大いなる力には大きなる責任が伴う…それはそれとしてペニー・パーカーは曇らせる 作:段差ダンサー
初夏、しかし炎天下。
外に出て何かをする気力も無いので最近買った電子書籍を読む。
書籍といっても漫画だが、書籍には間違いない。
なに、僕が誰かだって?
OKOK
僕の名前は八谷空、ピッチピチの小学生一年生だ。
主観的にはごく普通の人生を歩んでいる。
今回はな。
そう、俺には前世がある。
少し自分語りを広げよう。
前世は大きい会社、世間一般的にいうなら大企業に勤めていた。
そこで俺は若くも役員まで上り詰め、成功者と呼んでも違わない程に成功していた。
しかし、盛者必衰とはよく言ったもの。
ある事件で濡れ衣を着せられ、俺は会社をクビになった。
全てを失った俺に待っていたのは、信号無視の大型トラックだった。
そして俺の人生は終わった。
その経験からだろうか、今回の人生では何に対してもやる気がわかない。
いっそファンタジーな何かが起こってくれれば楽しいんだが。
なんて夢物語を待つような、惰性で生活を過ごしている。
親に何も言われないのかだって?
小学生のうちに出てくる課題なんて大学を卒業した俺には初日で終わるようなものだ。
つまり何が言いたいのかというと、暇なのである。
何か夢中になるようなことが一つもない。
前世からの趣味であったMARVELもこの世界では存在しないらしく、供給が無い。
ああ、そういえばこの世界は前世と殆ど変りない現代だ。
裏で秘密結社があったりもしないし超能力も今のところ発現してない。
「空ー!夕飯作るの手伝ってー!」
おっと、自分語りはこのくらいにしておこう。
人生が二回目だったとしても母は強いのである。
◇
「ふぁ~…ねむ」
子供の体というのは何とも不便だ。
夜になればすぐ眠くなるし、集中力も長くは続かない。
「…寝るか」
眠気を解消する一番簡単な方法は寝る事だ。
体も成長して一石二鳥、完璧だな。
スパイダーマンの等身大フィギアを作る時間が無くなる事を除けば。
そんなどうでもいい思考を巡らせながらベッドに入る。
子供の体は不便な事ばかりではない。
例えばベッドに入るとすぐに眠れるところとか。
深夜、何故か目が覚めた。
何かに呼び起される感覚がしたのだ。
「意味わかんない時間に目が覚めたな、老人でもないってのに」
寝起きだから口の中が乾燥して気持ちが悪い。
水を飲んでもう一回寝よう。
ベッドから起き上がる。
否、起き上がろうとした。
『対象者全員の意識覚醒を観測しました』
頭の中に声が響く。
意味の分からない現実に、体がフリーズする。
なんだこの声。
頭の中から聞こえている…?
『計画への参加を承諾しますか?』
「おいおい…ちょっと待てよ、計画ってなんだ?」
『世界を大幅に変革する大規模な作戦です』
情報量が一切ない!
どう考えても危険だな。
「オーケーオーケー、何も教える事は無いってわけだな」
『御理解頂けたようで何よりです』
「参加した場合どうなるかとかは教えてくれる?」
『その対象に対して一番適合性が高い能力を獲得、及び獲得する為の運命を適用します』
ほー…
適応率が高い能力ね、そして運命とやら。
成程、今直ぐに付与されるか何か原因を作られて付与されるかの違いか。
つまりこの声は未来にすら干渉できる力があると。
それともそうする事しかできないのか?
「で、計画の目的は?」
『強者を生み出す為です。この世界は多元宇宙からの侵略に弱く、早急に強者を生み出す必要があります』
「へー…君はどういう存在?」
『宇宙の意思です』
おっと、思ったより壮大な存在。
ていうか多元宇宙からの侵略ってなにさ。
いや、言ってる意味は分かるんだけど。
まあ計画の内容以外は大体わかった。
次重要なのはどういう能力をもらえるかだ。
「ちなみにもし俺がその計画に参加するとして、どんな能力がもらえるの?」
『それはまだ開示することが出来ません』
「へー…そう、参加したら教えてもらったり?」
『いいえ、能力を自身で探ることも計画の一部です』
正直言って、今直ぐにでもこの計画に飛び乗りたい。
転生してからようやく表れた不可思議なのだ、これに乗り遅れるなんて考えただけでも恐ろしい。
なら答えは一つだ。
「俺はその計画に参加する」
『参加の意志を確認しました』
―――その言葉が、大きな責任を伴うとはこの時の僕は知らなかった。
◇
「皆さん、おはようございます。夏休み明けですがしっかり授業を受けましょう」
朝、学校の校舎。
あの後、不思議な声は聞こえなくなった。
聞きたいことは山ほどあったがこちらから出来る事は無い。
そして今の所何の変化もない。
つまり、俺の能力は運命を用意されるタイプだったらしい。
まだ気づいてないだけの可能性もあるが。
そういや今の所何の変化もないとは言ってたが、ちょっとした変化もある。
自分の中に意識を向けると、自分自身の…位階って言えばいいのか?
そんなものが分かるようになった。
これが能力じゃないのかって?
位階に関しては声に説明されている。
どうやら計画参加者全員に付与される標準機能らしい。
一定の条件を達成すると上昇し、能力が強化されるらしい。
一定の条件ってのが何かは教えてもらえ無かった。
てか授業ってやっぱ眠いな。
小学校の授業なんて寝ればいいか。
「いてっ」
手に鋭い痛みが走り目が覚めた。
寝ぼけ眼で枕にしていた腕の先、手の甲を見ればそこには見た事のない柄の蜘蛛が居た。
成程、俺はスパイダーマンだったか。
さて、俺はスパイダーマンは割と好きだ。
映画全部は見てないけどどんな感じなのかは意外と知ってる。
…もちろん、カノンイベントの事もな。
カノンイベントってのは簡単に言えばスパイダーマンの身近な人が死ぬことだ。
『大いなる力には大いなる責任が伴う』なんて遺言を残してな。
俺がスパイダーバースの一部だとすると、俺にもカノンイベントが降りかかる事になる。
ちなみに俺は母子家庭だ。
父親は妊娠が発覚した時点で蒸発した。
人生が二回目だとしても、親の愛情とは重要なものだ。
いやマジで、母親が出来た人間じゃなきゃもっと俺はひねくれていただろう。
「見殺しってのは無いな、どうにかして助けるか」
かといって俺に出来る事は少ない。
精々いつでも駆け付けられるようにするくらいだ。
「問題はカノンインベントを回避した場合だが…」
俺がスパイダーマンに成れなかったりするのか?
それで母さんが死なないのなら仕方ないか。
他に大切な人…ああ、幼馴染とか。
小学生に幼馴染とか何言ってんだって感じだけど、思考が出来る前から知り合いだったのだから幼馴染と言っても間違いはないだろう。
名前?
ああ、ペニー・パーカーだよ。
ペニー…パーカー……?
「ペニー・パーカー!!??」
「どうした八谷!?」
「あ…いえ、何でも無いです」
「そ、そうか…急に大声を出すなんてお前らしくないぞ」
物静かなキャラで通ってるからな。
メッキが剥がれちまう、十年物だってのに。
…そりゃ剥がれるか、アンティークにも程がある。
ってかペニー・パーカーって別宇宙のスパイダーマンじゃねえか。
なんか聞き覚えがあると思ったんだよ。
なんだっけ…ロボットに乗って戦うスパイダーマンだっけ…?
いや、女なんだからマンじゃなくね?
なんならペニー・パーカーは日系アメリカ人では?
マジのペニー・パーカーなら既にSP//drが活動してるのでは?
そこらへんは一旦置いとくか。
恐らく別ユニバースだからだな。
それで解決しておこう。
というかペニーにもカノンインベントが…?
うーん…そこまで覚えてねえ。
ま、警戒しとけばいいだろ。
出来る事なんてそんくらいだ。
蜘蛛に噛まれたせいかわかんないけどめっちゃ眠いな。
もうひと眠りしますかね…
◇
「空、起きてー!」
体を揺らされて目が覚めた。
溶けるように這っていた机から上体を起こし、揺り起こして来た人物を見る。
「やあ、ペニー」
「やっと起きた、ちゃんと授業受けなよ」
「成績は下がって無いんだからいいだろ」
「まあ…でも態度悪いと通知表に影響出るよ」
「もう諦めてる」
そんな他愛無い話をしながら荷物をまとめる。
新品同然の教科書にもはやお絵かき帳になっているノート。
それら全てをランドセルに突っ込み背負う。
(異常に軽いな、既にスパイダーマンの力が覚醒してるのか)
多分、推測になるけどペニーも昨日声を聴いたはず。
ならここで参加したか聞くか。
「なあ、昨日変な声聞かなかった?」
「へっ!?い、いやぁ…?」
「へー…」
「昨日は別になんもなかったヨ…?」
確実に聴こえてたな。
もう少し問い詰めれば吐くだろうが…俺も声を聴いたことを伝えた方がいいか。
「俺は聴いたぞ。んで参加した」
「えっ」
「ペニーは参加したのか?」
「…したよ!したけど、もうちょっと…こう、なんか…いきなりすぎるよ!」
やっぱり。
こいつ隠し事下手なんだよな。
「んで、なんか変わった事とかはあるか」
「ロボットの設計図が頭の中にインプットされたよ。あ、あとさっき変な蜘蛛に噛まれた」
「へー…そういや俺も変な蜘蛛に噛まれたな」
「同じ能力なのかな?」
「いや、俺の頭には設計図なんて無かったな」
そういやこの世界は前世にあったタイトルが殆ど無かったな。
ジャンプとかコロコロとかはあったけど全然中身違かったし。
「じゃあわたしの方が強いんじゃない?」
「お前はロボット無いと戦えないくらい弱いんだろ」
「はー?絶対わたしの方が強いし」
「まずそのロボットは作れそうなのか?」
こいつが別宇宙のペニー・パーカーなら作れなきゃ精々感が鋭いだけの小娘だけど。
「技術的な話なら余裕だよ」
「へえ、随分と言い切るんだな」
「そりゃわたし天才ですしぃ?」
「俺より頭良くなってから言え」
「むっ、すぐ追い越すんだから!」
こいつはアホだが頭がいい。
前世では天才なんて呼ばれていた俺の頭脳に七歳の時点で追いつきはじめている。
俺がこの世界で孤独にならなかったのはこいつのおかげだろう。
とても癪だがな。
「それで、金銭面の話なら?」
「…えへへ」
「はぁ…」
「こんな可愛いわたしにため息とは!」
当然だが母子家庭である俺に資金援助なんて事は…できる。
投資でだいぶ儲けている、正直金ならいくらでもある。
こいつもそれをわかってて言ってるんだろう。
「お小遣いちょーだい♡」
「ちっ、何百万だ」
上目遣いでこちらを見つめながら指を七本立てる。
なんてこった、バカみたいな値段してやがる。
「一台でそれか…?」
「うん!よゆーでしょ?」
「まあそうだが…小学生で動かす金額じゃないだろ」
「今更じゃない?」
「ふぅ…」
もうそろそろ家に帰り着く。
そんな時、血の匂いがした。
位置は俺の家。
「…は?」
「どうしたの?」
「くそッ」
「ちょっ!急に走り出さないでよ…はやっ!?」
うそだっ…早過ぎる!
既にカノンイベントが始まってるってのか!?
家の玄関にたどり着いた。
ドアは無理やりこじ開けられた跡がある。
そして、血の匂いは濃くなっている。
「なっ…あ、ぁあ」
そこにいるのは。否、あったのは見慣れた顔だった。
額から血が流れ出ている。
俺の母さんは、既に死んでいた。
主人公を曇らせないとは言ってねえ!
・八谷空
今作の主人公、将来有望なイケメンフェイス。
実は前世から頭いい。
でも科学的な話は作者の頭が悪いので書けません。
スパイダーマンの知識はまあまあ。
・ペニーパーカー
主人公の幼馴染、見た目は闘魂版。
主人公と同じくらい頭がいい。
それが描写される事はない。
カノンイベントで父親が死ぬことが確定している。
・うちゅーのいし
うーん…うちの生命よわいなあ…せや!蠱毒したろ!
人の命とか倫理観は気にしないタイプ。