名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜   作:暁 蒼空

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第13話:失われた記憶と、交差する予感(後編)

そして、夕方。

閉店後のパティスリーチュチュ。

くれあから連絡を受けたあんな、みくる、そしてジェット先輩が駆けつけていた。

 

「もうすぐ、予告の夕方6時……!」

「くれあさんから聞いたファントムの特徴……間違いなく、るるかさん」

 

みくるが探偵手帳を開き、自分で描いた『似顔絵』と特徴についてのページを見せる。

 

「たしかに、この人です」

 

絵は決して上手くはない(むしろ独特すぎる)が、何となく特徴が似ているため、同一人物だと判断するくれあ。

 

「手強い相手です。今回はどんな手を使ってくるか……」

「また、お店の誰かに変装してくるかも!」

「どう来ようと、写真は絶対に盗ませない。そうだろ?」

「うん!」

 

あんなとジェット先輩が気合を入れる。

 

コツ……コツ……。

すると、足音が響いた。

あんな達が一斉に振り返る。

 

「正面から!?」

「探偵さんにお願いしたの?」

 

堂々と、正面から直接歩いてきたるるか。

 

「……それが、あなたの『望み』でしょう?」

 

くれあが、るるかを見据えて告げた。

 

「だって、店長がいなくて私一人の時間帯はいくらでもあった。写真を奪う隙なんて、いくらでもあったはず。……でもあなたは、わざわざ『予告状』を直接渡してきた」

「……」

「私が、キュアット探偵事務所に『依頼を出すように』……わざとね」

 

その言葉に、驚くあんなとみくる。

 

「……面白い推理ね」

 

るるかは、微かに笑みを浮かべた。

 

(変わってない。貴女のその、真実を見抜く真っ直ぐな直感。……私をいつも助けてくれた、頼もしい貴女のまま……)

 

「写真は渡さない!」

「ええ!」

 

るるかから写真を守ろうと、あんな達が前に立ちはだかる。

 

「安心しろい!」

 

突然、ゴウエモンの豪快な声が響き渡る。

すると、パティスリーチュチュの奥の扉がバーンと開き、ゴウエモンが姿を現した。

 

「この写真は、このゴウエモンがいただいたぜ!」

 

その手には、目的の『写真』が握られていた。

るるかではなく、裏口から潜入していたゴウエモンが手に入れたのだ。

 

「ええー!」

「るるかさんは、おとりだったの!」

「その手があったか!」

 

見事に出し抜かれ、驚愕する一同。

 

「頼まれたわけじゃねえ。……後輩思いな『先輩の優しさ』よ!」

 

るるかにも内緒で、彼女が嫌がる役目を自分から買って出たゴウエモン。

彼は単純に、不器用なるるかを思って単独で行動したのだ。

 

「あばよ!」

 

写真を持って、外へと逃走するゴウエモン。

 

「待って!」

「待て!」

 

あんなとジェット先輩が急いで追いかける。

 

「くれあさんは、ここにいて!」

 

みくるもくれあに指示を出し、二人を追って飛び出していく。

 

ゴウエモン達を追いかけようとするるるか。

しかし、ふと立ち止まり、くれあの方に視線を向けた。

一瞬だけくれあを見つめ、そして、るるかは無言でゴウエモン達の後を追って消えていった。

 

一人残されたくれあ。

 

「……どうして……」

 

くれあは、先ほどのるるかの表情を思い出し、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

自分を見つめていたるるかの表情は、冷酷な顔などではなかった。

それは、痛々しいほどに悲しそうで……今にも泣き出しそうな、孤独な少女の表情だったのだ。

 

「何で、あの人は……私を見てあんなに悲しそうな顔を……っ」

 

るるかの泣きそうな顔が頭から離れず、くれあは立ち尽くしていた。

 

***

 

逃げるゴウエモンを追いかけていた名探偵一同。

 

「もうあんな遠くに!」

 

ゴウエモンの逃げ足は速く、結構な距離が離されていた。

 

「オープン! プリキットライト!」

 

みくるが、機転を利かせてプリキットライトを召喚する。

 

「ダーハッハッ! これが怪盗な手際よ!」

 

まんまと写真を奪い、逃げているゴウエモンはご機嫌で得意げだった。

 

「待ちなさい!」

「うん?」

 

後ろを振り向くゴウエモン。

何かキラキラ光っている乗り物に乗って、急な坂を猛スピードで滑ってくるみくる達の姿があった。

 

「ソリか?」

「違う!」

「「ボブスレー!!」」

「ポチスレー!!」

 

光のボブスレーに乗った三人と一匹が、ゴウエモンめがけて突っ込んでくる。

 

「おおっと!」

 

接近してくるボブスレーを、見事なジャンプでヒラリと躱すゴウエモン。

 

「ど、どうしよどうしよどうしよどうしよ!」

 

躱されたボブスレーは止まることなく、そのまま勢いよく坂を下り続けてしまう。

 

「ブレーキがないぞー!」

 

焦る一同。

 

「ポチ、ポチ!」

 

すると、ポチタンがボブスレーの先端から飛び出し、風船のようにパンッ!と巨大に膨らんだ。

その巨大なポチタンの体がクッションとなり、ボブスレーを見事に壁の手前で受け止めて止めた。

 

「「ありがとうポチタン!」」

「ポチ!」

「目が回る……」

 

目を回して倒れているジェット先輩。

 

「追いついた褒美だ。……相手をしてやろう!」

 

写真を持って、好戦的に笑うゴウエモン。

 

「ウソよ覆え! 来やがれハンニンダー!」

 

「ハン、ニン、ダー!」

 

奪った写真を触媒に、パティシエ姿のハンニンダーが出現した。

 

ハンニンダーの出現と共に、ゴウエモンが扇子を振りかざし、異次元フィールドを展開する。

そこへ、後を追いかけてきたるるかとマシュタンが合流する。

 

「奴らを調理してやれ。新人、加勢を頼む」

 

ハンニンダーに指示を出しながら、ゴウエモンがるるかに声をかける。

 

「行くよ!」

「うん!」

 

「「オープン!! ジュエルキュアウォッチ!」」

 

あんなとみくるの手にあるペンダントがまばゆい光を放ち、カラフルな懐中時計『ジュエルキュアウォッチ』へと姿を変える。

二人はそれぞれのマコトジュエルを取り出し、ウォッチに装着した。

 

「「プリキュア、ウェイクアップタイム!」」

 

二人の声が重なった瞬間、光が溢れ出す。

 

「サン!見つける!」

 

ジュエルキュアウォッチの長針が、3の位置へと揃えられた。

あんなの髪が風にほどけるように一気に伸び、足首に届くほどの長さになる。

毛先はハート型に整い、頭頂部の左右は可愛らしいお団子のツインテール。髪色は鮮やかな紫へと変わり、毛先に向かって淡いピンクのグラデーションが広がった。

みくるの髪も同時に伸び、やわらかな三つ編みへと姿を変える。髪色は明るいピンクに。瞳の色も変化する。あんなは澄んだ青緑、みくるは神秘的な紫へ。

 

 

「ロク、向き合う!」

長針が6を指す。

みくるの身体を、淡いピンクのオフショルダーワンピースが包み込む。フリルの揺れるスカートが、彼女の可憐さを際立たせた。背中には、水色の大きなリボン。

あんなもまた、フリフリの紫色のワンピースを身に纏い、背中には鮮やかな黄色の大きなリボンが現れる。

 

「キュー!奇跡の二人!」

 

長針が9へ。二人の足元に光が集まった。

あんなは紫色、みくるはピンク色のブーツを履き、同時にニーハイソックスが脚を彩る。

あんなの手には薄い水色のフィンガーレスグローブ。その上から薄紫色のオープンフィンガーグローブが重なる。

みくるの手にも薄紫のフィンガーレスグローブと、薄ピンクのオープンフィンガーグローブ。指先には、それぞれの色のネイルがきらりと輝いた。

 

「くるっと回して、キュートに決めるよ!」

 

長針が11へと進む。

あんなの左右のお団子には華やかな髪飾りが添えられ、耳元にはピアスが揺れる。

みくるの髪には大きなリボンの髪飾り。そして同じく、両耳にピアス。

さらに二人の胸元にはネクタイ型のリボン。肩には短めのケープが重なり、装いが完成へと近づいていく。

ジュエルキュアウォッチは光となって収束し、衣装の腰にあるキャリーへと収められた。

 

「どんな謎でも、はなまる解決!名探偵『キュアアンサー』!」

「重ねた推理で、笑顔にジャンプ!名探偵『キュアミスティック』!」

 

可愛らしい決めポーズを決める。

最後に二人は自然と歩み寄り、並び立つ。

 

「「名探偵プリキュア!」」

 

ミスティックが、ビシッと指を差す。

 

「私の答え、見せてあげます!」

 

 

ゴウエモンに加勢を頼まれたるるかは、覚悟を決めた顔でペンダントを強く握りしめる。

 

「……オープン……」

 

胸元のペンダントが強い光を放つ。

光は細く伸び、形を作り、るるかの手の中で長くしなやかな『杖』へと変貌した。

 

「ティアアルカナロッド」

 

指先を添えた瞬間、るるかの身体はふわりと舞い上がる。

衣装は紫の光を帯び、周囲へと輝きを弾けさせる。

 

マコトジュエルを静かにロッドへ装着する。

 

円を描くように一回転。

足元に広がる魔方陣が妖しく光った。

 

「シャッフル」

 

ロッド上部のカードがくるりと回転した瞬間、るるかの髪は漆黒へ。

もう一度、指先でカードを弾けば、闇は一転して金色へ。

かきあげた髪の先には、鮮やかなピンク色のグラデーション。

 

「リバース」

 

髪はさらに長く伸び、ふわりと広がる毛先。

 

ロッドから流れる光がるるかの体を次々と包み込む。

ノースリーブのワンピースが身体を包み、黒を基調とした衣装と明るく揺れる髪が、お互いを強調し合う。

スカートには紫色の雫が散りばめられ、静かに揺れる。

 

カンッ。

ロッドを地に打ち付けた瞬間、露わだった脚は濃い紫色のサイハイソックスと濃紺色のショートブーツに包まれる。

祈りを捧げるように両手でロッドを握ると、手首には繊細なリストカフスが装着される。

頭には、黒いダイヤ型が並ぶ髪飾りを装着、その中央下には雫型の石飾りが付けられている。

 

目元へ右手を当てて下に下ろすと、瞳は紫から赤へと変化、瞳の奥にハートの光が宿っている。

耳元には雫型のピアス。

頭の後ろには黒い蝶の飾りを添えた薄紫のヴェールが静かに寄り添う。

 

ロッドの先端を胸元へと当てると、紫色の光が体を包み込む。

黒いケープが肩を覆い、胸元にはネクタイ型のリボンが可憐に結ばれる。

 

「神秘と秘密で包み込む――『キュアアルカナ・シャドウ』」

 

ロッドのカードに映るのは、彼女の氷のように冷たい横顔。

一歩、また一歩と進むだけで、神秘が満ちていく。

ロッドをくるりと回し、持ち替える。

 

「さあ……迷宮へ誘いましょう」

 

 

「ハン、ニン、ダー!」

 

パティシエ姿のハンニンダーが、巨大な絞り袋から紫色のクリーム状の物体を次々と撃ち出してきた。

 

「はっ!」

 

それを軽快なジャンプで避けるアンサーとミスティック。

 

「「写真を返して!」」

 

二人がハンニンダーへと駆け出す。

 

「アルカナスターレイン」

 

アルカナ・シャドウがロッドを振りかざし、上空から無数のレーザーを放つ。

 

「きゃぁっ!」

 

狙いすました一撃が、アンサーとミスティックに直撃する。

 

そんな激しい戦いが繰り広げられてる中、異次元フィールドの中を一人走る人物がいた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

息を切らしながら走って追いかけてきたのは、くれあだった。

 

「あれは……」

 

アルカナ・シャドウは、レーザーが直撃して立ち上がる煙を冷たく見下ろしていた。

すると、煙の中からミスティックリフレクションの盾が現れ、煙を強引に払い除けた。

 

「はぁーっ!」

 

駆け出したアンサーが渾身のパンチを放つが、アルカナ・シャドウはティアアルカナロッドの柄で難なく受け止める。

 

「ハンニンダー!」

 

再び絞り袋から紫色の物体を無差別に乱射するハンニンダー。

 

「っ!」

 

アンサーだけでなく、アルカナ・シャドウも巻き込まれそうになり、二人は大きく飛び退いてその攻撃を避ける。

 

「ちょっと! 味方を狙ってどうするのよ!」

「俺のせいじゃねえ!」

 

ハンニンダーがアルカナ・シャドウまで攻撃した事に怒り、屋根の上でゴウエモンにポカポカと連続パンチを見舞うマシュタン。

ゴウエモンも「俺が命令したわけじゃねえ!」と必死に否定する。

 

ジャンプをして攻撃を躱したアルカナ・シャドウ。

空中で、ふと視線を横に向けた彼女は、息を呑んだ。

 

「なっ……」

 

その視線の先。

異次元フィールドの中に入り込み、木の陰から戦いをじっと見つめている『くれあ』の姿があったのだ。

 

「おっ、いい根性してるじゃねえか」

 

くれあが来ていることを見つけ、感心して褒めるゴウエモン。

マシュタンは「何でくれあが!?」と空いた口が塞がらなかった。

 

(どうして、くれあが……。いや、今はそれどころじゃないわ!)

 

アルカナ・シャドウは焦燥に駆られた。

 

「ゴウエモン! 後はお願い!」

 

アルカナ・シャドウは戦いを完全に放棄し、くれあの元へと一直線に向かっていく。

ハンニンダーと戦っているアンサー達は、くれあがいることにはまだ気づいていない。

 

「おう、任しとけ! ハンニンダー!」

 

アルカナ・シャドウに頼まれて嬉しそうにするゴウエモン。

巨大なホイッパーを取り出したハンニンダーへと、アンサー達が立ち向かっていく。

 

***

 

「……どうしてここに?」

 

アルカナ・シャドウが、木の陰に隠れるくれあの目の前に静かに降り立った。

 

「あなた……もしかして、るるかさん?」

 

くれあが、仮面の下の素顔を暴くように問いかける。

 

「なっ……」

 

アルカナ・シャドウの赤い瞳が見開き、強い動揺が走った。

 

(気付かれた……!)

 

彼女は、今にも泣き出しそうな表情になり、思わず俯いてしまった。

 

(お願い……見ないで。正義の名探偵じゃなくなった、怪盗に落ちぶれたこんな私を……真っ直ぐなその目で見ないで……っ)

 

だが、震える心を必死に抑え込み、再び冷たい顔を作って顔を上げる。

 

「答えて。……どうしてここに?」

 

質問を返すアルカナ・シャドウ。

 

「このあたりに、写真があるんじゃないかって……」

「あなた……こんな危険なところに、まだ写真があると思っているの?」

 

アルカナ・シャドウは、ティアアルカナロッドの先端をくれあに突きつけて問う。

 

(お願い。今すぐここから立ち去って……。もうこれ以上、戦いに関わらないで……っ)

 

るるかの心の悲鳴とは裏腹に。

 

「ええ」

 

くれあは、突きつけられたロッドに全く臆することなく、真っ直ぐに答えた。

 

「なぜ……?」

 

「私の心に浮かんだ直感。……『私のきらめきに従った』の」

 

「きらめき……ッ」

 

アルカナ・シャドウの目が見開かれた。

それは『帆羽くれあ』が必ず口にしていた、思い出の言葉だったからだ。

 

「……それが、正しい判断だとは限らないわ」

 

その『きらめき』を、何とか否定しようとするるるか。

 

「それでも、私は私のきらめきを信じる!」

 

たとえ正しくなくても、自分の直感を信じると言い切るくれあ。

その強さは、記憶を失っていても、あの頃と何一つ変わっていなかった。

 

アルカナ・シャドウは、ロッドを下ろし、悔しそうな、そして酷く苦しそうな顔をした。

 

(やっぱり、駄目なの……? どんなに私が罪を被って遠ざけようとしても……くれあを、名探偵としての運命(たたかい)から遠ざける事は……出来ないの……っ)

 

その時。

絞り袋から大量の紫色のクリームを撃ち出すハンニンダー。

 

「ミスティックリフレクション!」

 

ミスティックが光の盾をブーメランのように投げつけ、すべてのクリームを鮮やかに切り裂いた。

 

「「ハァーッ!」」

 

隙を突いたアンサーとミスティックのダブルパンチが、ハンニンダーの顔面に炸裂する。

 

「やった!」

「ポチ!」

 

喜ぶジェット先輩とポチタン。

 

「オープン! プリキットミラールーペ!」

「ポチタン!」

「ポチー!」

 

ポチタンからマコトジュエルを受け取り、ミラールーペへと装着する。

 

「マコトジュエル!」

 

装着した瞬間、ミスティックの全身からピンクの光が噴き上がった。

 

「キュアミスティックが、解決!」

 

中央の宝石が三回回転し、ミラールーペから細身の片手剣『レイピア』が伸びる。

ピンクに輝く鋭い剣身が、その存在感をさらに際立たせた。

 

「プリキュア! ミスティックストライク!」

 

名乗りと同時に、青空に純白の羽根が舞う。

 

「はああああああああっ!!」

 

ミスティックの閃光のような刺突が一気にハンニンダーへと迫り、ハンニンダーは咆哮を上げる間もなく光に包まれた。

 

一閃。

ミスティックがレイピアを軽く払うと、巨大な胴体が静かに貫かれ、崩れ去った。

 

「キュアット解決!」

「ハン……ニン……ダー……」

 

ハンニンダーが浄化され、マコトジュエルと写真に分離する。

 

「ポチポチキュアキュア!」

 

ポチタンが素早く飛び出し、マコトジュエルの欠片を吸収した。

 

異次元フィールドが、解けていく。

 

「そんな……マコトジュエルが……っ」

 

マコトジュエルをすでにポチタンに吸収されてしまった事に、アルカナ・シャドウは絶望的なショックを受ける。

しかし、目の前にくれあがいる手前、すぐに感情を押し殺して冷たい表情を取り繕った。

 

「……写真、探偵たちが取り戻したみたいね」

 

アルカナ・シャドウは、くれあから目を逸らした。

 

「もう、ファントムから狙われることはないわ」

 

くるりと背を向けるアルカナ・シャドウ。

 

(そう……。もうこれで、お店が……くれあが狙われずにすむ。……これで、いいの)

 

歩き出そうとするアルカナ・シャドウ。

 

「待って!」

 

くれあが背中を呼び止める。

アルカナ・シャドウは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

 

「……どうして、怪盗団にいるの?」

 

くれあが、純粋な疑問をぶつける。

 

「どうして……か……」

 

アルカナ・シャドウは、少しだけ自嘲気味に微笑み、さっきのくれあの言葉を借りた。

 

「『私のきらめきに従った』。……そんなところかな。さようなら」

 

「アイス……いつでも食べに来てくださいね。待っているわ、るるかさん」

 

去っていく彼女の背中に、くれあは変わらず『常連客のるるか』として待っていると告げた。

 

(……もう無理ね。私が、あの温かいお店に行くことは、もう二度と……)

(それに……『るるかさん』……か。もう昔みたいに、呼び捨てにしてくれることもないのね……)

 

今にも泣き出しそうな顔を隠し、アルカナ・シャドウは夕暮れの空へと飛び去っていった。

 

***

 

パティスリーチュチュへと戻ってきた一同。

 

「ありがとう。……さすが探偵さんね」

 

写真を受け取り、感謝するくれあ。

 

「いや〜」

「それほどでも〜!」

 

照れるあんなとみくる。

 

「純粋……」

 

くれあが、レジに飾られている百合の花を見つめて呟いた。

 

「えっ……」

「百合の『花言葉』よ。……急に思い出して」

 

くれあは、どこか切なそうに目を伏せた。

 

「純粋だからこそ……誤った方に突き進んでしまうのかもしれないわね」

 

悲しそうに自分を見つめていた、るるかの横顔を思い出すくれあ。

 

「あの人……もしかしたら、あなたたち二人の『きらめき』を信じているのかもね」

「「私たちの……」」

「「きらめき……」」

 

***

 

探偵事務所へと戻ってきた一同。

 

「くれあさんがエクレール候補ねぇ」

 

ジェット先輩が顎を撫でる。

 

「ファントムの行動を完璧に読んでいたもん!」

「すごい名推理だったよね!」

「まあ、ありえない話じゃないな」

 

「しるくさんに、エリザさんに、くれあさん……」

 

みくるが指折り数える。どんどんキュアエクレールの候補者が増えていく。

 

「ポチ〜」

 

ポチタンの声に反応し、その方向へと向かう一同。

 

「わあ!」

「綺麗!」

 

事務所の庭で、美しい百合の花が咲いていた。

 

「このユリ、僕が事務所に来る前から植えてあったんだけど、ようやく咲いたんだな」

「ポチ〜!」

「うーん……すごくいい香り」

 

あんなが顔を近づける。

 

「本当。……あれ?」

 

みくるがハッとした顔をする。

 

「この香り……私が初めて部屋(みくるの部屋)に入った時と同じ香りだ!」

「えっ!?」

「前にあの部屋を使っていた探偵……キュアエクレールは、この香りが好きだったんじゃない?」

 

あんなとみくるが顔を見合わせる。

 

『香りは、大切な記憶を運んでくれるのよ』

 

くれあの言葉が脳裏に蘇る。

 

「香りは記憶を運ぶ……!」

「この香りを嗅げば!」

「キュアエクレールの記憶が戻るかも!!」

「ええ!」

 

名探偵の二人に、大きなきらめきが走った。

 

「ということで……」

「ジェットせんぱーい」

「この香りを再現する、何かいい方法をば!」

 

おねだりする二人。

 

「任せろ!」

 

ジェット先輩が自信満々に答える。

 

「「さすが!」」

 

***

 

怪盗団ファントムのアジト。

薄暗い劇場の中央。

舞台の上で、るるかだけにスポットライトが照らされていた。

 

「アルカナ・シャドウ」

 

VIP席から見下ろすウソノワールの声は、氷のように冷酷だった。

 

「マコトジュエルを逃すとはな」

 

任務の失敗に、ウソノワールの機嫌は最悪だった。

すると、ウソノワールが掌を虚空にかざす。

その手元に、二つのマコトジュエルがフワリと出現した。

一つは、『エクレールの心のマコトジュエル』。

そしてもう一つは……ひび割れ、今にも砕け散りそうな『シンシア(こころ)の心のマコトジュエル』だった。

 

「なっ……!」

 

驚き目を見開く、るるかとマシュタン。

 

「……これが必要なのだろう?」

 

ウソノワールの目が、獲物をいたぶるように怪しく光る。

それは、明らかな『脅し』だった。

 

「そ、それだけは……っ! それだけには、手を出さないで……っ!」

 

るるかの声が震える。

 

「…………」

 

ウソノワールは無言のまま、エクレールのマコトジュエルを消し、ひび割れたキュアシンシアのマコトジュエルのみを手元に残した。

そして、ゆっくりと……そのジュエルを握りつぶすような素振りを見せた。

 

「やめてッ!!」

 

るるかは、スポットライトの照らす舞台の上で、膝から崩れ落ち……そのまま冷たい床に手をつき、深く頭を擦り付けた。

『土下座』だった。

 

「お願い……お願いします……っ」

 

天才探偵のプライドなど、とうの昔に粉々に砕け散っている。

シンシアの心のマコトジュエルを壊されるわけにはいかない。

限界を迎えている妹のマコトジュエルだけは、これ以上傷つけられるわけにはいかないのだ。

今のるるかには、地べたに這いつくばって、悪魔に頭を下げて懇願することしかできない。

 

「お願いします……! そのマコトジュエルは……私の、一番大切なものなんです……っ。お願いします……どうか……ッ」

 

「……その約束を果たしてもらいたければ、手段を選ぶな。マコトジュエルを手に入れろ」

 

見下ろしながら、ウソノワールがるるかを脅す。

 

「『約束の日』は、近い」

 

ウソノワールが、頬杖をつきながら告げる。

 

「ライライサー」

 

「ライライサー!」

幹部席から、ゴウエモンが返事をする。

 

以前よりも不気味に目を光らせているウソノワール。

るるかは、震える足でゆっくりと立ち上がり、ファントムのポーズを取った。

マシュタンも、同じくポーズを取る。

 

そして、いつもならマシュタンが代わりに返事をして、るるかは沈黙を貫いていた。

しかし、今回は違った。

 

「くっ……っ」

 

るるかは、血が出るほど強く唇を噛み締め、屈辱と絶望で顔を歪ませた。

大切な人質の命を盾に取られ、もう逃げ場はどこにも残されていなかった。

 

「……ライライサー」

 

今まで決して口にしてこなかった、服従の返事。

精神的に極限まで追い詰められたるるかは、ついに屈服し、自分の意志でその言葉を発してしまったのだった。

森亜るるか、森亜こころは、救われるべきか。(今の所るるかが名探偵として復帰後、最終的には、こころも元に戻り救われる方向で考えている。)

  • 救われるべきだ
  • るるか離反、世界を創り変える
  • その他(バッドエンド等)
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