名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
マシュタンを腕に抱きしめ、るるかは暗い廊下を歩いている。
暗く冷たい廊下を歩く彼女の顔には、隠しきれない悲壮な影が落ちていた。
劇場を模したアジト――怪盗団ファントムがいつも集う大広間へと戻ると、そこはひどく静まり返っていた。
すでにアゲセーヌは、新たなマコトジュエルを狙って出撃した後だった。
ニジーやゴウエモンの姿もなく、VIP席から見下ろしてくるウソノワールと、るるか達だけが残されている状態だった。
「アルカナ・シャドウ。アゲセーヌの元へ行き、伝言を伝えてこい」
ウソノワールの低く威圧的な声が、静かな劇場に響く。
「プリキュアを……奴らを倒して、華麗に盗め、とな」
その命令に、るるかの足がピタリと止まった。
こころを救うためなら何でもすると誓った。
悪魔に魂を売り渡す覚悟は決めたはずだった。しかし――。
(新しい、名探偵プリキュア……。あの子たちを……)
かつての自分達と同じように、平和を守るために立ち上がった純粋な少女たち。
彼女たちを攻撃し、大切なものを奪えという直接的な指示に、るるかの心は激しく軋んだ。
心の中ではまだ『正義』と『悪』の間で引き裂かれており、完全に怪盗に染まりきれてはいなかったのだ。
「…………」
るるかは唇を噛み締め、俯いたまま返事を作ることができなかった。
ウソノワールの冷ややかな視線が突き刺さる。
その空気を察し、るるかの腕の中にいたマシュタンが、咄嗟に声を張り上げた。
「ライライサー!」
るるかの代わりに答えたマシュタン。
その小さな妖精の気遣いに、るるかはハッと我に返り、逃げるようにアジトの暗闇へと足を踏み出した。
***
一方、その頃。
まことみらい市の街角にあるインテリアショップ『カメリアインテリア』。
そこには、明るい声と笑顔が溢れていた。
「わぁ~、はなまるすてき!」
一歩店内に足を踏み入れたあんなは、目を輝かせた。
「いらっしゃいませ」と微笑む店員の声をBGMに、みくるも周囲を見渡して頬を緩める。
「可愛いもので、あふれてる!」
「ポチ~!」
あんなのポーチから顔を出したポチタンが、一つの置物を見つけて身を乗り出した。
「あっ、これ、かわいい!」
「ほんとだ!」
「亀か? これ」
あんなとみくる、そしてジェット先輩が覗き込んだのは、美しいガラス細工で作られた亀の置物だった。
光を反射してキラキラと輝くその姿に、あんなはすっかり心を奪われてしまう。
「ジェット先輩! この子ほしい!」
「えぇ~? ボクにねだるなよ」
呆れ顔のジェット先輩とあんながそんなやり取りをしていると、女性店員の『ちほ』が申し訳なさそうに歩み寄ってきた。
「ごめんなさい。それ、売り物じゃないんです。このお店のシンボルなんですよ」
「シンボル?」
「はい。店のみんなで大切にしてて……『亀みたいに歩みは遅くても、1歩ずつ前に進んでいこう』。そして、『いつか、もっと広くて素敵なお店にしよう』って。この亀の置物を見るたびに、がんばろうって思えるんです」
ちほの言葉に、あんなはパッと顔を輝かせた。
「すてき!」
「これはお売りできませんけど、ほかの物なら、ご案内しますよ」
「おねがいします!」
元気よく返事をする二人の元へ、今度はもう一人の男性店員がやって来る。
「あっ、ちほさん。ボクが戻しておきますよ」
「ありがとう、卓也くん」
卓也と呼ばれた店員が、ガラスの亀の置物を大切そうに受け取り、元の展示スペースへと運んでいった。
「わぁ~、かわいいソファー!」
「口を開けば『かわいい』だな……。探偵事務所にはソファーならあるだろ」
「でしたら、クッションはいかがですか? お持ちのソファーに合わせてみては」
ちほの提案に、ジェット先輩が腕を組む。
「まぁ……クッションなら」
「今、お持ちしますね」
ちほが奥へ向かっている間、あんなとみくるは店内を見て回った。
「あっ! このカーテンよくない?」
「ちょっと派手じゃないか?」
「なら、これはどう? 名探偵って感じじゃない?」
みくるが指差したのは、シックなデザインのブラインドだった。
「うん! うん!」
「お前ら……楽しそうだな」
ジェット先輩がくすりと笑った、その時だった。
「ポッ! ポチ~!!」
突然、ポチタンがポーチの中から飛び出し、何かに激しく反応を示した。
「もしかして、また事件!?」
あんなが身構えた直後、店内の奥からちほの焦った声が響いた。
「ないんです! 置物が!?」
「えっ、さっきまであったのに!」
卓也も驚いたように声を上げる。
店のシンボルだった、あの亀の置物が忽然と姿を消してしまったのだ。
「たちゅけて……」
ポチタンが、怯えたように声を漏らす。
「これが事件?」
「あの置物に、マコトジュエルが宿っていたのかも……」
みくるが探偵らしい鋭い目で推測する。
「ほら……今までも、ポチタンがつれてきた時って、マコトジュエルが危険な時……とられた時だったでしょ?」
「なるほど……ありうるな」
ジェット先輩も頷く。
あんなは両手をグッと握りしめた。
「わたしたちに、まかせてください!」
事件解決に向け、あんなはアイテムを取り出した。
ポケットを探り、取り出したのは小さな本とペン。
「オープン! プリキットブック!」
手の中の小さな本とペンが、光をまといながら大きく変化していく。
「え?」
急な出来事に店員のちほと卓也が驚く。
「小さくして持ち運べるんだ! 天才だろ!」
得意げな顔をしてドヤるジェット先輩。
「私たち、キュアット探偵事務所の探偵ですっ!!」
二人はプリキットブックを開き、顔写真と名前を示す。
「た、探偵……?」
ちほと卓也が目を丸くする。
「事件を解決してみせます!」
二人が宣言する。
「ええ、お願いします!」
ちほが二人にお願いする。
「一体何の騒ぎ?」
「What’s happened?」
店内にいた全員がフロアに集められた。
女性店員の前田ちほさん。
男性店員の仲手川卓也さん。
女性客の賀来さえこさん。
外国人のトム・ミラーさん。
以上の4名が集まった。
「お店にいるのはこれで全員です」
ちほさんが不安そうに言う。
「犯人は別の誰かで、こっそり入って取って出て行っちゃったとかは?」
あんなが周囲を見回した。
「でも、ドアを開けると鳴るベルは鳴っていません」
卓也さんが首を振った。
入り口のドアにはベルがついている。
開ければ必ず音が鳴る仕組みとなっていた。
「他に出入口はありませんか?」
「家具を出し入れする搬入口があります」
裏手の搬入口。
そこからなら、気づかれずに出入りできる可能性はあるかもしれない。
「犯人はそこから入って、置物を持って出ていったのかな?」
あんなが推理を口にする。
みくるは首を横に振った。
「かもしれないけど、決めつけるには早いよ。ここにまだ犯人がいる可能性も考えないと」
「でも、みんな置物は持ってなさそうだけど」
誰の手にも亀はないし、持っているようには見えなかった。
みくるがはっと顔を上げた。
「結婚式のティアラの時と同じかも!」
「そうか! どこかに隠してるとか!」
みくるの言葉にあんなは目を輝かせる。
「あの置物ってガラスだったよね」
「うん」
「隠すなら、割れる心配がない場所…ピンっときた!」
ピンっときて、ぬいぐるみの中を探す二人。
「あった!!」
ぬいぐるみの中からガラスの亀が出てきた。
卓也さんはあんなの手から亀の置物を受け取り、状態を確認していた。
「1・2…6枚そろってる! どこも壊れてない」
「ん?」
何かに納得いっていない、あんなとみくる。
「これで…事件解決?」
「まだでしょ!」
「置物をねらった犯人がファントムが、この中にいるはず!」
「みくる! 聞き込み調査!」
「ええ!」
二人は聞き込み調査を始める。
「ズバリ……犯行時、あなたはどこにいましたか?」
「Oh, I can’t speak Japanese…」
二人が最初に聞き込みをしたのは、外国人のトムさんだった。
「英語だ~! どうしよう」
英語が分からず、焦る二人。
「そんな時には! この天才の発明品、プリキットグミがある!」
焦っていた二人にジェット先輩が胸を張って答える。
あんなは、腰にぶら下げているアクセサリーの中から、ハート形の小さなケースを取り外した。
「オープン! プリキットグミ!」
ケースが光を放ち、手のひらサイズに変化する。
可愛らしいケースから取り出したグミを見て、あんなは目を輝かせる。
「はなまるかわいい!」
「食べてみろ」
言われるがままに口に放り込むと、フルーツの甘い味が広がった。
「プニプニ~」
「おいしい!」
「おいしいだけじゃないぞ。食べると、どんな言葉も理解して、話せるようになる!」
「えぇ~! すご~い!」
「ちなみに、効果は3分間だ」
「じゃあ、急いで聞かないと!」
あんなとみくるは、店内にいた人々に聞き込みを開始した。
「お店のどこで何をしてましたか?」
「彼とスカーフをさがしてたよ」
お客の男性『トム』は、店員の卓也を指差した。
「彼と一緒にいましたか?」
「はい。トムさんは、お母さまへのプレゼントにスカーフをお探しで」
「素敵なスカーフを選んでくれたんですよ」
「はい、あの置物に似た柄を選びました。お母さまが庭で植物を育てるのが趣味とお聞きしたので、お好きな柄かなと」
卓也の証言を、みくるは探偵手帳に素早くメモしていく。
「置物の柄に似たスカーフ……と」
「置物の柄?」
「植物……?」
あんなとみくるは顔を見合わせた。
亀の置物と、植物。
何か引っかかる。
一方、別のお客である女性『さえこ』にも話を聞く。
「あなたは、どこに?」
「わたしは……店に入ってからず~っと、この子をなでなでしてました」
さえこの足元には、一匹の猫が気持ちよさそうに丸くなっていた。
「猫か……これじゃ証人にならないね」
「されてたよ」
「「えっ?」」
あんなとみくるが驚いて下を向くと、猫が堂々と口を開いた。
「ず~っとなでなで」
「えぇ~! 猫の言葉も分かるの!」
「天才だろ?」
ジェット先輩がドヤ顔で胸を張る。
これでさえこのアリバイは証明された。
「あの~、母が待ってるから、もう行かないと」
時計を気にしながら、トムが帰ろうとする。
すると、ちほが卓也に声をかけた。
「卓也くん、プレゼント用のシール、はりわすれてるわよ」
「えっ? あぁ、すみません!」
「シールをサービスしてます。この中から、おすきなものをおえらびください」
ちほが差し出したシールのシートを見て、トムは腕を組んで悩んだ。
「この6枚の中から選ぶの? 悩むな……う~ん……。スカーフの色と合わせようかな」
その言葉を聞いた瞬間。
あんなとみくるの脳内に、バラバラだった証言のピースが『カチッ』と音を立てて繋がった。
「スカーフ……」
「6枚……」
植物が好きな母親。
亀の置物に似た柄。
そして、『6枚』。
「「見えた! これが答えだ!」」
二人の瞳がキラッと鋭く輝く。
名探偵の直感と推理が、一つの真実を導き出した。
「犯人は……あの人だ!」