名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜   作:暁 蒼空

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第16話:エクレールの復活、歪んだ願い の後日談となります。


第16.5話:追憶の底に沈む真実と、涙の箱庭

くれあが記憶を取り戻し、三人目の名探偵『キュアエクレール』として完全復活を果たした。

 

しかし、記憶を取り戻したくれあから、かつての自分はキュアット探偵事務所にいたものの、『名探偵ではなかった』という衝撃の事実を告げられたあんなとみくる。

さらに詳しい話を聞こうとした矢先、ポチタンが街でマコトジュエルの気配に反応したため、急遽出動することに。

 

事件の犯人はニジーだった。

くれあを加えた名探偵プリキュアの連携で見事に事件を解決し、マコトジュエルの欠片の回収にも成功した。

 

そして夕方。

キュアット探偵事務所に戻ってきた一同は、美味しい紅茶を淹れ、改めてくれあから『あの日の真実』について話を聞くことになった。

 

「ねぇ、どうして……くれあさんは記憶をなくしちゃったの?」

 

あんなが、ずっと気になっていた最も大きな謎を尋ねる。

 

「私の……心の中にある『マコトジュエル』を、無くしてしまったからかな……」

 

くれあが伏し目がちに答える。

その言葉を補足するように、シュシュタンが横から語り始めた。

 

「マコトジュエルは、『真実の結晶』でシュ!」

「真実の結晶?」

 

あんな達は不思議そうに首を傾げる。

 

「そうでシュ。特に、プリキュアになるための『心のマコトジュエル』は、探偵として体験・経験したことが結晶になるでシュ!」

「私は、その心のマコトジュエルを無くしてしまったの」

「だから、記憶がなくなっちゃったでシュ……」

 

心のマコトジュエルを失ったことで、るるか達と出会ってからの探偵としての日々を、全て忘れてしまっていたくれあ。

 

「マコトジュエルが戻ってきたから……」

「プリキュアに変身できたんだ!」

 

みくるがパッと顔を明るくする。

 

しかし、くれあは少しだけ悲しそうな顔をした。

 

「そう……。でも、あの時……」

 

半年前、ウソノワールがマコトジュエルを手に入れようとした時の事を思い出すくれあ。

 

「私はまだ……プリキュアになれなかった」

「「えっ……」」

 

驚きを隠せないあんなとみくる。

 

「二人は、るるかの事は知ってると思うけど……こころちゃんの事は知ってる?」

 

くれあが、静かに尋ねる。

 

「うん。名前だけは……」

「ロンドンのキュアット探偵事務所からの手紙で、ロンドンにいた頃のこころさんの事と、写真は見たことあるけど……」

「あと、こころさんが『キュアシンシア』だってことも」

 

二人は、自分たちが知っている断片的な情報を正直に話す。

 

「そう。私達は……るるかとこころちゃんと私の三人で、この探偵事務所で過ごしていたのは本当よ」

 

くれあが、懐かしそうに、そして切なそうに語り出す。

 

「でもね、るるか達二人は正式な探偵で……すでに名探偵プリキュアになっていたけど、私はまだ、探偵じゃなかったの」

「それって……」

「るるか達が、私の事を個人的に『探偵助手』として雇ってくれたのよ」

 

ロンドンから、るるか達がまことみらい市のキュアット探偵事務所に行く際に、くれあを助手として連れて行ってくれたのだ。

 

「そうだったんだ……」

「そして、二人も知っている通り……半年前のあの事件。ウソノワールが、巨大なマコトジュエルを手に入れようとしたあの時……」

 

あんな達は息を呑み、真剣に話を聞く。

 

「私達はウソノワールがマコトジュエルの在処を突き止めて、それを奪取する為に動き出したという情報を手に入れて、止めるために動いていたわ」

「あの、湖だよね」

 

ロンドンのキュアット探偵事務所も、そこまでは事件記録として把握していた。

その情報は、あんな達も知っている。

 

「そう。道中で、ニジーとゴウエモンの二人が私達の道を阻んだ。……それを、こころちゃんが『一人で食い止める』って言って残ってくれて、私達はウソノワールの元へ向かったの」

 

「そっか……ウソノワールだけじゃなくて、当然ニジー達もいるはずだもんね」

 

こころが幹部二人の足止めをしていた事も、初耳の重要な情報だった。

 

「こころちゃんに任せて、私とるるかはウソノワールの元へと向かった。……でも、私はプリキュアに変身できないただの人間」

 

くれあが、ギュッと悔しそうに拳を握りしめる。

 

「だから……1人で、るるかがマコトジュエルを奪おうとしたウソノワールを止めようとしたけど……」

 

くれあの声が震える。

 

「……ウソノワールの圧倒的な力の前に、敵わなかった」

 

くれあは、脳裏に焼き付いている、あの絶望の記憶を思い出す。

 

『うっ……。あぁっ!』

 

ウソノワールの理不尽なまでの力で、一方的にボロボロになっていくキュアアルカナ。

 

『はぁっ、はぁっ……』

 

肩で息をするアルカナへ向け、ウソノワールが無造作に手をかざす。

放たれた強大な紫色のエネルギー弾を、アルカナは上空へ飛躍して何とか回避した。

 

『――遅い』

『はっ!』

 

回避し、振り返ったアルカナの背後に、ウソノワールが移動していた。

禍々しい紫色のエネルギー弾が、至近距離からアルカナの背中へ炸裂する。

 

『うわあぁぁぁぁっ!!』

 

悲痛な叫び声を上げ、アルカナは湖畔の地面へと激しく叩きつけられた。

倒れ伏すアルカナへ向け、さらにもう一発のエネルギー弾が無慈悲に放たれ、直撃する。

轟音と共に、爆発の黒い煙が立ち上った。

 

煙が晴れたそこには、うつ伏せで倒れ、ピクリとも動かないボロボロのキュアアルカナの姿があった。

やがてアルカナの身体が淡い光に包まれ、光が弾けると共に、変身が強制的に解除され……るるかの姿へと戻ってしまった。

 

服も、顔も、髪も、埃と煤と血で汚れきっている。

蓄積された深刻なダメージによって、るるかの華奢な身体は完全に限界を迎えていた。

 

『はぁっ、はぁ、はぁ……っ』

 

うつ伏せのまま、るるかは震える腕に力を込め、何とか起き上がろうとするが、力が入らず起き上がれない。

小刻みに震えながら、辛うじて頭を上げることしかできていなかった。

 

『くっ……!』

 

唇から血が滲むほど歯を食いしばるるるか。

 

『るるか……!』

 

るるかを助けたい。

ウソノワールから守りたい。

強烈な想いと共に零れ落ちたくれあの純粋な涙に、彼女の胸の奥で眠っていた『トップオブリリーフレグランス』が奇跡の反応を示した。

 

そして、くれあは初めて『キュアエクレール』に変身した。

凄まじい力でウソノワールへと立ち向かい、その規格外の力でウソノワールを吹き飛ばした。

しかし、吹き飛ばされたウソノワールが巨大なマコトジュエルに激突し、その衝撃でマコトジュエルが砕け散ってしまった。

 

エクレールは、慣れない強大な力を一気に使った反動でそのまま力尽き、変身が解除。

意識を失ったくれあの胸から、『心のマコトジュエル』が抜け落ち……それを、ウソノワールに回収されてしまったのだ。

 

「そんな事が……」

「それが、半年前の真相……」

 

くれあの口から語られた、あまりにも残酷な事件の真相に、あんなとみくるは言葉を失った。

 

「その後、るるかは……くれあのマコトジュエルを取り返すと言ったままいなくなったでシュ」

 

シュシュタンが悲しそうに付け加える。

 

「どうして……」

「分からない……」

 

あんなの問いに、くれあが首を横に振る。

 

「でも、くれあがプリキュアになれたでシュ!」

 

沈んだ空気を変えるように、くれあがプリキュアになれたことをシュシュタンが心から喜ぶ。

 

「今まで、ずっと見守ってくれて、ありがとう!」

 

くれあは、シュシュタンを優しく抱きしめた。

 

だが、あんな達には、もう一つどうしても気になることがあった。

 

「ちょっと待って、くれあさん」

 

みくるが真剣な顔になる。

 

「るるかさんとくれあさんの事は分かったけど……こころさんは? ファントムにいる訳でもなさそうだったけど……」

 

「……分からないの。私は初めてプリキュアになって、その後の記憶がもうないから……」

 

悲しそうな顔をするくれあ。

 

「そっか……そうだよね」

「う~ん……」

 

これだけ調べても、るるかの隣にいたはずの『森亜こころ』の事だけは、全く情報がないあんな達。

 

すると、シュシュタンが小さな手を挙げた。

 

「こころちゃんの事なら……シュシュタン、少しだけ分かるでシュ」

 

「「「えっ!」」」

「本当なの? シュシュタン!」

 

くれあが身を乗り出す。

 

「シュ、シュシュ!」

 

「教えて、シュシュタン!」

「こころさんの事……私達、どうしても知りたいの! どうして、るるかさんがあんな悲しい事になっているのかを……っ」

 

あんなが懇願する。

 

「私も知りたい。どうして、るるかの隣に、いつも一緒だったこころちゃんが居なかったのか……」

 

シュシュタンが、重い口を開き語り出す。

 

「分かったでシュ。でも、シュシュタンもマシュタンや、るるかから聞いたこと以外分からないでシュ。直接この目で見たわけじゃないでシュから」

 

「それでもいいわ。お願い、教えて」

 

あんな達は、息を潜めてシュシュタンの話を聞く。

 

「くれあが心のマコトジュエルを盗られて湖に落ちてから……シュシュタンは、くれあを助けに行ったから、直接の詳しい状況は分からないけど……」

 

シュシュタンの顔が曇る。

 

「マシュタン達の話では、あの後、こころちゃんが湖に駆けつけたそうでシュ」

「こころちゃんが……」

 

ニジーとゴウエモンを退けて、るるか達の元へと駆けつけたというこころ。

 

「こころちゃん……キュアシンシアは、倒れたるるか達を助ける為に、今度は『一人で』ウソノワールに挑んだそうでシュ」

「こころさんが……」

「ウソノワールに、一人で……!?」

 

あの、圧倒的な強さを持つウソノワールに、たった一人で挑んだというこころ。

 

「でも……当然、一人では敵わなかったでシュ。……蹂躙されたシンシアは、気を失い、変身が解けたそうでシュ。そして……全身が血だらけでボロボロになったこころちゃんが、ウソノワールに連れ去られたでシュ……」

 

「連れ去られた!?」

「そんな……」

 

初めて知る絶望的な情報に、驚き隠せないあんな達。

 

「こころちゃんが……っ」

 

くれあが両手で口を覆う。

 

「そして、くれあのマコトジュエルを取り返すのと一緒に、連れ去られたこころちゃんも取り戻す為に……るるかは、マシュタンと事務所を出ていったでシュ」

 

「じゃあ……るるかの隣にこころちゃんが居なかったのは……」

「ウソノワールに連れ去られたから……」

「じゃあ……るるかさんがファントムにいるのは……」

「こころさんが、人質に取られているから……!?」

 

推測をする一同。

 

「シュシュタンにも、これ以上は分からないでシュ……。どうして……こころちゃんを取り戻しに行ったはずのるるかが、ファントムにいるのかが……」

「それに……」

 

何かを深く考えているくれあ。

 

「くれあさん……どうかしたの?」

「るるかの……あの姿」

 

くれあの脳裏に、アルカナ・シャドウの姿が浮かぶ。

 

「キュアアルカナ・シャドウは……本来のるるかの姿じゃないのよ」

「「えっ……」」

「どういう事?」

 

みくるが聞き返す。

 

「るるかのプリキュアとしての本当の姿は、あんな黒い姿じゃないの……。一体、ファントムに行って、るるかに何があったの……っ」

 

あまりにも重すぎる真実に、深く悩む一同。

すると、くれあがパッと顔を上げ、この沈んだ空気を和ませようと明るく話しかけた。

 

「ごめんなさい。今ここで悩んでもしょうがないわね! 気持ちを切り替えて行きましょう!」

「でシュ〜! くれあが、名探偵プリキュアになれたことを、みんなで喜ぶでシュ!」

 

すると。

 

「あれ? じゃあ……どうして、私は名探偵プリキュアになれたんだろう?」

 

あんなが、ふと根本的な疑問を口にした。

 

「どういうこと?」

 

「だって、自分で体験・経験したことで心のマコトジュエルが育つなら、私は、何の探偵経験もないのに、いきなりプリキュアに変身できたんだよ?」

 

あんなは、2027年からこの時代へと飛ばされてきただけの普通の女の子。

本来の時代で、探偵なんてしていたわけでは全く無かったのだ。

 

「きっと、『奇跡のふたり』だからだろ」

 

そう言って、階段からやって来るジェット先輩。

その手には、真新しい『プリキットブック』が握られていた。

 

「出来たぞ!」

「プリキットブック!」

 

ジェット先輩が、それをくれあに手渡す。

 

「うれしい……! ずっと、憧れだったの……っ」

 

くれあは嬉しそうに、そのプリキットブックを胸に抱きしめた。

るるかとこころが、大切に持っていたプリキットブック。

二人が一人前の『探偵』として認められて持っていたその手帳に、くれあはずっと強い憧れを持っていたのだ。

いつか自分もこれを手に入れて、三人で本当の『名探偵』として過ごせればと。

 

「やったね、くれあさん!」

「ハートをかかなくっちゃ!」

 

くれあはプリキットブックを開き、付属のペンで大きくハートを描く。

すると、ブックが光を放ち、正式な探偵としての契約が完了した。

 

「出来た!」

「「ようこそ、キュアット探偵事務所へ!」」

 

くれあを改めて歓迎する二人。

くれあは、涙ぐみながらとびきりの笑顔を見せた。

 

「シュシュ〜!」

 

シュシュタンも大喜びで宙を舞う。

 

(るるか、こころちゃん。……私も、やっと名探偵になれたよ)

 

窓の外の空を見上げるくれあ。

 

(いつか、また……三人で……っ)

 

新たな名探偵の誕生は、過去の因縁を断ち切るための、大いなる希望の光であった。

 

***

 

怪盗団ファントムのアジト。

るるか達の自室には、無機質な機械の規則的な電子音だけが静かに響いていた。

 

るるかとマシュタンは、その自室にいた。

るるかは、ベッドで眠っているこころの姿を見下ろし、痛ましさに顔を歪めて心を痛めていた。

 

ベッドの上のこころには、人工呼吸器をはじめとする無数の医療機器が繋がれている。

シーツから覗く手足は枯れ枝のように痩せ細り、自力で呼吸することすらままならない妹の姿は、るるかの胸を抉り続けていた。

 

「こころ……お姉ちゃんが弱いせいで、こんな事になって……ごめんね……」

 

るるかは、こころの冷たく痩せ細った手を、壊れ物を扱うように両手でそっと包み込んだ。

 

「結局、くれあの事もどうにも出来ずに……一番恐れていた、エクレールとして復活させてしまって……」

 

親友を運命から遠ざけるという願いすら守れなかった。

 

「失敗ばかりしてて、ごめんね。……駄目なお姉ちゃんで、ごめんね……っ」

 

るるかは、こころの手に額を押し当てて懺悔するように呟く。

 

「るるか……」

 

そんな痛々しい様子を、マシュタンはベッドの傍らでただ静かに見つめていることしかできなかった。

 

るるかが顔を上げる。

その瞳には、暗く重い決意が沈んでいた。

 

「こころ……、お願い。……もう少しだけ頑張って。必ず貴女を救ってみせるから……。そして、くれあの心のマコトジュエルを、必ず私が『砕く』から……っ」

「そして、くれあには記憶を失ったまま、普通の女の子として幸せな生活を送ってもらう。……そしたら、後は私がマコトジュエルを集めるだけだから……」

 

るるかは、自分のポケットから、ひび割れた石――『シンシアの心のマコトジュエル』を取り出し、じっと見つめた。

 

「今の貴女に、このマコトジュエルを無理に返しても……きっと、前と同じ事の繰り返しになっちゃう」

 

るるかの脳裏に、かつての凄惨な失敗が過る。

以前、ウソノワールからの忠告も聞かずに、るるかはこころの体に無理やりマコトジュエルを戻してしまったことがあった。

 

結果としてこころは目覚めたが……ダメージを負ったジュエルを戻したことで、こころの精神はさらに激しく壊れていき、マコトジュエルが宿っている状態であるにも関わらず、記憶が抜け落ち、マコトジュエルには更にヒビが入り、最終的に今の昏睡状態へと陥ってしまったのだ。

 

『自分のせいで、こころが壊れてしまった』

 

その強烈な自責の念が、るるかの精神を暗闇の底へと縛り付けている。

 

「だからね……マコトジュエルを……本来の『ビッグマコトジュエル』を、私が手に入れるの」

 

「………」

 

マシュタンは、何も言わずにるるかの言葉を聞いていた。

るるかから直接告げられた彼女の『本当の目的』。

正義の名探偵だったはずのるるかが、ファントムと同じようにビッグマコトジュエルを手に入れ、自分に都合の良いように『世界を作り変えようとしている』という、恐ろしい計画を。

 

るるかは、こころの頭を愛おしそうに撫でた。

 

「ビッグマコトジュエルを手に入れて、貴女達と一緒に、もう一度笑い合って生きていける世界を……私が作ってみせるわ」

 

るるかの顔には、ふんわりとした優しい笑顔が浮かんでいた。

しかし、その笑顔はどこか焦点が合っておらず、狂気を孕んでいた。

 

「私の思った通りの真実を……。こころの精神が壊れていないという真実を……。プリキュアなんて……怪盗団ファントムなんて居ないという真実を……!」

 

るるかの口から、とめどなく理想の言葉が溢れ出してくる。

 

「るるか……」

「何も無かった……。戦いなんて、最初からどこにもない世界。こころと…くれあと…マシュタンと…シュシュタンと…私……また5人で笑い合って生活できる世界! 名探偵プリキュアなんかじゃなくて、ただの町の『名探偵』として、皆で助け合って、他愛もないことで笑い合える平和な世界を!」

 

るるかの精神は、圧倒的な絶望と恐怖から逃避するように、おかしな方向へとはっきりと歪み始めていた。

もう、善悪の境界線など彼女の中には存在しない。

 

「私の思い描く理想の真実! 戦いなんてない、私が思い描く……5人で笑い合って幸せに生きていける、完璧な理想の世界を創り直すのよ!」

 

恍惚とした笑顔で夢を語るるるか。

しかし、彼女の瞳から、ツーッと一筋の透明な涙がこぼれ落ちた。

 

「私が作り出して見せるから……。ねっ、こころ……。待っててね」

 

るるかの顔は、心底幸せそうに笑っている。

るるか自身は、自分が今、涙を流していることに全く気付いていなかった。

狂おしいほどの愛と執着。

間違いなく、るるかの願いと精神は致命的に歪み始めている。

 

「るるか、貴女……」

 

マシュタンは、るるかの頬を伝うその涙を見て、ハッとした。

 

(確かに今のるるかは、極限の状態でおかしくなり始めている。でも……まだ、完全に悪に歪みきったわけじゃない……!)

 

自分が涙を流していることに気づかないその姿こそが、るるかの心の奥底の悲鳴だった。

 

(きっと、世界を作り変えたいって願っているのは本当なんでしょうね。……もう、今のこころちゃんを救い出す為の真っ当な方法が、全く思いつかないから……)

(でも、るるかの心の奥底には、まだ残っている。……『名探偵』としての、正義の心が。何処かで自分がやろうとしていることが間違っていると思っている、深い罪の気持ちが……だから、心が泣いているんだわ)

 

マシュタンは、無言でふわりと飛び上がり、るるかの華奢な肩にそっと寄り添った。

 

(それでも……アタシに出来るのは、最後までるるかに寄り添うこと。るるかの味方であり続けてあげることだけ)

 

マシュタンは、相棒を止めることも正すこともできない自分の無力さを深く悲しむ。

 

(アタシには、本当の意味でるるかを救える力なんてない。言葉も届かない。……それでも、お願い。神様……るるかにも、救いを……っ)

 

マシュタンは、るるかの頬に自分の頬を擦り寄せながら、強く願った。

 

(怪盗に加担してしまって、これからとんでもない事を犯そうとしている。……それでも、るるかは誰よりも優しくて、妹思いの不器用な子なの。お願い……るるかの心を助けてあげて……っ)

 

自分ではない『誰か』が、るるかを救ってくれる事を願うマシュタン。

マシュタンの中では、誰ならこの頑なで壊れかけたるるかの心を救えるのか……それは、分かりきっていることだった。

 

「ふふっ、こころ。お姉ちゃん、頑張るからね……」

 

るるかは、マシュタンの祈りにも気づかず、愛おしそうにこころを見つめ続ける。

 

「今度こそ……絶対に、失敗しないから」

 

機械音が響く密室の中。

妹の手を握りしめ、涙を流しながら微笑むるるかは、誰もいない理想の箱庭を目指して、底なしの闇へと沈んでいくのだった。

森亜るるか、森亜こころは、救われるべきか。(今の所るるかが名探偵として復帰後、最終的には、こころも元に戻り救われる方向で考えている。)

  • 救われるべきだ
  • るるか離反、世界を創り変える
  • その他(バッドエンド等)
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