今回はベート視点になりますね
平原の獣民、そう呼ばれる部族の族長の子として俺は生まれた。
狼人で誰よりも強い族長の父の強さと勇ましい戦士達を誇らしく思え、俺も父や戦士達みたいに強くなりたいと考えて、ひたすら牙を磨く日々を過ごす。
そうして子ども達の中で1番強くなり、幼馴染みであるレーネの隣も実力で勝ち取った俺。
「強くなくたって、一緒にいるのに」
そう呟いていたレーネは、きっと俺が強くなくても一緒に居てくれたのだろう。
そんな優しい彼女が傷つくことがないように、もっと強くなろうと決意したその日の夜。
怪物が現れた。
月の輝く夜に、現れたのは空を飛べない翼を持つ竜。
屈強な筈の戦士達の攻撃が通じない鱗を持つ怪物には、月の光で覚醒した狼人達でも、族長である俺の父ですらも敵わない。
弱肉強食、弱ければ全てを奪われるとするなら、この時の父と戦士達は、弱く喰われる側であり、強者である竜に喰われてしまうところであった。
このままでは竜に全てを奪われると悟り、深い絶望を俺が感じていた時、その人は現れる。
月光が照らす鮮やかな金髪、菫色の瞳、背負った大鎚が目立つ旅装束。
大鎚だけが不釣り合いに見えるが、旅人といった姿をしたその人は、戦士達や父を守るように竜という脅威の前に立ち塞がると拳を握り、打撃の構えを取った。
月光で覚醒した戦士達や誰よりも強かった父の攻撃が通じなかった竜は紛れもない怪物であり、そんな竜を相手にその人が敵うとは思ってもいなかったが、そんな俺の考えは一瞬で覆される。
その人が繰り出した拳による一撃は、洗練された殴打であり、戦士達や父よりも強力な拳打で、凄まじい威力を持つ拳撃。
それは誰もが破れなかった竜の防御を容易く破り、竜の頭部を完全に粉砕して、怪物を絶命させた。
平原の獣民では勝てなかった怪物である竜を圧倒的な力で屠ったその人は、強さを誇ることもなく、当たり前のように戦士達や父の傷の手当てを始めていて、手際よく薬草を用いて治療を施す。
誰も死なず奪われなかったことに安堵した俺も怪我をしていたので、その人に治療されることになったが「もう大丈夫だ」と俺に笑いかけてくれたその顔を見ていると、月の光よりも眩しく輝く太陽みたいな人だと思えたその人。
弱肉強食が平原の決まりとはいえ、命を救われた恩を返さない理由にはならない。
竜を倒し、平原の獣民を救ってくれたその人、ジョンという名前の男性に、せめて食事でも振る舞おうと考えた平原の獣民達。
ジョンから提供された香辛料や岩塩を用いた料理は、いつもよりも豪勢な味わいで美味しかったけれど、圧倒的な強者であるジョンに、竜を倒せる位に強くなるにはどうすればいいかを聞いてみた俺。
「今の時代なら神の恩恵を授かるのが早いんじゃないか」
そう答えてきたジョンに、それは掟に反すると俺が答えておくと、離れた場所で族長である父と何かしら話していたジョンが戻ってきて「私が授けることが可能な天の炎という火の恩恵なら問題ないと、族長から許可を取ってきた。もし授かりたいという希望者がいれば呼んでくれないか」と俺に頼んでくる。
それから俺を含めた戦士達数名が、ジョンから天の炎の恩恵を授かったが、その力は、とんでもないものであった。
これまでの自分では出せない力が出せるようになり、凄まじい力が使えるようになった戦士達と俺は、脅威であった飛べない竜よりも明らかに強くなっていたのは間違いない。
天の炎の恩恵により圧倒的な力を得た俺と戦士達が、その力に溺れて増長することがなかったのは、そんな俺達よりもジョンが遥かに強かったからだろう。
強くなった戦士達や俺が束になって挑もうと、呆気なく放り投げられて、地面に叩きつけられてしまう程に、ジョンはとてつもなく強い。
天の炎との相性が良かった俺は、平原の獣民の中では最も強くなったが、その分手加減にも苦労するようになり、ジョンから上手な手加減のやり方についても教わることになる。
教えることが上手いジョンから手加減以外にも様々なことを教わっている内に、いつしか俺はジョンのことを先生と呼んでいた。
沢山のことを先生から学んでいると、平原以外にも存在する世界の広さに思いを馳せることも増え、知らなかったことを知るということを面白いとも感じるようになっていく。
そんな日々の最中、今度現れた竜は群れで、空を飛ぶ飛竜である怪物達。
何の恩恵も授かっていなかった平原の獣民であれば、為す術もなく喰い殺されていたのは確実な怪物達であろうと、天の炎を授かった戦士達にとっては敵ではない。
逃すことなく地に叩き落とされた飛竜達は、戦士達によって倒されたが、そんな戦士達の活躍を見ていた天の炎を授かっていない面々も、強者に抗う為に先生から天の炎を授かることを選んだ。
その中には族長である父も含まれていて、竜という強者に抗って家族や仲間達を守る為に天の炎を授かった父。
「ベートに、息子に守られているだけなのは性に合わねぇんでな」
そんなことを言っていた父に「確かにベートより弱いことを気にしているように見えたからな」と冷静に言う先生へ「余計なことを言うんじゃねぇよジョン!」と恥ずかしそうにしながら文句を言った父が面白くて、俺は思わず笑った。
ちなみにベートの父は天の炎を授かってもLv6程度で、ベートよりも弱いことを再び気にすることになりました