名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
ウソノワールの元へと、シンシアが歩みを進める。
もう既にボロボロになった彼女の足取りは、ひどくおぼつかない。
「はぁっ……、はぁっ……、くっ、はぁっ……」
荒い息を吐き、激痛に耐えながらフラフラと歩く。
ウソノワールもまた、ゆっくりと彼女へと向かって歩き出し、両者の距離がじりじりと縮まっていく。
「まだ諦めないのか、キュアシンシア」
「はぁっ……、悪いんだけど、諦める選択肢なんて……私には、最初からないよ」
血で汚れた顔を上げ、シンシアは毅然と言い放った。
「ここまで実力の差を見せつけたのに、なぜだ。何が貴様をそこまで動かす」
「私には、守りたいものがある」
シンシアは、痛みを堪えながら言葉を紡いだ。
「くれ姉、マシュタン、シュシュタン、探偵事務所での日々、今までの思い出……」
そして、ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、泥だらけになりながら、泣きそうな顔でこちらを見つめるるるかがいた。
シンシアは、姉へ向けて痛ましげに、けれど優しく微笑んだ。
「それに……大好きなお姉ちゃんを守りたいから。だから……どんな状況でも……諦める気なんてない」
「……」
「諦めてたまるもんか!」
シンシアの揺るぎない覚悟を聞き届け、ウソノワールは冷酷に宣告した。
「そうか。ならば仕方ない。貴様が諦めるまで、徹底的に叩き潰させてもらう」
「うわあぁぁぁっ!!」
シンシアはフラつきながらも、ウソノワールへと駆け出した。
もう、足を高く上げる力も、重い蹴りを放つ力も残っていない。
それでも彼女は、絶対的な絶望へと立ち向かう。
(足は上がらない。右手も駄目。でも……まだ左手は動く!)
シンシアはウソノワールの懐へ飛び込み、最後の力を振り絞って左拳を放った。
しかし。
ペシッ。
さっきまでの拳と同様、そこに力は全く籠もっていなかった。
今のシンシアには、まともに戦うための体力も気力も、一滴たりとも残っていなかったのだ。
それでも、彼女は諦めない。
何度も何度も、無力な左手で拳を放ち続ける。
ペシッ、ペシッ、ペシッ、ペシッ。
ウソノワールは微動だにせず、ただそこに佇んでいる。
乾いた、悲しい音が響き渡る。
「つぅっ……、まだ……まだ……!」
「うぁぁぁぁっ!」
激痛に耐えながら、幾度となく拳を打ち付ける。
ペシッ、ペシッ、ペシッ、ペシッ。
「まさか、ここまで諦めが悪いとはな」
ペシッ、ペシッ、ペシッ――パシッ。
ウソノワールの大きな手が、シンシアの左拳をあっさりと受け止めた。
「もう満足したか。キュアシンシア」
ウソノワールは、受け止めたシンシアの左手を自身の右の手のひらで包み込み、ゆっくりと力を込め始めた。
シンシアの左手を、右手と同じように破壊するつもりなのだ。
ミシミシッ。
その気味の悪い音を聞いた瞬間。
どれだけ痛めつけられても決して諦めなかったシンシアの脳裏に、「右手の骨が砕かれた時の感触」が鮮烈にフラッシュバックした。
凄絶な痛みの記憶が、14歳の少女の心に耐え難い恐怖を呼び起こす。
「ひっ……や……やだ……はなして!」
声が震え、瞳孔が開く。
死を恐れなかったはずの彼女の口から、初めて恐怖の叫びが漏れた。
「今さら遅い。諦めろ、キュアシンシア」
『メキメキッ……バキッ!!』
「キャアァァァァァァァァァッ!!」
シンシアの左手の骨が、無惨に砕け散った。
耐え絶えない激痛による絶叫が、静かな湖畔に響き渡る。
「こころぉぉぉっ!!」
「こころちゃん!」
るるかとマシュタンの悲痛な叫びがこだまする。
シンシアは膝を突き、両腕をだらりと下げたまま、痛みによる悲鳴と泣き声を上げた。
「あぁぁぁ……! ひぐっ、えぐっ……。痛い……痛いぃぃぃ……っ」
右手の骨が既に砕けているシンシアは、痛む左手を庇うように押さえることすらできず、ただ地面に膝をついて泣き叫ぶことしかできなかった。
「終わりだな。キュアシンシア」
ウソノワールが、泣き崩れるシンシアを冷酷に見下ろす。
「あっ……」
涙で顔をくしゃくしゃにしたシンシアが見上げた瞬間。
ウソノワールの蹴りが、シンシアの無防備な腹部へと深々と突き刺さった。
「がはっ!!」
シンシアの身体が、ボールのように上空へと蹴り上げられる。
宙を舞う彼女の先へ、ウソノワールが一瞬で先回りしていた。
逃げ場のない空中での追撃が、シンシアを襲う。
「ぐぁぁぁっ!」
下へと落下していくシンシア。
しかし、ウソノワールはさらにその下へと先回りしている。
地面に落ちる寸前、ウソノワールの拳がシンシアの脇腹に深々とめり込んだ。
『メキメキッ!』
「がはっ!」
横へと凄まじい勢いで吹き飛ばされたシンシアの身体が、巨大な木の幹に激突する。
「かはっ……!」
口から肺の空気が強制的に漏れ出る。
木の幹から地面に落下する前に、再びウソノワールの蹴りが炸裂した。
シンシアの身体は、さらに横へと錐揉み回転しながら飛ばされる。
飛ばされては、先回りされ、攻撃を食らう。
「ぐあっ!」
「うぁっ!」
「ぐふっ!」
「ゴホぁっ!」
ウソノワールによる、一方的で残虐な蹂躙。
シンシアの身体は、何度も何度も空中をバウンドし、決して地面に落ちることすら許されなかった。
「こころ……こころ……、お願い……もうやめて」
そのおぞましい光景を、るるかはただ見ていることしかできなかった。
「ウソノワール! もうやめてっ!!」
るるかは泥だらけの顔を上げ、涙を振り乱して絶叫した。
るるかは、プライドなどとうに消え失せていた。
「お願い! もう……これ以上は……こころが死んじゃう……っ! お願い……!!」
シンシアがボロボロになっていく姿を、ただ涙を流して見ていることしかできない。
ウソノワールに声が届くかどうかも分からない。
それでも、そうやって喉を枯らして懇願するしかなかった。
マシュタンも、己の無力さを呪いながら悔し涙を流し続ける。
誰も、ウソノワールを止めることなどできなかった。
意識が完全に朦朧とし始めたシンシア。
ウソノワールが、飛ばされてきた彼女の身体を正面から容赦なく殴り飛ばした。
「うぁっ……!」
シンシアの身体が、再びるるかのいる方角へと弾き飛ばされる。
今度は地面を深く抉り、土煙を上げながら何度もバウンドし、るるかが倒れている場所の、わずか数メートル手前でようやく止まった。
「うっ……あっ……」
ピクピクと痙攣するシンシア。
もはや意識は混濁し、身体中の至る所から夥しい血を流している。
光り輝いていたプリキュアのコスチュームも、あちこちが破け、見るも無惨にボロボロになっていた。
「ケホッ、ケホッ……ゴボッ!」
意識を失いかけていたシンシアが激しく咳き込むと、その口から赤い血が吐き出された。
「こころ! こころ!!」
るるかは、動かない身体を引きずり、マシュタンと共に再びシンシアの元へと這って向かう。
両手の骨は砕け、全身の骨が軋み、臓腑にダメージを負ったシンシアには、もう立ち上がる力はおろか、指一本動かす力すら残っていなかった。
変身が解除されていないのが奇跡と思えるほどの、文字通りの瀕死状態。
その凄惨な空間に、ウソノワールの足音が静かに響き渡る。
泥と血に塗れた姉妹の元へ、ウソノワールがゆっくりと歩みを進めてきていた。
「ウソノワール! お願い! もう……これ以上はやめて!」
「お願い! 死んじゃう。こころが……死んじゃうから……もう許して……っ!」
喉が裂けるほどの、るるかの悲痛な叫び。
しかし、ウソノワールは歩みを止めることなく、冷酷に言い放った。
「駄目だ、キュアアルカナ」
「……っ!」
「貴様らは、我ら怪盗団ファントムの邪魔をした。これは貴様への見せしめでもある」
ウソノワールは、倒れ伏すシンシアの右足の上に、自身の重いブーツを乗せた。
「どんな気分だ。大切な人間が、目の前で苦しむ姿は」
「やめ――」
るるかが制止するより早く、ウソノワールが無造作に右足を踏みつける。
『メキッ!』
「イヤァァァァァァァッ!!」
骨が軋む音と共に、シンシアの絶叫が弾けた。
薄れかけていた意識が、激痛によって強制的に覚醒させられる。
「嫌だ……痛い……やめてぇっ……!」
「お願い! やめて!」
「お願いよ! もうこれ以上は、こころちゃんが!」
るるかとマシュタンが涙ながらに懇願する。
しかし、ウソノワールの仮面の奥の瞳は、一切の感情を宿していなかった。
「どうだ、キュアシンシア。我ら怪盗団ファントムに逆らった結果は。分かっただろう。貴様がいくら頑張ろうとも私には勝てない。もう諦めがついただろう」
「あ……ぁ……っ」
ウソノワールは、踏みつけている足にさらにギリッと力を込めた。
「うぁぁぁぁぁぁっ! イヤァァァァァッ!!」
「痛い……痛い……痛い……痛い……痛いよぉぉぉっ!!」
「アァぁぁぁっ!!」
湖畔に、14歳の少女の、キュアシンシアの痛ましく狂おしい泣き叫ぶ声が響き渡る。
「お願いよ。本当にこれ以上は……っ」
「諦める。諦めるから……! もう逆らわないから、もうやめて……っ!!」
泥に顔を擦り付けながら、るるかは必死に頼み込んだ。その隣でマシュタンも頭を下げていた。
名探偵としてのプライドなど微塵もない。
ただ、妹の命だけを助けてほしい。
これ以上は、本当にこころの命が散ってしまう。
「駄目だ。貴様らが頼み込んでも聞くつもりはない」
「ウソノワール……!」
「キュアシンシアが、直接そう言わない限りはな」
その言葉に、るるかは血の滲むような思いで妹へと声を絞り出した。
「こころ! お願い……もう諦めてもいいから。もうこれ以上は、貴女が……!」
「答えたらどうだ、キュアシンシア。貴様の大切な姉はこう言っているぞ」
踏みつけられ、泣きじゃくるシンシア。
しかし彼女は、歯を食いしばり、血塗れの顔をウソノワールへと向けた。
「うぁぁぁぁぁぁっ……!」
「い、いや……だ。ぜ、ぜっ……たいに……あきらめたりなんて……するもん……か……!」
「な、何言ってるの……こころ。お願い……これ以上は貴女が本当に死んじゃうから……!」
「嫌だ! 絶対にいうもんか!」
激痛に震えながらも、シンシアの瞳の奥の光は決してまだ死んでいなかった。
「ここで諦めたら……お姉ちゃんを裏切ることに……お姉ちゃんを否定することになる……っ!」
「こころ……」
「私のお姉ちゃんは……天才探偵なの。自慢の名探偵なの! 私は、お姉ちゃんの妹として……絶対に諦めたりなんて、するもんかぁっ!!」
血を吐くような、魂からの叫び。
自身の命が尽きようとも、敬愛する姉の誇りだけは絶対に守り抜く。
その本心を聞いたるるかとマシュタンは、言葉を失い、ただ涙を流すことしかできなかった。
「そうか……」
ウソノワールが、静かに足をどけた。
そして、シンシアの頭を乱暴に掴み、彼女の身体を宙へと持ち上げる。
「は、はなして……はなしてよ……っ」
「ウソノワール……何を……っ」
「貴様達に、特別に私の力を見せてやろう」
ウソノワールの力。
るるか達は、怪盗団ファントムのボスの能力について「ウソで覆う能力を持っている」という漠然とした噂だけは耳にしていた。
だが、その恐るべき実態を知る者は誰もいなかった。
「嘘よ、覆え!」
ウソノワールの瞳が、不気味な真紅の光を放った。
直後、宙吊りにされたシンシアの瞳もまた、同じように赤く妖しく発光した。
(え……?)
シンシアの視界が、真っ赤に染め上げられる。
自分の意志とは無関係に、脳の奥底に逆らえない絶対的な『命令』が直接書き込まれていくようだった。
「貴様は自分の足を、その拳に力を込めて痛めつける」
「なにを……一体、なにを言ってるの……!」
るるかの問いに対する答えは、最も残酷な形で示された。
「あ……あぁ……っ!?」
シンシアの右腕が、ひとりでに高く振りかぶられた。
骨にヒビが入り、まともに動かすことすらできなかったはずの右腕に、強制的に限界以上の力が込められていく。
そして。
「や……やめて……私の……うで……っ!」
支配されながらも意識のあったシンシアは抵抗しようとしていた。
しかし無意味だった。
シンシアの右拳が、信じられない速度で振り下ろされ、自身の右足へと、思い切り叩きつけられた。
『バキッ!! メキッ!!』
骨と肉が砕ける、あまりにもおぞましい音が響いた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
自らの手で自身の足を破壊するという絶望的な激痛と共に、シンシアの瞳から赤い光が消え、元の色へと戻る。
「こころ……! 一体どうして……っ」
「嘘で覆ったのだ」
唖然とするるるかへ、ウソノワールは平然と告げた。
「嘘で覆う……?」
「私は、世界を自身の『ウソ』に沿うように改変する事が出来る」
「……っ!」
「キュアシンシアは私の嘘で覆われたから、私の言った通りの行動をしたのだ」
るるかの全身から、サァッと血の気が引いた。
「そんな……そんなの……っ」
(そんなの、一体どうしたら……! ただでさえ次元が違うほど強いのに……こんな能力まで……!)
現実を強制的に改変し、相手の身体と意志すらも意のままに操ることが出来る力。
もはや『戦闘』すら成立しない。それは完全なる、神の如き理不尽だった。
今なお、狂おしい悲鳴を上げ続けているシンシアへ向け、ウソノワールは再び呪いの言葉を紡いだ。
「嘘よ、覆え!」
「もう片方の足も、同じくもう片方の拳で痛めつけろ」
再び、シンシアの瞳が真っ赤に染まる。
今度は左手が強制的に振り上げられ、粉々に砕けた左拳が、自身の左足へと無慈悲に振り下ろされた。
『ゴキッ!!』
「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
身体の自由を完全に奪われ、自身の腕で自身の両足を破壊させられたシンシア。
もはや腕を支える力もなく、だらんと両手を垂らしたまま、シンシアは絶望の涙を流した。
強制的な追い打ちにより、両手足は完全に破壊され、もう自力で手足一つ動かすことすらできなくなっていた。
「終わりだ。キュアシンシア」
それでも。
それでもまだ、シンシアはウソノワールを睨みつけていた。
「ヒグッ……ま、まだ……終わってない……。わ、私は……まだ……倒れてない……っ」
「見上げたものだ。だが、言葉では何と言おうとも貴様は現実を受け入れるべきだ」
ウソノワールは、頭を掴んで持ち上げているシンシアの無防備な腹部へ向け、空いている左腕を深く突き入れた。
『ドゴッ!!』
凄まじい陥没音が響き渡る。
「ゴボッ……!!」
シンシアの口から、大量の鮮血が吐き出された。
ウソノワールはそのまま、サンドバッグのように何度も何度も、容赦なく腹部へと重い拳を叩き込み続ける。
「やめて……やめてよ……お願い……やめてぇっ……!!」
るるかの悲鳴が響く中、シンシアの身体が殴られる度にビクッ、ビクッと痙攣する。
そして、ウソノワールは最後の一撃を下から跳ね上げるように放ち、シンシアの身体を遥か上空へと打ち上げた。
放物線を描き、意識を失いかけたシンシアの身体が真っ逆さまに落下してくる。
受け身など取れるはずもない。
背中から地面へと激突した瞬間、地響きと共に巨大な砂煙が巻き起こった。
砂煙が晴れるとそこには、手足を不自然に広げた状態で仰向けに倒れているシンシアの姿があった。
落下の凄まじい衝撃により、地面がすり鉢状に抉れ、彼女の身体はそこに深くめり込んでいた。
「うっ……あっ……」
辛うじて、本当に辛うじて意識だけが残っている状態。
「こころ……っ」
少し離れた場所で、るるかは泥だらけの右手を、届くはずもない妹の方へと必死に伸ばした。
その気配を感じ取ったのか、シンシアは辛うじて首だけを僅かに動かした。
「お、お……ねえ……ちゃ……ん……」
血で真っ赤に染まり、ひどく霞む視界の中。
シンシアは、自分に向かって必死に手を伸ばするるかの姿を捉えた。
仰向けのまま、顔だけをるるかに向けたシンシアは、ピクリとも動かないはずの腕に最後の意志を込め、届くはずもない手を、同じように姉へと伸ばそうとする。
「お……ね……え……ちゃ……ん……」
痛みに歪み、涙で濡れた、泣きそうな顔。
それでも、姉を想う無垢な愛情だけがそこに満ちていた。
「こころ……こころ……っ」
――その時だった。
ウソノワールが、シンシアの真上、上空へと静かに浮かび上がった。
「今度こそ終わりだ。キュアシンシア」
ウソノワールの右手に、巨大で禍々しい紫色のエネルギーが収束し、弾丸となって撃ち出された。
「やめてぇぇぇぇぇっ!!」
るるかの絶叫を引き裂くように、エネルギー弾が仰向けに倒れているシンシアへと直撃する。
「キャァァァァァァァァーッ!!」
断末魔のような悲鳴と共に、周囲の木々を薙ぎ倒すほどの巨大な爆風と砂煙が発生した。
るるかは地面に顔を伏せて何とか爆風に耐え、マシュタンもるるかの服に必死にしがみついて飛ばされるのを防いだ。
やがて、煙が晴れる。
そこには、コスチュームが原形を留めないほどに破れ散り、全身が傷と血で覆われたシンシアの姿があった。
「………………」
もはや、微かな呻き声すら聞こえない。
完全に意識を失い、生死の境を彷徨っている。
しかし、ウソノワールの無慈悲な攻撃は終わっていなかった。
トドメを刺すかのように、再びその右手に紫色のエネルギーが練り上げられる。
「もうやめて……もうやめてよ……っ!
」
るるかの掠れた懇願も虚しく。
ウソノワールの手から、三発の巨大なエネルギー弾が連続して放たれた。
『ドガァァァァンッ!!』
三発すべてのエネルギー弾が、キュアシンシアの身体へと情け容赦なく直撃する。
「あああああぁぁぁぁぁぁっ……!!」
るるかの絶望の叫びがこだまする中――。
遂に、限界を優に超えたシンシアの身体が淡い光に包まれた。
パチンッ、と儚い音を立てて光が弾け飛び、キュアシンシアの変身が強制的に解除され、森亜こころの姿へと戻る。
しかし、その姿は、先ほどるるかが変身解除された時とは全く異なっていた。
全身の至る所から血を流し、身につけていた白いシャツも薄紫のベストも、ズタズタに引き裂かれている。
何よりも目を覆いたくなるのは、骨が砕けた両腕と両足。
そして、破れた服から覗く腹部は、内出血によって痛々しい青紫色に腫れ上がっていた。
全身の打撲、骨折、内臓への深刻なダメージ。
誰の目から見ても、致命的な状態であることは明らかだった。
「そんな……こころ……。こころ……お願い……目を開けて……」
泥と血の海の中で、るるかは絶望に打ち震えながら妹の名を呼んだ。
「こころ……こころ……。こんなのって……」
ピクリとも動かない、冷たくなっていく妹の身体。
キュアシンシアは、森亜こころは、ウソノワールの前に完全敗北を喫した。
もはや、この絶望の化身であるウソノワールを止められる者は、この場には誰一人として存在していなかった。