シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜   作:氏家まさら

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【第11話】鍵穴設置

 静かな朝のエルザの自室。カレンはエルザに背を向けて掃除をこなし、エルザは椅子に座って退屈そうに窓の外を眺めていた。

 

「おい、暴力令嬢」

 

 カレンがふと思い出したように顔を上げ、エルザの方へ振り返る。

 

「……は?」

 

 エルザは心外そうな、不機嫌を隠さない顔でカレンを睨んだ。腕を組み、威嚇するような姿勢を崩さない。

 

「ほれ」

 

 カレンは懐から小さな金属片を取り出すと、無造作に放り投げた。

 

「わっ、ちょっと……!」

 

 エルザは慌てて両手を広げ、少し前のめりな姿勢でそれを受け止めた。彼女の掌に乗ったのは、くすんだ白の無骨な『鍵』であった。

 

「……何よ、これ?」

 

 エルザは意味が分からず、手元の鍵を凝視した。

 

「この部屋、鍵が無かったろ?付けといたんだよ」

 

 カレンは自分用の鍵を左手の指先でぴらぴらと見せびらかした。

 

「うそ!?」

 

 エルザは弾かれたように顔を上げた。入口の扉にも目をやると、無骨で頑丈そうな鍵穴がドアノブごと新しく取り付けられている。エルザは驚愕の表情を浮かべた。

 

「どうやったの!!?」

 

「なに、ちょいと暇そうな使用人(メイド)()()()して部品を調達したのさ」

 

 カレンは不敵に口角を上げた。彼女は、以前私生児の使用人(メイド)——ヒルダとの間で交わされた『取引』の件を、ざっくばらんに告げる。

 

「作ったの?嘘……」

 

 エルザは新調された扉の鍵穴と、手元の鍵を交互に見つめた。

 

「年季が違うのさ」

 

 カレンが誇らしげに鼻を鳴らした。

 

 エルザは鍵をじっと見つめた。一瞬だけ感謝と安堵の表情が浮かびかけたが、すぐにいつもの刺々しい表情に戻る。

 

「……ふん!なんだかばた臭い意匠(デザイン)ね!もっと優雅にできなかったの?」

 

 すかさずいつもの毒舌を吐く。しかし、その声は震えており、瞳は僅かに潤んでいる。

 

「自分でできないなら、せめてできるやつを乗せられるようにしな。お貴族様らしくな」

 

 カレンは呆れたように肩をすくめた。言葉には皮肉が籠もっているが、声色は柔らかい。

 

「……何よ、それ。説明しなさいよ」

 

 エルザは眉を吊り上げて詰め寄った。カレンは無言で左手を差し出すと、親指と人差し指をこすり合わせた。

 

(スッ……スッ……)

 

「ッ、チップが欲しいの……?いいわよ、払ってあげるわよ……」

 

 エルザの腕が怒りでプルプルと震えた。

 

「アンタの血でね!!」

 

 ガシッ!

 

 エルザは、左手でカレンの首根っこを掴み取ると、残る右手で隠し持っていたナイフを突きつけた。

 

「……鼻血も出ねえよ」

 

 カレンはナイフを突きつけられても無表情のまま、そっぽを向いた。

 

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