シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜 作:氏家まさら
——11局目——
カチカチカチカチ……。
壁時計が、重く時を刻んでいた。
エルザは恍惚とした表情のまま天井を見上げている。やがて優雅に足を組み替えると、視線を盤面へ戻した。
「わかるわよね?……カレン」
「……エルザ……」
カレンは固唾を飲んだ。
目の前にいるのは、もはや自分が守るべき「令嬢」ではない。
カチカチカチカチ…。
――11局目開始――
カツン……。
エルザが白の中央の
(……もうコイツは、傭兵だ盗賊だで片付く相手じゃねえ……!!)
カレンは盤面を睨み据えた。
(……『私』の全てをぶつけてやる!)
「ダラダラささないで」
「……」
思考を断ち切るような声だった。カレンは歯を食いしばり、左手の駒を叩きつける。
バチン…!
カツン…。
バチン…!
カレンが
エルザは
バチン!
さらにカレンが右翼の
「……ふふ。本当に真っすぐね」
カツン…。
白の
バチン!
カレンも即座に
「…ふふふ」
カツン…。
「
「…く!」
乱戦で生まれた右翼の隙間へ、白の
バチン!
黒の
カツン…。
「
「…く!」
再び
バチン!
カツン……。
バチン!
「
今度は左翼から
逃げる。
カツン…。
バチン!
「
また逃げる。
カツン…。
バチン!
「
白の
「…な!?」
バチン!
カレンは
カチカチカチカチ…。
「さあ……行くわよ?」
カツン…。
「……っっ!」
白の
バチン…!
カツ…。
「
「くぅ…!」
バチン…!
カレンは悲痛な表情で
エルザは、その逃げ道へ最後の
カツン…。
「
「……っ!」
カレンの目が見開かれた。
黒の
「……さあ」
エルザが盤面を促す。休ませる気など、最初からないらしい。
カチカチカチカチ……。
——12局目——
カツン…。
バチン!
エルザが中央の
カツン…。
バチン!
さらに白の
カツン…。
エルザも中央へ
カツン…。
バチン!
中央で
白が黒を飲み込んだ。
「だあぁ!」
バチン!
カレンは控えていた
「あはは…!気張っちゃって」
エルザが楽しげに笑った。
カツン…。
「
「…!」
白の
バチン!
カレンは
「ふふふふ…」
カツン…。
エルザの
「させるかよ!」
バチン!
カレンは
カツン…。
カツ…。
「
白の
「甘えよ…!」
バチン!
黒の
白の
「どうだ…!」
カレンの口元に、ようやく勝ち誇った笑みが浮かぶ。
「良いわね、それ——だけど」
「……?」
カツン…。
エルザは何事もなかったように、
「
「…な」
カレンの表情が固まった。
それでも黒の
「…ほらほら」
呆然と盤面を見るカレンを待たず、エルザは次局を促した。
カチカチカチカチ…。
——13局目——
カチカチカチカチ…。
鋭い秒針の音が、途切れることなく響いていた。
カツン…。
バチン!
エルザが中央へ
「…くそ!」
バチン!
カレンは白の
「鼻息が荒いわよ?カレン」
カチン…。
エルザは涼しい顔で
「うるせえ!」
バチン!
カレンも
「可愛くないわね~」
カツ…。
白の
「クソガキが…!」
バチン!
カレンは目障りな白の
「あ~あ…」
「……?」
カチカチ…カチ…。
「行くわよ…」
エルザの指先が、駒を跳ねさせた。
カツ…。
「
「……っ!」
死角から跳ねた
「……っ!…クソ!!」
カレンは拳で軽く机を叩く。
「…ほら、駒」
エルザは気にも留めず、次局を促した。
カチカチカチカチ……。
——14局目——
カツン…。
バチン!
エルザが中央へ
カレンは慎重に自陣を固め、互いの
バチン!
カツン…。
カレンが
エルザは白の
バチン!
「
今度はカレンの
カツン…。
だがエルザは顔色ひとつ変えず、
カチカチ…カチ――。
カツン…カツン…。
エルザは
入れ替わるように
「へっ、もらったぜ……!」
バチン!
カレンは白の
その口元に、ようやく勝利を確信した笑みが浮かぶ。
「……
カツン……!
「……っ!?」
白の
無防備だった。
取れる。
――いや。
取るしかない。
「……」
カレンは僅かに躊躇した後、白の
その位置へ、黒の
カチ……。
エルザが
同時に、その背後から
「
「……っっ!」
そして
二つの射線に追われ、カレンは
カツン……。
待ち構えていた白の
「
「……クソっ!クソっ!」
カレンが盤面を睨みつける。
先ほど自分が取った白の
「フーン♪フフーン♪フフフーン♪」
絶望する対局者をよそに、エルザは優雅に鼻歌を奏でる。
「……はあっ!……はあっ!」
荒い息を吐くカレンをよそに、エルザは上機嫌に鼻歌を奏でている。
やがて、盤外の
「フンフーン♪……言ったでしょ? これは緻密に計算された――支配の戯曲なのよ♪」