シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜 作:氏家まさら
午後の柔らかな光が差し込むエルザの自室。
エルザはソファに座り、机の上のチェス盤を睨みつけていた。カレンは傍らで本の束を抱え、整理作業を続けている。
「……
盤上には、黒の
エルザは盤面を睨んだまま、次の一手を決めかねている。
一方、カレンは本を整理しながら、時折その盤面へ視線を送っていた。
「あっ…」
抱えていた本の束がぐらりと傾く。
カレンは咄嗟に左手を伸ばし、一番上の本を空中で受け止めた。だが、その拍子に左足が机の脚へ当たった。
コツ…。
わずかな衝撃で盤面が揺れ、白の
一つ先の
「なにやってんのよ!」
エルザがカレンを睨んだ。
「す、すまん……」
カレンは珍しく素直に謝り、床へ落ちかけた本を抱え直した。
エルザは不機嫌そうに盤面へ視線を戻す。
「……?」
倒れた白の
その駒は、先ほどまでいた場所より一つ前へ出ていた。
エルザの指先が止まった。
「……捨てればいい」
倒れた
次に、黒の
白の
「ここで……」
今度は白の
黒の
だが、エルザの手は止まらない。
再び黒の
「……まだ」
白の
黒の
残された黒の
「……
カチ……カチ……。
柱時計の秒針が鳴る。
エルザは盤上から、最初に捨てた白の
「……取らせれば、よかったのね」
エルザは盤上から取り除いた黒の
しばらく黙ったまま、指先で白の
「……残すことばっかり考えてた」
「良かったなあ……。収穫があって」
何が起きたのかよく分かっていないカレンが、力なく笑った。
「アンタがぶつかるからでしょ!」
エルザの怒声が部屋に響いた。
「あ、ははは……」
カレンは肩をすくめ、何事もなかったように本の整理へ戻った。
カチ…カチ…。
室内には、柱時計の秒針音と、チェスの駒を置く乾いた音だけが響いていた。
午後の光が盤上を斜めに横切り、白と黒の駒影を長く伸ばしている。
エルザは再び白の