シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜 作:氏家まさら
カレンは屋敷の廊下をズカズカと歩いていた。右側の脇の下には、どこからか調達してきた食材の包みを抱えている。左手には、剥き出しのウインナーを一本持っていた。屋敷から
ガリッ。
歩きながらウインナーを豪快にかじる。隠す気もなく、堂々と食べ歩くカレンを他所に、廊下の物陰にいた二人の
「……ねえ聞いた?あの娘、『
「……ええ?わたしは『
モグモグ。
カレンは聞こえないふりをして、黙々とウインナーを咀嚼した。
やがてエルザの自室の前に戻った彼女は、左手で扉をノックする。
コンコン。
「入るぞ」
ガチャ。
カレンが左手で鍵を開けた。
バタン。
扉を閉める音が廊下に響く。
カチ。
カレンは内側から左手で鍵を閉めた。背後から不意に部屋の主の声が響く。
「ねえアンタ、昔は盗賊だったのね?」
カレンが鍵を締めた姿勢のまま振り返る。
そこにはソファに深く腰掛け、足を組んだエルザの姿があった。左肘を背もたれにかけ、手首をだらりと下げた姿勢のままカレンを見据えている。彼女の銀髪は、頭の右側で一つにまとめられた
右手には何かが書かれた紙を持ち、左右にぴらぴらと揺らしている。
「……見たわよ、これ。だから鍵穴を直せたのね。どうりで堅気じゃないと思っていたのよ」
エルザは不敵に笑い、そのまま視線を紙へ落とした。
「歳は……34歳。や~っぱりおばさんじゃない。こりゃ年季が違うわけだわ」
エルザがニヤニヤと笑った。
「……
カレンは無表情だったが、その目はどす黒い光を放っていた。
「あと何、これ。通称『
エルザは腹を抱え、半ば痙攣していた。
「……昔は
カレンがため息をつきながら、小声でぼそりと呟いた。
「……え?何?」
エルザは首をかしげ、小首を傾げて聞き返す。
「……うるせえ。古傷に軟膏を塗ってたんだよ」
カレンは左手で顔の左側にある大きな向こう傷をさすった。
「こんなの見たら、モーゼスあたりが『まるで
エルザはソファに座ったまま、右手の紙を掲げ、左手を大袈裟に広げた。大袈裟な動作で件の老執事の姿勢を真似てみせる。
「……だから、お前はなんでわかんだよ」
「……?だからさっきから、何わけのわからないことを言っているのよ」
エルザは眉を寄せたが、すぐに妙なハイテンションで首を左右に振った。
「ところで、また
カレンは無言でエルザの隣まで歩み寄り、その顔を見下ろした。
「……わかったよ」
「……?」
エルザが怪訝そうに首を傾げる。
「『
カレンが至近距離で言い放った。
「……ッ!」
エルザの脳裏に、先ほどの声が蘇る。
(やーい、やーい、『
「……アンタ、どこでそれを」
「
カレンは容赦なく追い打ちをかける。
「……なあ、スコーンが大好きな—『
「……ぅぐ!!」
エルザは目に見えてダメージを受け、膝を折った。先ほどよりも大音量かつ鮮明に聞こえる。
(はは、見てアレ。まるで乞食よ。やーい、『
カレンはエルザを見下ろし、エルザはソファに突っ伏してグロッキー寸前になっていた。
「…も、もういいわ。は、
エルザは荒い呼吸で、精一杯の嫌味を返した。
「承知しました。
カレンは鉄壁の営業スマイルで応じた。