名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜   作:暁 蒼空

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名探偵プリキュア!第30話「エクリプス・シャドウ」を元に作成した話です。


第19話:悲劇の再演と、死神の降臨

怪盗団ファントムのアジト。

薄暗い自室の中で、るるかは一人、深い迷いの淵に立たされていた。

 

「こころ……。私は……どうしたら……」

 

先の戦いでデッチ・アゲインに強引に見せられた、くれあ達と共に過ごした温かい過去の幻影。

そのせいで、るるかの決意は大きく揺らいでしまっていた。

だが、るるかはそんな自分を叱咤するように、強く頭を横に振った。

 

「違う。迷う必要なんてない! くれあを倒して、マコトジュエルを手に入れるのよ!」

「るるか、大丈夫。大丈夫だから……」

 

パニックになりかけるるるかを、マシュタンが必死に宥める。

 

「もっと……もっと力が必要なの……。痛感したわ。やっぱり私は……弱い」

 

るるかは、先日デッチ・アゲインに自分の力が全く通用せず、軽々とあしらわれた時の屈辱を思い出す。

 

「こんなんじゃ、誰にも勝てない! もっと、もっと圧倒的な力が必要なの……っ」

 

「るるか……」

 

るるかは、ベッドで眠り続けるこころの、細く冷たい手を両手で包み込むように握った。

 

「こころ、お姉ちゃんが救ってあげるからね。必ず……貴女を助けてあげるからね」

 

るるかの瞳が、狂気と愛情で揺らぐ。

 

「私が……ビッグマコトジュエルの力で、世界を変えてみせるから……」

 

るるかの瞳から、ツーッと一筋の透明な涙が流れ落ちていた。

しかし、るるか自身は自分が泣いていることに全く気付いていなかった。

顔には、こころを安心させるための、ひきつったような不気味な笑顔が浮かんでいる。

 

「るるか……やっぱり貴女は、本当の悪になんてなれないわよ……」

 

自分が涙を流していることに気づかないその姿こそが、るるかの心が悲鳴を上げ、泣いている何よりの証拠だった。

 

(ごめんね、るるか。アタシには……貴女をこの地獄から救ってあげることが出来ない。アタシは、最後まで貴女の側にいてあげることしか……っ)

 

るるかはこころに笑顔を向けているつもりなのだろうが、その表情は痛々しいほどに辛そうで、見る者の胸を締め付けた。

 

***

 

一方、『まことみらい学園』。

生徒会長であるれいの依頼で、花壇の入れ替えの手伝いに来ていたあんな、みくる、そしてくれあの三人の前に、デッチ・アゲインが姿を現していた。

 

「マコトジュエルを返して!」

 

あんなが、デッチ・アゲインを鋭く睨みつけて叫ぶ。

 

「盗んだわけじゃないのに。……まっ、返さないけどね」

 

デッチ・アゲインが、芝居がかった手つきで肩をすくめる。

 

「ウソよ、覆え! 時代を作ろう、ハンニンダー!」

 

ハンニンダーが出現した。

 

「「オープン!! ジュエルキュアウォッチ!」」

 

あんなとみくるの手にあるペンダントがまばゆい光を放ち、カラフルな懐中時計『ジュエルキュアウォッチ』へと姿を変える。

二人はそれぞれのマコトジュエルを取り出し、ウォッチに装着した。

 

「「プリキュア、ウェイクアップタイム!」」

 

二人の声が重なった瞬間、光が溢れ出す。

 

「サン!見つける!」

 

ジュエルキュアウォッチの長針が、3の位置へと揃えられた。

あんなの髪が風にほどけるように一気に伸び、足首に届くほどの長さになる。

毛先はハート型に整い、頭頂部の左右は可愛らしいお団子のツインテール。

髪色は鮮やかな紫へと変わり、毛先に向かって淡いピンクのグラデーションが広がった。

みくるの髪も同時に伸び、やわらかな三つ編みへと姿を変える。髪色は明るいピンクに。

瞳の色も変化する。あんなは澄んだ青緑、みくるは神秘的な紫へ。

 

「ロク、向き合う!」

 

長針が6を指す。

みくるの身体を、淡いピンクのオフショルダーワンピースが包み込む。

フリルの揺れるスカートが、彼女の可憐さを際立たせた。

背中には、水色の大きなリボン。

あんなもまた、フリフリの紫色のワンピースを身に纏い、背中には鮮やかな黄色の大きなリボンが現れる。

 

「キュー!奇跡の二人!」

 

長針が9へ。二人の足元に光が集まった。

あんなは紫色、みくるはピンク色のブーツを履き、同時にニーハイソックスが脚を彩る。

あんなの手には薄い水色のフィンガーレスグローブ。

その上から薄紫色のオープンフィンガーグローブが重なる。

みくるの手にも薄紫のフィンガーレスグローブと、薄ピンクのオープンフィンガーグローブ。

指先には、それぞれの色のネイルがきらりと輝いた。

 

「くるっと回して、キュートに決めるよ!」

 

長針が11へと進む。

あんなの左右のお団子には華やかな髪飾りが添えられ、耳元にはピアスが揺れる。

みくるの髪には大きなリボンの髪飾り。

そして同じく、両耳にピアス。

さらに二人の胸元にはネクタイ型のリボン。肩には短めのケープが重なり、装いが完成へと近づいていく。

ジュエルキュアウォッチは光となって収束し、衣装の腰にあるキャリーへと収められた。

 

「どんな謎でも、はなまる解決!名探偵『キュアアンサー』!」

「重ねた推理で、笑顔にジャンプ!名探偵『キュアミスティック』!」

 

可愛らしい決めポーズを決める。

最後に二人は自然と歩み寄り、並び立つ。

 

「「名探偵プリキュア!」」

 

 

「オープン!」

 

くれあのその一言を合図に、眩い光の球体が彼女の手から解き放たれる。

光は瞬く間に広がり、絶望に染まった日常の景色を、鮮やかに塗り替えていった。

足元には波紋の広がる澄んだ水面。

周囲には神聖な古代の石柱がそびえ立ち、空には星屑が煌めく、幻想的な夜の領域が広がる。

 

無数の青い光の蝶が舞い踊る中、頭上から黄金と青に彩られた香水瓶が、ゆっくりと彼女の手元へと舞い降りてきた。

 

「トップオブリリーフレグランス」

 

香水瓶を手に取った彼女の顔に、希望が弾けるような満開の笑顔が咲く。

マコトジュエルをセットする。

 

「プリキュア、ウェイクアップタイム!」

 

彼女が香水瓶の蓋を外すと、きらきらと輝く光の粒子が溢れ出した。

 

「フローラルスピン!」

 

彼女は水面のような空間へと軽やかに駆け出す。

ふわりと宙を舞い、優雅に水面へと降り立つと、つま先から静かな波紋が幾重にも広がっていった。

彼女は香水瓶を持った手を滑らせるように動かし、香水を周囲に振り撒く。

 

「ブルーム!」

 

その声と共に、清らかな水流のような光の帯が彼女の身体を優しく包み込んだ。

光が弾けると同時に、彼女の深い青色の髪は鮮やかなミントグリーンへと染まり、ボリュームのある、途中で二つに分かれている華やかなポニーテールへと姿を変える。

幾重にも重なる純白のフリルスカートがふわりと広がり、腰の後ろには青い蝶の羽を模した大きなリボンが結ばれた。

 

彼女が胸の前で両腕を交差させると、清冽な光が腕を包み込み、両手には薄紫色のフィンガーレスグローブが現れる。

バレリーナのように高く脚を上げ、水面で美しくスピンを決めると、水飛沫の中から編み上げられたエメラルド色のヒールが現れ、足元を上品に飾った。

耳元には青い宝石のピアス、髪には白百合の髪飾り、そして胸元にはハートをあしらったリボンが次々と形作られていく。

 

変身の仕上げとして、彼女は手にした香水瓶の蓋を閉じる。

その瞬間、彼女の瞳の奥で、真実を見抜く強い意志を秘めた赤い光が鋭く瞬く。

 

「解き放て、内なる真実の香り!」

 

彼女が両手を広げると、背後には無数の白い百合の花が一斉に咲き誇り、光の蝶たちが祝福するように乱舞した。

顔を覆っていた手を払い、真実を見通す探偵の眼差しで、真っ直ぐに前を見据える。

 

「名探偵! キュアエクレール!」

 

星空と百合の花を背負い、彼女は凛とした佇まいでビシッと人差し指を突きつけた。

 

「私の答え、示しましょう」

 

 

三人のプリキュアが並び立ち、ハンニンダーを見据える。

 

「花壇を、元にもどす!」

 

アンサーが力強く宣言し、三人はやる気十分で身構えた。

 

「そうあせらないで。……『主役』のご登場だ」

 

デッチ・アゲインがパチンと指を鳴らすと、空間が歪み、緑色の禍々しいオーラが出現した。

そのオーラの中から、マシュタンを抱いたるるかの姿が現れる。

 

「るるか!」

 

エクレールが、親友の名を叫ぶ。

召喚されたるるかは、不機嫌さを隠そうともせず、明らかに機嫌が悪そうだった。

 

「さあ、開演と行こう」

 

デッチ・アゲインが薄く笑う。

 

「……オープン……」

 

胸元のペンダントが強い光を放つ。

光は細く伸び、形を作り、るるかの手の中で長くしなやかな『杖』へと変貌した。

 

「ティアアルカナロッド」

 

指先を添えた瞬間、るるかの身体はふわりと舞い上がる。

衣装は紫の光を帯び、周囲へと輝きを弾けさせる。

マコトジュエルを静かにロッドへ装着する。

円を描くように一回転。足元に広がる魔方陣が妖しく光った。

 

「シャッフル」

 

ロッド上部のカードがくるりと回転した瞬間、るるかの髪は漆黒へ。

もう一度、指先でカードを弾けば、闇は一転して金色へ。

かきあげた髪の先には、鮮やかなピンク色のグラデーション。

 

「リバース」

 

ロッドから流れる光がるるかの体を次々と包み込む。

ノースリーブのワンピースが身体を包み、黒を基調とした衣装と明るく揺れる髪が、お互いを強調し合う。

スカートには紫色の雫が散りばめられ、静かに揺れる。

カンッ。

ロッドを地に打ち付けた瞬間、露わだった脚は濃い紫色のサイハイソックスと濃紺色のショートブーツに包まれる。

祈りを捧げるように両手でロッドを握ると、手首には繊細なリストカフスが装着される。

頭には、黒いダイヤ型が並ぶ髪飾りを装着、その中央下には雫型の石飾りが付けられている。

目元へ右手を当てて下に下ろすと、瞳は紫から赤へと変化、瞳の奥にハートの光が宿っている。

耳元には雫型のピアス。頭の後ろには黒い蝶の飾りを添えた薄紫のヴェールが静かに寄り添う。

 

ロッドの先端を胸元へと当てると、紫色の光が体を包み込む。

黒いケープが肩を覆い、胸元にはネクタイ型のリボンが可憐に結ばれる。

 

「神秘と秘密で包み込む――『キュアアルカナ・シャドウ』」

 

ロッドのカードに映るのは、彼女の氷のように冷たい横顔。

一歩、また一歩と進むだけで、神秘が満ちていく。

ロッドをくるりと回し、持ち替える。

 

「さあ……迷宮へ誘いましょう」

 

変身を終えた直後。

アルカナ・シャドウは、いきなり横にいたハンニンダーへと、一切の容赦のない強烈な蹴りを叩き込んだ。

 

味方であるはずのアルカナ・シャドウからの不意打ちを受け、ハンニンダーが大きく吹き飛ばされる。

 

「……ハンニンダーなんて、頼んでないわ」

 

アルカナ・シャドウが、冷たい目でデッチ・アゲインを睨む。

 

「オレの善意さ」

 

デッチ・アゲインが肩をすくめる。

 

「余計な御世話よ」

 

そして、アルカナ・シャドウがエクレールへと顔を向ける。

その瞳には、親友を完全に敵として見据える冷酷な光が宿っていた。

 

「……片付けて」

 

アルカナ・シャドウは、ハンニンダーの処理をエクレールに命じた。

 

「オープン! プリキットミラールーペ!」

「シュシュタン!」

「シュシュー!」

 

シュシュタンからマコトジュエルを受け取り、ミラールーペへと装着する。

 

「マコトジュエル!」

 

「キュアエクレールが……解決!」

 

すると、エクレールの背中から、光り輝く青い巨大な『蝶の羽根』が出現した。

 

「優雅に!」

中央の宝石を回転させる。

 

「はばたき!」

2回目の回転。

 

「ナゾを解く!」

3回目の回転。

 

「これが私の……アンサーよ!」

 

エクレールが、その青い羽根で空中へと美しく飛び立つ。

 

「プリキュア・フライング・インフィニティ!!」

 

名乗りと同時に、彼女自身が巨大な青い光の蝶となって、吹き飛ばされていたハンニンダーめがけて一直線に特攻する。

そして、ハンニンダーの巨体を、一筋の閃光となって真っ直ぐに貫いていった。

 

「キュアット解決!!」

 

「ハン……ニン……ダァ……」

ハンニンダーが清らかな光に包まれ、無事に浄化されていく。

 

「せっかくのハンニンダーが……まっ、君たちの力なら予想はついていたけどね」

 

デッチ・アゲインが、やれやれといった風に肩をすくめる。

 

「そうだ、この演出ならどうかな?……君たちも、きっと気に入ると思うよ」

 

パチンッ。

デッチ・アゲインが指を鳴らすと、空間が激しく歪み、広場にいたあんな達や、アルカナ・シャドウ達の姿が一瞬にして別の場所へと強制的に転移させられた。

 

転移した先は、風が吹き抜ける広大な『湖』だった。

エクレールとアルカナ・シャドウが対峙している。

そして、湖に建つ取水塔の上に、アンサー、ミスティック、ジェット先輩、ポチタン、シュシュタンが立たされていた。

 

「ここは……?」

 

アンサー達には、この景色に見覚えがあった。

 

「くれあが、初めてプリキュアになった場所でシュ……!」

 

シュシュタンが言う。

 

半年前、ウソノワールがビッグマコトジュエルを手に入れようとした場所。

くれあが、親友を助けるためにエクレールに初めて変身した場所。

るるかが、ウソノワールの圧倒的な力の前に無惨に敗北した場所。

こころが、ボロボロにされ、ウソノワールに連れ去られた場所。

 

るるかにとって、親友も、妹も、探偵としての誇りも……すべてを失ってしまった『絶望の場所』だった。

 

「君達にピッタリの舞台だろう?」

 

デッチ・アゲインの悪趣味な声が、湖に響き渡る。

 

「……どこでもいい」

 

アルカナ・シャドウは、俯いたまま冷たく吐き捨てた。

そして、顔を上げ、エクレールへとティアアルカナロッドの切っ先を突きつけた。

 

「私は、ただ……あの子を、倒すだけ!」

 

エクレールも、悲しそうな目をしながら戦闘態勢を取る。

 

「ハァッ!」

 

アルカナ・シャドウがエクレールへと一直線に駆け出す。

エクレールは、プリキットミラールーペを取り出し、鏡面に自身の姿を映し出した。

 

「エクレール・イリュージョン!」

 

エクレールの姿がブレたかと思うと、全く同じ姿をした『4人の分身』が作り出された。

 

本体と合わせて5人のエクレールが、広がるように駆け出す。

 

「アルカナスターレイン!」

 

アルカナ・シャドウがロッドを振りかざし、空から無数のレーザーを放つ。

レーザーは4人のエクレールへと見事に直撃したが……すべてが分身の幻影だった為、パッと消え去るだけだった。

 

「……っ」

 

辺りを警戒して見渡すアルカナ・シャドウ。

 

「アルカナ!」

 

アルカナ・シャドウの真後ろに、いつの間にか本体のエクレールが回り込んでいた。

 

「はっ!」

 

その声に瞬時に反応し、アルカナ・シャドウは振り返りざまに、ティアアルカナロッドから強烈な紫色のエネルギー弾を放つ。

 

しかし、エクレールはそれを僅かな身のこなしで簡単に避ける。

エネルギー弾が湖の水面へと直撃し、巨大な水飛沫をあげる。

ザァァァッ!

落ちてきた水飛沫が、アルカナ・シャドウとエクレールの体を冷たく濡らした。

 

「ミスティック、私達も!」

「ええ!」

 

悲しい戦いを見ていたアンサー達も加勢しようとするが、目の前にデッチ・アゲインが立って道を塞ぐ。

 

「お静かに。……2人の『主演』の舞台を、邪魔しないでもらおうか」

 

「……もう、やめましょう」

 

水に濡れたエクレールが、悲痛な声で呼びかける。

彼女は、大切な親友であるアルカナ・シャドウと戦いたくなどなかった。

 

「決着を……つける」

 

アルカナ・シャドウは、震える手でティアアルカナロッドをエクレールへと向ける。

 

「アルカナ!」

 

「わたしはッ!!」

 

アルカナ・シャドウが、突然喉が張り裂けるような悲鳴を上げた。

 

「ッ!?」

 

その異常なまでの悲痛な叫びに、エクレールが驚いて身をすくめる。

 

「アルカナ・『シャドウ』!!」

 

アルカナ・シャドウは……泣いていた。

湖の水飛沫に濡れただけで、そう見えたのかも知れない。

それでもエクレールには、アルカナ・シャドウの赤い瞳から、とめどなく大粒の涙が流れ落ちているようにしか見えなかった。

それは、遠くから戦いを見守っていたマシュタンも同じだった。

 

「アルカナ……っ」

 

「あぁぁぁぁッ!」

 

泣き叫びながら、アルカナ・シャドウがエクレールへと無謀に突進していく。

 

「きらめきタイム!」

 

エクレールの右目の星が輝き、彼女の姿が消えるほどの超スピードで動き出す。

 

「ハァッ!」

 

渾身の蹴りを放つアルカナ・シャドウだったが、エクレールの高速の動きの前では、まるで止まっているかのように無力だった。

エクレールは、瞬時にアルカナ・シャドウの背後へと回る。

 

「ハァッ!」

 

エクレールが、手加減なしの強烈な回し蹴りを背中に放つ。

 

「……っ!」

 

アルカナ・シャドウは咄嗟に振り返り、ロッドで防御しようとするが、あまりの威力に完全に吹き飛ばされた。

 

「うわぁぁッ!」

 

「あっ!」

 

マシュタンが悲鳴を上げる。

 

ティアアルカナロッドが、衝撃でアルカナ・シャドウの手から弾け飛び、地面へと落下する。

そして、アルカナ・シャドウ自身も、地面へと激しく転がり落ちた。

 

全身ボロボロになり、うつ伏せで倒れるアルカナ・シャドウ。

地面に落ちたティアアルカナロッドが光の粒子となり、ペンダントの姿へと戻る。

すると、アルカナ・シャドウの姿も紫色の光に包まれ……光が弾けると、ボロボロになった『るるか』の姿がそこにあった。

 

「「るるか!」」

 

エクレールとマシュタンが、同時にるるかへと駆け寄る。

 

「くっ……、まだ……っ」

 

るるかは、震える右手を地面に突き、強く握りしめた。

顔を上げ、憎悪と悲しみに満ちた瞳でエクレールを睨みつける。

 

「どうして……っ」

 

ポタポタと、るるかの目から落ちる涙が、乾いた地面を黒く濡らしていく。

 

「どうして勝てないの……っ。私は……私は……ッ!」

 

るるかは、声を上げて泣いていた。

 

「どうして、そこまで……っ」

 

エクレールには、分からなかった。

どうしてそこまで身をボロボロにしてまで、自分を執拗に倒そうとするのか。

 

「すべては『君の存在』。……それが理由さ、キュアエクレール」

 

突然、デッチ・アゲインの冷酷な声が降ってきた。

 

「だまっててッ!」

 

るるかが絶叫する。

 

「口下手な君に代わって、彼女の『秘密』を教えてあげるよ」

「秘密って……?」

「フフッ、それはだね」

「だまってッ!!」

 

デッチ・アゲインの言葉を遮るように、るるかが喉が枯れるほどの大きな声を上げる。

 

るるかは、フラフラとしながらも立ち上がろうとする。

しかし、両足に力が入らず、まともに立っていることも出来ない。

マシュタンが、その小さな体で必死にるるかを支える。

 

「るるか、しっかり……!」

 

「るるか……秘密って何なの?」

 

エクレールが、泣きそうな顔で尋ねる。

 

「……そんなに知りたいなら、私が教えるわ」

 

るるかが、虚ろな目でエクレールを見据えた。

 

「私がなぜ、親友であるあなたを……ここまでして倒そうとするのか」

 

るるかが、初めてくれあ達に、ずっと隠し続けていた『秘密』を打ち明ける。

 

「それは……あなたが、『大王』だからよ!!」

 

「「「……え?」」」

 

一同が絶句する。

 

「何言ってるの……?」

「意味が分からない!」

 

エクレールは、信じられないというように暗い顔をして、アンサー達の方を向く。

 

「ううん! エクレールが大王なわけない!」

「そうでシュ! エクレールは、名探偵プリキュアでシュ!」

 

アンサーとシュシュタンが必死に否定する。

 

「間違いないわ。私の推理、そして……『未來自由の書』の予言とも完全に一致している」

「未來自由の書……?」

「書にあった、7の月の大王は……エクレール、あなたなのよ!」

 

その様子を、アジトのモニターで一人見ていたウソノワール。

 

「なん……だと……?」

 

自分が大王だと信じ込んでいたウソノワール自身も、るるかの推理を聞いて驚愕していた。

 

「……でも、私の今の力じゃ、あなたを倒せない」

 

るるかが、血の滲む唇を噛み締める。

 

「オレが授けたシャドウの力では、不足とでも?」

 

デッチ・アゲインが尋ねる。

 

「もっと……もっと強い力を!」

 

るるかが、狂気に満ちた目で叫ぶ。

 

「いいけど。……今の君にあつかえるかな?」

 

デッチ・アゲインが怪しく微笑む。

 

「るるか、危険すぎるわ!」

 

これ以上、強力なシャドウの力を受け入れることは、るるかの体と心にどんな危険が及ぶか分からない。

マシュタンは、流石にるるかの命に関わると思い、必死に止めようとする。

 

「分かってる。けど、そうしなければ…世界を救えない!……それに……こころの事だって」

 

るるかは、涙を流しながら両手の拳を強く握りしめる。

 

「いいだろう、主役のおおせのままに。君にさずけよう」

 

デッチ・アゲインから、今までとは比べ物にならないほど濃密でドス黒いエネルギーが放たれ、るるかの体を包み込んだ。

 

「るるか、ダメぇ!」

 

るるかを止めようと飛びつくマシュタン。

 

「キャァーッ!」

 

しかし、るるかから溢れ出す黒いエネルギーの波動に弾き飛ばされてしまう。

 

るるかの体が、巨大な黒いエネルギーの繭に完全に包まれる。

 

「るるか!るるか!」

 

エクレールが悲痛な声で呼びかけるが、黒いエネルギーの中にいるるるかは全く反応しない。

 

「るるか……っ」

 

「ハァーッ!!」

 

バリィィィン!!

黒いエネルギーの繭が、内側から砕け散った。

 

中から出てきたるるかの姿は、さらに異質に変化していた。

 

いかにも『死神』を思わせる、不気味で恐ろしい容姿。

元のノースリーブの衣装から、肩出しのより禍々しいデザインへと変わり、手にはティアアルカナロッドではなく、巨大な『大鎌』が握られていた。

衣装の色は黒と赤を基調としたダークなカラーリングになり、髪色は変身前のままだが、毛先が血のように赤くグラデーションがかっている。

右足には黒いリボンが包帯のように巻かれ、そして……彼女の瞳からはハートのハイライトが完全に消え去り、底知れぬ狂気を宿した『黒ダイヤ』の虹彩が不気味に浮かび上がっていた。

 

「るるか……!」

 

そのあまりにも禍々しい姿に、マシュタンが涙目で近付こうとする。

 

「マシュタン、下がってて」

 

るるかが、マシュタンを制止する。

 

「シャドウの力……私でも制御できないくらい、強すぎるから」

 

完全に闇に飲まれたるるかが、大鎌を構え、エクレールを真っ直ぐに見据える。

 

「すべての証拠が示しているの。……あなたが、大王だって」

 

るるかは、親友を倒す覚悟を決めた。

 

「世界は……『わたし』が守る! そして、必ず平和な世界を、私の手で作り直す!!」

 

死神の狂気と化したるるかの、血を吐くような悲痛な叫び。

るるかとくれあの、悲しすぎる因縁の戦いは、いよいよ後戻りできない最終局面へと突入しようとしていた。

森亜るるか、森亜こころは、救われるべきか。(今の所るるかが名探偵として復帰後、最終的には、こころも元に戻り救われる方向で考えている。)

  • 救われるべきだ
  • るるか離反、世界を創り変える
  • その他(バッドエンド等)
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