今回はザルド視点の話になりますね
猛毒の巨獣の肉を喰らい、増した力で巨獣を屠った俺は、戦いが終わった後であろうと油断はしていなかった筈だ。
しかし、近付いてきていた奇妙な鎧を纏った男に気付くことが出来ず、力付くで強引に瓶に入っていた大量の液体を飲まされることになる。
Lv7である俺よりも遥かに力が強い男が何者であるかを考える前に、喉を通っていく大量の液体。
「毒の解毒剤だ。全部飲め」
そう言いながら此方に追加で新たな瓶の中身を再び強引に飲ませ始めた男の言葉に嘘はなく、喰らった巨獣の毒に内側から蝕まれていた身体が、飲めば飲むほど楽になってきていた。
解毒剤なのは解ったが飲ませる前に説明しろ、と言いたい気持ちはあったが、此方に有無を言わさずに強引なところはヘラの眷族達に似ているかもしれん。
それから合計で大瓶3本の解毒剤を力付くで強制的に飲ませられ続けた俺は、猛毒の巨獣を喰らったことによる悪影響からは完全に解放されたが、男からは解放されず、何故か初対面の男から叱られることになる。
巨獣の毒肉を喰らわずとも倒せたのは間違いないと気付いていたにも関わらず、態々自分から毒肉を喰らい内側から猛毒に蝕まれたことにどうやって対処するつもりだったのか説明してみるように言われ、何も言えなくなっていた此方に、厳しい言葉を何度も投げ掛けてきた男。
凄まじく強引だったとはいえ、俺に解毒剤を飲ませてくれた男は命の恩人でもあり、言っていることが全て真っ当なことであった為、反論することなく叱られていた俺は、危険なことをして叱られるという久しぶりな経験を味わった。
一通り言いたいことを全て言った様子の男は、解毒剤の余りを他の面々に渡すと、足早に立ち去っていったが、腕力だけではなく脚力もとんでもない男は僅かな間に遠くへと離れていく。
全身を覆い隠す奇妙な鎧を着たLv7が抵抗出来ない程の凄まじい力を持つ謎の男。
謎が多い男ではあったが、俺が善意で助けられたことから考えても、悪人ということだけは絶対にない。
薬だけ渡して去っていった只者ではない男と聞くと、ヘラ・ファミリアが探しているアルフィアとメーテリアの恩人が思い浮かんだが、同一人物であったかまでは解らんな。
アルフィアとメーテリアが言っていた外見的な特徴は金髪と菫色の目だけで、全身を覆い隠す奇妙な鎧を纏った男は、頭髪や目も隠れていて顔なども確認できていなかった。
そんな謎の男との出会いはあれど、ベヒーモスを屠った後はリヴァイアサンとの戦闘がゼウスとヘラのファミリアを待っており、用意された足場の上で海竜と戦った俺達。
アルフィアの魔法でリヴァイアサンにも勝利し、戦いの傷が癒えた頃、最後に残る黒竜討伐の為、竜の谷へと向かうゼウスとヘラのファミリアだったが、到着した竜の谷には、谷を覆う巨大な竜巻を背に立つ1人の男が居る。
金髪で菫色の目をした長身の男は片手に焔を纏う大鎚を持っており、男が大鎚を振るうと一瞬で巨大な炎壁が築かれて、俺達が竜の谷へと侵入することを阻んだ。
「きみ達は黒竜に挑むつもりなのだろう?ならば、英雄でも戦士ですらもない私程度は、余裕で倒せる実力がなければ黒竜を倒すことなど不可能だ。巨獣や海竜よりも、黒竜は遥かに強いからな」
俺に解毒剤を飲ませた時と同じ声で、そう言ってきた男は、ゼウスとヘラのファミリアを相手に戦うつもりであるらしい。
男の言葉に珍しく目を見開いていたアルフィアには僅かな動揺があったが、やはり俺に解毒剤を飲ませた男は、アルフィアの恩人でもあったのだろう。
それから始まったのは戦闘ではなく一方的な蹂躙であり、俺達の攻撃は男に届くことなく防がれ、霞んで見える程の超速で振るわれる男の大鎚は此方の防御を容易く粉砕し、地に伏せる者達の数だけが増えていった。
ゼウスとヘラのファミリアの連合を、ただ1人で圧倒する男は、それだけのことをしておきながら、汗の1つも流すことなく涼しげな顔で、大鎚を振り回す。
女帝が剣を叩き折られてから大鎚で沈められ、英傑が大剣を大鎚で砕かれて、叩き込まれた大鎚で吹き飛ばされてからは動かない。
リヴァイアサンを打ち倒したアルフィアの必殺の魔法が、振るわれた大鎚の一撃で粉砕され、アルフィア自身も大鎚により地に崩れ落ちる。
最後に残ったのは俺だけとなり、焔を纏う大鎚を握る男が近付いてきたかと思えば、超高速で振るわれた大鎚。
それを避ける間もなく、凄まじい力で殴打された瞬間、全身がバラバラになりそうな衝撃と痛みだけを感じて倒れた俺は、もう立ち上がることができなかった。
男がベヒーモスやリヴァイアサンよりも格上のバケモノであると、ゼウスとヘラのファミリアは思い知らされて、かつてない程の敗北を味わうことになった俺達。
これほどの強者が、遥かに強いと断じる黒竜がどれほどの脅威であるかを、警戒することになった俺達は、黒竜の討伐に挑むにはまだ早いと判断し、ダンジョンで鍛練を積み重ねることに決めておく。
英雄でも戦士ですらもないと自称する男に、勝てなかった今の俺達では、黒竜に勝利することは不可能だ。
それを教える為に、男は大鎚を振るったのだろうが、容赦が欠片もなかったあたりは、やはりヘラ・ファミリアに似ているのかもしれんな。
ちなみにザルドが飲まされた解毒剤は爽快な味わいで結構美味しかったようです