シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜   作:氏家まさら

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【第35話】鏡合わせの肉欲.4th ~ 自家発電・肉棒の再誕 ~

 日課の如く、エルザはソファに深く腰掛け、自らの「聖典」に没頭していた。机の上には、カレンが用意した挟みパン(サンドウィッチ)の空皿と、僅かに湯気を立てる琥珀茶(カウフィ)が置かれている。傍らでは、カレンが何やら恐れをなしたように、いそいそと食材調達の準備を進めていた。

 

「じゃあ、行ってくるぞ」

 

 カレンはエルザの方を見ようともせず、逃げるような口調で言い捨てた。

 

 ガチャ……。

 

 ギー……。

 

 エルザが粛々と本を読み進める傍らで、カレンが部屋の鍵を開ける音が響く。彼女は自分の荷物が入った雑嚢(サッチェル)だけは、その場に残していくようだった。

 

 バタン…。

 

 ガチャ…。

 

 扉が閉まり、再び施錠される音を確認すると、エルザは本から視線を上げた。室内には壁時計の秒針の音だけがカチカチと空虚に響き、琥珀茶(カウフィ)の香ばしい香りが漂っている。

 

 エルザは無表情を保とうとしていたが、その顔は隠しきれない完成した(できあががった)表情が浮かぶ。

 

「ふぅー……」

 

 重苦しい溜め息を漏らし、エルザは開いたままの本を机に置いた。彼女は本来の利き手である左手を使い、周囲に使()()()()()がないか——鋭い眼差しで観察を始める。やがて、その視線はカレンが置いていった雑嚢(サッチェル)に釘付けになった。

 

 ゴソゴソ…。

 

 エルザはカレンの雑嚢(サッチェル)を荒々しく開け、中身を物色する。やがて、彼女の目が僅かに細められた。

 

 バッ…!

 

 雑嚢(サッチェル)の中から取り出されたのは——以前アンを成敗した時よりは幾分小ぶりだが、それでも胡瓜ほどの大きさはある——巨大ウインナーだった。エルザはそれを握りしめると、迷いのない足取りで浴室に向かって歩き出した。

 

 ガチャ…。

 

 バタン…。

 

 浴室の扉が開き、そして閉まる。部屋には再び、孤独な秒針の音だけが残された。

 

 カチ…カチ…カチ…。

 

 カチ…カチ…。

 

 カチン…。

 

 ボーン…!ボーン…!ボーン…!

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 コンコン。

 

「入るぞー」

 

 外から扉をノックする声——カレンの声だ。

 

 …ガチャ。

 

 外から鍵を開ける音がし、ギーという軋みと共に扉が開いた。カレンが右脇に大量の戦利品(しょくりょう)を抱えて戻ってくる。

 

「……やれやれ。今日は思いのほかてこずったぜ」

 

 バタン…。

 

 ガチャ…。

 

 扉を閉めて鍵をかけ、カレンは安堵の息を吐いた。

 

「……ま、ただあの程度で私を出し抜けると思ってもらっちゃ困る。年季が違うんだよ」

 

 得意げに毒づいたカレンだったが、ふと室内の異変に気づき、眉を寄せた。

 

「……あ?」

 

 ソファには、エルザがいつになく行儀良く座っていた。しかし、その前の机の上には、開かれたままの聖典、完食された挟みパンの皿、空になったマグカップ……。そして、その中心に、水で濡れそぼった巨大ウインナーが鎮座していた。ウインナーの表面には、何かの()()を洗い流したかのような、生々しい清拭の痕跡が残っている。

 

 カチ…カチ…。

 

「……汚ねえ真似しやがって。そいつはくれてやるよ。もうお前の彼氏(モン)だ」

 

 カレンは心底汚らわしいものを見るような眼差しでエルザを射抜いた。対するエルザは、内面の動揺を必死に押し隠し、あくまで高貴な令嬢としての澄ました顔を貫き通している。

 

「じゃあ、後始末は自分(てめえ)でやんな。自分(てめえ)と、自分(てめえ)彼氏(モン)から出た()()だ」

 

 カレンは食材を抱えたまま、子供に片付けを命じる親のような冷徹なトーンで告げた。

 

 

 

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