

「おっ、さすがニャン! 猫になりきって話してるニャン!」

 

エリザには、あんなが猫語を喋っているように聞こえ、感心している。

 

「うーん……知らないわね」

「そっか……」

 

黒猫は、ミーコの事を知らないようだった。

 

***

 

「お願いしま~す! ネコを捜していま~す!」

「情報くださ~い!」

 

一方、ジェット先輩は虎太郎と手作りのチラシを手に、通りを歩きながら呼びかけを続けていた。

 

「推理と情報収集。協力すれば、すぐに見つかるはずだ」

 

ジェット先輩が、落ち込む虎太郎を元気づけようとする。

 

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

 

素直にお礼をいう虎太郎。

 

「む、むこうの人に渡してくるっ」

 

『お兄ちゃん』と呼ばれ、照れているのか顔を赤くしてそっぽを向くジェット先輩。

 

「うん、じゃあ僕はあっちに」

 

虎太郎は、ジェット先輩と反対方向に向かってチラシを配り始めた。

すると、前を歩いていた一人の女性が足を止め、虎太郎に声をかけてきた。

 

「ねえ、それもらえる?」

 

マシュタンを抱いた、黒いケープの少女――るるかだった。

 

「はい、おねがいします!」

 

虎太郎は元気よくチラシをるるかに渡す。

虎太郎は元のるるかを知らない為か、彼女のハイライトのない虚無の瞳を見ても、特に怖がる様子はなく、あまり気にしていなかった。

 

「ふーん……なるほどね」

 

チラシの写真を見ただけで、るるかの天才的な頭脳が何かに気付く。

 

***

 

「うーん、見てないな」

「そうですか……」

 

調査を続けるあんな達。

 

「ごめんね、私が二人の足を引っ張っちゃって……」

 

エリザがすっかり落ち込んでしまっていた。

 

「そんなことは……」

「やっぱり、小説と違うよね。こうして推理も失敗ばかりだし……。無理だよ。小説みたいにはうまくいかない」

 

あんなが励まそうとするが、エリザはすっかり自信を無くしていた。

 

「たしかに、小説と全然違います」

 

突然、みくるがキッパリと言った。

 

「みくる……!」

 

あんなが慌ててみくるを窘めようとするが、みくるは言葉を続ける。

 

「エリザさんは諦めかけてる。でも……探偵のエリーは言っていました」

 

みくるは、エリザの目を真っ直ぐに見た。

 

「『あきらめない心が真実のページを刻む』って」

「あっ……」

 

「エリーなら絶対、最後の最後まで真実を解き明かそうと頑張るはずです!」

 

みくるの真っ直ぐな言葉に、エリザの瞳に再び光が戻った。

 

「……そうだよね。私もあきらめない!」

 

元気を取り戻すエリザ。

 

「きあめない!」

 

ポチタンも喋って応援した。

まだ「諦めない」と上手く言えない模様。

 

「「ああ!」」

 

ポチタンが人前で喋ったことで、焦る二人。

 

「え?」

「ああ、えっと! 探偵の道を『極めないと』って!」

「そうそう! 私たち探偵の道を極めたいんです!」

 

必死にごまかすあんなとみくる。

 

「とにかく、調査再開しましょう!」

「だったらまず、虎太郎くんに改めて話を聞いてみない? 虎太郎くん、ミーコちゃんがいなくなってすごく戸惑ってたでしょ」

 

エリザが探偵の顔に戻って提案する。

 

「そうか! なにか私たちに伝え忘れたことがあるかも!」

「猫の行動だけじゃなく、依頼人の気持ちにも寄り添う。……エリーならそうするはずよ」

 

虎太郎達の元へ向かうあんな達。

 

「ミーコについて?」

「改めて聞かせてくれる? なにか、いつもと違ったなってこととか」

 

虎太郎とジェット先輩と合流し、聞き込みを再開する。

 

「そういえば、お母さん、美容室に行ったんだよね」

「いつもと違う髪型になって帰ってきたから、ミーコちゃんが驚いて逃げちゃったとか?」

 

あんなが推理を披露する。

 

「ううん。お母さん、全然髪切ってなかったよ」

 

虎太郎が首を振る。

あんなの推理は外れた。

 

「じゃあ、髪の色を変えた?」

「変わってなかった」

「どういうことだ?」

 

考える一同。

 

「……あのお店?」

 

みくるが、通りにある一軒の店を見つめた。そこは『ペットサロン』だった。

 

「「は!」」

 

あんなとみくるが顔を見合わせる。

 

「「見えた。これが答えだ!」」

 

「ミーコちゃんは、」

「きっとあそこだ!」

 

二人はついに、ミーコの行方の答えにたどり着いた。

 

***

 

先程、あんな達が来た河川敷。

再びそこへ戻ってきた一同。

 

「虎太郎くんのお母さんは、『美容室』には行ったけど髪の毛の長さも色も変わってなかった」

「うん」

 

もう一度、推理をおさらいするみくる。

 

「ということは……美容室に行ったのは『ミーコちゃん』の方だったんだよ!」

 

あんながビシッと指を差す。

 

「つまりそれって、トリミングサロンで長い毛を切ってもらっていたんだ。実は、もう私たちはミーコちゃんにあっていたの!」

「エリザさんの推理は、最初から正しかったんです」

 

「うん!」

「ここで最初に見つけた『あの短い毛の猫』が、ミーコちゃんだよ!」

 

河川敷で最初に会って逃げられた猫こそが、トリミングで毛を短くしたミーコだったのだ。

 

「ミーコ、どこにいるの?」

 

虎太郎が周囲を探す。

 

「なりきりひらめき! 私の推理によれば……」

 

エリザが、再び猫の思考になりきる。

 

「ここにいるニャ!」

 

草むらのなかを探すエリザ。

 

「あっ!」

 

草むらの先には、猫がたくさん集まっていた。

そしてその中心に、一人の女性が立っていた。

 

「おそい」

 

るるかとマシュタンがいた。

るるかは、ミーコを抱きかかえていた。

 

「るるかさん……」

 

警戒するあんなとみくる。

 

「ミーコ!」

「ニャー」

 

るるかの腕から、ミーコが虎太郎の元へ走って逃げる。

 

「ミーコ! 良かった……!」

 

虎太郎がミーコを抱きしめる。

 

「どうして、ミーコちゃんを……」

 

みくるが問う。

 

「その子の『首輪』に、マコトジュエルが宿っているからよ」

「「え?」」

 

マコトジュエルが宿っていたのは、ミーコちゃんの首輪だったのだ。

 

「え、あれ、首輪がない!」

 

虎太郎が、ミーコの首元に首輪がないことに気づく。

 

「首輪はどこ!?」

 

あんなはるるかを問い詰める。

 

「(私たちが盗んだと思ってるの!?)はあ?」

 

あんなの決めつけに、マシュタンが怒る。

 

「さあ、どこかしら」

 

るるかは、あんな達を試すように不気味に笑った。

 

「あんな」

「うん!」

 

頷き合う二人。

 

「え、なに? どういうこと?」

 

状況が飲み込めないエリザ。

 

「2人ともこっちだ!」

 

ジェット先輩が、一般人である二人を安全な場所へと誘導する。

 

 

「「オープン!! ジュエルキュアウォッチ!」」

 

あんなとみくるの手にあるペンダントがまばゆい光を放ち、カラフルな懐中時計『ジュエルキュアウォッチ』へと姿を変える。

二人はそれぞれのマコトジュエルを取り出し、ウォッチに装着した。

 

「「プリキュア、ウェイクアップタイム!」」

 

二人の声が重なった瞬間、光が溢れ出す。

 

「サン!見つける!」

 

ジュエルキュアウォッチの長針が、3の位置へと揃えられた。

あんなの髪が風にほどけるように一気に伸び、足首に届くほどの長さになる。

毛先はハート型に整い、頭頂部の左右は可愛らしいお団子のツインテール。

髪色は鮮やかな紫へと変わり、毛先に向かって淡いピンクのグラデーションが広がった。

みくるの髪も同時に伸び、やわらかな三つ編みへと姿を変える。

髪色は、明るいピンクに。

瞳の色も変化する。

あんなは澄んだ青緑、みくるは神秘的な紫へ。

 

「ロク、向き合う!」

 

長針が6を指す。

みくるの身体を、淡いピンクのオフショルダーワンピースが包み込む。

フリルの揺れるスカートが、彼女の可憐さを際立たせた。

背中には、水色の大きなリボン。

あんなもまた、フリフリの紫色のワンピースを身に纏い、背中には鮮やかな黄色の大きなリボンが現れる。

 

「キュー!奇跡の二人!」

 

長針が9へ。

二人の足元に光が集まった。

あんなは紫色、みくるはピンク色のブーツを履き、同時にニーハイソックスが脚を彩る。

あんなの手には薄い水色のフィンガーレスグローブ。

その上から薄紫色のオープンフィンガーグローブが重なる。

みくるの手にも薄紫のフィンガーレスグローブと、薄ピンクのオープンフィンガーグローブ。

指先には、それぞれの色のネイルがきらりと輝いた。

 

「くるっと回して、キュートに決めるよ!」

 

長針が11へと進む。

あんなの左右のお団子には華やかな髪飾りが添えられ、耳元にはピアスが揺れる。

みくるの髪には大きなリボンの髪飾り。

そして同じく、両耳にピアス。

さらに二人の胸元にはネクタイ型のリボン。

肩には短めのケープが重なり、装いが完成へと近づいていく。

ジュエルキュアウォッチは光となって収束し、衣装の腰にあるキャリーへと収められた。

 

「どんな謎でも、はなまる解決!名探偵『キュアアンサー』!」

「重ねた推理で、笑顔にジャンプ!名探偵『キュアミスティック』!」

 

可愛らしい決めポーズを決める。

最後に二人は自然と歩み寄り、並び立つ。

 

「「名探偵プリキュア!」」

 

ミスティックが、ビシッとるるかを指差した。

 

「私の答え、見せてあげます!」

 

ジャンプするキュアアンサーとキュアミスティック。

 

「ミーコちゃんの首輪を……」

「返して!」

 

首輪を取り戻す為に、変身していないるるかへと向かっていくアンサーとミスティック。

しかし、それをるるかはただ黙って見ているだけだった。

まるで、慌てる必要など全くないと言っているように。

 

アンサー達には、そんな風に無表情で立っているるるかの、ハイライトの消えた瞳がひどく不気味に見えた。

 

向かってくる二人が至近距離まで近づいた瞬間。

るるかはスッと身体を翻して、二人の突撃を難なく躱した。

変身もしていない生身の身体で、プリキュアに変身した二人の動きに完全に対応したのだ。

二人はそれだけで、元・天才探偵であるるるかに遠く及ばないような気がした。

 

着地の衝撃で、周りにいた野良猫達が驚いて逃げていった。

 

「あーあ、逃げちゃった」

「……」

「もう少し、触れ合いたかったのに……」

 

純粋に、もう少し猫と触れ合いたいと思っていたるるかは、少し拗ねたような声を出した。

しかし、あんな達から見れば、そのハイライトの消えた瞳のせいで、ただただ不気味な挑発に見えてしまう。

 

「ちょっとるるかー! 煽らないの!」

 

誤解を生むるるかの態度を注意するように、腕の中でマシュタンが暴れる。

 

「ふふ、冗談よ」

 

「「はああぁぁぁぁ!!」」

 

再び全速力で向かっていく二人。

 

「まだまだ未熟ね」

 

るるかは小悪魔っぽく笑うと、首から下げたペンダントにそっと手を添えた。

 

「……オープン……」

 

胸元のペンダントが強い光を放つ。

光は細く伸び、形を作り、るるかの手の中で長くしなやかな『杖』へと変貌した。

 

「ティアアルカナロッド」

 

その声と表情は大人びながらも、可愛らしい。

指先を添えた瞬間、るるかの身体はふわりと舞い上がる。

衣装は紫の光を帯び、周囲へと輝きを弾けさせる。

 

マコトジュエルを静かにロッドへ装着する。

 

円を描くように一回転。

足元に広がる魔方陣が妖しく光った。

 

「シャッフル」

 

ロッド上部のカードがくるりと回転した瞬間、るるかの髪は漆黒へ。

もう一度、指先でカードを弾けば、闇は一転して金色へ。

かきあげた髪の先には、鮮やかなピンク色のグラデーション。

 

「リバース」

 

髪はさらに長く伸び、ふわりと広がる毛先。

 

ロッドから流れる光がるるかの体を次々と包み込む。

ノースリーブのワンピースが身体を包み、黒を基調とした衣装と明るく揺れる髪が、お互いを強調し合う。

スカートには紫色の雫が散りばめられ、静かに揺れる。

 

カンッ。

ロッドを地に打ち付けた瞬間、露わだった脚は濃い紫色のサイハイソックスと濃紺色のショートブーツに包まれる。

祈りを捧げるように両手でロッドを握ると、手首には繊リストカフスが装着される。

頭には、黒いダイヤ型が並ぶ髪飾りを装着、その中央下には雫型の石飾りが付けられている。

 

目元へ右手を当てて下に下ろすと、瞳は紫から赤へと変化、瞳の奥にハートの光が宿っている。

耳元には雫型のピアス。

頭の後ろには黒い蝶の飾りを添えた薄紫のヴェールが静かに寄り添う。

 

ロッドの先端を胸元へと当てると、紫色の光が体を包み込む。

黒いケープが肩を覆い、胸元にはネクタイ型のリボンが可憐に結ばれる。

 

「神秘と秘密で包み込む――『キュアアルカナ・シャドウ』」

 

ロッドのカードに映るのは、彼女の横顔。

一歩、また一歩と進むだけで、神秘が満ちていく。

ロッドをくるりと回し、持ち替える。

 

「さあ……迷宮へ誘いましょう」

 

変身を終え、向かってくる二人にアルカナ・シャドウも急接近する。

 

「探偵なら、観察力を磨きなさい」

 

そう言って、容赦のない回し蹴りを放つアルカナ・シャドウ。

 

「「うわっ……ああ!!」」

 

二人は強烈な蹴りで吹き飛ばされる。

距離を取りながらなんとか着地した二人へ、アルカナ・シャドウが首輪について口を開く。

 

「首輪は……きっと、なにかの拍子に外れたってとこかしら。いずれにしても、私はとってないわ」

「ポチ!」

 

慌てるポチタン。

 

「あれ~? もしかして?」

 

堤防の方から、特徴的なギャル語の高い声が聞こえ、顔を上げる。

 

「アゲセーヌ!?」

「これを探してる感じ~?」

「あっ、首輪!?」

 

既に、ミーコの首輪を手に入れたアゲセーヌがそこにいた。

最近は明らかに、二人以上で相手にしてくることが増えている。

そう感じる二人。

 

「今~、その茂みに落ちてるの見つけたし~。運も実力のうちだし? イェーイ!」

「「え?」」

 

盗んだのではなく、偶然落ちていた首輪を拾ったら、たまたまマコトジュエルが宿っていたということなのか。

 

「プリキュアを倒せば~、アゲの評価もさらに爆上がりっしょ!」

「………!!」

 

(毎回思うけど、どうしてここで撤退せず、プリキュアを倒すという無駄な選択を取るんだろ……)

 

アルカナ・シャドウは心の中でため息をつく。

 

(ニジーといい、一部を除いて誰も過去の失敗から学ぼうとしていないわね)

 

「ウソよ覆え!チョベリグにしちゃって~!ハンニンダー!」

 

不敵な笑みを浮かべながら、アゲセーヌがハイビスカスを首輪に添えた。

宿っていたマコトジュエルが瞬く間に真っ黒に染まり、新たなハンニンダーが姿を現す。

 

「ハンニンニャー!」

「ニャー!?」

「ネコ!?」

 

アルカナ・シャドウがマシュタンを抱いて、アゲセーヌの元へ歩いてくる。

 

「あとは、ご自由に」

 

アルカナ・シャドウはそう言い残し、戦いには参加せずにどこかへ歩いていった。

 

「ニャニャ!ハンニンニャー!!」

 

突然、ハンニンダーが猫の強みである跳躍力を活かして跳び上がり、鋭い爪を二人へ向かって叩きつけた。

砂埃が舞い上がり、二人は後退してなんとか躱したが、ハンニンダーはすかさず素早い追撃を仕掛けてくる。

 

「ミスティックリフレクション!」

 

一足先にミスティックがバリアを展開し、ハンニンダーの一撃を受け止めたと思ったが。

 

「ハンニンニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャ……!!」

「ううっ!?」

 

ハンニンダーが腕を止めなかった。

『猫パンチ』の要領で、バリアを何度も何度も引っ掻き続ける連続攻撃。

目にも留まらぬ速さで爪が叩きつけられるたびに、ミスティックの表情が苦しそうに歪んでいく。

 

「ぐっ……うっ!?」

 

まだ止まらない。

ついに、バリアにヒビが入った。

それでも攻撃はひたすら続き、亀裂はどんどん大きく広がっていく。

 

「ハンニンニャニャニャニャニャニャニャニャニャ……!! ハンニンニャー!!」

『バリーン!!』

「え!?」

 

最後の一振りで、バリアが完全に砕け散った。

アンサーとミスティックの二人が、信じられないというように息を呑む。

ついにハンニンダーにまでミスティックのバリアが破壊されるようになってしまった。

 

ハンニンダーはそんな二人に目もくれず、今度は大きなしっぽを振り回して薙ぎ払う。

 

「ハンニンニャぁぁぁー!!」

「「うわああぁぁ!!」」

 

防御する間もなく攻撃をまともに食らい、二人は激しく吹き飛ばされた。

 

「チョベリグー!」

「ハンニンニャー!」

 

久しぶりに一矢報いたハンニンダーに、アゲセーヌは上機嫌。

 

ハンニンダーは周囲をぐるぐると走り回りながら、倒れたアンサーとミスティックへじりじりと近づいていく。

二人の視線が、地面に落ちているミーコの写真へと向いた。

 

「「……あ」」

 

二人の声が、ほぼ同時に漏れた。

 

『探偵なら観察力を磨きなさい』

 

先ほどの、キュアアルカナ・シャドウの言葉を思い出す二人。

 

「オープン! プリキットライト!」

 

写真を見て何かを閃いたのか、アンサーがプリキットライトを取り出し、空中に向かって素早く何かを描き始めた。

描かれたのは『大きなボール』の光の絵。

 

「いっくよ~!」

「ハン……ニャニャ?」

 

アンサーがプリキットライトで作り出した光のボールを高く放り投げ、ミスティックへとパスする。

 

「ボール遊びが好きなんだよね!」

「掴まえてごらん!」

 

ミスティックが受け取ったボールを、そのままアタックでハンニンダーへと打ち込んだ。

ボールが目に入った瞬間、ハンニンダーの雰囲気ががらりと変わり、さっきまでの狂暴さが嘘のように消えていく。

 

「ハン! ハンニンニャ~!」

 

ボールをキャッチしたハンニンダーは、戦闘をそっちのけにして、夢中でボールを追いかけ始めた。

猫の首輪を素体にしているからだろうか、性格まで猫のそれに染まっている。

 

猫の習性を利用し、ボール遊びに夢中にさせることで、プリキュアへの警戒が完全に消えた。

アルカナ・シャドウのヒントの言葉のおかげで思いつくことが出来た、とっさの機転だった。

 

「チョ……チョベリバ~!? 遊んでる場合じゃないっしょ!?」

 

優勢だったのに突然戦いを放棄したハンニンダーに、アゲセーヌが怒鳴りつける。

けれどハンニンダーは聞く耳を持たない。

 

「今だ!」

「ええ!」

 

アンサーの声に合わせて、ミスティックが前へ飛び出す。

 

「オープン!プリキットミラールーペ!」

「ポチタン!」

「ポチー!」

ポチタンからマコトジュエルを受け取り、ミラールーペへと装着する。

 

「マコトジュエル!」

装着した瞬間、ミスティックの全身から光が噴き上がった。

 

「キュアミスティックが、解決!」

 

中央の宝石が回転する。

一回。二回。三回。

その先に現れたのは、ミラールーペから伸びる一振りの刃。

細身の片手剣『レイピア』。

ピンクに輝く鋭い剣身が、その存在感をさらに際立たせた。

 

「プリキュア! ミスティックストライク!」

 

名乗りと同時に、空が割れたように光が広がる。

青空に、純白の羽根が舞う。

 

「はああああああああっ!!」

 

ミスティックの刺突が一気にハンニンダーへと迫り、ハンニンダーは咆哮を上げる間もなく光が走った。

 

一閃。

ミスティックはレイピアを軽く払う。

次の瞬間には、巨大な胴体が静かに貫かれていた。

 

「キュアット解決!」

「ハン……ニン……ニャー……」

 

ハンニンダーが浄化され、マコトジュエルと首輪に分離する。

 

「ぐう、やっぱりチョベリバ……っ」

 

形勢逆転され、アゲセーヌは悔しそうに消えていった。

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