名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜   作:暁 蒼空

9 / 12
第1話:動き出す時間、交差する光と影(中編)

マシュタンを腕に抱きしめ、るるかは暗い廊下を歩いている。

暗く冷たい廊下を歩く彼女の顔には、隠しきれない悲壮な影が落ちていた。

 

劇場を模したアジト――怪盗団ファントムがいつも集う大広間へと戻ると、そこはひどく静まり返っていた。

すでにアゲセーヌは、新たなマコトジュエルを狙って出撃した後だった。

ニジーやゴウエモンの姿もなく、VIP席から見下ろしてくるウソノワールと、るるか達だけが残されている状態だった。

 

「アルカナ・シャドウ。アゲセーヌの元へ行き、伝言を伝えてこい」

 

ウソノワールの低く威圧的な声が、静かな劇場に響く。

 

「プリキュアを……奴らを倒して、華麗に盗め、とな」

 

その命令に、るるかの足がピタリと止まった。

こころを救うためなら何でもすると誓った。

悪魔に魂を売り渡す覚悟は決めたはずだった。しかし――。

 

(新しい、名探偵プリキュア……。あの子たちを……)

 

かつての自分達と同じように、平和を守るために立ち上がった純粋な少女たち。

彼女たちを攻撃し、大切なものを奪えという直接的な指示に、るるかの心は激しく軋んだ。

心の中ではまだ『正義』と『悪』の間で引き裂かれており、完全に怪盗に染まりきれてはいなかったのだ。

 

「…………」

 

るるかは唇を噛み締め、俯いたまま返事を作ることができなかった。

ウソノワールの冷ややかな視線が突き刺さる。

その空気を察し、るるかの腕の中にいたマシュタンが、咄嗟に声を張り上げた。

 

「ライライサー!」

 

るるかの代わりに答えたマシュタン。

その小さな妖精の気遣いに、るるかはハッと我に返り、逃げるようにアジトの暗闇へと足を踏み出した。

 

***

 

一方、その頃。

まことみらい市の街角にあるインテリアショップ『カメリアインテリア』。

そこには、明るい声と笑顔が溢れていた。

 

「わぁ~、はなまるすてき!」

 

一歩店内に足を踏み入れたあんなは、目を輝かせた。

「いらっしゃいませ」と微笑む店員の声をBGMに、みくるも周囲を見渡して頬を緩める。

 

「可愛いもので、あふれてる!」

「ポチ~!」

 

あんなのポーチから顔を出したポチタンが、一つの置物を見つけて身を乗り出した。

 

「あっ、これ、かわいい!」

「ほんとだ!」

「亀か? これ」

 

あんなとみくる、そしてジェット先輩が覗き込んだのは、美しいガラス細工で作られた亀の置物だった。

光を反射してキラキラと輝くその姿に、あんなはすっかり心を奪われてしまう。

 

「ジェット先輩! この子ほしい!」

「えぇ~? ボクにねだるなよ」

 

呆れ顔のジェット先輩とあんながそんなやり取りをしていると、女性店員の『ちほ』が申し訳なさそうに歩み寄ってきた。

 

「ごめんなさい。それ、売り物じゃないんです。このお店のシンボルなんですよ」

「シンボル?」

「はい。店のみんなで大切にしてて……『亀みたいに歩みは遅くても、1歩ずつ前に進んでいこう』。そして、『いつか、もっと広くて素敵なお店にしよう』って。この亀の置物を見るたびに、がんばろうって思えるんです」

 

ちほの言葉に、あんなはパッと顔を輝かせた。

 

「すてき!」

「これはお売りできませんけど、ほかの物なら、ご案内しますよ」

「おねがいします!」

 

元気よく返事をする二人の元へ、今度はもう一人の男性店員がやって来る。

 

「あっ、ちほさん。ボクが戻しておきますよ」

「ありがとう、卓也くん」

 

卓也と呼ばれた店員が、ガラスの亀の置物を大切そうに受け取り、元の展示スペースへと運んでいった。

 

「わぁ~、かわいいソファー!」

「口を開けば『かわいい』だな……。探偵事務所にはソファーならあるだろ」

「でしたら、クッションはいかがですか? お持ちのソファーに合わせてみては」

 

ちほの提案に、ジェット先輩が腕を組む。

 

「まぁ……クッションなら」

「今、お持ちしますね」

 

ちほが奥へ向かっている間、あんなとみくるは店内を見て回った。

 

「あっ! このカーテンよくない?」

「ちょっと派手じゃないか?」

「なら、これはどう? 名探偵って感じじゃない?」

 

みくるが指差したのは、シックなデザインのブラインドだった。

 

「うん! うん!」

「お前ら……楽しそうだな」

 

ジェット先輩がくすりと笑った、その時だった。

 

「ポッ! ポチ~!!」

 

突然、ポチタンがポーチの中から飛び出し、何かに激しく反応を示した。

 

「もしかして、また事件!?」

 

あんなが身構えた直後、店内の奥からちほの焦った声が響いた。

 

「ないんです! 置物が!?」

「えっ、さっきまであったのに!」

 

卓也も驚いたように声を上げる。

店のシンボルだった、あの亀の置物が忽然と姿を消してしまったのだ。

 

「たちゅけて……」

 

ポチタンが、怯えたように声を漏らす。

 

「これが事件?」

「あの置物に、マコトジュエルが宿っていたのかも……」

 

みくるが探偵らしい鋭い目で推測する。

 

「ほら……今までも、ポチタンがつれてきた時って、マコトジュエルが危険な時……とられた時だったでしょ?」

「なるほど……ありうるな」

 

ジェット先輩も頷く。

あんなは両手をグッと握りしめた。

 

「わたしたちに、まかせてください!」

 

事件解決に向け、あんなはアイテムを取り出した。

ポケットを探り、取り出したのは小さな本とペン。

 

「オープン! プリキットブック!」

 

手の中の小さな本とペンが、光をまといながら大きく変化していく。

 

「え?」

 

急な出来事に店員のちほと卓也が驚く。

 

「小さくして持ち運べるんだ! 天才だろ!」

 

得意げな顔をしてドヤるジェット先輩。

 

「私たち、キュアット探偵事務所の探偵ですっ!!」

 

二人はプリキットブックを開き、顔写真と名前を示す。

 

「た、探偵……?」

 

ちほと卓也が目を丸くする。

 

「事件を解決してみせます!」

 

二人が宣言する。

 

「ええ、お願いします!」

 

ちほが二人にお願いする。

 

 

「一体何の騒ぎ?」

「What’s happened?」

 

店内にいた全員がフロアに集められた。

 

女性店員の前田ちほさん。

男性店員の仲手川卓也さん。

女性客の賀来さえこさん。

外国人のトム・ミラーさん。

以上の4名が集まった。

 

「お店にいるのはこれで全員です」

 

ちほさんが不安そうに言う。

 

「犯人は別の誰かで、こっそり入って取って出て行っちゃったとかは?」

 

あんなが周囲を見回した。

 

「でも、ドアを開けると鳴るベルは鳴っていません」

 

卓也さんが首を振った。

入り口のドアにはベルがついている。

開ければ必ず音が鳴る仕組みとなっていた。

 

「他に出入口はありませんか?」

「家具を出し入れする搬入口があります」

 

裏手の搬入口。

そこからなら、気づかれずに出入りできる可能性はあるかもしれない。

 

「犯人はそこから入って、置物を持って出ていったのかな?」

 

あんなが推理を口にする。

みくるは首を横に振った。

 

「かもしれないけど、決めつけるには早いよ。ここにまだ犯人がいる可能性も考えないと」

「でも、みんな置物は持ってなさそうだけど」

 

誰の手にも亀はないし、持っているようには見えなかった。

みくるがはっと顔を上げた。

 

「結婚式のティアラの時と同じかも!」

「そうか! どこかに隠してるとか!」

 

みくるの言葉にあんなは目を輝かせる。

 

「あの置物ってガラスだったよね」

「うん」

「隠すなら、割れる心配がない場所…ピンっときた!」

 

ピンっときて、ぬいぐるみの中を探す二人。

 

「あった!!」

 

ぬいぐるみの中からガラスの亀が出てきた。

卓也さんはあんなの手から亀の置物を受け取り、状態を確認していた。

 

「1・2…6枚そろってる! どこも壊れてない」

「ん?」

 

何かに納得いっていない、あんなとみくる。

 

「これで…事件解決?」

「まだでしょ!」

「置物をねらった犯人がファントムが、この中にいるはず!」

「みくる! 聞き込み調査!」

「ええ!」

 

二人は聞き込み調査を始める。

 

「ズバリ……犯行時、あなたはどこにいましたか?」

「Oh, I can’t speak Japanese…」

 

二人が最初に聞き込みをしたのは、外国人のトムさんだった。

 

「英語だ~! どうしよう」

 

英語が分からず、焦る二人。

 

「そんな時には! この天才の発明品、プリキットグミがある!」

 

焦っていた二人にジェット先輩が胸を張って答える。

あんなは、腰にぶら下げているアクセサリーの中から、ハート形の小さなケースを取り外した。

 

「オープン! プリキットグミ!」

 

ケースが光を放ち、手のひらサイズに変化する。

可愛らしいケースから取り出したグミを見て、あんなは目を輝かせる。

「はなまるかわいい!」

「食べてみろ」

 

言われるがままに口に放り込むと、フルーツの甘い味が広がった。

 

「プニプニ~」

「おいしい!」

「おいしいだけじゃないぞ。食べると、どんな言葉も理解して、話せるようになる!」

「えぇ~! すご~い!」

「ちなみに、効果は3分間だ」

「じゃあ、急いで聞かないと!」

 

あんなとみくるは、店内にいた人々に聞き込みを開始した。

 

「お店のどこで何をしてましたか?」

「彼とスカーフをさがしてたよ」

 

お客の男性『トム』は、店員の卓也を指差した。

 

「彼と一緒にいましたか?」

「はい。トムさんは、お母さまへのプレゼントにスカーフをお探しで」

「素敵なスカーフを選んでくれたんですよ」

「はい、あの置物に似た柄を選びました。お母さまが庭で植物を育てるのが趣味とお聞きしたので、お好きな柄かなと」

 

卓也の証言を、みくるは探偵手帳に素早くメモしていく。

 

「置物の柄に似たスカーフ……と」

「置物の柄?」

「植物……?」

 

あんなとみくるは顔を見合わせた。

亀の置物と、植物。

何か引っかかる。

 

一方、別のお客である女性『さえこ』にも話を聞く。

 

「あなたは、どこに?」

「わたしは……店に入ってからず~っと、この子をなでなでしてました」

 

さえこの足元には、一匹の猫が気持ちよさそうに丸くなっていた。

 

「猫か……これじゃ証人にならないね」

「されてたよ」

「「えっ?」」

 

あんなとみくるが驚いて下を向くと、猫が堂々と口を開いた。

 

「ず~っとなでなで」

「えぇ~! 猫の言葉も分かるの!」

「天才だろ?」

 

ジェット先輩がドヤ顔で胸を張る。

これでさえこのアリバイは証明された。

 

「あの~、母が待ってるから、もう行かないと」

時計を気にしながら、トムが帰ろうとする。

すると、ちほが卓也に声をかけた。

 

「卓也くん、プレゼント用のシール、はりわすれてるわよ」

「えっ? あぁ、すみません!」

「シールをサービスしてます。この中から、おすきなものをおえらびください」

 

ちほが差し出したシールのシートを見て、トムは腕を組んで悩んだ。

 

「この6枚の中から選ぶの? 悩むな……う~ん……。スカーフの色と合わせようかな」

 

その言葉を聞いた瞬間。

あんなとみくるの脳内に、バラバラだった証言のピースが『カチッ』と音を立てて繋がった。

 

「スカーフ……」

「6枚……」

 

植物が好きな母親。

亀の置物に似た柄。

そして、『6枚』。

 

「「見えた! これが答えだ!」」

 

二人の瞳がキラッと鋭く輝く。

名探偵の直感と推理が、一つの真実を導き出した。

 

「犯人は……あの人だ!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。