名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜   作:暁 蒼空

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第11話:青き蝶の予言と、面影残る部屋(後編)

「ハンニンダー!」

 

巨大な虫眼鏡から、強烈なビームを放つハンニンダー。

 

「ミスティックリフレクション!」

 

ミスティックが瞬時にバリアを展開し、ビームを跳ね返す。

 

「アンサーアタック!」

 

隙を見逃さず、アンサーの強力な蹴りがクリーンヒットし、ハンニンダーが吹き飛ばされる。

 

「ストラップを返して!」

「そっちこそ、写真を返すし!」

 

アゲセーヌが叫ぶ。

 

「え?」

「あれ、アゲが撮った写真だし!」

「写真……? さっき事務所で見た、あの写真!?」

「青い蝶の写真?」

 

写真は、アゲセーヌが撮影したものだった。

 

「はあ? あれ、プリキュアっしょ!」

「「え!!」」

「あの写真が……プリキュア!?」

 

驚愕する二人。

 

「プリキュアがもう一人……!? ロンドンの本部も把握していないぞ!」

「ポチ!?」

 

ジェット先輩も、ポチタンも初耳だった。

ロンドンのキュアット探偵事務所すら存在を知らない、謎のプリキュア。

 

「超ウケる! 何も知らないの!?」

 

アゲセーヌが嘲笑う。

 

「超デカいマコトジュエルを手に入れようとした時にさぁ……」

 

アゲセーヌの頭の中に、あの惨劇の記憶が蘇る。

 

『ウソノワール様がマコトジュエルを盗った、チョベリグ記念っしょ!』

『うわー!』

 

青い光と共に一瞬で吹き飛ばされたアゲセーヌ。

その視界の端に映っていたのは、プリキュアだった。

 

「……って、あいつがまた出るとか、マジ超ヤバいっしょ!」

 

アゲセーヌが、急に本気で焦り出した。

 

「「え……?」」

 

敵であるはずのアゲセーヌが、露骨に恐怖し焦っている姿に、アンサー達は違和感を覚える。

 

「喋りすぎよ」

 

冷ややかな声と共に、黒いケープを纏った少女、るるかが舞い降りた。

 

「……オープン……」

 

胸元のペンダントが強い光を放つ。

光は細く伸び、形を作り、るるかの手の中で長くしなやかな『杖』へと変貌した。

 

「ティアアルカナロッド」

 

その声と表情は大人びながらも、可愛らしい。

指先を添えた瞬間、るるかの身体はふわりと舞い上がる。

衣装は紫の光を帯び、周囲へと輝きを弾けさせる。

 

マコトジュエルを静かにロッドへ装着する。

 

円を描くように一回転。

足元に広がる魔方陣が妖しく光った。

 

「シャッフル」

 

ロッド上部のカードがくるりと回転した瞬間、るるかの髪は漆黒へ。

もう一度、指先でカードを弾けば、闇は一転して金色へ。

かきあげた髪の先には、鮮やかなピンク色のグラデーション。

 

「リバース」

 

髪はさらに長く伸び、ふわりと広がる毛先。

 

ロッドから流れる光がるるかの体を次々と包み込む。

ノースリーブのワンピースが身体を包み、黒を基調とした衣装と明るく揺れる髪が、お互いを強調し合う。

スカートには紫色の雫が散りばめられ、静かに揺れる。

 

カンッ。

ロッドを地に打ち付けた瞬間、露わだった脚は濃い紫色のサイハイソックスと濃紺色のショートブーツに包まれる。

祈りを捧げるように両手でロッドを握ると、手首には繊リストカフスが装着される。

頭には、黒いダイヤ型が並ぶ髪飾りを装着、その中央下には雫型の石飾りが付けられている。

 

目元へ右手を当てて下に下ろすと、瞳は紫から赤へと変化、瞳の奥にハートの光が宿っている。

耳元には雫型のピアス。

頭の後ろには黒い蝶の飾りを添えた薄紫のヴェールが静かに寄り添う。

 

ロッドの先端を胸元へと当てると、紫色の光が体を包み込む。

黒いケープが肩を覆い、胸元にはネクタイ型のリボンが可憐に結ばれる。

 

「神秘と秘密で包み込む――『キュアアルカナ・シャドウ』」

 

ロッドのカードに映るのは、彼女の横顔。

一歩、また一歩と進むだけで、神秘が満ちていく。

ロッドをくるりと回し、持ち替える。

 

「さあ……迷宮へ誘いましょう」

 

キュアアルカナ・シャドウが二人の前に立ちはだかる。

 

キュアアルカナ・シャドウは、名探偵プリキュアの二人に向かって一気に距離を詰めた。

疾風のような鋭い蹴りを放つが、アンサーとミスティックは間一髪で後ろへ跳び退いて躱す。

 

「プリキュアって……」

「どういうことなの!?」

 

写真に写っていた青い蝶のプリキュアについて、必死に問いかける二人。

アルカナ・シャドウは表情を変えず、冷徹に言い放った。

 

「さあ……誰がなったのかも、わからないわ」

「……え?」

「ただ、一度だけ……あの時、マコトジュエルと一緒に消え失せた」

 

正体を知られないよう、知らないふりをするアルカナ・シャドウ。

しかし、言葉とは裏腹に、彼女の脳裏にはあの凄惨な過去の光景が鮮明に蘇っていた。

るるかを守るために戦い、マコトジュエルを砕き、力尽きて倒れた親友の姿。

無意識のうちに、アルカナ・シャドウの手は白くなるほど強く握りしめられていた。

それを見つめるマシュタンが、苦しそうに呟く。

 

(アルカナ……)

「……だから、二度と現れない」

 

冷たい吐息と共に、アルカナ・シャドウが目にも留まらぬスピードで接近する。

ティアアルカナロッドを横一閃に鋭く振り抜く。

アンサーとミスティックは身を捻ってギリギリで回避するが、間髪入れずに技が繰り出された。

 

「アルカナスターレイン!!」

 

放たれた無数の紫のレーザーが、二人を容赦なく襲う。

 

「「きゃぁぁぁーーっ!!」」

 

激しい爆風と煙が立ち込め、それが晴れると、ボロボロになったアンサーとミスティックが膝をついていた。

 

「あなたたちは……何も知る必要はないわ」

 

冷たく突き放すアルカナ・シャドウ。

そこへ、パートナーを守ろうとマシュタンが思わず声を張り上げた。

 

「そうよ! キュアエクレールのことなんて、知る必要ないわ!」

「……!」

 

アンサーが目を見開く。

 

「キュアエクレール……?」

 

思いがけず、謎のプリキュアの名前を知ってしまう二人。

アルカナ・シャドウが、じとーっとした冷たい視線をマシュタンに向けた。

 

「……マシュタン?」

「あっ……ご、ごめん……っ」

 

またしても口を滑らせてしまい、慌てて口を押さえるマシュタン。

 

「アゲたちのこと忘れるんじゃないし! ハンニンダー!」

 

放置されていたアゲセーヌが怒り狂い、ハンニンダーに命じる。

ハンニンダーが巨大な虫眼鏡を構え、強烈なビームを放とうとしたその瞬間、ミスティックが鋭く走り出した。

 

「はぁぁっ!」

 

強烈な飛び蹴りが虫眼鏡を直撃し、レンズが派手に砕け散る。

「ハンニン!?」と焦るハンニンダー。

アンサーはその隙を逃さず、足元へ滑り込んで強烈なパンチを叩き込んだ。

体勢を崩し、盛大にひっくり返るハンニンダー。

 

「ミスティック!」

「ええ!」

 

「オープン! プリキットミラールーペ!」

「ポチタン!」

「ポチー!」

 

ポチタンからマコトジュエルを受け取り、ミラールーペへと装着する。

 

「マコトジュエル!」

 

装着した瞬間、ミスティックの全身からピンクの光が噴き上がった。

 

「キュアミスティックが、解決!」

 

中央の宝石が回転する。一回。二回。三回。

その先に現れたのは、ミラールーペから伸ばされた細身の片手剣『レイピア』。

ピンクに輝く鋭い剣身が、圧倒的な威圧感を放つ。

 

「プリキュア! ミスティックストライク!」

 

名乗りと同時に、青空に純白の羽根が舞い散る。

 

「はああああああああっ!!」

 

力強く踏み込み、閃光のような刺突が一気にハンニンダーを貫いた。

一閃。

ミスティックがレイピアを軽やかに払うと、巨大な胴体が光の粒子となって崩れていく。

 

「キュアット解決!」

「ハン……ニン……ダー……」

 

ハンニンダーが浄化され、消えていく。

 

「超ムカつく!!」

 

悔しそうに捨て台詞を吐き、アゲセーヌは撤退していった。

地面に落ちた、探偵エリーのストラップとマコトジュエルの欠片。

アルカナ・シャドウは、再びその輝きに吸い寄せられるように目を向けた。

 

「マコトジュエル……。まだ足りない……。あの子の為に……あの子と生きる為に……もっと集めなきゃ……っ」

 

虚無の瞳に過剰な執着が宿り、再び暴走しそうになるアルカナ・シャドウ。

異変に気づいたマシュタンが、咄嗟に目の前へ飛び出した。

 

「アルカナ! もう駄目よ! そろそろフィールドが消える、これ以上は……!」

 

マシュタンの声に、アルカナ・シャドウはハッと息を呑んだ。

 

(そうだ……。このままだと、また街に被害を出してしまう……!)

 

冷や汗が頬を伝い、ほんの少しだけ冷静さを取り戻す。

 

「……そうね。帰りましょう」

「ええ、帰りましょう」

「待って! キュアエクレールって……!?」

 

呼び止めるアンサー。

マシュタンが振り向く。

 

「これ以上、あなたたちには何も教えないわ」

 

さっきはうっかり喋ってしまったが、今度はビシッと拒絶するマシュタン。

 

「……それより。あなたの部屋のカーテン、気にしたほうがいいんじゃない?」

「え?」

 

突然の言葉に首を傾げるアンサー。

 

「るるか と こころちゃんの部屋だった時は、もっとおしゃれだったわ!」

 

ドヤ顔で言い放つマシュタン。

 

「……マシュタン?」

 

冷ややかな視線を送るアルカナ・シャドウ。

 

「あぁっ! ごめん、つい……!」

 

またしても余計な思い出を喋ってしまい、頭を抱えるマシュタン。

アルカナ・シャドウは最後に、アンサー達の方を静かに振り返った。

 

「……もう諦めて。これ以上、私達に関わらないで」

 

そう言い残し、アルカナ・シャドウは飛び去っていった。

 

「もう……お口にチャックね……っ」

 

マシュタンも焦って後を追う。

 

「あそこが……るるかさん達の部屋だったの……?」

 

***

 

異次元フィールドが解け、あんな達は無事にストラップを辺見の元へと返した。

 

「ありがとうございます!」

 

安堵する辺見。

そこへエリザが駆け寄ってくる。

 

「みんないなくなったと思ったら、ファントムから取り返していたのね! さすが名探偵ね!」

 

あんなとみくるを絶賛するエリザ。

 

「でも、あの時エリザさんがいなかったら、取り返せなかったよ」

 

あんなが微笑む。

 

「ちょっと待てよ。エリザの推理のおかげで事件が解決したなら……」

 

ジェット先輩が顎に手を当てる。

 

「「探偵テスト合格!!」」

「そういうことになるな」

「私が……探偵に……!?」

 

ぱあっと顔を輝かせるエリザ。

しかし、そのやり取りを、辺見はどこか寂しそうな顔で見つめていた。

 

「……約束ですもんね」

 

携帯電話をぎゅっと強く握りしめる辺見。

 

「先生……依頼人の皆さんを、笑顔にしてくださいね。『探偵エリー』みたいに……!」

 

切なくも温かい編集者のエール。

するとエリザは、突然声を上げた。

 

「……新しいアイデア、浮かんじゃった!」

「え?」

「ファントムを追いかけてる時にね、探偵エリーの新しいアイデアが降ってきて! 戻って書かないと!」

「でも……探偵テストは……?」

 

困惑する辺見に、エリザはいたずらっぽく笑った。

 

「探偵をあきらめたわけじゃないから! 小説を書きながら、探偵もやるの! でも……今日のところは締め切りが近いしね!」

 

エリザは着ていた探偵服をバッと脱ぎ捨て、いつもの服装に戻った。

 

「女子高生ミステリー作家、来栖エリザで!」

「はい! アイデアを忘れない内に行きましょう!」

 

辺見の顔に、晴れやかな笑顔が戻った。

 

「あっ」

 

歩きかけたエリザが、ふと振り返る。

 

「さっき、私の推理で事件を解決したって言ったけど……違うよ。猫探しの時もそう。あんなちゃんとみくるちゃんがいたから」

 

エリザは二人に向かって優しく微笑んだ。

 

「私も、二人みたいな『コンビ』だったら……今ごろ本物の名探偵だったかもね。じゃあね!」

 

手を振り、辺見と共に去っていくエリザ。あんなとみくるは、その背中を温かい気持ちで見送った。

 

***

 

そして、夜。

探偵事務所のはなれで、あんながポチタンにミルクを飲ませていた。

 

「エリザさん、キュアット探偵事務所に入ってくれたらいいな」

「きっと、もっと楽しくなるよね!」

「ポチー!」

「そろそろ寝ようか」

「ええ」

 

二人はそれぞれの部屋に入り、横になった。

あんなの部屋のベッドでは、ポチタンがすやすやと寝息を立てている。

しかし、あんなは目が冴えて眠れずにいた。

 

(ここ……るるかさん達の部屋だったのか……)

 

ふと、昼間のエリザの言葉が脳裏に蘇る。

 

『同じ部屋でも、個性って出るんだね』

 

あんなはガバッと起き上がった。

 

「あっ……同じ部屋……!」

 

一方、向かいの部屋のみくるも、ベッドの中でエリザの言葉を反芻していた。

 

『私も二人みたいなコンビだったら、今ごろ名探偵だったかも』

「二人……コンビ……」

『カチャッ』

 

静かな夜の廊下に、同時に扉が開く音が響いた。

あんなとみくるが、廊下で鉢合わせる。

 

「みくる! 間取りが全く同じ部屋が2つある……!」

「ええ! るるかさんとコンビを組んでいた人が、ここにいたのかもしれない……!」

「若しくは……るるかさん と こころさん、二人と関わりが深い人物……!」

 

顔を見合わせ、二人の声が重なった。

 

「「それが――キュアエクレール!!」」

 

失われた記憶と、残された面影。

ついに名探偵たちは、隠された謎の扉へと、その手を伸ばしたのだった。

 

***

 

アジトへと帰還した、るるかとマシュタン。

静まり返った自室に戻ってからも、るるかの様子は明らかに普通ではなかった。

瞳からハイライトが消えたままの顔で、彼女は両手で強く頭を抱え込み、ブツブツと呟き続けていた。

 

「やっぱり……エクレールが戻ってくるっていうの……?」

 

現在の状況を頭の中で整理しようとするが、考えれば考えるほど焦燥感が募っていく。

アゲセーヌが、あの取水塔の写真に写る青い蝶の正体を「プリキュア」だと答えてしまったこと。

そして先ほどの戦いで、マシュタンが思わず口を滑らせたことで、「キュアエクレール」という名前まで今の名探偵プリキュア(あんなとみくる)に知られてしまったこと。

 

「でも……彼女のマコトジュエルは、ウソノワールの手元にあるはず……。普通なら……もう戻ってくるはずが無いのに……っ」

 

本来、マコトジュエルがウソノワールの手元にある限り、くれあが過去の記憶を取り戻すことも、再びプリキュアに変身することも絶対にあり得ないはずなのだ。

今の彼女は何も知らず、何も思い出さず、ただパティシエの帆羽くれあとして穏やかで幸せな日常を送れている。

……そのはずだったのだ。

 

「分からない……。一体何をきっかけに……? やっぱり……あの名探偵達が動く事で、何かが狂い始めて……っ」

 

片手でこめかみを強く押しつけ、呼吸を荒くするるるか。

 

「あの予言を……現実にする訳にはいかないわ……。もう、くれあには……今の平和な生活をして貰えれば……それでいいのに……っ」

「まだ……まだ、何とかなるはず……。何とかしなきゃ……何とかしなきゃ……ッ!」

 

あまりの激しい動揺と焦りに、るるかの身体がガタガタと震えだす。

そんな彼女を深く心配したマシュタンが、気遣うようにそっと声をかけた。

 

「るるか……。少し落ち着いたら……」

「どうする……どうすれば……っ」

 

しかし、パニックに陥っているるるかの耳には、マシュタンの声など届いていなかった。

 

「るるか!」

 

マシュタンは、るるかの意識を現実に引き戻そうと、もう一度大きな声で彼女の名前を呼んだ。

すると――。

 

「黙ってッ!!!!」

 

激しい叫び声が、狭い部屋の中に鼓膜を刺すように響き渡った。

 

「……っ!?」

 

突然のるるかの怒声に、マシュタンの身体がビクッと跳ね上がった。

 

「マコトジュエルも手に入れられなかった……! 足りない……全然足りないのよ……っ! こころの為にも……もっと……もっと必要なのに……ッ!」

 

マコトジュエルを奪えなかった焦燥感、そしてくれあまで巻き込まれるかもしれないという極限のプレッシャー。

重なる圧迫感に耐えきれず、るるかは無意識のうちに、大切な存在であるマシュタンに向かって怒鳴り散らしてしまっていた。

 

「る、るるか……」

 

宙に浮いたまま硬直するマシュタン。

その小さな顔には、突然のことに傷つき、悲しむような表情が浮かんでいた。

その顔を見た瞬間。

るるかはハッと正気に戻り、目を見開いた。

 

「あっ……、ち、違う……! 違うの……ッ!」

 

血の気が引いていく。

るるかは激しく首を振り、怯えたように後ずさった。

 

「私……そんなつもりじゃ……怒るつもりじゃ……なくて……っ!」

 

自分の口から出た暴力的な言葉と、大好きなマシュタンを傷つけてしまったという現実に、るるかは強烈な動揺と恐怖に襲われた。

 

「違うの……っ。マシュタンが嫌いなわけじゃなくて……っ!」

 

どうしてマシュタンに怒鳴ってしまったのか、自分でも全く分からなかった。

くれあの事について予言が出たことで、るるかの精神はすでに決壊寸前まで追い詰められていたのだ。

死んだようだった瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出していく。

 

「ご、ごめんなさい……! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい……ッ!」

 

パニックを起こし、何度も何度も壊れたように謝り続けるるるか。

 

「るるか。大丈夫だから、落ち着いて」

「ごめんなさい……っ! 嫌だ、許して……っ! 嫌いにならないで……っ! 一人にしないでぇ……ッ!」

 

マシュタンに嫌われて捨てられてしまったら、自分はもう立ち直れない。

今のるるかは、そんな依存状態にあった。

 

「お願い……謝るから……! だから、側にいて……っ! 今の私は……一人じゃ何も……何もできないから……っ!」

 

激しい過呼吸と恐怖に耐えかね、るるかはついに床に崩れ落ち、声を上げて泣きじゃくった。

マシュタンは躊躇うことなく、床にうずくまるるるかの肩にそっと舞い降り、小さな体を擦り寄せた。

 

「大丈夫よ。貴女が本心で叫んだなんて思ってないから。……安心して、るるか」

 

マシュタンの声は、どこまでも優しく、暖かかった。

 

「予言でエクレールのことが……くれあのことが出てきたことで、るるかの心に余裕がなくなってきていることは分かってるわ。だから、大丈夫よ」

「マ、マシュタン……っ」

 

るるかは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、すがりつくような瞳でマシュタンを見つめた。

 

「辛いでしょ。こころちゃんの事だけでも手一杯なのに、くれあの事まで考えなきゃいけなくなってしまった今の状況が。……そうよね。キュアエクレールを復活させるわけにはいかないものね」

「グスッ……ヒック……っ」

 

るるかは、幼子のようにしゃくりあげながら、マシュタンの言葉に耳を傾ける。

 

「大丈夫よ。何とか出来るわ。だから……これ以上、自分を追い詰めないで……るるか」

 

マシュタンは、るるかの震える頬に小さな手で触れた。

 

「貴女は、一人で抱え込みすぎるのよ。大丈夫……いつも言ってるでしょ? アタシも、ずっと一緒よ」

「マシュタン……」

「どんな事になっても、アタシが貴女を支えるから」

「マシュタン……っ、グスッ……ごめんなさい……ごめんなさい……っ」

 

またしても口をついて出る謝罪の言葉。

マシュタンはふわりと微笑むと、ハンカチを取り出してるるかの目元の涙を優しく拭った。

 

「もう……だから、大丈夫よ。謝らないで。ほら、涙を拭いて」

 

涙を拭ってもらいながら、るるかはなおも不安そうに肩をすくめる。

 

「あの予言のせいで、今まで以上に貴女は苦しむと思うわ。そのせいで……自分でもどうしてそんな事をしたのか分からない行動をすることも、きっとある。……さっきみたいにね」

 

その言葉を聞いて、るるかの身体がビクッと強張った。

 

また……マシュタンを傷つけてしまうかもしれない……という恐怖が脳裏を過ぎる。

けれど、マシュタンはるるかの両頬を包み込むように、ギュッと温かく力を込めた。

 

「それでも……貴女の『本当の優しさ』を、アタシは誰よりも知ってるわ。貴女の行動は全て……貴女なりの、誰かを想う優しさから来ているんだってこともね」

 

マシュタンの真っ直ぐな瞳が、るるかの瞳の奥を射抜く。

 

「頑張りましょう。二人で。……辛くても、悲しくても、アタシはずっと側にいるわ……るるか」

「……っ!!」

 

るるかはたまらず、マシュタンの小さな身体を胸の中に強く、強く抱きしめた。

 

「ごめんね……っ! ありがとう……ありがとう、マシュタン……っ! 大好きだよ……大好き……っ!」

 

溢れ出る涙。

しかし今度の涙は、絶望や恐怖の冷たいものではなく、マシュタンの無償の愛に包まれた、温かい涙だった。

マシュタンも、るるかの胸の中で優しく目をつむり、その背中に小さな手を回した。

 

「アタシも……大好きよ、るるか」

 

深い闇と予言の脅威が迫る中、二人はお互いの温もりを確かめ合うように、静かに抱き合い続けるのだった。

 

アニメ31話にて、るるかは名探偵に復帰。この小説のるるかは、どの方向に進んでもらいたい?(アンケートは取るけど、自分の文章力でアンケートの結果に結びつけれるかは自信がないので必ずしも、アンケート通りに出来るかは分かりませんが…)

  • 名探偵として復帰
  • ファントム等の敵として行動
  • 一時的に復帰するが再び絶望し離反する。
  • その他(意見、要望は感想等のコメントに)
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