名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜   作:暁 蒼空

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名探偵プリキュア!第31話「名探偵キュアアルカナ」を元に作成した話です。


第20話:復活の名探偵、歪んだ願いの終着点(前編)

「世界は……『わたし』が守る! そして、必ず平和な世界を、私の手で作り直す!!」

 

るるかの悲痛な絶叫と共に、彼女が握る漆黒の大鎌が空を切る。

 

『ヒュンッ!』

 

大鎌から、三日月型の黒いエネルギーの斬撃がエクレールめがけて飛んでくる。

 

「はっ!」

 

エクレールは軽快にジャンプして躱そうとするが、その黒い斬撃は意思を持っているかのように軌道を変え、空中のエクレールを執拗に追尾してくる。

 

「ああ!」

 

避けきれず、斬撃がエクレールに直撃。

そのすさまじい威力に、エクレールは地面へと落下した。

 

「きゃぁっ!」

 

地面に激突し、光が弾けて変身が強制的に解除されてしまう。

帆羽くれあへと戻ってしまった彼女は苦しげに呻いた。

 

「くっ……うぅ……っ」

 

「くれあさん!」

 

ボロボロのくれあを助ける為に、アンサーとミスティックが立ち上がり、るるかへと向かっていく。

 

「「ハアァァッ!」」

 

二人が左右から同時に渾身の拳を放つ。

 

しかし、るるかは全く焦る様子もなく、死神のような冷たい目で二人を見据え、ただ大鎌を無造作に振り払った。

 

『ザシュッ!』

 

生み出された巨大な黒い斬撃が、二人の体を一瞬で薙ぎ払う。

 

「「うわぁぁッ!」」

 

「あんな! みくる!」

 

ジェット先輩が二人の名前を叫ぶ。

二人は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた衝撃で変身が解除されてしまう。

 

「ブラーボー。……すべてを覆い尽くすほどのシャドウの力。もはや、プリキュアではない!」

 

その戦いを見物しているデッチ・アゲインが、狂気に染まったるるかの姿を見て楽しそうに手を叩く。

 

「さしずめ、『エクリプス(日食)・シャドウ』というところか」

 

シャドウの力を完全に我が物として使いこなし始めたるるか。

エクリプス・シャドウの圧倒的な力は、最強の名探偵であるエクレールをも完全に凌駕するほどだった。

 

デッチ・アゲインがパチンと指を鳴らすと、緑色のオーラと共に、ウソノワール達が強制的に召喚された。

 

「ウソッチも、生で観劇するといい。……君に借りたこいつ(シャドウの力)のおかげで、大もり上がりだ!」

 

るるかに与えられた『シャドウの力』は、元々ウソノワールが持っていたものだった。

 

「……」

 

アゲセーヌに抱かれている妖精姿のウソノワールは、繰り広げられる悲劇を呆然と見下ろしていた。

 

「……キュアエクレールが大王とは、一体どういうことだ!」

 

ウソノワールが、デッチ・アゲインを睨みつける。

 

「すべて真実さ。オレも最近知ったんだ。アルカナ・シャドウの見事な推理でね」

 

先日、るるかがデッチ・アゲインにだけ教えた秘密。

それは、『エクレールが7の月の大王である』という、推理だった。

 

「ウ……ウソノワール様のお立場は……?」

 

ニジーが冷や汗を流す。

 

「一体、どうなっちまうんだ?」

 

ゴウエモンも頭を抱える。

 

「グヌヌ……」

 

自分が大王になれず、予言を読み違えていたことに、ウソノワールは屈辱に顔を歪める。

 

「なぁ~に、あの新しい王さま(エクレール)は、すぐに消えるよ」

 

デッチ・アゲインが、エクリプス・シャドウを見つめて薄く笑う。

 

「……彼女の、一番大切な親友の手でね」

 

ボロボロのくれあに、エクリプス・シャドウがゆっくりと、死神の足取りで近づいていく。

 

「……終わりにしましょう」

 

エクリプス・シャドウは、くれあを冷酷に見下ろした。

 

「待つでシュ!!」

 

すると、小さな体でエクリプス・シャドウとくれあの間に、シュシュタンが身を挺して割って入った。

 

「……どいて」

「嫌でシュ! くれあは大王なんかじゃないでシュ!」

 

シュシュタンは、るるかの推理を真っ向から否定しようとする。

 

「やめて、シュシュタン!」

 

くれあが、シュシュタンを止める。

シュシュタンが驚いて振り返る。

 

「るるかの推理は……外れたことがない」

「くれあ……」

 

ロンドン時代から、るるかの推理が一度でも外れた試しは無かった。

だからこそ、くれあ自身も、自分が世界を滅ぼす大王なんだと信じるしかなかった。

 

「あなたも、気づいていたはず。……その子の『瞳』」

 

エクリプス・シャドウが、シュシュタンに冷たく問う。

 

「あの星は……『彼ら』と同じだと」

 

「シュシュ……っ」

「「えっ……」」

 

あんなとみくるが息を呑む。

 

エクレールが『きらめきタイム』の際に、右目に宿る星。

それは……ウソノワール達ファントムの妖精の瞳にある『星』と、全く同じ形をしていたのだ。

 

「な……なぜ教えなかった!」

 

ウソノワールが幹部たちに向かって激怒する。

 

「お、お、お、お……お言葉ですが! ヤツは速すぎて、瞳を見ることなど不可能です!」

 

ニジーが慌てて弁解する。

 

「えっ? オレは気づいてたけど」

 

ゴウエモンが、あっけらかんと言う。

 

「「「はぁ!?」」」

「だったら言いたまえ!」

「だったら言うっしょ!」

「奈落に落としてやる!」

「お……落とさないでぇっ!」

 

三人にボコボコにされるゴウエモン。

 

「言い伝えでは……『瞳に星を持つ者が、大王になる』といわれているの」

 

エクリプス・シャドウが宣告する。

 

「えっ……?」

 

まさに、エクレールの特徴に完全に該当することだった。

 

「そ、そんな話、知らないでシュ!」

「アタシと、るるかも……ファントムの連中の所に行って、はじめて知ったのよ」

 

マシュタンが答える。

何でも知っている、知識の妖精のシュシュタンすら知らない言い伝え。

 

「知らなくて当然。我ら『忘れられた種族』に伝えられた、古き言い伝えだ」

 

ウソノワールが、皮肉げに言う。

 

「忘れられた……種族?」

 

シュシュタンが首を傾げる。

 

「そう……人間にも、妖精にも……忘れ去られた者たち」

 

ウソノワール達の表情は、どこか深く暗い影を落としていた。

 

「フフッ、驚きだよね。人間と妖精の絆で生まれた『トップオブリリー』。……それが、君の瞳に星を宿したのか。……はたまた……」

 

デッチ・アゲインが、意味深に含み笑いをする。

 

「いずれにせよ、実にアンビリーバボーな展開だ!」

 

「それが……るるかが、私を倒そうとする理由……」

 

くれあが、絶望に顔を伏せる。

 

「倒すんじゃないわ。……るるかは……あなたの『心のマコトジュエル』を、砕こうとしているのよ」

 

マシュタンがこぼす。

 

「砕くって……」

「エクレールのマコトジュエルが無くなれば……プリキュアの力も、探偵としての大切な記憶も、また消えちゃうでシュ!」

 

シュシュタンが青ざめる。

再び、くれあから思い出が消え去ってしまう。

 

「そうよ。……パティシエ『帆羽くれあ』として、幸せに生きていってもらう」

 

くれあを見下ろすエクリプス・シャドウの瞳は、あまりにも冷たかった。

何も言えず、唇を噛み締めるくれあ。

 

「それが! それが……るるかの『優しさ』なの!」

 

マシュタンも必死だった。

ずっとるるかの側にいて、彼女の心の悲鳴を聞き続けてきたからこそ分かる。

彼女がどれだけ辛い思いをして、自ら悪になっているのか。

本当は、誰よりもくれあの幸せを願っていることを。

誰よりも、優しいことを。

 

「……優しさなんかじゃない!!」

 

あんなが、立ち上がりながら叫んだ。

 

「はっ!」

 

マシュタンが、あんな達の方を向く。

 

「そんなこと……っ」

「絶対に、させない!」

 

あんなとみくるが、ボロボロの体で立ち上がる。

 

「「わたしたち、名探偵が!!」」

 

二人は、再び立ち上がり、プリキュアに変身する。

 

「「くれあさん!」」

 

アンサーとミスティックが、倒れているくれあに力強く手を差し伸べた。

 

「うん……!」

 

二人の温かい手を取り、くれあが再び立ち上がる。

 

「オープン!」

 

くれあのその一言を合図に、眩い光の球体が彼女の手から解き放たれる。

光は瞬く間に広がり、絶望に染まった日常の景色を、鮮やかに塗り替えていった。

足元には波紋の広がる澄んだ水面。

周囲には神聖な古代の石柱がそびえ立ち、空には星屑が煌めく、幻想的な夜の領域が広がる。

 

無数の青い光の蝶が舞い踊る中、頭上から黄金と青に彩られた香水瓶が、ゆっくりと彼女の手元へと舞い降りてきた。

 

「トップオブリリーフレグランス」

 

香水瓶を手に取った彼女の顔に、希望が弾けるような満開の笑顔が咲く。

マコトジュエルをセットする。

 

「プリキュア、ウェイクアップタイム!」

 

彼女が香水瓶の蓋を外すと、きらきらと輝く光の粒子が溢れ出した。

 

「フローラルスピン!」

 

彼女は水面のような空間へと軽やかに駆け出す。

ふわりと宙を舞い、優雅に水面へと降り立つと、つま先から静かな波紋が幾重にも広がっていった。

彼女は香水瓶を持った手を滑らせるように動かし、香水を周囲に振り撒く。

 

「ブルーム!」

 

その声と共に、清らかな水流のような光の帯が彼女の身体を優しく包み込んだ。

光が弾けると同時に、彼女の深い青色の髪は鮮やかなミントグリーンへと染まり、ボリュームのある、途中で二つに分かれている華やかなポニーテールへと姿を変える。

幾重にも重なる純白のフリルスカートがふわりと広がり、腰の後ろには青い蝶の羽を模した大きなリボンが結ばれた。

 

彼女が胸の前で両腕を交差させると、清冽な光が腕を包み込み、両手には薄紫色のフィンガーレスグローブが現れる。

バレリーナのように高く脚を上げ、水面で美しくスピンを決めると、水飛沫の中から編み上げられたエメラルド色のヒールが現れ、足元を上品に飾った。

耳元には青い宝石のピアス、髪には白百合の髪飾り、そして胸元にはハートをあしらったリボンが次々と形作られていく。

 

変身の仕上げとして、彼女は手にした香水瓶の蓋を閉じる。

その瞬間、彼女の瞳の奥で、真実を見抜く強い意志を秘めた赤い光が鋭く瞬く。

 

「解き放て、内なる真実の香り!」

 

彼女が両手を広げると、背後には無数の白い百合の花が一斉に咲き誇り、光の蝶たちが祝福するように乱舞した。

顔を覆っていた手を払い、真実を見通す探偵の眼差しで、真っ直ぐに前を見据える。

 

「名探偵! キュアエクレール!」

 

星空と百合の花を背負い、彼女は凛とした佇まいでビシッと人差し指を突きつけた。

 

「私の答え、示しましょう」

 

 

「……力は、とっくに尽きているのに、立ち上がるとはね。フッ……心だけは、折れていないらしい」

 

デッチ・アゲインが、感心したように観戦している。

 

「話、聞いてなかったの!? 未來自由の書の予言どおりに、エクレールが7の月に大王として覚醒したのよ!」

 

エクリプス・シャドウが、焦燥に駆られて叫ぶ。

このまま、マコトジュエルを砕いて終わらせることができるはずだった。

なのに、エクレール達は何度でも立ち上がってくる。

 

「エクレールを止めないと……世界がウソの影で覆われる!!」

 

エクリプス・シャドウが、渾身の力を込めて巨大な大鎌を振り下ろす。

 

「ミスティックリフレクション!」

 

ミスティックが前に出て、最大出力のシールドを張って大鎌の刃を防ぐ。

 

「『重ねた推理』じゃない! 決定的な証拠が、『未來自由の書』だなんて……おかしいでしょ!!」

 

そう、おかしいのだ。

天才的な名探偵のるるかだったら、絶対にこんな予言書だけを信じず、自分の頭で論理的に考えて推理をしたはずだ。

なのに、エクレールが世界を滅ぼすという事に関しては、敵の予言書を盲信しているのだ。

親友と妹を失う恐怖で、彼女の思考は完全に狂ってしまっている。

 

「クッ……黙って!」

 

痛い所を突かれたエクリプス・シャドウだったが、力任せに大鎌を押し込み、シールドを破ろうとする。

 

「くっ……!」

 

ミスティックのシールドにヒビが入る。

すると、アンサーがミスティックの隣に立ち、一緒にシールドを支えた。

 

「うん! 自分で見つけた『答え』じゃない! くれあさんが大王だったとしても……本当に世界がウソの影で覆われるの? きっと、みんなで考えれば解決方法が見つかるよ! エクレールもいるし、るるかさんもいる!」

「っ!?」

 

アンサーの純粋な言葉に、エクリプス・シャドウの力が一瞬揺らぎ始める。

 

「4人で一歩を踏み出せば……『一歩の勇気』が、答えになるから!」

 

そして、エクレールも隣に立ち、一緒にシールドを力強く押し返した。

 

「忘れたくない……っ。だって、私、やっと『名探偵』になれたんだから。……こんなにもきらめいてる、大切な仲間にめぐり会えたんだから!」

 

三人の心が一つになる。

 

「「「ハアァァァァッ!!」」」

 

三人の力が、シャドウの闇を押し返し、遂にエクリプス・シャドウを大きく弾き飛ばした。

 

「きゃぁぁぁっ!」

「るるか!るるか、しっかり!」

 

地面に倒れ込んだるるかの元へ、マシュタンが駆け寄る。

 

エクリプス・シャドウが、フラフラと上体を起こす。

 

「……4人じゃダメなの……」

「えっ……」

「それじゃあ、意味がないのよ……。私の隣には、一番大切な『こころ』が居ないと……っ」

 

るるかの悲痛な叫び。

 

「だったら、こころさんも一緒に……!」

 

ミスティックが提案するが。

 

「ダメなの!!」

 

エクリプス・シャドウが激しく首を振る。

 

「このままじゃ、こころが……。貴女達と一緒に平和にいても……妹の心は、永遠に救われない……っ!」

「るるか……」

 

「こころを救う為にも……、その為にも……絶対に、貴女のマコトジュエルを砕く……ッ!」

 

完全に狂気に囚われた瞳で、エクリプス・シャドウがエクレールを見つめる。

 

「デッチ・アゲイン……もっと……もっと力を……!」

 

エクリプス・シャドウが、更なる闇の力を欲する。

 

「ダメよ! これ以上シャドウの力を使ったら……るるかの体が……心が壊れちゃう!」

 

これ以上は、本当にるるかの命と精神がどうなってしまうか分からない。

マシュタンは、必死に止めようとする。

 

「私が世界を……こころを救うの!」

「あっ……」

 

マシュタンの手が振り払われる。

もう……るるかは、この地獄のレールから止まれなかった。

 

「アメージング! 最終章にふさわしい覚悟。……喜んで力を貸すよ、シャドウ」

 

デッチ・アゲインは、自分が持っている残りのシャドウの力を、惜しげもなく全てエクリプス・シャドウへと注ぎ込んだ。

 

「ダメー!!」

 

悲痛な叫びを上げるマシュタン。

 

エクリプス・シャドウの背中に向かって、膨大でドス黒いシャドウの力が津波のように向かっていき、直撃する。

 

「あっ……ぁぁ……っ!」

 

あまりにも大きすぎる闇の力。

るるかは、その圧倒的な苦痛と絶望に、意識を失いそうになる。

 

薄れゆく意識の中で、るるかは過去の絶望の出来事を走馬灯のように思い出す。

 

初めてくれあが変身した時の、右目に宿った『ファントムと同じ星』。

こころが自分の目の前でウソノワールに無惨に敗北し、血だらけになった姿。

ファントムのアジトに行って、自分の目の前で、こころの精神が完全に壊れてしまった時の事。

 

そして、初めてウソノワールに服従し、シャドウの力を授かった時のこと。

 

るるかは、ウソノワールと、その隣にいるデッチ・アゲインの前に、跪いていた。

『これが欲しいなら、くれてやる。……ファントムの舞台に上がり、代わりのマコトジュエルを持ってくればな』

エクレールとシンシアのマコトジュエルを手に取り、見せつけるウソノワール。

 

その隣で、悪魔のように笑っているデッチ・アゲイン。

『配役は……』

デッチ・アゲインが、絶望するるるかの目の前に歩いてくる。

デッチ・アゲインを、殺意を込めて睨むるるか。

 

ティアアルカナロッドを、るるかへと渡すデッチ・アゲイン。

『キュアアルカナ・シャドウ』

 

『大王になる者……瞳に星を宿す。それが、我ら忘れられた種族の伝説』

 

『やっぱり……くれあは……っ』

 

バキンッ!!

黒いエネルギーの球体に包まれていたエクリプス・シャドウ。

その球体にヒビが入り、粉々に砕け散った。

 

「あっ……」

 

誰もが、その姿に絶句した。

 

エクリプス・シャドウの背中には、天使のそれとは対極にある、巨大で禍々しい『黒い翼』が生えていた。

そして、先程よりも数段強い、死の冷たさを感じるドス黒いオーラを全身に纏っていた。

 

「……マコトジュエルを……砕く!」

 

大鎌を構えたその目は、もはや名探偵の面影など微塵もなく……完全に狂気に支配されていた。

 

「くれあさんの記憶を無くすことを、本当に望んでいるの、るるかさん!」

 

アンサーの悲痛な叫びが、響き渡る。

 

「あなたは仲間だから……キュアエクレールを守ると言った」

 

エクリプス・シャドウは、背中の禍々しい黒い翼をゆっくりと広げた。

 

「でも、間違ってる。仲間だから……仲間だからこそ……!」

 

狂気を宿した黒ダイヤの瞳が、エクレールを冷酷に射抜く。

 

「私の手で……キュアエクレールを止めるの!!」

 

翼を広げたエクリプス・シャドウが、巨大な大鎌を激しく回転させる。

すると、周囲の空気が歪むほどの莫大な黒いエネルギーが大鎌へと収束し始めた。

 

「ハッ!」

 

エクレールが危険を察知した時には遅かった。

エクリプス・シャドウから、空間そのものを削り取るような強力なエネルギー波が放たれた。

 

「きゃぁぁっ!」

 

強烈な爆風と衝撃波に、アンサー達は木の葉のように吹き飛ばされそうになる。

 

「……アメージング」

 

デッチ・アゲインは、エクリプス・シャドウの規格外の力に、心底感激して拍手喝采していた。

 

凄まじい爆発の煙の中から、ギリギリで攻撃を躱した三人のプリキュアが飛び出し、エクリプス・シャドウへと一直線に向かっていく。

 

「「「ハアァァッ!」」」

 

三方向からの同時攻撃。

 

「…………」

 

しかし、エクリプス・シャドウの目には、彼女たちのすべての動きがスローモーションのように遅く見えていた。

最小限の動きで三人の渾身の攻撃をすべて躱し、大鎌で三人を次々と地面へと叩きつける。

 

「ハアァァッ!」

 

間髪入れず、エクリプス・シャドウが大鎌を振るい、エネルギーの斬撃がアンサー達の元へ飛ぶ。

身をよじってそれを何とか躱す三人。

アンサーとミスティックは、怯むことなく再びエクリプス・シャドウへと向かっていく。

 

エクレールも後に続こうとするが。

 

「くっ……っ」

 

エクレールは、苦痛に顔を歪め、自分の左腕を強く抑え込んだ。

先程エクリプス・シャドウから受けた最初の一撃のダメージが、想像以上に彼女の体を蝕んでいたのだ。

 

「必ず、るるかを……っ」

 

痛みを堪え、るるかを止めようと立ち上がるエクレール。

 

「るるかを、止めて……っ」

 

ふと、エクレールが横を向くと、そこには彼女を見つめるマシュタンの姿があった。

 

「マシュタン……」

 

マシュタンが、小さな両手でエクレールに『ある物』をそっと手渡した。

エクレールは、渡されたその小さな品を手のひらに乗せて見つめる。

 

「これって……るるかの……」

「お願い……っ」

 

エクレールがマシュタンを見ると、その大きな瞳からは、とめどなく涙が溢れ落ちていた。

 

「お願い。……もう、るるかは自分じゃ止まれないの。あなたの事、こころちゃんの事、そして……自分自身への絶望。何もかもがドロドロに混ざり合って、今のるるかの心は、完全に歪んでしまっているの……っ」

「歪んでる……」

 

エクレールも、何となく分かっていた。

大好きな親友の様子が、明らかに狂気に囚われておかしい事くらい。

 

「今のるるかは、取り返しのつかない恐ろしい願いを持ってしまっている。……でも、あの子は心の中で、ずっと涙を流して泣いてるの! だから、お願い……キュアエクレール! るるかを助けて……っ!」

 

マシュタンの痛切な願いを受け取り、エクレールは手の中の品を強く握りしめた。

 

「うん!」

 

力強く頷くエクレール。

 

「きゃぁぁぁッ!」

 

その時、アンサーとミスティックが再び激しく吹き飛ばされてきた。

 

「世界が……ウソで覆われる……。私が……止めないと……っ」

 

エクリプス・シャドウは、突然動きを止め、左手で自分の顔を強く覆って苦しみ始めた。

その体からは、限界を超えた禍々しいオーラが暴走するように溢れ出し、彼女の青ざめた額には大量の冷や汗が流れていた。

憎悪と悲しみで膨れ上がったシャドウの膨大な闇の力を、彼女自身の精神が制御出来なくなり始めていたのだ。

 

「やめて!」

 

エクレールは、暴走するエクリプス・シャドウへと真っ直ぐに向かっていく。

エクリプス・シャドウの体から無差別に放たれる禍々しいエネルギーが、エクレールを襲う。

 

「はぁッ!」

 

エクレールは、痛む腕を庇いながらも、そのすべてを的確に叩き落とし、あるいは紙一重で躱していく。

 

「私は、アルカナと一緒にいたい! シュシュタンと、マシュタンと、こころちゃんと一緒に……みんなと!」

 

エクレールの叫びが響く。

 

「くっ……うっ……ぁぁ……っ」

 

エクレールの真っ直ぐな言葉に、エクリプス・シャドウが頭を抱えて激しく苦しむ。

 

「皆と一緒にいたい!!」

 

エクレールが、地面へと力強く着地する。

 

「きらめきタイム!!」

 

エクレールの右目の星が、夜明けの星のように眩く輝く。

彼女は青い閃光となって、暴走する闇の中心にいるエクリプス・シャドウへと真っ直ぐに飛び込んだ。

その青い瞳には、親友を想う大粒の涙が溢れていた。

 

「るるかと!! 一緒にいたい!!」

 

エクレールが、両手を広げてるるかの胸へと飛び込む。

 

「はっ……!」

エクリプス・シャドウが、黒ダイヤの目を見開く。

エクレールの純粋な光により、エクリプス・シャドウを覆っていたドス黒いエネルギーの殻が、ガラスのようにパリーンと音を立てて砕け散った。

 

そして、世界は真っ白な光に包まれた。

 

***

 

くれあは、静寂に包まれた謎の空間に降り立っていた。

 

「ここは……」

 

「無理なの……」

 

振り向くと、少し離れた所に、いつもの衣装に戻ったるるかの姿があった。

 

「るるか!」

 

「一緒にいられなくても……、ただ、あなたが……笑顔でいてくれれば、それでいい……」

 

パティスリーチュチュで、何も知らずに楽しそうに働いていたくれあの姿を思い浮かべるるるか。

大王になんてならず、探偵としての自分達との記憶が無くなっても、くれあが平和に笑って生きてくれれば、それで良かった。

最初は、ただそれだけを願っていたはずだったのに。

 

「私は、忘れたくない! キュアット探偵事務所でみんなで過ごした日々を! あなた達が認めてくれた、私を!」

 

くれあの右手から、温かく強い光が溢れ出す。

 

「もう、二度と忘れない……教えて!」

 

くれあの右手には、先程マシュタンに渡された『ある物』があり、それが共鳴するように眩い光を放っていた。

 

「あなたの……『本当の答え』を!」

 

くれあの言葉に、るるかの胸の奥に封じ込めていた記憶の蓋が開く。

 

「あっ……」

 

るるかは、走馬灯のように思い出す。

 

るるかと、くれあと、こころ、マシュタン、シュシュタン。5人でドタバタと過ごした、愛おしい日々を。

皆で希望に胸を膨らませて、まことみらい市のキュアット探偵事務所に引っ越してきたことを。

皆で力を合わせて、どんな事件も次々と解決したことを。

どんな辛い事があっても、事務所に帰れば、笑い合って過ごしていた平和な日々を。

隣で、いつも太陽のように笑ってくれた妹・こころの姿を。

隣で、いつも支えてくれた、くれあの優しさを。

 

そして……ロンドンのキュアット探偵事務所で、初めて出会った時のあの瞬間を。

 

『帆羽くれあよ!』

『も……森亜……るるか』

『よろしく!』

『うん……』

 

二人が初めて握手を交わした、あの温かい手の感触を。

 

そして今、二人は再びその手をしっかりと握り合った。

二人の重なった手から、すべてを包み込むような温かい光が漏れ出す。

 

るるかの瞳から、せき止めていたダムが決壊したように、大量の涙が溢れ出した。

 

「わ……私も……っ、私も、一緒にいたい……っ!」

 

るるかが、子供のようにしゃくりあげながら泣き叫ぶ。

 

「貴女と一緒に……もう一度、一歩を踏み出したいよぉ……っ!」

 

くれあは、涙をこぼしながら、最高に優しい笑顔で微笑んだ。

 

「分かってた……っ! 本当は、こんな事をしたって何の意味もないって! 真実を無理やり変えたって……誰も幸せにならないって事くらい……ッ!」

 

るるかの口から、抑え込んでいた悲痛な思いが、とめどなく溢れ出していく。

 

「あの日の自分が許せなくて! 何も出来なかった弱い私が許せなくって! くれあを……こころを助ける事が出来ない無力な自分が、ずっと許せなくって……ッ!」

 

ボロボロと大粒の涙を流するるか。

 

「辛くて、苦しくて、何も冷静に考えられなくて……大好きな貴女を、倒そうとして……っ」

 

「うん……」

 

くれあは、ただ優しく相槌を打つ。

 

「それで……こころを救う為に、ファントムを騙してマコトジュエルを手に入れようとして……」

「そうなのね……」

 

くれあは、るるかの心に溜まったものを、すべて吐き出させるつもりだった。

 

「『ビッグマコトジュエル』を手に入れれば、全てが変えられると思ったの……! 戦いのない平和な世界を、また皆で笑い合える理想の世界を作れると思ったの! ……分かってたの……そんな事、絶対に駄目なことだって事くらい……私だって分かってた……筈なのに……っ、もう……自分じゃ、どうにも止められなくて……ッ!」

 

るるかは、くれあの胸に縋りつき、わんわんと声を上げて泣き崩れた。

 

「大丈夫よ。……今、こうして私の手を取ってくれたじゃない」

 

くれあが、るるかの背中を優しく撫でる。

 

「許されるなら……もう一度……もう一度、貴女と……皆と……並んで、歩みたい……ッ!」

 

それが、孤独な堕天使となっていたるるかの、心の底からの『願い』だった。

 

二人の絆の光が爆発的に強く溢れ出し、世界を覆っていたシャドウの暗闇を完全に打ち払った。

 

「るるか……っ」

 

地上で、光に包まれる二人を見上げるマシュタンの目から、安堵の涙がこぼれる。

 

「バカな……! シャドウの力を……打ち払っただと!?」

 

デッチ・アゲインが、信じられないものを見るように目をひん剥く。

 

「『真実の石を抱く者、大王となる。そして、世界がウソの影で覆われる』……」

 

ミスティックが、予言の言葉をゆっくりと口にする。

 

「もしかして……世界を覆う影って……」

「ええ!」

「るるかさんを……るるかさんの世界を覆った影!」

 

アンサーが、すべての謎が解けたように叫んだ。

 

光が収まり、静かに地面へと降り立つエクレールと、るるか。

エクレールは、るるかに向かって、太陽のようなとびきりの笑顔を向ける。

 

るるかも、ボロボロと涙を流しながら……ずっと見せることのなかった、憑き物が落ちたような、心からの優しい笑顔を見せた。

それは、くれあが大好きだった、本来の『森亜るるか』の美しい笑顔だった。

 

「るるかさん!」

「くれあさん!」

 

アンサーとミスティックが、嬉し泣きしながら二人に駆け寄る。

 

そして、ずっと一人で耐えて泣いていたマシュタンが、一直線にるるかの胸へと飛び込んだ。

 

「グスッ……ありがとう、マシュタン。ずっと、一緒にいてくれて……」

 

るるかが、マシュタンの小さな体をギュッと抱きしめる。

 

「るるかぁ……っ、るるかぁぁっ……!」

 

二人は、これまでの長くて苦しかった孤独な時間を埋めるように、強く、強く抱きしめ合い、声を上げて泣きじゃくった。

 

絶望の影は払われ、迷宮に囚われていた名探偵は、遂に真実の光のもとへと帰還を果たしたのだった。

森亜るるか、森亜こころは、救われるべきか。(今の所るるかが名探偵として復帰後、最終的には、こころも元に戻り救われる方向で考えている。)

  • 救われるべきだ
  • るるか離反、世界を創り変える
  • その他(バッドエンド等)
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