シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜 作:氏家まさら
「……そうだな。仕方ない、特別に教えてやろう。あくまで『私』流だがな」
カレンは無造作に右手の人差し指を立て、静かに語り始めた。
「まずひとつ。
「……は?」
ソファで横になるエルザが、半眼でカレンを射抜いた。
「最後に来た日付から緻密に計算してズラすんだ」
「ズラす?」
「ああ、だが注意しろ。私は計算をミスって二日目に最前線に放り出されたことがある。結局『腹が痛いから帰る』の一点張りで撤退したせいで、傭兵仲間の間じゃ数年『
カレンは右手で身振り手振りを交えながら言葉を並べた。
「……」
エルザは半眼のまま、カレンを見つめた。
「ふたつめ」
カレンは再び右手を使い、今度は人差し指と中指を立てた。
「……まだあるの!?」
「……『自分に惚れてる男』を盾にする」
カレンの口調はきわめて得意げだったが、突き出した右手が僅かに震えていた。
「……え?」
「部隊に一人は『自分が守ってやらなきゃ』と思い込んでるおめでたい奴を作っておくんだ。二日目の重い時に、そいつを
カレンは饒舌に語り続けた。その間も、彼女の右手の震えは止まらなかった。
「……アンタ、本当に最低ね。で、その人はどうなったの?」
「さあな。今頃、天国で『俺が守った女』の思い出に浸ってるんじゃねえか?」
カレンはごく平然と言い放った。
「……アンタそれ……もしかして……」
エルザは言いかけて、言葉を飲み込んだ。
「……?」
カレンはジト目のまま、とぼけたような顔を作った。
「まあ最後に、一番の解決策はこれだ」
カレンは語気を強め、右手を上げた。
「もういいわよー」
エルザは顔を歪めたまま、力なく応じた。
「……一番の手っ取り早いのはな——
カチ…カチ…。
室内に、柱時計の秒針の音だけが規則正しくこだました。
「…………」
エルザは青ざめた顔をソファに沈めた。
カチ…カチ…。
「……もういいわ」
エルザが疲れたように顔を上げる。
「とりあえず背中――さすってもらえる?」
「はい」
カレンは事務的に応じると、エルザの傍らへ歩み寄った。
カレンの手が衣服を擦る微かな音と、柱時計の秒針だけが、室内に響いていた。