シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜 作:氏家まさら
昼下がりの屋敷の廊下―――。
「…はぁ」
くすんだ灰色の髪をした
ガッ!
唐突に、背後から左腕を力強く掴まれた。
驚愕に目を見開いた瞬間、身体が隣の無人の小部屋へと引きずり込まれる。素早く差し込まれた左手が、
「……!?――むぐっ!」
「静かにしな」
眼の前には、感情のこもっていない冷徹な表情をした傭兵——カレンが
カレンがパッと口を塞いでいた手を放した。解放された
ドン!!
カレンが左手で壁を叩き、
「ヒっ……!」
「慌てんな。別に時間は取らせねえ。大人しくしてればな―――」
「な、何が……目的ですか?」
「なに、ちょっとした取引さ。この先、あの跳ねっ返りを護衛する上で何かとブツが必要になる。お前さんにはその調達を頼みたい。悪いようにはしねえさ。こっちの言う通りに動いてるうちはな」
「こ、困ります。大体、なぜワタシなんですか?」
「おめえは
「……なんのことかわかりません」
「別にいいさ。調べはついてんだ。……おめえ、私生児なんだろ?」
「……!」
「そう睨むなよ。聞けばおめえ、仕事のヘマはしないそうだな。だが、どうせ給金も少ないだろ?屋敷への忠誠心もねえ……。私の言う事を聞けば、メイド長に掛け合って給金を上げさせてやってもいいぜ。」
「……でたらめを!そんなこと、あなたにできるわけがないでしょう」
カレンは無造作に左手で懐をまさぐると、一枚の紙を
「ほれ」
それは労働契約書だった。そこにはメイド長の自筆サインと共に、昇給を示す一文が記されている。名前の欄には『ヒルダ』の文字が確認できる。
「うそ……!どうやって……」
「なに。あのメイド長、堅物そうな面して色々と
カレンは紙をぴらぴらと指先で揺らした。
「……アナタに加担していることがバレたら、ワタシもただでは済みません」
「大したことはねえ。そん時はボロ雑巾みたいな傭兵に脅されたっていえば済むことだろ?」
「……何を工面すればいいんですか?」
「なんてことはねえ。ちょっとした金物と、……そうだな、お嬢さまの口に合う『甘いもん』や『嗜好品』の類いさ。詳細は後日改めて伝えてやるよ」
カレンは満足げに鼻を鳴らすと、
「いいか、『滞り無く』だ。ブツが私の手元に届いたら、コイツはお前さんのモンだ。……期待してるぜ?
カレンは一度も振り返ることなく、小部屋を後にした。
バタン……。
静まり返った部屋。
灰色髪の
もし、
「……本当に、ボロ雑巾みたいな人」