名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
原作ファンの方は、不快に思ったり、気に入らないと思う方がいると思います。
その際は、ブラウザバックしてください。
メイクさんと勘違いされて、強引に連れて行かれたみくる。
(ビックリしたー……。でも、これでサクラさんの楽屋に入れた!)
勘違いからではあったが、結果的に大人気俳優であるサクラよし乃の楽屋へと、最も自然な形で潜入することに成功したのだ。
何はともあれ結果オーライである。
「……いい香りね」
サクラよし乃が、メイク道具の隣に置かれているプリティアップフレグランスに気づいて微笑む。
「最近、若い子たちの間で流行ってるんですよ!」
みくるが機転を利かせて答える。
「それじゃ、始めていきますね」
「ええ、お願いね」
みくるは、見よう見まねでプロらしくメイクを始める。
「役者さんって、やっぱり大変ですか?」
「そうね。……けどね、何にでも『化けてみせる』のは楽しいわ」
「化けて、いるんですか……?」
化けるという不穏な言葉を聞いて、みくるがピクッと反応し、怪しむ。
「ええ、今だって演じているわ。この『サクラよし乃』という役をね」
「あっ……!」
『演じる』という言葉。
予告状、変装、そして今の言葉。
全てが繋がったと確信し、みくるはサクラよし乃をビシッと指差した。
「あなた……ファントムね!」
「……ファントム?」
何のことを言われているか全く理解していない様子のサクラ。
「え? サクラさんに化けたって……」
「あれー?」
予想外の反応に、みくるの顔から滝のような冷や汗が流れる。
「すみません! 遅れました!」
そこへ、息を切らせて本物のメイクアップアーティストが飛び込んで来た。
「って、誰!?」
勝手にメイクをしているみくるを見て、驚く本物のメイクさん。
「この人、ファントムがどうとか、変なこと言うのよ」
サクラが困惑気味に教える。
「す、すみません! 間違えましたぁー!!」
自分の浅はかすぎる名(迷)推理の恥ずかしさから逃げるように、みくるはメイク道具をひっつかんで、ものすごいスピードで楽屋から退避するのだった。
***
一方、あんなは。
「どうしたの? ポチタン」
「ポチ!」
ポチタンが何かの気配を察知して激しく追いかけ始めたため、あんなは引っ張られる形で、開演前の人混みの中を進んでいた。
すると、少し離れた所で、こちらを振り向く黒いケープの影があった。
「あっ……!」
振り向いたのは、るるかだった。
あんなはポチタンが追いかけていたのが、るるかだと分かり、急いで追いかける。
しかし、大勢の観客が行き交う波に飲まれ、すぐに見失ってしまった。
「るるかさん……」
「ポチ……」
「しるくさんに、知らせなきゃ!」
「ポチ!」
急いでしるくに現状を伝えに行こうとするあんな。
「あんな!」
「みくる!」
「へへっ、メイクさん。かっこいいでしょ?」
そこへ、大人のメイクアップアーティストの姿に変装したみくるが合流する。
「すてきー!」
キラキラした目で褒めるあんなとポチタン。
「じゃなくて!」
あんなが自分でノリツッコミを入れる。今はそれどころではなかった。
「るるかさんを見たの!」
「え?」
「予告状を出したのは、るるかさんかも。早くしるくさんに伝えなきゃ!」
みくるを置いて、楽屋へと急ぐあんな。
「あっ、待って待ってー!」
慌ててあんなを追いかけるみくる。
***
一方、しるくは自分の楽屋で舞台衣装に着替え終わっていた。
鏡の前に立つしるくの顔付きは、先ほどの人の良い女子高生のものではなく、完全にプロの女優のものへと切り替わっていた。
彼女は、耳につけていた大切なイヤリングを静かに取り外す。
「しるく!」
「あんなさん!」
あんなが勢いよく楽屋へと飛び込んでくる。
「怪盗はもうこの劇場に潜入しています! 舞台の邪魔が入ったら大変!」
切羽詰まった様子で現状を伝えるあんな。
「だから、そのイヤリング……私が預かっておきます!」
そう言って手を伸ばすあんな。
しかし、しるくはスッと手を引いた。
「違うわ」
「え……?」
「あなた、演じきれてない」
真剣な、氷のような冷たい表情をするしるく。
その気迫に、あんなが思わず怯む。
「役者はね、自分じゃない『誰か』になるために、いつでも人間を観察しているの」
しるくが、あんなの目を真っ直ぐに見据える。
「邪魔が入ったら大変? ……本物のあんなさんなら、邪魔が入ったとしても『何が何でも守る』って、そう力強く言ってくれるはずよ。それに……あんなさんは私のこと、どんなに慌てていても必ず『しるくさん』って呼んでくれるわ」
しるくは、確信を持ってハッキリと告げた。
あんなの事を彼女なりに深く理解していたからこそ、その僅かな違和感を見抜いたのだ。
「……残念。バレちゃった」
『あんな』の口調が急に大人びたものに変わる。
『あんな』の姿が紫色の光に包まれ、弾けると、そこには無表情なるるかが立っていた。
「あなたが、怪盗団ファントム……」
しるくは驚いていた。自分と同じくらいの年頃の、こんな華奢な少女がファントムの一員であることに。
『まもなく開演のお時間です』
館内放送のアナウンスが流れる。
「さあ、どうする?」
るるかが、イヤリングを渡すよう選択を迫る。
すると、しるくは迷うことなく、大切なイヤリングをるるかへと差し出した。
「持っていきなさい」
「……」
「誰にも……舞台の邪魔はさせない」
舞台を成功させるため、ファンを悲しませないためなら、自分の大切な御守りを差し出すことも厭わないしるく。
「へへん、じゃあ遠慮なく!」
楽屋の壁の模様に擬態して隠れていたゴウエモンが姿を現し、イヤリングをひったくるように奪い取った。
「意外ね。……思い出がたくさん詰まった、大切な御守りなんでしょ?」
イヤリングをあっさりと手放したことに、るるかが疑問をぶつける。
「決めつけちゃダメ!」
しるくが力強く言い返す。
「私にとって一番大切なもの……それは、舞台を待ってくれている『お客さん』。そして、そのお客さんと今日この場所で作る『新たな思い出』だから!」
「……家入しるく。演じる星……さすがね」
るるかは、彼女のプロとしての強固な覚悟に、純粋に感心して呟いた。
「私は、みんなが待っている舞台に行きます」
しるくは毅然と背を向け、舞台へと向かう。
「しるくさん!!」
そこへ、息を切らせた本物のあんなとみくるが駆け込んできた。
「後はお願いね。探偵さん!」
二人に力強く後を任せ、しるくは光の当たる舞台へと向かっていった。
「俺たちもおさらばだ!」
「うおおー!」
イヤリングを手に入れ、会場の外へと向かうゴウエモン達。
何故かマシュタンの目もやる気で燃えていた。
「……『役者』は揃ったみたいね」
るるかは、あんな達を振り返って冷たく告げた。
るるかの考えていた完璧な配役が、ここに揃ったのだ。
「行かせない!」
みくるが叫ぶ。
「何が何でも、守る!」
あんなが真っ直ぐにるるかを睨みつける。
「……っ」
その言葉に、るるかの目がわずかに見開かれる。
さっき、しるくが言っていた『本物のあんなの言葉』を、あんな自身がそのまま口にしたからだ。
「私たちも……!」
「開演の時間ね!」
「ポチー!」
やる気十分の三人。
***
劇場の舞台の幕が上がるのと同時刻。
劇場の外で、夜風に吹かれながら対峙している両者。
ゴウエモンが異次元フィールドを展開しする。
「しるくさんの気持ちに答える!」
「イヤリングは絶対に渡さない!」
「知ったことか! こちとらウソノワール様に、なにより忠実な男だ!」
ゴウエモンもイヤリングを返す気は全くなかった。
「ウソよ覆え! 来やがれハンニンダー!」
しるくのイヤリングが黒い光に包まれ、星型の装飾を身につけた巨大なハンニンダーへと姿を変える。
「みくる!」
「うん!」
「「オープン!! ジュエルキュアウォッチ!」」
あんなとみくるの手にあるペンダントがまばゆい光を放ち、カラフルな懐中時計『ジュエルキュアウォッチ』へと姿を変える。
二人はそれぞれのマコトジュエルを取り出し、ウォッチに装着した。
「「プリキュア、ウェイクアップタイム!」」
二人の声が重なった瞬間、光が溢れ出す。
「サン!見つける!」
ジュエルキュアウォッチの長針が、3の位置へと揃えられた。
あんなの髪が風にほどけるように一気に伸び、足首に届くほどの長さになる。
毛先はハート型に整い、頭頂部の左右は可愛らしいお団子のツインテール。髪色は鮮やかな紫へと変わり、毛先に向かって淡いピンクのグラデーションが広がった。
みくるの髪も同時に伸び、やわらかな三つ編みへと姿を変える。髪色は明るいピンクに。瞳の色も変化する。あんなは澄んだ青緑、みくるは神秘的な紫へ。
「ロク、向き合う!」
長針が6を指す。
みくるの身体を、淡いピンクのオフショルダーワンピースが包み込む。フリルの揺れるスカートが、彼女の可憐さを際立たせた。背中には、水色の大きなリボン。
あんなもまた、フリフリの紫色のワンピースを身に纏い、背中には鮮やかな黄色の大きなリボンが現れる。
「キュー!奇跡の二人!」
長針が9へ。二人の足元に光が集まった。
あんなは紫色、みくるはピンク色のブーツを履き、同時にニーハイソックスが脚を彩る。
あんなの手には薄い水色のフィンガーレスグローブ。その上から薄紫色のオープンフィンガーグローブが重なる。
みくるの手にも薄紫のフィンガーレスグローブと、薄ピンクのオープンフィンガーグローブ。指先には、それぞれの色のネイルがきらりと輝いた。
「くるっと回して、キュートに決めるよ!」
長針が11へと進む。
あんなの左右のお団子には華やかな髪飾りが添えられ、耳元にはピアスが揺れる。
みくるの髪には大きなリボンの髪飾り。そして同じく、両耳にピアス。
さらに二人の胸元にはネクタイ型のリボン。肩には短めのケープが重なり、装いが完成へと近づいていく。
ジュエルキュアウォッチは光となって収束し、衣装の腰にあるキャリーへと収められた。
「どんな謎でも、はなまる解決!名探偵『キュアアンサー』!」
「重ねた推理で、笑顔にジャンプ!名探偵『キュアミスティック』!」
可愛らしい決めポーズを決める。
最後に二人は自然と歩み寄り、並び立つ。
「「名探偵プリキュア!」」
アンサーが、ビシッとハンニンダーを指差した。
「私の答え、見せてあげる!」
「戦いの幕が上がるわー!」
マシュタンが目をギラギラさせて叫ぶ。
「マシュタン……」
マシュタンが異様に燃えていることに、るるかが若干引いている。
「……オープン……」
胸元のペンダントが強い光を放つ。
光は細く伸び、形を作り、るるかの手の中で長くしなやかな『杖』へと変貌した。
「ティアアルカナロッド」
指先を添えた瞬間、るるかの身体はふわりと舞い上がる。
衣装は紫の光を帯び、周囲へと輝きを弾けさせる。
マコトジュエルを静かにロッドへ装着する。
円を描くように一回転。
足元に広がる魔方陣が妖しく光った。
「シャッフル」
ロッド上部のカードがくるりと回転した瞬間、るるかの髪は漆黒へ。
もう一度、指先でカードを弾けば、闇は一転して金色へ。
かきあげた髪の先には、鮮やかなピンク色のグラデーション。
「リバース」
髪はさらに長く伸び、ふわりと広がる毛先。
ロッドから流れる光がるるかの体を次々と包み込む。
ノースリーブのワンピースが身体を包み、黒を基調とした衣装と明るく揺れる髪が、お互いを強調し合う。
スカートには紫色の雫が散りばめられ、静かに揺れる。
カンッ。
ロッドを地に打ち付けた瞬間、露わだった脚は濃い紫色のサイハイソックスと濃紺色のショートブーツに包まれる。
祈りを捧げるように両手でロッドを握ると、手首には繊細なリストカフスが装着される。
頭には、黒いダイヤ型が並ぶ髪飾りを装着、その中央下には雫型の石飾りが付けられている。
目元へ右手を当てて下に下ろすと、瞳は紫から赤へと変化、瞳の奥にハートの光が宿っている。
耳元には雫型のピアス。
頭の後ろには黒い蝶の飾りを添えた薄紫のヴェールが静かに寄り添う。
ロッドの先端を胸元へと当てると、紫色の光が体を包み込む。
黒いケープが肩を覆い、胸元にはネクタイ型のリボンが可憐に結ばれる。
「神秘と秘密で包み込む――『キュアアルカナ・シャドウ』」
ロッドのカードに映るのは、彼女の氷のように冷たい横顔。
一歩、また一歩と進むだけで、神秘が満ちていく。
ロッドをくるりと回し、持ち替える。
「さあ……迷宮へ誘いましょう」
空へと飛び上がるハンニンダー。
「ハーン、ニン、ダー!」
ハンニンダーが全身を光らせ、ビームを発射する。
ギリギリで避けるアンサーとミスティック。
飛び上がり、空中に逃げていたアンサー。
だが、その背後に一瞬でアルカナ・シャドウが現れる。
「なっ……」
振り返るアンサー。
「……おそい」
アルカナ・シャドウが、無慈悲な回し蹴りを放つ。
「きゃぁぁ!」
アンサーは凄まじい勢いで叩き落とされ、地面に激突する。
ふわりと、羽のように軽く着地するアルカナ・シャドウ。
「こっちの番だよ!」
ミスティックがアルカナ・シャドウの元へと走り出し、渾身のパンチを放とうとする。
アルカナ・シャドウは表情一つ変えず、少しだけ体を横にズラした。
すると、その背後から、ハンニンダーが発している強烈な星型のフラッシュ光が放たれた。
「うっ……!」
突然の強光に、目が眩んで閉じてしまうミスティック。
その一瞬の隙を逃さず、アルカナ・シャドウはミスティックに重い蹴りを叩き込んだ。
「あぁっ!」
アンサーの元まで真っ直ぐに吹き飛ばされるミスティック。
ハンニンダーの特性を活かした、アルカナ・シャドウとの完璧な連携に、二人は手も足も出ずに苦戦する。
「さあ、どうするの?」
冷たく見下ろすアルカナ・シャドウ。
「追い詰めろ! ハンニンダー!」
ゴウエモンが命令する。
「ハーン、ニン、ダー!」
ハンニンダーが再び極太のビームを放つ。
二人は避ける間もなくビームを直撃で浴びた。
「ダーハッハッッ!」
「オーホッホッ!」
屋根の上で勝ち誇るゴウエモンとマシュタン。
「プリキュア敗れたり!」
「もう降参?」
アルカナ・シャドウは、ゆっくりとティアアルカナロッドを構え直した。
「……アルカナ・シャドウ!」
キュアミスティックが立ち上がる。
「キュアエクレールと同じ探偵事務所にいた……そうでしょ!?」
アンサーも傷だらけで立ち上がり、確信めいた疑問をぶつける。
「なっ!」
初耳だったゴウエモンが驚愕し、アルカナ・シャドウへと視線を向ける。
しかし、アルカナ・シャドウは微動だにしなかった。
「……それが答え?」
アルカナ・シャドウの心には、一切響いていなかった。
ミスティックが再び走り出し、パンチを放つ。
ティアアルカナロッドの柄で、それを軽々と受け止めるアルカナ・シャドウ。
「教えて! エクレールは、今どこにいるの!?」
「……探しても無駄。あなたたちには絶対に見つけられないわ」
そう言って、アルカナ・シャドウはロッドを少しだけ手元の方へ引き寄せる。
それだけで、ミスティックの体勢が大きく崩れた。
そして、無防備になったミスティックの顔面に向かって、強烈な蹴りを放つ。
「くっ……!」
何とか両腕をクロスして防ぐが、重い一撃に再び吹き飛ばされるミスティック。
「分かった? マコトジュエルも……もう諦めなさい」
一切の感情を交えず、ただ冷酷に諦めるよう忠告するアルカナ・シャドウ。
「諦めない!」
「しるくさんの『思い出』を守る!」
痛みに耐えながら、二人は立ち上がる。
「思い出……」
その言葉に、アルカナ・シャドウの虚無の瞳がわずかに揺らいだ。
「形のないものだからこそ……思い出は、誰にも奪えないの!」
アンサーが力強く叫ぶと、アルカナ・シャドウが、まるで自分に言い聞かせるように口を開いた。
「もしも……すべてを忘れてしまったら? 記憶をなくしてしまったら……思い出はどうなるの?」
「記憶を……?」
その言葉に驚くアンサー達。
「そう。あなたたちが探している『キュアエクレール』に……記憶はないわ」
屋根の上でその様子を見ていたマシュタンが、辛そうに目を伏せる。
(アルカナ……)
それは、るるか自身が抱える、くれあへの深い罪悪感と悲しみの吐露だった。
「だから……探しても無駄なのよ。もう、諦めなさい!」
アルカナ・シャドウが感情を押し殺して叫ぶと同時に、ハンニンダーが光り出し、最大出力のビームを放つ準備をする。
「守るって約束した!」
「私たちを信じてくれた!」
「マコトジュエルを!」
「取り返す!!」
どんなに絶望的な言葉を突きつけられても、決して諦めない二人。
その強すぎる光に、アルカナ・シャドウの表情に焦りが浮かぶ。
ハンニンダーが極太のビームを放つ。
「ミスティックリフレクション!」
ミスティックが最大出力のバリアを展開し、ビームを真正面から反射する。
ハンニンダーは、反射された自分のビームをまともに喰らい、大きく体勢を崩した。
「今だ!」
「「オープン! プリキットミラールーペ!」」
「「ポチタン!」」
「「マコトジュエル!」」
二人がマコトジュエルをセットし、ルーペの鏡を開く。
「見て!」
「感じて!」
「「謎を解く!!」」
「「これが私たちの答え(アンサー)だ!」」
「「プリキュア! フライング・スペクトル!!」」
巨大な白い鳥の光が夜空を切り裂き、ハンニンダーを正確に撃ち抜く。
激しい光に包まれ、ハンニンダーが浄化されていく。
「「キュアット解決!!」」
ハンニンダーが浄化され、ポーンッ、と音を立ててマコトジュエルとイヤリングが地面に分かれて落ちる。
アンサーが駆け寄り、輝きを取り戻したマコトジュエルと、しるくの大切なイヤリングをしっかりと両手で受け止めた。
「見事! よい見世物だったぞ!」
屋根から見下ろしていたゴウエモンが、扇子を広げてパタパタと仰ぎながら盛り上がっていた。
「幕引きの時間のようね」
マシュタンも、芝居がかった口調で言う。
今回は『舞台』ということもあり、二人はどこか演劇を見ているような高いテンションだった。
そのゴウエモンとマシュタンの言葉に、アンサー達は「これで事件解決ね」と胸を撫で下ろし、安心した表情を見せた。
――しかし。
アルカナ・シャドウだけは違った。
静寂の中、彼女はうつむいたまま、両手の拳を白くなるほど強く握りしめていた。
震える手。
自身の爪が掌に深く食い込み、ほんの少しだけ赤黒い血が滲み出ていた。
「……まだよ!」
アルカナ・シャドウの、血を吐くような鋭い声に、一同がハッとして反応する。
「まだ……まだ終われない! マコトジュエルを……マコトジュエルの欠片を手に入れるまでは……ッ!」
顔を上げたアルカナ・シャドウの瞳は、ハイライトがない虚無のままだったが、その奥には異常なほどの『執着』と『焦燥』が渦巻いていた。
それは、いつもの冷酷で静かな彼女の姿ではなかった。
「何言ってるの、アルカナ!」
マシュタンが慌てて声を上げる。
「そうだ! おい新人、ハンニンダーもやられちまったんだ。今回の任務は俺達の失敗だ。撤収するぞ!」
ゴウエモンも、焦る彼女を止めようとする。
「失敗してない! まだ、ハンニンダーがやられただけ……っ。マコトジュエルもまだそこにあるわ!」
アルカナ・シャドウは、血走ったような瞳でアンサーの手の中のマコトジュエルの欠片を睨みつけた。
「私が……私が、プリキュア達を倒して奪い取れば……任務は成功よ!」
「落ち着けって、新人! 焦ってもいいことなんてねぇぞ。ここは潔くだな……!」
「うるさいッ!!」
アルカナ・シャドウの怒声に、ゴウエモンが言葉を失う。
「だったら……一人で帰ってて! 私は何としてでも……今度こそマコトジュエルを手に入れなきゃいけないのよッ!」
アルカナ・シャドウは、制止を振り切り、ティアアルカナロッドを構えてアンサー達へと猛スピードで突っ込んでいった。
「お、おい! 新人のやつ、明らかに様子がおかしいだろ! 何とかしろよ!」
困惑気味のゴウエモンが、隣のマシュタンに助けを求める。
「アタシにそんな事言われても……ッ!」
マシュタンは、悲痛な表情でアルカナ・シャドウへと目を向ける。
(アルカナ……やっぱり、止まれないの……? どうしたら……っ)
彼女が『エクレール復活』の予言と『こころの容体悪化』に極限まで追い詰められていることを知っているマシュタンは、止める言葉を見つけられなかった。
「ハァァァッ!!」
ティアアルカナロッドを無茶苦茶に振るうアルカナ・シャドウ。
アンサー達は驚きながらも必死に回避するが、アルカナ・シャドウは防御を捨てて、狂ったように連続で攻め続ける。
「るるかさん! どうして……っ!」
「落ち着いて!」
明らかに様子のおかしく、捨て身の攻撃を繰り返す彼女に、戦いながら声をかける二人。
「黙って……! 貴女達なんかに、何がわかるのよッ! 私は……私はぁッ!」
強引な踏み込みからの、鋭い回し蹴りを放つアルカナ・シャドウ。
「くっ!」
「きゃあ!」
二人はガードしたものの、その執念の込められた重い蹴りを喰らい、大きく吹き飛ばされる。
「「うわぁぁ!」」
地面へと叩きつけられる二人。
「アルカナスターレイン!!」
さらに上空から、無数の紫色のレーザーが雨のように放たれた。
アンサー達は防ごうと両腕を前に出すが、凄まじい連射を防ぎ切ることが出来ず、さらに後ろへと吹き飛ばされる。
「「きゃぁぁぁっ!」」
その衝撃で、アンサーの手から『マコトジュエル』がポロリと放り出された。
カラン、と音を立てて、地面へと落下するマコトジュエル。
「……やった。これで……6つ目……っ」
荒い息を吐きながら、落下したマコトジュエルを手に入れようと、ふらつく足取りで歩き出すアルカナ・シャドウ。
しかし、マコトジュエルの目の前に、小さな影がサッと降り立った。
「ポチ!」
両手を広げて立ちはだかるポチタン。
「駄目、ポチタン!」
「今のアルカナ・シャドウは危険よ! 逃げて!」
アンサーとミスティックが叫ぶ。
「時空の妖精……。邪魔をしないで……っ!」
アルカナ・シャドウが、忌々しそうにポチタンを睨む。
「ポ、ポチ!」
首を横に振り、絶対に退かない意思を見せるポチタン。
「どうして……どうしてよ。なんで……なんで皆して、私の邪魔をするの……っ」
アルカナ・シャドウが、左手で自分の顔を覆い、苦しげに呻く。
「必要なの……マコトジュエルが。足りない……足りないのよ……!」
アルカナ・シャドウが、ポチタンに向かって無慈悲にティアアルカナロッドを振り上げる。
「だから……貴女が何処かで元に戻しているマコトジュエルを、寄越しなさいッ!!」
怒りと焦燥のままに、ロッドを振り下ろすアルカナ・シャドウ。
「ミスティックリフレクション!!」
間一髪、ミスティックの張ったバリアがポチタンの前に展開され、強烈な一撃を弾き返した。
「ポチタン!」
アンサーが駆け寄り、ポチタンを抱き抱えて安全な場所へと離れる。
「どこまで邪魔を……ッ」
「ポチタンはやらせない! それに、マコトジュエルだって渡さないよ!」
ミスティックが立ち塞がる。
「何も知らないくせに……!」
「どうしてなの! 名探偵だった筈の貴女が、どうしてこんなことを!」
そこへ、アンサーも合流し、真っ直ぐにパンチを放つ。
それをギリギリでかわすアルカナ・シャドウ。
「るるかさん! 貴女に何があったかは分からない……! それでも、こんな事しても……こころさんが喜ぶとは思えないよ!」
「……ッ!」
『こころ』という言葉に、アルカナ・シャドウの動きがピタリと止まり、激しく動揺した。
「そ、そんな事……っ」
「るるかさん。もう、こんな事やめようよ! 何か辛いことがあるなら、私達も協力する! 一緒にやれば、名探偵三人なら、絶対に何とかなるよ!」
アンサーの真っ直ぐで温かい言葉。
しかし、今のアルカナ・シャドウには、それは残酷な光でしかなかった。
「私は……私は……! こころの為に……っ! マコトジュエルを……手に入れるのよォッ!!」
動揺と焦りで完全に我を忘れたアルカナ・シャドウは、さっきよりも全く冷静さが無い状態で、二人へと突っ込んでいった。
ミスティックが、その直線的すぎる攻撃を冷静に受け流して防ぐ。
そして、体勢が崩れたアルカナ・シャドウの横から、アンサーが迫る。
(しまっ……!)
今更になって、自分の致命的な過ちに気付くアルカナ・シャドウ。
冷静さを失い、焦るあまり直線的に攻めすぎたのだ。
「名探偵」としての冷静さの欠片もない、ただの素人の突撃になっていた。
「アンサーアタック!!」
アンサーの放った渾身のパンチを、避けきれずに横腹にもろに食らうアルカナ・シャドウ。
「うわぁぁぁぁぁッ!!」
激しい衝撃音と共に、アルカナ・シャドウの華奢な体がボールのように吹き飛ばされる。
地面を、何度も何度もバウンドしながら転がっていった。
土煙が晴れると、うつ伏せで倒れているアルカナ・シャドウの痛々しい姿があった。
美しい紫と黒のコスチュームも所々が破れて汚れている。
「アルカナ!!」
屋根の上から、マシュタンが悲鳴を上げて飛んでくる。
「アルカナ、しっかり!」
「うっ……くっ……」
アルカナ・シャドウは、震える両腕で体を支え、起き上がろうとする。
しかし、思ったよりもダメージが大きく、何度も腕の力が抜けてコンクリートに顔を伏せてしまう。
「るるかさん、もうやめようよ。……ファントムから戻ってきて」
アンサーが一歩近づき、手を差し伸べる。
「力を合わせれば、あのウソノワールだって止められるよ」
「ええ、力を合わせれば、絶対に」
ミスティックも頷く。
しかし。
「……無理よ」
倒れたまま、アルカナ・シャドウが力なく、絶望に満ちた声で答えた。
「えっ……」
アルカナ・シャドウの体は、限界を超えた疲労と、心の底からの『恐怖』で、ガタガタと激しく震えていた。
「無理なのよ。ウソノワールに勝つなんて……」
「……」
「私が……一番よく知ってる……。私は……もう既に、ウソノワールに『敗北』してるんだから……っ」
「それって……」
「もしかして、るるかさん達が姿を消した日のこと……?」
巨大なマコトジュエルが砕け散った事件。
るるか と こころが突然失踪した日の真実なのではないかと、二人の名探偵が察する。
アルカナ・シャドウは、あの日のウソノワールの圧倒的な力と、こころが壊れていく光景が強烈なトラウマになっており、恐怖で体の震えが止まらなかった。
「あんな化け物に……勝てるわけないの……。だから……私は……っ」
血を吐くような思いで、アルカナ・シャドウは再び腕に力を込め、起き上がろうとする。
「アルカナ。もう無理しないで!」
「こころの為にも……マコトジュエルを……どんな事をしてでも……奪わなきゃいけないの……っ!」
ふらふらと、アルカナ・シャドウが立ち上がる。
しかし足元はおぼつかず、ティアアルカナロッドを杖代わりに体を支えるのが精一杯だった。
精神的にもボロボロになっていた彼女は、今回の戦闘ダメージだけでなく、連日の悪夢と睡眠不足、食事もあまり喉を通らない状態での蓄積した疲労により、ついに限界を迎えていた。
「あっ……」
ロッドを持つ手から、ふっと力が抜けた。
糸が切れた操り人形のように、アルカナ・シャドウの体が前のめりに倒れそうになる。
しかし、その体が冷たい地面に叩きつけられることはなかった。
「……っ!」
ギリギリのところで、屈強な腕が彼女の体を支えた。
ゴウエモンが、倒れそうなアルカナを片腕でしっかりと抱きとめたのだ。
「ゴウエモン……!」
「……ゴウエ……モン……」
疲労とダメージが完全に限界に達したのか、アルカナ・シャドウの体が紫色の光に包まれる。
光が弾けると、ファントムの変身が強制的に解除された。
現れたのは、黒いケープ姿の『森亜るるか』。
その顔や髪、服は埃や泥で汚れ、治りかけていた膝や手のひらの擦り傷が開いて、再び血が滲んでいた。
「新人。もう撤退だ。お前さんは、十分働いた」
ゴウエモンが、いつもの豪快さを消した静かな声で告げる。
「ま、まだ……戦える……。……マコトジュエルを……手に入れないと……っ」
るるかは、ゴウエモンの腕の中で弱々しく抵抗し、まだ諦めきれずにアンサーの方へ手を伸ばそうとする。
「駄目だ。何と言おうと、撤退する」
ゴウエモンは、るるかの背中に右手を、膝の裏に左手を回し、軽々と『お姫様抱っこ』の状態で横抱きにした。
「は、離して……。私は……っ」
「るるか、今回は諦めましょう。もう、貴女の体は限界よ。変身が強制解除されてる時点で解ってるでしょ?」
マシュタンが、るるかの額の汗を拭いながら優しく、だが断固として諭す。
「そんな……このままじゃ……っ」
マコトジュエルを手に入れられなかった。
これで、こころを救う事も、エクレール復活の予言を阻止することも、遠のいてしまった。
焦りと無力感で、るるかの目が潤んでいく。
「うっ……うっ……」
ゴウエモンの腕の中で、るるかはついに子供のように泣き出した。
声にならない嗚咽と共に、ぽろぽろと大粒の涙があふれ落ちる。
ゴウエモンは、自分が知らないだけで、るるかがとてつもなく重い何かを抱えていることは悟っていた。
ウソノワールとるるかの会話を聞いていると、何か二人だけしか知らない会話をしている時があったし、恐らく妹である『キュアシンシア』が関係しているのだろうとは当たりをつけていた。
「詳しく聞く気はねぇ。だが、もうお前は限界だ。……帰るぞ」
ゴウエモンが、短くそう言い切った。
そして、ゴウエモンは足元のマシュタンの方を向く。
「すまねぇ、あれを持ってきてもらっていいか」
ゴウエモンが顎でしゃくった方を見るマシュタン。
そこには、変身が解けたことで『ペンダント』の姿に戻ったティアアルカナロッドが落ちていた。
「分かったわ」
マシュタンが飛んでいき、大切なペンダントを回収して抱え込む。
「プリキュア! 今回は俺達の負けだ。だが、次は必ず奪わせてもらう!」
ゴウエモンがアンサー達に向かって堂々と宣戦布告をし、泣き崩れるるるかを抱きかかえたまま、飛び去っていった。
「待ってなさいよー!」
その後を、マシュタンが急いで追っていく。
異次元フィールドも消え、元の景色へと戻っていった。
「るるかさん……」
アンサーが、空を見上げて悲しげに呟く。
「一体、何を抱えて……」
ミスティックも、胸を痛めていた。
「ポチ〜……」
るるかが流した涙の意味。
彼女の抱える絶望の深さ。
名探偵プリキュア達にとって、かつての先輩探偵である『森亜るるか』という少女の謎が、ますます分からなくなり、そして深く心配になる夜だった。
アニメ31話にて、るるかは名探偵に復帰。この小説のるるかは、どの方向に進んでもらいたい?(アンケートは取るけど、自分の文章力でアンケートの結果に結びつけれるかは自信がないので必ずしも、アンケート通りに出来るかは分かりませんが…)
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名探偵として復帰
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ファントム等の敵として行動
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一時的に復帰するが再び絶望し離反する。
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その他(意見、要望は感想等のコメントに)