♪暗くて狭い 世界の片隅(トラッシュド!)♪
♪名前も呼ばれず 打ち捨てられた(ガーベイジ!)♪
♪なぜどうして 僕は生まれた(Worthless!)♪
♪髪に降り注ぐ チリゴミホコリ(シンデレラ!)♪
反逆の時だ! 今こそ立ち上がれ!
♪僕は悪い シンデレラ♪
♪誰も僕を 救わない♪
♪魔法なんて かけてくれない♪
♪駆けだすんだ! 光の中へ!♪
♪凍て尽くせ世界! かえりみなかったすべて!♪
♪僕だけが使える 歪んだ奇跡♪
♪奪い取れ 頂点を! 卑怯?汚い?上等だ!♪
♪掠め取れ てっぺんを! 非難轟轟!嵐の中で♪
ガラスの靴は 叩き割れ! 王子様なんて待ってられない
――無敗三冠――
ウマ娘界の頂点に君臨したシャイニングスターのウイニングライブ。
そこで披露されたのは、彼女の魂そのものを削り出したオリジナル楽曲、『絶対零度のシンデレラ』だった。
イントロのチクタクと針を刻む冷徹な電子音が響き渡る中、ステージ中央に立つスターが口を開く。
「暗くて狭い 世界の片隅(トラッシュド!)名前も呼ばれず 打ち捨てられた(ガーベイジ!)」
会場の大型モニターに、彼女の激しいシャウトと歌詞がバキバキとノイズ混じりに映し出される。
パステルカラーの、あまりにも可愛らしい王道アイドル衣装を着たウマ娘が、その口から吐き出すのは、世界への剥き出しの憎悪と反逆のメロディ。
その凄まじいギャップが、観客の脳を直接マインドコントロールするように揺さぶっていく。
音程一つ違えない、あまりにも正確なキーの歌声。
1ミリのブレも、汗の一滴すら流さない、精密機械のような『MMDステップ』。
激しいスポットライトを浴びたパステルカラーのリボンがキラキラと乱反射するその冷たさの奥には、決して消えない青い焔(ほのお)と、歪み切った狂気が確かに宿っていた。
「奪い取れ 頂点を! 卑怯?汚い?上等だ! 掠め取れ てっぺんを! 非難轟轟!嵐の中で」
サビの爆発的なビートとともに、スターの超高速ステップが床のLEDパネルをバキバキと凍らせていく。
直前まで、彼女を「レースの価値を汚す壊し屋」と激しいブーイング(非難)で糾弾していた観客たちすらも、その圧倒的なパフォーマンスから視線を逸らすことを完全に許されなかった。
声が出ない。
ただ、その暴力的なまでの美しさに圧倒され、ひれ伏すしかなかった。
「ガラスの靴は 叩き割れ! 王子様なんて待ってられない」
アウトロの最後の一音、スターが吐き捨てるように歌い終え、完璧なラストポーズを決めた瞬間。
スタジアムの数万人の息が止まり、世界が、完全に凍り付いた。
静寂が支配する客席の片隅で、誰かがポツリと呟いた。
「……一番星」
その通りだった。
この瞬間、彼女は確かに、光一つ無い暗黒世界の中で、まばゆいばかりの歪んだ輝きを放つ、唯一無二の一番星だったのだ。
◇
「……」
観客席の前列、大人たちの静寂の中で、一人の幼いウマ娘が、シャイニングスターのパフォーマンスを直視したまま言葉を失っていた。
正直、シャイニングスターのことが、心の底から大嫌いだった。
ファイアビリーヴァーたちの輝きを冷酷に殺し、思い通りにチェス盤を動かす、傲岸不遜で冷酷無慈悲な氷のようなウマ娘。
誰もが彼女を悪(ヒール)だと罵っていたし、自分もそう思っていた。
けれど。
パステルカラーの衣装をなびかせ、世界中の大人たちを黙らせ、世界の中心で一番のスポットライトを独占しているあの白毛の背中は、あまりにも、あまりにも眩しかった。
小さなウマ娘の両目には、自分でも気づかないうちに、隠しきれない熱い『憧れの灯かり』がぽつりと宿ってしまっていた。
「(……私も、あんな風に。世界をハメ殺してでも、私のためのスポットライトを奪ってみたい)」
世界を敵に回した「悪いシンデレラ」が撒き散らした絶対零度の冷気は、一人の少女の胸の奥で、決して消えない最悪で最高の呪い(あこがれ)となって、静かに火を灯したのだった。