名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
怪盗団ファントムのアジト。
あれから、ゴウエモンの口添えもあり、るるかは1週間程の療養期間をウソノワールから特別に貰っていた。
極度の疲労と精神的限界から、夢に魘されて過呼吸を起こし、苦しむ日もあったが、マシュタンの献身的な看病のおかげで、傷は徐々に癒え、精神的にもほんの少しだが回復しかけていた。
「……っん……」
薄暗い部屋のベッドで、るるかがゆっくりと目を覚ます。
「今回は、何も見なかった……」
魘されることなく、静かに眠れたことに小さく安堵する。
視線を落とすと、自分と同じベッドで、るるかの手に小さな両手を添えたまま丸くなって眠っているマシュタンがいた。
「マシュタンのおかげね。私……マシュタンが居なかったら、もう……とっくに壊れてた」
るるかは、寝ているマシュタンの柔らかな頭を指先で優しく撫でる。
「ありがとう……マシュタン」
すると、くすぐったかったのか、マシュタンが「う〜ん……」と身じろぎをして目を覚ました。
「おはよう、るるか」
「おはよう、マシュタン」
るるかは、自然と小さな笑みをこぼした。ハイライトのない瞳ではあるが、その表情には確かに微かな穏やかさが宿っていた。
「どう? 体調は大丈夫?」
起き抜けにすぐにるるかを心配するマシュタン。
「……まだ、辛いよ。やっぱり、あの夢の事が忘れられない……」
夢の中で、自分自身の無力さや弱さに徹底的に追い詰められ、こころとくれあに憎悪の目を向けられたという事実に、るるかの心は未だに深く苦しんでいた。
「でもね……やっぱり諦めたくない。くれあが、ただ幸せに生きてくれる世界を……」
るるかは静かに語りながら、隣で規則的な呼吸器の音を立てて眠っている、こころの方を向く。
「それに、こころと一緒に……また笑い合って生きていける世界が……諦められない。絶対に助けたい……」
るるかは、自分の震える手をぎゅっと握りしめた。
「きっと私は、またおかしくなると思う。ウソノワールへの恐怖もトラウマも残ってる。あの圧倒的な力への絶望は……きっと、変えられない」
るるかは、何も克服など出来ていなかった。
ウソノワールへの恐怖、自分の力が全く通用しなかった事実、ウソノワールの理不尽な強さが、その全てが怖くてどうしようもなかった。
「でも……」
るるかは、マシュタンを真っ直ぐに見つめた。
「マシュタンが支えてくれるから……。私……頑張れる」
「るるか……。ええ、アタシがずっと一緒よ!」
マシュタンが、小さな胸を張って力強く返事をする。
るるかは静かに頷いた。
マシュタンに向けるるるかの表情は、間違いなく『森亜るるか』本来の優しい笑顔だった。
***
キュアット探偵事務所。
ソファに深く座り、テレビのニュース番組を見ているジェット先輩。
『さて、最近の話題といえば、7の月に空から現れるという【恐怖の大王】の予言の話ですが……』
『ちまたではこのようなオカルト雑誌も飛ぶように売れています』
『やはり、世紀末ということも関係してるんですかね。群衆心理が働き……』
「なんか大ごとになってきたな」
振り返るジェット先輩。
しかし、あんなとみくるはジェット先輩に背を向ける形で突っ立ったまま、何やら深刻に考え込んでいた。
「うーん……?」
「うーん……?」
「ポチ〜?」
三人が腕を組んで唸っている。
「キュアエクレールは、プリキュアだったことを覚えていない……」
みくるが呟く。
「この前のしるくさん、ファントムのるるかさんの変装を完璧に見破っていたみたいだし……もしかしたら」
あんなが推理を広げる。
「そういうことなら、エリザさんもありえると思わない?」
「そうかも!」
「でしょ!」
「結局どっちなんだよ!」
呆れ顔で二人の近くにやって来るジェット先輩。
いつの間にかポチタンも、器用にジェット先輩の頭の上に移動して乗っている。
「「わからない……」」
さっぱり分からないあんな達。
悩んでいる二人に、ジェット先輩が「ほれ」とキャンディーをあげる。
「森亜るるか、あいつなら確実にエクレールの正体を知っているんだろうけど……」
「教えてくれるわけないよね」
るるかなら絶対に何かを知っている。
それは分かりきっていることだった。
だが、今までのファントムとしてのるるかの頑なな態度を見ていれば、絶対に教えてくれないことも簡単に分かってしまう。
「前に見つけた、あの写真も……」
「分からずじまいだしね」
青い蝶の写真。
アゲセーヌが『プリキュア』だと言い、マシュタンがその正体を『キュアエクレール』だと口を滑らせた。
しかし、ロンドンのキュアット探偵事務所すら把握していない謎のプリキュアについて、手がかりはそれ以上何もなかった。
「うーん……?」
必死に考える二人。
「やれやれ」
探偵ごっこのように迷走する後輩たちを見て、ジェット先輩は肩をすくめた。
***
一方、パティスリーチュチュ。
レジカウンターに、美しい白百合の花を活けている帆羽くれあの姿があった。
カランコロン、とお店の扉が空き、ベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
くれあはお客さんが来たと思い、笑顔で振り返る。
「あら?」
そこには、黒いケープを纏い、ぬいぐるみのフリをしたマシュタンを大事そうに抱いたるるかの姿があった。
「いつもありがとうございます!」
いつもアイスを買いに来てくれる常連の女の子だと認識し、とびきりの笑顔を向けるくれあ。
「……別に。ここのアイスが、美味しいから来ているだけよ」
るるかは、少し目を逸らしてぶっきらぼうに答える。
(良かった……。くれあは、何事もなく幸せに生きている。パティシエとして、こんなに幸せそうに……)
あの『予言』が出てから気が気でなく、療養期間中にも関わらず、こっそりとくれあの様子を見に来たるるか。
(でも……予言は変わっていない……。どうして……? ここから、一体何が起きてエクレールが復活してしまうの……?)
不安に駆られるるるかだが、くれあに悟られないよう表情には出さないようにする。
ただ、腕の中のマシュタンを抱く力が少しだけ強まった。
(るるか……)
ぬいぐるみのフリをしているマシュタンは、ピクリとも動かなかったが、るるかの深い不安と孤独を心の中で痛いほど心配していた。
「今日は何になさいますか?」
「チョコミントと……ラズベリーのアイスを」
「やあ、いらっしゃい! たまには店で食べていきませんか? 中々、乙なものですよ」
奥から店長の浅井たいらが顔を出し、常連客であるるるかに店内で食べていかないかと勧める。
「どうですか?」
くれあも嬉しそうに同意する。
「え、あ……」
突然の誘いに、戸惑い驚くるるか。
「さあ、こちらにどうぞ」
るるかが座りやすいように、店長が丁寧にテーブル席の椅子を引く。
(嬉しい……。すごく嬉しい。でも、私がここに長く居たら……くれあを、危険に巻き込んでしまうかもしれない……)
困った顔をして立ち尽くするるか。
すると、そんなるるかの華奢な肩に、そっと温かい手が触れた。
「はっ……」
肩に手を当てていたのは、くれあだった。
「さあ」
くれあは、かつて探偵事務所で落ち込んでいたるるかを励ました時と全く同じ、優しくて力強い笑顔を向けて、るるかの背中をポンと押した。
その温もりに逆らうことができず、るるかも静かに諦めて、椅子に座ることにした。
店の中にはるるかの他に、夏川、秋田というラブラブな常連カップルがいた。
「ダーリン、何にする~?」
「別々のケーキを頼んで、半分こにしようか」
「えー、逆に悩んじゃう!」
「悩む君もかわいいよ!」
相変わらず、周囲の目もはばからずラブラブな二人。
静かに席に座っているるるか。
マシュタンは、机の上に置かれた専用の小さな座布団の上で、完璧にぬいぐるみに擬態してジッとしている。
ふと、るるかの視線が壁に飾られている一枚の写真へと向いた。
「ああ、その写真。僕がパリでパティシエの修行をしていた、16歳ごろの写真です」
店長が自慢げに解説する。
写真は、エッフェル塔を背景に、パリの友人たちと肩を組んで撮った楽しそうな集合写真だった。
「どうです? 俳優の金城タクヤみたいで、イケメンでしょ?」
前髪をかきあげるポーズを決める店長。
「……」
無反応で、虚無の瞳のまま店長を見つめるるるか。
「……アハハ、ジョークですよぉ……」
るるかのあまりの無表情さに、店長がタジタジになって誤魔化す。
「その時の店長の歳って、今の私と同じですよね」
厨房の方から、くれあが歩いてくる。
「お待たせしました。チョコミントとラズベリーアイスです」
るるかは、テーブルに置かれた皿を見て、不思議そうにくれあの方を向いた。
「……ケーキは、頼んでない?」
アイスの隣に、美しいブルーベリータルトが添えられていたのだ。
「サービスです。私が作ったものなんですけど……よかったら、召し上がってください」
くれあが少し照れくさそうに言う。
(くれあが……作ってくれたケーキ……)
るるかは、フォークを震える手で持つ。
「……いただきます」
ケーキを一口すくい、口に運ぶ。
もぐもぐと、小動物のようにゆっくりと味わって食べるるるか。
その瞬間。
るるかの無表情だった顔が、パッと明るくほころんだ。
「……おいしい」
あまりの美味しさに、無意識のうちに自然な感想がこぼれ出た。
それと同時に、不思議な事に……ずっとハイライトが消え、暗く沈んでいたるるかの赤い瞳が、微かではあるが確かに、生気を取り戻したかのようにキラリと輝いて見えた。
ぬいぐるみのフリをして反応は見せないようにしていたが、マシュタンは心の中で驚愕していた。
(るるかの瞳が……! 少しだけだけど、光が戻った……。やっぱり……るるかの心を本当の意味で救えるのは、くれあ と こころちゃんしかいないのね……っ)
「店長直伝です!」
くれあが嬉しそうに微笑む。
「パリ仕込み!」
店長も誇らしげにしている。
るるかは、もう一口、今度はアイスと一緒にブルーベリータルトを頬張る。
「そのブルーベリータルトを、うちの店で決まって頼む『常連さん』がいるんです。……なんだか、お客さんに雰囲気が少し似てて。だから、気に入ってくれるかなって思って」
すると、店の電話が鳴り響いた。
「はいはい」
電話を取りに行く店長。
「パティスリーチュチュです。……ああ、ジェットくん。ブルーベリータルトとミルフィーユね。いつものだね」
「ふふっ。噂をすれば、ですね」
くれあが笑う。
その常連客とは、もちろんキュアット探偵事務所のあんな達のことだった。
「いつも通り、キュアット探偵事務所に届けに行くよ」
店長が準備を始める。
「ごゆっくり」
くれあは、るるかに丁寧に頭を下げて、店長の元へ向かった。
「店長、私、届けてきます!」
「ああ、頼むよ」
くれあが、綺麗に箱詰めされたケーキを持って店を出ていく。
その様子を見送った後。
「ねえ……」
マシュタンが、周囲に人がいないことを確認してこっそり話しかけてくる。
「さっきくれあが言ってた常連って、名探偵さんたちのことよね?」
「……かもね」
るるかが、アイスをすくいながら小さく答える。
「あの子……るるかが『名探偵』だってことに、無意識に気づいたのかしら? だから、雰囲気が似てるって……」
「いや、そんなこと……」
るるかは、ふっと静かに俯いた。
「そんな事ないわ……。私はもう……『名探偵』なんかじゃない。……こころとくれあに誇れる様な、正義の探偵なんかじゃ……ないもの……」
自分が犯してきた罪の重さを思い出し、明らかに落ち込んでしまうるるか。
微かに輝きを取り戻しかけていた瞳の光も、再び深い虚無の闇の中へと沈んでいった。
そのあまりにも痛ましい姿を見て、マシュタンはただ悲しそうに、何も言えずにるるかを見守ることしかできなかった。
***
キュアット探偵事務所。
ソファに座り、のんびりとくつろぐ一同。
「ポッチポチポッチ~」
あんなと遊んでるポチタン。
みくるは、あんなの隣で本を読んでいる。
その向かいのソファにはジェット先輩が座り、お気に入りのゴーグルを布で丁寧に磨いていた。
すると、事務所の呼び鈴が鳴った。
「はーい!」
「あ!」
扉から顔を覗かせるあんなとみくる。
そこには、帆羽くれあが立っていた。
「こんにちは。パティスリーチュチュです」
「くれあさん!」
くれあが、注文のケーキを届けに来てくれたのだ。
喜んで迎え入れる二人。
「店長から聞いた通り、素敵な事務所ね」
キョロキョロと物珍しそうに見回すくれあ。
「そっか、くれあさんが来てくれるの、初めてですもんね!」
あんなが事務所の中へとくれあを招き入れる。
記憶を失ってしまったくれあにとっては、かつて生活のすべてだったこの探偵事務所も、「初めて来た場所」になっていた。
るるか達と過ごした思い出など、今の彼女の脳裏には何一つ残っていないのだ。
「せっかくですから、お茶でも飲んでいきませんか?」
みくるがくれあを誘う。
「え、でも……仕事中だし……」
少し戸惑うくれあ。
しかし、あんなとみくるがグイグイと背中を押す。
「くれあさん!」
「ぜひ!」
目をキラキラさせておねだりするあんなとみくる。
「……ふふっ、じゃあ一杯だけいただこうかしら」
二人の勢いに負け、くれあは付き合うことにした。
「わあ!」
箱から出されたブルーベリータルトとミルフィーユに、目を輝かせるあんなとみくる。
「いつ見ても、はなまる美味しそう!」
「フフッ」
喜ぶ姿を見て微笑むくれあ。
その隣では、ジェット先輩も自分用のモンブランを手に大喜びしていた。
お茶を飲みながら、辺りを見渡すくれあ。
ふと、事務所の壁に貼られている事件の相関図や地図、そして『青い蝶の写真』に目を向けた。
「調査中の事件の資料なんです」
みくるが説明する。
「ごめんなさい、ジロジロ見ちゃって」
「いえ、資料と言っても、まだ解決のヒントになるのかも分からなくて……」
「そんなに大変な事件なんですか?」
くれあが不思議そうに首を傾げる。
「その……人を探してるんですけど、肝心のその人が『記憶』をなくしているみたいなんです」
「全部思い出してくれれば解決するんですけどね……」
説明するあんなとみくるは、捜査が難航していることに少し元気をなくしていた。
「記憶……」
くれあが、何かを考えるように視線を落とす。
「ケーキには、見た目と味、それから『もう一つ大切なもの』があるのだけど……なんだと思う?」
くれあが、優しい声で二人に問いかけた。
「もう一つ……?」
「大切なもの……」
「うーん、うん?」
ブルーベリータルトを見つめながら、必死に考えるあんな。
そして、ふと思いついたように顔を上げた。
「分かった! 『香り』ですね!」
「正解!」
「フンッ!」
見事に答えられたあんなは、力こぶしを作って得意げなポーズをとる。
「あんなちゃんの好きなブルーベリータルト……旬のブルーベリーとカスタードの甘い香りが、食欲をそそるでしょう?」
「はい! とっても!」
「お前はいつだって食欲そそられてるだろ」
ジェット先輩の鋭いツッコミ。
「テヘッ」
頭を掻いて照れるあんな。
「香りは、食欲だけじゃないの。『記憶』とも強く結びついているって言われてるわ」
「記憶……そっか!」
みくるがポンと手を打つ。
「このミルフィーユの甘い香り……これを嗅ぐと、私、おばあちゃんと一緒に食べたことをいつも思い出すの!」
「海外にいたときだっけ?」
「そう、ロンドン!」
「ね? 香りは、大切な記憶を運んでくれるのよ」
くれあが優しく微笑む。
「なるほど……。香りと記憶、ヒントになるかも!」
くれあの言葉に、思わぬヒントを貰ったあんな達。
「「ありがとうございます!」」
二人は元気にお礼をいう。
「フフッ、お役に立ててよかったわ」
くれあは、名探偵たちの役に立てた事を素直に喜んだ。
『自分が』記憶を失っている張本人だとも知らずに。
***
怪盗団ファントムのアジト。
偵察を終え、マシュタンを抱いたるるかがアジトへと戻ってくる。
すると、真っ暗な空間に、るるかを照らすスポットライトがピカッと当たった。
「帰ってきたか。ちょうどマコトジュエルの在処が出たところだぜ」
幹部席から見下ろす形で、ゴウエモンがるるかに声をかける。
「『甘き香りただよう憩いの場、青春の香りがする1枚の記憶』」
ウソノワールが、『未來自由の書』の予言を低く響く声で読み上げた。
「あっ……!」
予言の詩を聞いた瞬間、るるかの心臓が跳ね上がった。
パティスリーチュチュの壁に飾られていた、あの『写真』を鮮明に思い出す。
(そんな……どうして……っ)
るるかの顔が、苦痛と悲しみに歪む。
「……分かったようだな」
ウソノワールが見透かすように言う。
「くっ……」
るるかは、ウソノワールの言葉から逃れるように目を背けた。
「やるじゃねえか、新人。さっそく行くとするか!」
ゴウエモンがやる気満々で立ち上がる。
「行け、アルカナ・シャドウ」
ウソノワールが、命令を下す。
(嫌だ……断りたい……。いくら記憶を失ってるといっても、くれあから直接何かを奪うなんて……。私がこんな事をしてるなんて……知られたくない……っ)
るるかの顔に、はっきりと拒絶の色が浮かぶ。
「……ライライサー」
しかし、ウソノワールは肘掛けに頬杖をつきながら、静かに、だが圧倒的な『圧』を込めて掛け声を発した。
それは、るるかに強制的に命令を呑ませるための、無言の脅迫だった。
「ッ……!」
るるかの華奢な肩が、ビクッと跳ねるように震える。
「うっ……あっ……」
あの日の恐怖とトラウマがフラッシュバックし、足がすくんで逆らうことができない。
「ライライサー!」
ゴウエモンは、元気よくポーズを決める。
そして、るるかとマシュタンも、強制されるようにポーズを取らされた。
「ライライサー」
マシュタンがいつも通り、るるかの代わりに返事をするが、るるかは頑なに声を出さなかった。
それが、恐怖に支配された今のるるかに出来る、せめてもの『抵抗』だった。
そして、耐えきれず、るるかは足早にその場から出ていった。
アジトの廊下を少し歩いたところで、るるかは膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「……っ……っ」
体がガタガタと震え、顔は極度の恐怖と自己嫌悪で歪みきっていた。
「るるか! るるか! 大丈夫、大丈夫だから……!」
恐怖で震えるるるかの背中を、マシュタンが必死に擦って声をかける。
るるかの目から、声も出せずに静かな涙がこぼれ落ちていた。
(怖い……。ウソノワールが怖い……っ。どうして私は……どうして私は……こんなに弱いの……っ)
暫くの間、るるかは暗い廊下にうずくまったまま、動くことができなかった。
***
次の日。
パティスリーチュチュにて。
店長が出張のため、くれあは一人で店をきり盛りしていた。
「季節のタルトとモンブランですね。今お持ちいたします」
テーブル席の女性客二人の相手をしているくれあ。
「あ、」
ふとレジの方を見ると、マシュタンを抱いたるるかが立っているのを発見する。
「すみません、お待たせしちゃって。今日、店長が出張で私1人なんです」
申し訳なさそうに謝るくれあ。
「……そう」
るるかは、くれあの横を無表情のまま通り過ぎる。
そして、壁に飾られている『写真』を見上げた。
「……ダークチョコレートと、キャラメル」
「え、」
「後、今日はテラス席にする」
そう言って、るるかは振り返ることなく外のテラス席へと向かった。
「はい……」
いつもと違う、どこか張り詰めたようなるるかの様子に、くれあは違和感を覚えた。
テラス席で静かに待つるるか。
「お待たせしました。ダークチョコレートとキャラメルのアイスです」
注文の品を運んできたくれあ。
るるかは、アイスを受け取る代わりに、一枚の黒いカードをスッと差し出した。
怪盗団ファントムのマークがついたカード。
「うん?」
「これは、あなたに」
「えっと、本日……」
不思議そうにカードを受け取り、文字を読むくれあ。
「『本日6時に写真をいただく』」
るるかが、冷たい声でカードの内容を口頭で伝える。
るるか自らが、直接予告状を持ってきたのだ。
「怪盗団……ファントム……」
驚いた様子のくれあ。
「ジョーク……じゃないみたいですね」
本物のファントムの予告状を前に、戸惑いを隠せないくれあ。
「あなたが……怪盗? 信じられません」
いつも美味しそうにアイスを食べてくれる常連客の少女が、世間を騒がせる怪盗だなんて、くれあには到底信じられなかった。
「……私の」
俯いていたるるかが、ポツリと呟く。
その声には、微かに怒りのようなものが混じっていた。
「私の名前すら知らないのに……どうしてそう思うの?」
「じゃあ……お名前を教えてくれますか?」
くれあが優しく問いかける。しかし、るるかは沈黙したまま答えない。
「……1つだけ。あなたのこと、知っているわ」
「……」
俯いていた顔を上げるるるか。
「いつも、うちのアイスを……とっても『幸せそうに』食べてくれる。……それだけは、知っています」
くれあが、るるかの虚無の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
「写真は……渡せません」
記憶はないはずなのに。
一般人の少女であるはずなのに。
かつての正義感が、無意識のうちにくれあを突き動かし、怪盗であるるるかに毅然と立ち向かわせたのだ。
「……アイス、溶けますよ」
くれあはそう言い残し、深く頭を下げて店の中へ戻っていった。
一人残されたるるか。
「どうして……信じられないなんて言えるの……。私のことなんて、もう記憶はないはずなのに……」
るるかは、震える手でスプーンを握る。
「私は……私は……っ」
親友に嘘をつき、親友から大切なものを奪おうとしている自分。
その罪悪感で、るるかの顔は今にも泣き出しそうに歪んでいた。
「るるか……」
マシュタンは、るるかの張り裂けそうな心情を思い、深く悲しむことしかできなかった。
るるかは、溶けかけたアイスを口に運び、味のしない冷たさだけを静かに飲み込んだ。
アニメ31話にて、るるかは名探偵に復帰。この小説のるるかは、どの方向に進んでもらいたい?(アンケートは取るけど、自分の文章力でアンケートの結果に結びつけれるかは自信がないので必ずしも、アンケート通りに出来るかは分かりませんが…)
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名探偵として復帰
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ファントム等の敵として行動
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一時的に復帰するが再び絶望し離反する。
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その他(意見、要望は感想等のコメントに)