シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜 作:氏家まさら
穏やかな陽光が差し込む昼下がりのエルザの自室。エルザはいつものようにソファでチェスパズルに興じていた。
本日の髪型は、肩から胸元へとさらりと流れ落ちるシンプルな
背後ではカレンが何やら作業をしているが、その背中にはいつもの覇気が感じられない。
エルザは盤面から目を離し、カレンへ視線を向けた。
ゆらゆらと、カレンが千鳥足でふらつき始めた。
「……ちょっと何のつもり?それもお得意の傭兵流の舞踏か何かなの?おばさん」
エルザが呆れたように半目で声をかけた。
バタン……!
カレンは壊れた人形のように、仰向けに倒れ込んだ。
「ちょっと!?」
エルザはソファから腰を浮かせ、床に横たわるカレンに駆け寄った。
「…カレン!大丈夫!?」
普段の振る舞いも忘れ、その上体を抱き起こす。カレンの目はぐるぐると回り、頭を小刻みに揺らしていた。
「……うそ……!どうしよう……!と、とにかくソファに寝かせないと」
エルザは意識の混濁したカレンを運ぼうとした。
「……フン!……重すぎる!……んん!!」
エルザは必死の形相で足を踏ん張った。
「……っしょ!」
全身の力を使って、どうにかカレンの上半身をソファへ乗せることに成功した。
「……ふん!!」
続いて、カレンの足を持ち上げた。放り投げるようにしてソファの上に乗せる。
「……ぜえっ……ぜえっ」
エルザは息も絶え絶えに、左端のソファの手すりにもたれかかった。カレンはソファの右側に頭を乗せ、足を左側にした格好で横たわっている。
少し体力が回復すると、エルザはカレンの頭の下に枕を差し込んだ。
「……本当になんなのよ……まったく」
エルザは蟹股のまま、全身で息を吐いた。荒い呼吸で、カレンを見つめる。
「……でも、このままじゃ苦しそう。余計な物は外さないと」
焦燥を抱えながらも、エルザは必死にカレンの装備を外そうと手を伸ばした。
不慣れな手付きで、カレンの重い
◆ ◆ ◆
装備が外されたカレンがソファに寝ている。エルザの額には汗が滲んでいた。
「……ウ」
ソファに横たわるカレンの唇が、力なく動いた。
「……どうしたの!?どこか痛いの?何とか言いなさいよ!!」
エルザは反射的に自分の頭をカレンの顔へ近づけた。
「……ウインナー」
カレンは魘されるように呟いた。
「……ウインナー!?ウインナーが食べたいのね?……待ってて!」
エルザは半狂乱になりながら、足元に置かれたカレンの
ごそごそ。
「……あ」
エルザの指が、ある感触を捉えた。
バンッ!
彼女の左手には、ヒトの前腕くらいの大きさの巨大なウインナーが握られていた。エルザは巨大な肉塊を掲げ、ドヤ顔を浮かべた。
「……ウ……イ……」
カレンが苦しそうに声を漏らす。
「いくわよー」
エルザは巨大ウインナーを逆手に持ち替えた。カレンの口元へ、ウインナーの先端を力任せに近づけていく。背景では、壁時計の秒針が無情な音を刻み続けていた。
カチ…カチ…。
「……ン……ナ……」
カレンの唇のすぐ目前まで、肉の先端が迫る。
カチ…カチ…。
「……って、何やってんの?私!?ウインナーじゃないでしょ!バカなの!!?」
エルザは我に返り、両手で自らの側頭部を押さえた。
「……ええと~。こういうときは……そう、アレ……そう!あれよ!薬!……解熱剤と鎮痛剤よ!!」
「……持っていそうなやつは」
エルザは顔を上げ、特定の人物の顔を思い浮かべた。
~ 次回『再起動の赤 ~