名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
ゴウエモン達、怪盗団ファントムが去っていった。
「終わったね……」
強敵との死闘が終わり、マコトジュエルとイヤリングを取り戻せた事に安堵するアンサー。
すると、劇場から万雷の大歓声と拍手が聞こえてきた。
「舞台も、無事に終わったみたいだね」
ミスティックが微笑む。
戦いが終わり、そしてしるくの舞台を守り切れたことに、二人は顔を見合わせて笑顔になった。
しるくの楽屋へと戻るあんな達。
しるくの大切なイヤリングを手のひらに乗せて、そっと返す。
「……ありがとう」
しるくはイヤリングを両手で受け取ると、その瞳から大粒の涙を流した。
「本当によかった……」
無事に帰ってきたイヤリングを胸に抱きしめる彼女を見て、あんなとみくるも心から安心した。
「本当は……すごく不安だったんだ。でも、私にとって舞台は、何よりも大切なものだから」
しるくが涙を拭いながら、真っ直ぐな瞳で語る。
「それは、お客さんと私の『新たな思い出』になるものだから」
「新たな思い出……」
「しるくさんが、私たちを信じて舞台に行ってくれたから……私たちも、絶対に守るって頑張れたんです」
あんなが力強く言う。
「私も同じだよ! 2人を信じていたからこそ、不安を忘れて全力で演じることができたの」
「「しるくさん!」」
しるくの温かい言葉に、二人の顔がパッと明るく喜ぶ。
「ふふっ。2人は、私にとって大切な『仲間』だね」
「あーあ、私たちも舞台見たかったなぁ」
事件解決の代償として、劇を見られなかったことを残念がるあんな。
「次の公演に、絶対に観に来てね!」
「「え!」」
「また、一緒に新たな思い出を作ろうね!」
「「はい!!」」
残念がっていた二人だったが、次の公演を見に行く約束をして、最後はとびきりの笑顔を見せるのだった。
***
翌日、キュアット探偵事務所。
「うーん……『エクレールには記憶がない』か……」
ジェット先輩がソファに深く座りながら、腕を組んで天井を仰いだ。
あんなとみくるは、昨日の夜の出来事と、アルカナ・シャドウが残した言葉について報告し、謎のプリキュア『キュアエクレール』について話し合っていた。
「るるかさんが、わざわざ予告状まで出してしるくさんのイヤリングを狙ったのって……」
みくるが顎に手を当てる。
「彼女のなくなった記憶を呼び戻そうとしたとか?」
「もしそうだとしたら……」
あんなとみくるが、顔を見合わせる。
「「『しるくさん』が……」」
「「エクレール!?」」
エクレールの本当の正体(くれあ)を知らないあんな達は、記憶喪失というキーワードから、家入しるくがエクレールの正体なのではないかと、的外れな推理を加速させるのだった。
***
時は少し遡り、昨夜。
怪盗団ファントムのアジト。
絶対的な支配者ウソノワールは、いつも通りVIP席のモニターで戦いの一部始終を監視していたため、今回の顛末を全て知っていた。
ウソノワールは、自分の席の肘掛けを指で一定のリズムで『コツ、コツ』と叩いていた。
明らかに機嫌が悪い。
やがて、舞台上に緑色の光が現れる。
ゴウエモン、るるか、マシュタンの三人が帰還した。
「ウソノワール様、ただいま戻りました」
ボロボロになったるるかを横抱きにしたまま、ゴウエモンが頭を下げる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ゴウエモンの腕の中で、るるかはダメージと蓄積された過労により、呼吸も浅く酷く苦しそうにしていた。
「……キュアアルカナ・シャドウ。大失態だな」
ウソノワールの低く冷酷な声が、広いホールに重く響き渡る。
その不機嫌さが、空気を凍らせた。
「マコトジュエルを奪う事に失敗しただけではなく、まさかあの未熟な名探偵プリキュアごときに敗北してくるとは」
「……」
「失望したぞ」
怒気を孕んだウソノワールの言葉。
だが、今のるるかはダメージが深すぎて、すぐに反応することすら出来なかった。
「はぁ……はぁ……うっ……」
ただでさえ呼吸が苦しいのに、全身の打撲や擦り傷がズキズキと痛み始めていた。
「ウソノワール様! るるかは……!」
マシュタンが、るるかを庇って必死に弁明しようと前に出る。
「黙れ。今はアルカナ・シャドウへと話しているのだ」
「……ッ」
ウソノワールの鋭い眼光に射抜かれ、マシュタンは言葉を飲み込み、悔しそうに俯いてしまう。
「無様だな。少しは期待していたが、やはりこの程度の力しか貴様にはないのか……。仕方ない。これでは、貴様との『約束』も無しにするしかあるまいな」
ウソノワールが放ったその言葉は、るるかにとっての『死刑宣告』に等しかった。
ウソノワールとの絶対の約束。
るるかが怪盗団ファントムの幹部として忠実に動き、ウソノワールの為にマコトジュエルの欠片を集めること。
それを果たし続けていれば、こころを延命させる為の医療器具や部屋の提供、そしていつか……人質として奪われている『エクレールとシンシアの心のマコトジュエル』を返してもらえるかもしれないという、細い糸のような希望。
しかし、今回の失敗を理由に、その約束が一方的に反故にされようとしているのだ。
「えっ……」
朦朧としていたるるかの目が、絶望に大きく見開かれた。
「所詮、貴様ではシャドウの力を完全には扱えていないということか。……期待していたのだがな」
るるかの顔からスッと血の気が引き、表情が真っ白な絶望へと染まっていく。
「そ、そんな……待って……お願い……! 次は……次こそは必ず持ってくるから……だから……っ!」
るるかは、痛む体を無理やり動かし、ゴウエモンの腕の中から右手をウソノワールの方へと必死に伸ばした。
「お願い……! じゃないと……こころが……っ!」
もし今、ここで約束を放棄され、アジトから放り出されたり医療機器を止められたりしたら、こころは間違いなく死んでしまう。
容体が急変する可能性のほうが明らかに高いのだ。
「もう約束の時まで後僅か。なのにこんな失態を犯したのだ。責任は取ってもらわなければな……」
どこまでも無慈悲に突き放すウソノワールの言葉。
るるかの虚無の瞳から、ボロボロと止めどなく涙が溢れ出していた。
それは、体の痛みや疲労からくるものではない。
圧倒的な絶望の涙。
そして、こころを救えなかった自分自身への、激しい失望と罪悪感の涙だった。
るるかは、首を激しく横に振る。
「お願い……お願いします……っ。チャンスを……もう一度だけ、チャンスを下さい……っ」
天才探偵としてのプライドも何もない。
ただの無力な姉として、るるかは悪魔にすがりつき、頼み込むしかなかった。
しかし、ウソノワールは沈黙したまま、冷たい目で見下ろすだけだった。
「あっ、あっ……そんな……私のせいで……こころが……っ。やだ……やだ……! お願いします……! 必ず……必ずマコトジュエルを奪うから……ッ!」
過呼吸を起こしながら、るるかが泣き叫ぶ。
すると、たまらずゴウエモンが口を開いた。
「ウソノワール様」
「……どうした、ゴウエモン」
ウソノワールが、鬱陶しそうに視線を向ける。
「今回は新人の任務だったかもしれねぇが、オレが勝手に現場に手を出した事もあります」
「……」
「それに、ハンニンダーだってオレが呼び出したものだ。今回の任務の失敗は、オレの責任でもあります」
「だから……新人のことを。アルカナ・シャドウの事を、どうか許してやってくれませんか」
ゴウエモンが、るるかの事を庇って頭を下げた。
「ゴウエモン……!」
「どうして……」
るるかとマシュタンは、ゴウエモンが自分から泥を被って庇ってくれたことに、心底驚いていた。
「ふむ……」
ウソノワールが、肘掛けを叩く指を止める。
「それに、今まで手に入れたマコトジュエルの欠片は、全部新人が手に入れた物です。それに免じて、どうか」
さらに頼み込むゴウエモン。
「……いいだろう。アルカナ・シャドウよ、今回は今までの功績も含めて、特別に許してやろう」
「あっ……!」
許された。
その言葉を聞いて、るるかの張り詰めていた糸がふっと緩む。
まだ、こころの命を繋ぎ止めていられる。
「ゴウエモンに感謝するんだな」
そう言い残し、ウソノワールは闇の中へと姿を消した。
「ふぅー……。心臓に悪いぜ」
ウソノワールの気配が消え、ゴウエモンが大きく息を吐き出す。
「ありがとう……。るるかを庇ってくれて……」
マシュタンが、深く頭を下げる。
「なに、いいってことよ」
「……どうして……」
「うん?」
るるかの掠れた声に、ゴウエモンが視線を落とす。
「どうして……私を……私なんかを、庇うようなことを……。私は元々……あなた達の敵だったのに……」
るるかは、どうしても信じられなかった。
今はファントムに身を置いているが、元々は名探偵として彼らと激しく敵対していたはずなのだ。
そんな自分を、どうしてゴウエモンがリスクを負ってまで庇うのか、全く理解できなかった。
「確かにそうだが、今は『同じ怪盗団』だろ? それに……新人の為に一肌脱ぐのが、先輩の役目だからな」
るるかが加入してから、その危うい様子を何かと気にかけていたゴウエモン。
彼は豪快に笑い、ただ『先輩だからだ』と答えた。
「先輩に感謝しろよ、新人」
「ありがとう……。ゴウ……エ……モ……ン……」
るるかは、素直に感謝の言葉を紡いだ。
しかし、極度の緊張と恐怖から解放された安心感からか、ボロボロだった体が遂に限界に達し、ゴウエモンの腕の中でふっと意識を失ってしまった。
「るるか!」
「大丈夫だ。緊張が解けて気を失っただけだ」
ゴウエモンが抱え直す。
「それよりも、部屋に連れて行くぞ。お前さん一人じゃ、運べないだろうしな」
マシュタンは一瞬、こころの悲惨な姿が見られてしまうことを危惧したが、自分を庇ってくれたゴウエモンなら問題ないだろうと腹を括った。
ゴウエモン達は、るるかの部屋へと向かった。
部屋の前につき、マシュタンが扉を開けようとする。
「ゴウエモン。一つだけお願い。……部屋の中の事は、ウソノワール様しか知らないの。だから、ニジーとアゲセーヌには絶対に内緒にしていて」
「分かった。漢として約束するぜ」
マシュタンが重い扉を開ける。
部屋の中に入ると、そこにはベッドが二つ並んでいた。
一つのベッドには、人工呼吸器や多数の点滴チューブが繋がれ、痛ましい姿で横たわるキュアシンシア……森亜こころの姿があった。
「……キュアシンシア。そうか、そういう事だったのか。だから……新人は……」
ゴウエモンは、部屋の惨状とこころの姿を見て、るるかがプライドを捨ててファントムにいる理由の全てを察した。
「成る程な。ウソノワール様がキュアシンシアを攫ってから、何処に幽閉したのかと思っていたが……こんな事になっていたとはな」
「他言無用で頼むわね。るるかを、こっちのベッドに」
ゴウエモンは無言で頷き、るるかをそっと空いているベッドに寝かせた。
「ありがとう、ゴウエモン。貴方が居なかったら、今頃るるかは……」
「だから、いいってことよ。……さて、運んだ事だし、オレは退散するかね」
ゴウエモンは背を向ける。
「新人の事、しっかり休ませてやってくれ。少しくらいなら休ませても問題ないだろう。オレからも、ウソノワール様には上手く言っておくからよ」
「分かったわ」
「おう! 新人にもよろしく言っといてくれ」
そう告げて、ゴウエモンは静かに部屋から退出した。
マシュタンは、お湯を沸かし、るるかの体の泥汚れや血を丁寧に拭いて綺麗にした。
傷口に消毒薬を塗り、新しいガーゼを当てる。
服を脱がせ、清潔な寝間着に着替えさせて、布団を掛けた。
「すぅ……すぅ……」
意識を失うように深い眠りについているるるか。
ダメージと疲労による発熱からか、その頬は不自然に赤く、呼吸も荒かった。
マシュタンは氷嚢を用意し、るるかの熱い額にそっと乗せた。
「るるか……頑張って。辛いでしょうけど、絶対に心を折らないで……」
マシュタンの瞳に、大粒の涙が溜まっていた。
「どうして……どうして、こんなにも優しくて、誰よりも妹思いのこの子が……こんなに辛い目に遭わないといけないの……っ」
マシュタンは、悔しさに唇を噛み締め、涙を拭った。
「駄目よ。アタシがるるかを支えてあげないと……。絶対に、アタシ達は目的を果たさなきゃいけないんだから」
マシュタンは、隣のベッドで生命維持装置の音だけを規則的に響かせているこころの様子を確認する。
「こころちゃん。お願い、頑張って。必ず、アタシとるるかが何とかするから……」
マシュタンが、こころの細い指先にそっと触れる。
「アタシは……おとも妖精として、貴女に何もしてあげられない。ただ、祈る事しか出来ない……っ」
自分の無力さに絶望しながら、マシュタンはこころの手を離し、空中にふわりと浮かび上がった。
そして、ベッドに並んで眠る、身も心もボロボロに傷ついた哀れな姉妹の姿を、ただじっと見つめた。
「神様……どうか……どうか、この2人に……明るい未来を……っ」
マシュタンの目から、姉妹の過酷な運命を嘆く涙が、静かに、ただ静かに零れ落ちていくのだった。
***
名探偵プリキュアに敗北し、心身ともに深いダメージを負ったるるか。
蓄積された過労と絶望は彼女の限界をとうに超え、泥のように眠る彼女の意識を、残酷な悪夢の底へと引きずり込んでいた。
「ここは……?」
るるかは、漆黒の空間に立っていた。
光もなく、周囲に何があるわけでもなく、ただ果てしない闇が広がっている。人の気配も、温もりも一切ない。
「マシュタン……マシュタン……? ねぇ、誰かいないの……?」
震えるるるかの声だけが、虚無の空間に空しく響き渡る。
「誰も……いない……」
『――無様ね』
不意に、氷のように冷たい声が響いた。
るるかが弾かれたように振り返る。
「えっ……」
そこに立っていたのは、もう一人の自分――『キュアアルカナ・シャドウ』だった。
虚無の瞳で、見下すようにこちらを見つめている。
「どうして……」
「情けないわね。未だに未熟な名探偵である彼女達に、無様に負けてしまうなんて」
「そ、それ……は……っ」
「私の力すら、まともに使いこなせずにいる半端者。……だから、貴女は駄目なのよ」
アルカナ・シャドウの言葉が、るるかの心臓を冷たく抉る。
「『何でもする』って言っておいて。いざ何かあればすぐに動揺して、冷静で居られなくなる」
「うっ……あっ……」
るるかは耐えきれず、後退りをする。
「そんな事で、こころを救えるとでも? エクレールとシンシア、二人の心のマコトジュエルを、あのウソノワールから手に入れられるとでも思っているの?」
その鋭い指摘に、るるかは何も言い返せなかった。
喉が引きつり、言葉が出ない。
『――情けない』
またしても、背後から声が聞こえた。
振り返ると、そこには見慣れた、しかしもう二度と戻れない姿があった。
名探偵時代の自分――『名探偵キュアアルカナ』が立っていた。
「自分自身も制御出来ず、あまつさえ素人の様な動きをして負けた」
「……っ!」
「『天才探偵』なんて呼ばれていたけど、それは嘘。あの時の貴女は、新人である彼女達よりも劣っていたのよ」
先ほどの戦いでの致命的なミス。
探偵としての冷静さを失い、直線的に突っ込んで敗北した事実を、かつての自分が無慈悲に突きつけてくる。
「そんな……」
「あの時から、貴女は何も変わってないわ。ウソノワールに手も足も出ず敗北して……その貴女を助ける為に戦ったくれあとこころを、ただ見ていることしかできなかった『役立たず』」
「やめて……っ」
「ファントムのアジトに乗り込んで、ボロボロになって助けを求めているこころに、『絶対に助ける』と言っておいて……結局、何もできなかった貴女」
アルカナの言葉が、るるかの胸に無数の刃となって深々と突き刺さる。
「貴女は弱い。だから、何も守れないのよ」
「役立たず……弱い……私は……」
るるかは、アルカナ・シャドウとアルカナからの言葉を必死に否定したかった。
『違う』と叫びたかった。
でも、出来なかった。
何故なら、それは紛れもない事実だったからだ。
るるかの虚ろな瞳から、大粒の涙がとめどなく流れ落ちる。
「貴女には、何も守れない」
「貴女には、何も救えない」
「くれあを守ることも」
「こころを救うことも」
「二人のマコトジュエルを手に入れる事も」
左右から、二人の自分が交互に言葉を浴びせかける。
「「貴女は何も出来ない。貴女はただ……二人をこんな残酷な運命に巻き込んでしまっただけ」」
その言葉に、るるかはついに耐えきれず、その場に崩れ落ちて膝をついた。
「私が……巻き込んだ……。私のせいで……全部、私のせいで……っ!」
「今の貴女は、名探偵なんかじゃない。貴女は大切な親友も、妹も守れない、ただの弱い存在」
「そう。弱いから何も守れない。何でもすると言っても、貴女の覚悟が『半端』だから……」
二人の自分が、床に這いつくばるるるかにゆっくりと近づき、見下ろしながら語りかけてくる。
「覚悟が、半端……。私は……どっちにもなりきれていない……半端者……っ」
るるかは両手で自分の顔を覆い隠した。
指の隙間から、大量の涙が止めどなく溢れ出し、闇の底へと落ちていく。
「泣いても何も変わらないわ。そんなんじゃ、こころを救うなんて『嘘』にしかならない」
「嘘……。違う……ッ。本当に……本当に助けたいの……っ!」
「そう? でも、現に貴女は助けられてないわ。ほら……見て」
アルカナ・シャドウが、るるかの背後を指差す。
顔を上げ、震える瞳でその方向へと目を向けたるるか。
「!?」
そこには、こころとくれあが立っていた。
しかし、かつての温かい笑顔はない。
二人は、冷酷で、氷のように冷たい瞳で……心の底からるるかを憎むように、強くこちらを睨みつけていた。
「こころ……くれあ……っ。嫌だ……見ないで……そんな目で……私を……見ないで……ッ!」
大好きな、一番大切な二人に軽蔑の目を向けられているという事実が、るるかの心を無残に引き裂き、息の根を止めるほどに苦しめる。
「でも、今のままだとあの向けられている瞳が『現実』になるわよ」
アルカナが冷たく言い放つ。
そして、アルカナ・シャドウがるるかの耳元に顔を寄せ、悪魔のように囁いた。
「何でもする。……なら、私を完全に受け入れなさい。シャドウの力を心の底から受け入れれば……貴女は強くなるわ」
「強くなる……。強くなれる……。でも、シャドウを完全に受け入れたら……私は……」
こんな極限状態にあっても、るるかの心の奥底に残る『名探偵』としての誇りと、誰よりも優しい彼女の心が、シャドウの闇に完全に呑まれることを本能的に拒絶していた。
「いいわ。貴女が否定するなら、それでも構わない」
アルカナ・シャドウが冷たく身を引き、アルカナと並んで立つ。
「でも、いいの? その先にあるのは、一体どんな結末なのかしら……。半端な選択しかしていない、弱虫の結末は……」
「えっ……」
そして、アルカナ・シャドウがるるかの心に、決定的なとどめを刺す。
「今のままじゃ……エクレールは復活して、戦いに巻き込まれる。そして、こころは……死んじゃうよ」
るるかの心臓が、ドクンと嫌な音を立て、呼吸が一瞬完全に停止した。
「エクレールが、復活……。こころが……死ぬ……」
るるかは、自分の髪を掻き毟るように両手で頭を抱え込んだ。
「嫌だ……! このままじゃ、くれあとこころは……!」
「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ! こころが死ぬなんて、そんなの……ッ!!」
泣き叫ぶるるかを見下ろし、アルカナ・シャドウとアルカナの声が、不気味に重なり響く。
『楽しみにしてるわ。……貴女の、選択を』
「イヤァァァァァぁぁぁぁッ!!!!」
***
「イヤァァァァァぁぁぁぁッ!!!!」
静寂に包まれたアジトの部屋で、るるかは絶叫と共に弾かれたように飛び起きた。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
全身が水に飛び込んだように大量の冷や汗で濡れており、シーツを握る手がガタガタと激しく震えている。
「っ……!」
激しく動いたことで、全身の打撲傷と擦り傷が焼け付くように痛み、るるかは思わず自分の体を強く押さえた。
そして、今見たあまりにも生々しい夢の出来事を思い出し、パニックで頭を抱え込む。
「うゎぁぁぁぁッ! 嫌だぁぁぁッ!!」
その尋常ではない叫び声に反応し、隣で看病していたマシュタンが飛び起きた。
「るるか!? どうしたの? しっかりして!」
「嫌だぁぁぁ! 許してぇぇッ! くれあ! こころぉッ!!」
「るるか! るるか!!」
「このままじゃ……このままじゃ……ッ!」
錯乱し、虚空に向かって泣き叫ぶるるか。
マシュタンはベッドに飛び乗り、るるかの汗に濡れた冷たい頬を、小さな両手でしっかりと挟み込んだ。
「るるか! アタシを見て!!」
その温もりと強い声に、るるかの焦点の合っていなかった瞳が、わずかにマシュタンを捉える。
「ハァッ、ハァッ……マ、マシュタン……っ」
「どうしたの? また、悪い夢でもみたの?」
るるかの顔は、まるで死神に魅入られたかのように、酷く怯えきっていた。
「このままじゃ……エクレールが復活して……、こころも……死んじゃう……ッ」
「何を言ってるの! まだ大丈夫よ。それに、こころちゃんもきっと大丈夫だから!」
「でも、夢の中で私がそう言ってたの!」
「るるかが?」
マシュタンが首を傾げる。
「夢の中に……私自身が出てきたの。キュアアルカナ・シャドウの私と……名探偵キュアアルカナの私が……」
るるかは、ガチガチと歯を鳴らし、怯えながら夢での凄惨な出来事をマシュタンに語り始めた。
「くれあとこころに睨まれていて……それで、すっごく怖くて……っ」
思い出すだけで呼吸が荒くなり、過呼吸気味になるるるか。
マシュタンはるるかの背中に周り、小さな手でゆっくりと背中を擦りながら落ち着かせる。
「大丈夫よ。ゆっくり、深呼吸して。落ち着いて話して」
「弱いから……私が半端者だから……こんな結末になってるって……っ。エクレールが復活して、こころも死んじゃうって……ッ」
るるかは、シーツを握りしめ、ボロボロと涙を流す。
「シャドウの力を完全に受け入れれば、もっと強くなれるって言われて……でも……受け入れられなくて……っ」
「るるか……」
「もうヤダ……。怖いよ……っ。強くなりたい……、何でも出来るくらい……もっと、強く……っ」
己の探偵としての心を捨てきれず、シャドウを完全に受け入れる事が出来ていない。
だが、それでも二人のためなら悪魔にでもなって強くなりたいと、るるかの心は完全に迷子になり、泣きじゃくっていた。
「るるか……十分よ」
マシュタンが、るるかの背中を擦る手に力を込めた。
「貴女は十分頑張ってるし、すごく強いわ。今はただ、精神的に辛くて、疲労で冷静になれていないだけよ」
るるかが、涙で濡れた顔をゆっくりと上げる。
「冷静でいられる時の貴女は、誰よりも強い名探偵だわ。だから、今は休んで。大丈夫……貴女なら絶対にやれる。アタシ達ならやれるから」
「グスッ……、グスッ……っ」
「大丈夫。こころちゃんも、あんなに頑張ってるわ。きっと助けられる。死ぬことなんて、絶対にないから」
マシュタンの温かい言葉に、るるかは縋るように頷いた。
「グスッ……グスッ……うん……っ」
「ほら、汗だくじゃない。このままだと風邪を引いちゃうわ。着替えて、もう一眠りして」
そう言ってマシュタンは、るるかの新しい寝間着を取りに行き、手際よく着替えを手伝った。
清潔な寝間着に着替え直したるるか。
マシュタンは、るるかを再びベッドに横たわらせ、布団を首元までしっかりとかけると、その頭を優しく撫でた。
「怖い……。また……夢の中で二人に睨まれたら……」
不安で押し潰されそうになるるるかに、マシュタンは微笑みかける。
「大丈夫。二人が貴女を恨むことなんて、絶対にあり得ないわ。だから、大丈夫よ。……大丈夫、アタシがずっと側にいるわ」
「うん……、いつもごめんね……マシュタン……」
「謝らないで。貴女がどれだけ辛い思いをして、誰のために頑張っているか……アタシが一番良く知ってるわ。だから、大丈夫。きっと大丈夫だから」
その言葉に、るるかの強張っていた表情が少しだけ和らいだ。
「うん……。おやすみ、マシュタン……」
「お休みなさい、るるか」
疲労困憊の体は限界をとうに迎えており、マシュタンの温もりに安心したるるかは、数分も経たずに再び深い眠りへと落ちていった。
るるかの静かな寝息が聞こえ始めた薄暗い部屋。
マシュタンは、眠るるるかの青白い顔を見つめながら、必死に堪えていた涙をポロポロとこぼした。
「るるか……。お願い……誰か……るるかを……っ」
妹を救うため、親友を守るため。
ただそれだけのために、自らの心を粉々に砕き、暗闇の中で一人絶望と戦い続ける少女。
誰でもいい。
どうか、この優しすぎる不器用な少女を、この地獄から救ってほしい。
静寂の夜の中、マシュタンは小さな両手を強く組み合わせ、届くあてのない祈りをただ涙と共に捧げ続けるのだった。
アニメ31話にて、るるかは名探偵に復帰。この小説のるるかは、どの方向に進んでもらいたい?(アンケートは取るけど、自分の文章力でアンケートの結果に結びつけれるかは自信がないので必ずしも、アンケート通りに出来るかは分かりませんが…)
-
名探偵として復帰
-
ファントム等の敵として行動
-
一時的に復帰するが再び絶望し離反する。
-
その他(意見、要望は感想等のコメントに)