名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜   作:暁 蒼空

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第20話:復活の名探偵、歪んだ願いの終着点(後編)

「グッ……まだだ! まだ……生み出された『シャドウ』がいる!」

 

デッチ・アゲインが、悔しそうに顔を歪める。

 

エクレールの抱擁によってエクリプス・シャドウの闇は砕け散ったが、まだるるかの体から抜け落ちた膨大なシャドウの力が、空中に残っていた。

黒いエネルギーは意思を持つように集まり、一つの巨大な影の怪物『シャドウ』へと姿を変えた。

 

「カーッハッハッ!」

 

地上では、るるかが泣き崩れていた。

 

「私のせいで……ごめんなさい……っ」

 

自らの弱さで大切な親友を傷つけた事、自分のせいで巨大なシャドウの力が生み出されてしまった事への罪悪感で、るるかの心は押し潰されそうになっていた。

 

「大丈夫!」

「えっ……」

 

俯いていたるるかが声に、はっと顔をあげる。

アンサーが、満面の笑顔でるるかの方を向く。

 

「一緒に、ウソ(シャドウ)を止めよう!」

「ええ! 私達の力で!」

 

ミスティックも力強く頷く。

 

「でも……私は……」

 

今まで、あんなに酷いことをしてきた後ろめたさで、るるかの目が泳ぐ。

 

「うん。……それが、『名探偵』だから!」

 

エクレールが、るるかの左手を優しく指差した。

 

るるかは、自分の左手に握られているアイテムを見つめる。

それは、『ティアアルカナロッド』では無かった。

本来の彼女の、名探偵としての変身道具だった。

 

「……うん!」

 

るるかの瞳にハイライトが戻り、迷いのない笑顔を見せた。

 

両掌から、ペンダントがまばゆい光を放つ。

それを胸元に抱くようにして祈りを捧げ、凛とした声を響かせた。

 

「オープン!」

 

眩い光が弾け、周囲が神殿のような厳かな空間へと変わる。

光の中から現れた白色のステッキを、彼女は優雅に手にした。

 

「シャインアルカナロッド!」

 

リボンとハートがあしらわれたそのロッドの先端は、大きな白い花が蕾の状態になっていた。

白いマコトジュエルをロッドへと装着する。

彼女はふっと指先を目元に当てると、目の色が深い紫色から、真実を見通す鮮やかな赤色へと変化。

その瞳には、美しいハートのハイライトが輝いている。

そして、優しく微笑み、高らかに宣言した。

 

「プリキュア!ウェイクアップタイム!」

 

先端部分を回すと、白い蕾が美しく開花。

大きく開いた花の中心には宝石があり、眩く煌めいている。

ロッドを頭上へと掲げると、虹色の光の輪がアーチのように広がる。

 

「輝きなさい!純白に!」

 

その言葉を合図に、彼女の髪は鮮やかな黄金色へと染まり、毛先がピンクに色づきながらふわりと舞い上がった。

青、紫、ピンクの3種類のタロットカードが宙に現れ、彼女の周りを軽やかに舞う。

 

「フラワータップ!」

 

それに呼応するように、彼女の体を包み込むフリルのドレスが形成されていく。

白と淡いブルー、そしてピンクのグラデーションが美しいスカートが広がり、手元には白いカフスが装着された。

大きなピンク色のハートの光が彼女を包み込むと、額にはティアラが、胸元にはハート型のブローチが輝く。

 

光の奔流の中、ロッドの先端部分を再び回すと、白い蕾のように閉じていく。

彼女は静かに目を閉じ、蕾となったロッドを天に向かって力強く伸ばす。

 

「真実を照らす、白き光!」

 

彼女は清らかな光を纏いながら、堂々たる立ち姿で名乗りを上げる。

 

「名探偵! キュアアルカナ!」

 

白い女神が降り立つ。

彼女はまっすぐに前を見据え、自信に満ちた表情でビシッと前方に指を突きつけた。

 

「私の答え、示します!」

 

遂に、本来の姿である『名探偵キュアアルカナ』が完全復活を果たした。

その姿はあまりにも神々しくて、まるで絶望を払う光の女神の様だった。

 

「名探偵……キュアアルカナ!」

「わぁ~!」

 

その美しさに、アンサーとミスティックが感激して見惚れる。

 

「おかえりなさい、アルカナ」

 

アルカナは、親友の声にゆっくりと振り返る。

 

「ただいま、エクレール」

 

「ウォォォォッ!」

 

生み出された巨大なシャドウが、漆黒の大鎌を取りだす。

 

「行け! シャドウ!」

 

デッチ・アゲインの命令で動き出したシャドウが、大鎌からドス黒い斬撃を次々と発生させる。

 

アルカナは全く動じず、シャインアルカナロッドのリボン部分の下にある、雫型のボタンをカチッと押した。

すると、複数の金色の四芒星の光が周囲に現れ、一斉にレーザーとなって放たれる。

 

「アルカナスターシャイン」

 

光のレーザーが、シャドウの黒い斬撃をすべて相殺し、浄化して打ち消す。

 

シャドウは狂ったように連続で斬撃を飛ばしてくる。

それを、アルカナは空中でアクロバティックに躱していく。

 

「ハァッ!」

 

アルカナの強烈な蹴りがクリーンヒットし、上空へと高くカチ上げられるシャドウ。

そして、アルカナは一瞬でシャドウを追い越し、空中で鋭い回し蹴りを放つ。

 

「グォォォッ!?」

 

シャドウは、湖のど真ん中へと一直線に吹き飛ばされ、水面に激突。

巨大な水飛沫があがり、それを浴びいるアルカナ。

その姿すら、絵画のように神々しかった。

 

「まだだ! まだだ、シャドウ!」

 

デッチ・アゲインが、更なる闇の力をシャドウへと注ぎ込む。

 

「ヌハッ、ヌハハハハ~ッ!」

 

湖の中から、さらに巨大化したシャドウが這い上がってくる。

 

「どうだ、キュアアルカナ! いや、君たち4人の力でも止められまい!」

 

デッチ・アゲインが、完全に焦りを見せて叫ぶ。

 

「あら、4人だなんて、誰が言ったの?」

 

マシュタン達妖精が、空を飛んでプリキュア達の元へと集まってきた。

 

「おとも妖精の出番でシュ!」

「シュシュタン!」

「でばん! でば~ん!」

「ポチタ~ン!」

 

「必ず上手くいく。……占うまでもないわ!」

 

マシュタンが、アルカナへと宣言する。

 

「マシュタン……!」

 

すると、シャインアルカナロッドの先端が、共鳴するように強く光り出した。

今まで、るるかが過去にも見たことのない、未知の反応だった。

 

(それでも……何故か分かる。今なら……皆と一緒なら、出来る!)

 

「うん! 行きましょう!」

 

アルカナがロッドを掲げる。

 

「皆!」

 

アルカナの掛け声とともに、妖精たちが一点に集まる。

 

「「「マコトジュエル!」」」

 

妖精達3匹の祈りの力で生み出された、眩いほどに輝くマコトジュエルがアルカナの手の中に。

そのマコトジュエルを、シャインアルカナロッドに装着する。

 

そして、シャインアルカナロッドをアンサー達一人ずつに向けて、ボタンを押した。

「アンサー、ミスティック、エクレール!」

 

「「「オープン!」」」

 

すると、光の導きによって、3人の手にも同じ『シャインアルカナロッド』が具現化して現れた。

 

「「「「これが私達の、アンサー!」」」」

 

四人が同時にロッドの先端を回して、真っ白な花を開花させる。

四人の名探偵が、横一列に並び立つ。

 

「「「「プリキュア・スターディテクティブ!!」」」」

 

四人のロッドから、各色の巨大な螺旋状のエネルギーが束となって放たれた。

圧倒的な光の濁流が、巨大化したシャドウを完全に飲み込む。

 

「「「「キュアット解決!!」」」」

 

「ギャァァァァァァッ!!」

 

断末魔と共に、シャドウは光に溶けるように完全に消滅した。

 

「クッ……名探偵プリキュア……!」

 

デッチ・アゲインが、悔しそうに顔を歪めながら撤退していく。

その姿を、アルカナは冷たく睨みつけていた。

 

るるかも本来の姿に戻ってきて、これで無事に事件は解決。

名探偵たちは、誰もがそう思っていた。

 

ウソノワール、ニジー、アゲセーヌ、ゴウエモンも、撤退しようと緑色のオーラを出現させる。

そして、アゲセーヌに抱かれているウソノワールが、ふと声を発した。

 

「アゲセーヌよ、少し待て」

「うん?」

 

「名探偵プリキュア、見事だった。正直、今回は完敗だ。大人しく撤退するとしよう」

 

そして、ウソノワールはアルカナへと、残酷な言葉を紡いだ。

 

「アルカナ・シャドウ! いや、『キュアアルカナ』! ……貴様は、それで本当にいいのだな?」

「……どういう意味」

 

アルカナが睨み返す。

 

「まさか、今の感動的な出来事のせいで、すっかり忘れてるわけではあるまい? ……貴様の妹、『キュアシンシア』は、未だに我らのアジトに……我々の【手の中】である事を」

 

「あっ……」

 

アルカナの心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。

最悪だった。

こころは、未だにファントムのアジトのベッドで眠っているのだ。

 

「「えっ!」」

「やっぱり、こころちゃんは……」

 

アンサー達も、その残酷な事実に血の気を引かせる。

 

「貴様がファントムを抜けて正義の名探偵に戻るということは、奴は我々のアジトで完全に『一人になる』ということだ。……そして、我らが貴様との『約束(治療)』を守る必要も、全く無くなるということだ」

 

「あっ…あっ……そ、そんな……っ」

 

アルカナの顔が、みるみるうちに絶望の色に染まっていく。

こころは、るるかがファントムに服従するという『約束』のおかげで、アジトの医療機器で何とか延命されていたのだ。

アルカナ・シャドウとして命令を聞いて動いていたからこそ、特別措置として生かしてもらっていた。

それが無くなってしまえば、こころは生命維持装置を外され、直ぐに急変するほどの容態だった。

 

「い、いや……、お願い……それだけは……っ!!」

 

アルカナが、ウソノワールに向かって必死に手を伸ばす。

 

「さらばだ。裏切り者のキュアアルカナ・シャドウ。……いや、名探偵キュアアルカナよ」

 

そう言って、ウソノワールを抱いたアゲセーヌとニジーは、緑色のオーラの中へと入っていき、撤退していった。

 

「待ってぇっ!!」

 

追いかけようとするアルカナだったが。

 

「うぐっ……!」

 

突然、アルカナは糸が切れたようにその場に倒れ込んでしまった。

 

光が弾けると、変身が解け、ボロボロのるるかの姿へと戻る。

アルカナ・シャドウとしてエクレールに敗れた時のダメージと、エクリプス・シャドウとして限界を超えてシャドウの力を使った代償が、一気にるるかの体を襲っていたのだ。

るるかの体は、極限までの疲労と蓄積されたダメージにより、全身が激痛に襲われる。

 

「うっ……ぁぁ……っ」

 

「るるか!」

 

エクレール達が慌てて、るるかへと駆け寄る。

 

「い、いや……だ……。こ……こ……ろ……っ」

 

るるかは、涙を流しながら虚空に右手を伸ばすが……遂に限界を迎え、ガクンと首を落として完全に意識を失ってしまった。

 

「るるか、しっかりして!」

「どうしよう!」

「急いで事務所に連れて帰らないと!」

 

パニックになる三人。

 

すると。

撤退せず一人だけ残っていたゴウエモンが、倒れるるるかをじっと見つめていた。

そして、彼は地面に落ちていた、るるかが使っていた『ティアアルカナロッド』を黙って拾い上げる。

 

「おい、お前ら!」

 

エクレール達が、警戒してゴウエモンの方を向く。

 

「……後輩に伝えろ! 『お前の妹の事は、俺に任せろ』とな」

 

そう言って、ゴウエモンは背を向け、一人オーラの中へと消えて撤退していった。

 

「それって……」

「どういうこと……?」

 

敵の幹部であるはずのゴウエモンの予想外の言葉に、一同は困惑していた。

 

「ゴウエモン……あなた……」

 

マシュタンだけが、何かを悟ったように呟く。

 

「……先ずは、るるかを連れて帰りましょう。早く手当てして休ませないと!」

 

エクレールの言葉に頷き、一同は意識を失ったるるかを抱え、急いでキュアット探偵事務所へと帰還するのだった。

 

***

 

あれから、るるかをキュアット探偵事務所に連れて帰ってきた一同。

 

あんなの部屋のベッドを借りて、マシュタンとくれあが付きっきりでるるかの治療を行っていた。

泥と煤で汚れた体を綺麗に拭き取り、無数にある傷口の手当を行う。

幸いにも、シャドウの力による内部的なダメージと極度の疲労が主な原因であり、直接命に関わりそうな深い外傷はなかった。

 

数ヶ所に手際よくガーゼや包帯が巻かれていく。

着替えさせる服が無かった為、あんなとみくるが急いで近所の服屋に買いに出てくれていた。

 

「るるか……」

「マシュタン、大丈夫よ。取り敢えず、手当は終わったから」

 

ベッドで眠っているるるかを見つめる二人。

 

あんな達が服を何着か買ってきてくれた事で、現在は清潔な寝間着に着替えさせていた。

顔の右頬にガーゼが1枚、額の所には包帯が巻かれている。

 

外傷もそうだが、精神的にも深いダメージを負っているるるか。

蓄積されていた絶望と疲労が、張り詰めていた糸が切れたことで一気に重なって襲ってきており、彼女は現在酷い高熱を出していた。

額には氷嚢が置かれている。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

マシュタンが、こまめにタオルを濡らしては、るるかの流す寝汗を拭いていた。

 

「るるか、頑張って。……大丈夫よ、もう一人じゃないからね」

 

マシュタンの悲痛な声を聞くと、るるかが一人でどんなに苦しんでいたのかが痛いほど分かり、くれあの胸を強く締め付けた。

 

「るるか……」

 

くれあは、ハッと気持ちを切り替える。

 

「私は、待ってる皆に、るるかの容態を伝えてくるわね」

「ありがとう、くれあ。アタシは、るるかの側にいるわ」

「うん。るるかの事、宜しくね」

 

部屋を出ていくくれあ。

 

「るるか……」

「はぁっ、はぁっ……っ……こころ……」

 

高熱にうなされながらも、るるかは妹の名前を呼び続けている。

 

「大丈夫よ。こころちゃんも、きっと無事でいるから……」

 

マシュタンは、泣きそうになりながらも、るるかに優しく声をかけ続けた。

 

***

 

くれあは、皆の元へと向かった。

 

「くれあさん!」

「るるかさんの様子は……」

 

あんなとみくるが心配そうに駆け寄る。

 

「うん。治療は終わったわ。幸いにも、大きな外傷は無かったから」

「よかったぁ〜……」

 

ホッと胸を撫で下ろすあんな。

 

「ただ、酷い高熱を出して魘されてるわ」

「えっ! 大丈夫なんですか!?」

「今は、マシュタンが側で看病しているから……。それよりも、あんなちゃん。ごめんなさい、部屋をベッドごと借りる事になってしまって」

「そんな、気にしないでください!」

 

「今までの蓄積された極度の疲労と、精神的な負担が一気に来て、高熱が出ているのか……」

 

ジェット先輩が、腕を組んで深刻そうに言う。

あんな達は、何も言えなかった。

 

「ええ、多分そうだと思う。……詳しい話は、るるかが起きてから直接聞かないといけないけど、きっと、一人で抱えきれない色んなものをずっと抱え込んでいたから……」

 

沈んだ空気が流れる。

 

「それよりも、去り際の『ゴウエモンの最後の言葉』は、どういう意味何だろう?」

 

あんなが疑問を口にする。

 

「そうだよね。『妹の事は俺に任せろ』って。それに、ウソノワールの言葉をそのまま聞くのであれば……」

「こころちゃんの容態は、きっと……」

 

シュシュタンが青ざめる。

 

「ああ。多分、重症。もしくは、いつ急変して命を落としてもおかしくないレベルの容態……」

 

ジェット先輩が最悪の可能性を口にする。

 

「こころちゃん……」

 

「多分、ゴウエモンが何かこちらにコンタクトを取ってくると思うわ」

 

突然、マシュタンの声が聞こえた。

 

「マシュタン! るるかは……」

 

くれあが振り向く。

 

「大丈夫。熱は高いけど、今は少しだけ落ち着いて眠っているわ」

 

「マシュタン、さっきのってどういう意味?」

 

あんなが尋ねる。

 

「詳しくはアタシにも分からないわ。でも……敵とはいえ、ゴウエモンの義理堅い性格を考えると、あいつが『任せろ』って言う時は、必ず何か行動を起こすわ」

 

「でも、もしそれでウソノワールにバレて、こころさんの容態がおかしくなったら……」

 

みくるが心配する。

 

「……それでも、今はゴウエモンを信じて待つことしか出来ないわ」

 

マシュタンの言葉の通り、今は動けず、待つことしか出来なかった。

 

「ねぇ、マシュタン」

 

くれあが、マシュタンを真っ直ぐに見つめて声をかける。

 

「どうしたの?」

「……教えてくれないかな。こころちゃんは、一体ファントムで『どうしているのか』……どうして、ずっとるるかの隣に居なかったのか」

 

全員が疑問に思い続けていた最大の謎を、くれあが問う。

 

「……そうね。もう、隠す必要もないだろうし……」

 

マシュタンは、重いため息をつき、観念したようにソファーに座った。

 

「貴女たちは、何処まで知っているのかしら」

「シュシュタンが教えてくれたことだけは……」

「そう。シュシュタンに聞いたのなら、アタシ達が攫われたこころちゃんを取り戻す為に出ていった事は知っているわね」

「うん。それと、くれあさんのマコトジュエルを取り返しにいった。こころさんは、ウソノワールと一人で戦って負けたって……」

 

みくるが確認するように言う。

 

「……あれは、戦いなんかじゃ無かった。ただの、理不尽で一方的な暴力だった」

 

マシュタンの声が震える。

 

「あの戦いの時点で、こころちゃんは瀕死の重症を負っていたわ。そして、ファントムのアジトで……『拷問』を受けていたの」

 

「拷問だって!?」

 

ジェット先輩が叫ぶ。

 

「直接アタシ達が見たわけじゃない。でも、アタシ達がファントムのアジトに乗り込んで助けに行った時には、すでにボロボロになったこころちゃんの姿があったわ。……そして、アタシ達の目の前で、こころちゃんはウソノワールの能力で『嘘の記憶』で覆われた」

 

マシュタンは、思い出すのも辛そうに目を伏せた。

 

「『るるかに嫌われている』『見捨てられてる』と思い込まされ、絶望の嘘で精神を覆い尽くされたの」

「ひどい……」

 

あんなが両手で口を覆う。

 

「ずっと、そんなむごい事を繰り返されていたのでしょうね。……そして、アタシ達の目の前で、こころちゃんの精神は完全に『壊れた』わ」

 

「「「えっ……」」」

 

精神が壊れたという生々しい事実に、呆気に取られる一同。

 

「壊れたって……」

「言葉通りよ。こころちゃんの精神がその残酷な嘘に耐えきれなくなって、一切の感情を失い、何も反応を示さない植物状態のようになった。……そして、絶望した彼女の『心のマコトジュエル』も、体から抜け落ちたわ」

 

「………」

 

一同は、あまりの凄惨な出来事に言葉が出なかった。

 

「そして……これが、こころちゃんのマコトジュエルよ」

 

マシュタンが、取り出して机の上に置いたのは……無数のヒビが入り、今にも砕け散りそうな『マコトジュエル』だった。

 

「そんな……、これが、こころちゃんの……」

 

くれあが、震える手でそのジュエルを手に取り見つめる。

 

「心のマコトジュエルにすらヒビが入るほど……精神的に深くやられてしまったの」

 

「じゃあ……、るるかとマシュタンがファントムにいたのは……」

「ええ。最初は、こころちゃんを救い、延命させる為だった。ウソノワールと取引して、『ファントムの幹部として活動し、代わりのマコトジュエルを持ってくれば、こころちゃんの治療する為の医療機材や部屋を支給する』って約束されたから。……あの時のアタシ達には、それしかこころちゃんの命を繋ぐ方法が思いつかなかったのよ」

 

「そっか。……それが『始まり』だったんだね」

 

ここに来て、るるかが背負っていた絶望の深さを知り始める一同。

 

「その後間もなくして、くれあが『大王』じゃないかという証拠が見つかり始めた。そして、ウソノワールから貴女のマコトジュエルを奪って……『自分の手で砕こう』としていたわ」

「そうだったのね。……そして、あとは私達の知っての通りってことね」

 

くれあが静かに頷く。

 

「でも! これでるるかさんも名探偵として戻ってきたし、皆で力を合わせれば、こころさんの事だってきっと……!」

 

あんなが、希望を持たせようと明るく言う。

すると。

 

「……そ……れは、む……り……」

 

声が聞こえて、入り口の方を見ると、顔を真っ赤にしながらドアに寄りかかった状態で立っている『るるか』の姿があった。

 

「「るるか!」」

 

マシュタンとくれあが、慌てて駆け寄る。

歩こうとするるるかだが、体中が小刻みに震えていて、直ぐにバランスを崩して倒れてしまう。

それを慌てて支えるくれあ。

 

「はぁっ、はぁっ……」

「駄目よ! まだ、安静にしていないと!」

 

マシュタンが怒る。

 

「ここ…ろ…を、助けにいか……ないと……っ」

「そのボロボロの体じゃ無理よ!」

 

くれあが制止する。

 

「それに……私は……皆と一緒には……いられないわ……」

 

るるかが、くれあの手を弱々しく拒絶する。

 

「どうして! 皆で力を合わせれば、こころさんの事だってきっと……!」

 

みくるが叫ぶ。

 

「もう……私は……『名探偵』を……名乗る資格なんて……な……い……」

 

るるかの目から、涙がこぼれる。

 

今にも倒れそうなるるかを、くれあが強引にソファに寝かせる。

マシュタンは、急いで部屋から氷嚢とタオルを持ってくる。

 

「どうして、そこまで自分を追い詰めるんだ」

 

ジェット先輩が呟く。

皆が思ったことだった。

あまりにも、るるかは責任を感じて自分を責めすぎだと。

 

マシュタンだけは、るるかの深い絶望の気持ちを理解できた。

ソファに少し寝かせたことで、呼吸が落ち着いてきたるるか。

 

「……私は……取り返しのつかない事をしようとしたわ。……いや、今も……心の何処かでは、そう思っているの……」

「取り返しのつかないことって……」

「それって……」

 

くれあは、あの空間でるるかと話したからこそ、何となく理解できていた。

 

「私は……ファントムと同じ。……『ビッグマコトジュエル』を手に入れようとしたわ」

 

「それは、こころさんを救うためにウソノワールの命令を聞かなきゃいけなかったからで……」

 

あんなが庇おうとする。

 

「違うの……」

 

るるかが、ゆっくりと首を横に振る。

 

「私は……私自身の『身勝手な願い』で……ビッグマコトジュエルを手に入れようとしたの」

 

「「えっ……」」

「どういうことでシュ?」

 

シュシュタンが驚く。

 

「貴女達は、見たでしょ。……私達の過去を……あの記憶の世界で」

「うん」

「じゃあ……マコトジュエルが『何なのか』も、聞いたわね」

 

「確か……妖精を信じていた、人の心の結晶。その力は、ウソを真実にすることだって、『世界を創り変えることが出来る』……」

 

みくるが、まふる所長の言葉を復唱する。

 

「だから、怪盗団ファントムから守らなきゃいけなかったんだよね。ウソで覆われないために」

 

あんなが言う。

 

るるかは、少しだけ荒い息を整える。

 

「そう。世界を創り変える事が出来る。……私は、その力を手に入れようとしたの」

 

「るるか……」

「どうして……どうして、そんな事を……」

 

あんな達は信じられなかった。

名探偵であった筈のるるかが、世界を創り変えるなんていうタブーの考えに至ったことが。

 

「こころの精神を元に戻す方法が、どうしても思いつかなかったの。……だから、あの石の力で……私の思った通りの『真実』を手に入れようとした」

 

一同は、息を呑んで黙って聞いていた。

 

「こころの精神が壊れていないという真実。……プリキュアと怪盗団ファントムなんて居ないという真実。……戦いなんて、最初からどこにもない世界。……こころと、くれあと、マシュタンと、シュシュタンと、私……また5人で笑い合って生活できる世界。名探偵プリキュアなんかじゃなくて、ただの町の『名探偵』として、皆で助け合って、他愛もないことで笑い合える平和な世界」

 

るるかは、虚ろな目で天井を見つめる。

 

「……私は、そんな都合の良い世界を……欲してしまったのよ……」

 

そこまで喋って、るるかの疲労と高熱がピークに達し始め、防衛本能が彼女の体を強制的に休ませようとする。

るるかの瞳が、重く閉じ始める。

 

「だから私は……名探偵……しっ……か……く……」

 

そのまま、るるかは静かに意識を失い、深い眠りへと落ちていった。

 

「……るるかを、部屋まで連れて行くわ」

 

くれあは、眠るるるかを優しく抱き上げ、再び二階の部屋へと連れて行った。

 

るるかが去った後、マシュタンがポツリと口を開いた。

 

「あの子は不器用だけど……本当に、誰よりも優しい子なのよ」

 

マシュタンの言葉に、一同は静かに耳を傾ける。

 

「だからこそ、自分を限界まで追い詰めてしまった。……もう、それ以上の真っ当な事を考えられなくなってしまったの。大切な親友を戦いに巻き込んだ事。そして、一番大切な妹があんな無惨な事になって。……るるかの純粋な願いは、絶望の中でどんどん歪んでしまった。……その悲しい結果が、今のるるかなのよ」

 

「うん。……きっと、私達には想像も出来ないほど、一人で辛かったんだろうね……」

 

あんなが、涙ぐみながら頷く。

 

「何にせよ、今はるるかをゆっくり休ませる事が一番大事だ。……森亜こころを助け出すのも、何をするのにも、まずは自分自身が回復しないとな」

 

ジェット先輩が、優しく言う。

 

「そうだね。私達も、るるかさんに『名探偵として』頼られる様に……もっともっと頑張らないと!」

 

みくるが力強く拳を握る。

 

「皆……ありがとう」

 

マシュタンは、温かい仲間の存在に、心からの感謝の涙を流すのだった。

森亜るるか、森亜こころは、救われるべきか。(今の所るるかが名探偵として復帰後、最終的には、こころも元に戻り救われる方向で考えている。)

  • 救われるべきだ
  • るるか離反、世界を創り変える
  • その他(バッドエンド等)
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