シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜 作:氏家まさら
朝の柔らかな光が差し込むエルザの自室。
エルザはソファに深く腰掛け、右手で
本日の髪型は首元の低い位置で、左右対称に緩いリボンで結んだ
コンコン……。
「…入るぞ」
ガチャ…。
右脇に食材を抱えたカレンが、のそりと入室してきた。その右手には、器用にウインナーが握られている。
バタン…。 カチ…。
カレンは左手で扉を閉め、そのまま施錠した。
ズズ…。
カレンが入ってきても、エルザは盤面から目を上げず、
ガリッ……!
一方のカレンも、部屋に入るなり好物のウインナーをひとかじりした。
カチ…カチ…
「……おい、さっきこんなモンを手に入れたぞ?」
カレンはエルザの側にゆっくりと歩み寄りながら、懐から左手で数枚の羊皮紙を取り出した。
「…は?」
エルザは面倒臭そうに右手のカップをソーサーに置き、視線を上げた。
「まあ、見てみな」
カレンは羊皮紙を持った左手をエルザに差し出した。
「…なにこれ?……帳簿?」
エルザは右手でその羊皮紙を受け取ると、そのまま視線を落とした。
「そうさ。どうやらソイツは、あの糞執事がコッソリ積み上げた
「え…?そうなの。まったく、相変わらず狡っ辛いわねぇ…あの
エルザは帳簿を
「…っていうか、こんなものどうやって手に入れたのよ?」
エルザは帳簿から視線だけをカレンへ向けた。
「…ああ。それはな、麗しきメイド長にお願いして
カレンが左手の人差し指をクルクル回しながら、事もなげに告げる。
「…はあ?やめてあげなさいよ。彼女は苦労人なんだから」
「…そうだな。アイツは、お前に
カレンがエルザを見る。
「…ちょっと、何言ってるか分からないわ」
エルザは視線を左へ逸らした。
「へー」
「…それにしても、これはあの
「そのうち使うかもしれないから、金庫にでも入れておきなさいよ。確かどっかに埋もれているでしょ?」
エルザは、部屋の隅に山積みになっている
「バーカ。こういうのはな、常に懐に隠し持っとくもんなんだよ。それで
カレンは肩をすくめた。
「は?…何いってんの?隠し金庫なんてないでしょ」
エルザが冷めきったジト目で聞き返した。
「別に無くてもいいんだよ。大事なのは、相手に『あるかもしれない』って思わせることさ」
「……ああ、確かに」
エルザは右手を顎に当てた。
「それで、相手が『あるかもしれない金庫』をコソコソ探している間に、こっちは新しいネタをいただくのさ」
カレンが身振り手振りを交えて言葉を紡いだ。
「…なるほどね」
エルザがウンウンと頷いた。
カチ…カチ…
「ところで、アンタが外に出てる間に、アンタが
エルザは
「…はあ!?」
カレンの目が大きく見開かれた。
「だって、お腹空いてたんだもん」
エルザが澄ました表情で告げる。
「…ふざけんなよ!ったく」
ドサ…。
雑嚢を放り出す。
大股で引き出しへ向かう。
ズズ…。
カレンは引き出しを開いた。引き出しの中は、空っぽだった。
バ…!
しかし、カレンは引き出しの底板の隙間に指を引っ掛け、無造作にその底を外した。パカリと外れた二重底の中から、小振りのウインナーが姿を現す。
「1、2、3、4、5……17個。なんだ全部あるじゃねえか。………あっ」
カレンが振り返った。
「……なるほど、こういうことね」
そこには、右手で一回り大きなウインナーを掲げたエルザの姿があった。傍らに放置された
「よ、よく分かってんじゃねえか。……けど、それはやらねえぞ」
カレンが釘を刺した。
「…いらないわよ」
エルザはあっさりと右手を引くと、奪い取った獲物を放り出すようにカレンへと返した。
カチ…カチ…
柱時計の音が、静まり返った室内に響いた。