シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜   作:氏家まさら

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【第48話】エルザの決意 〜 独裁者と変革者 〜

 昼下がりのエルザの自室。

 エルザはソファに背筋を伸ばして座り、カレンは近くの壁に背を預け、腕を組んでいた。

 

 コンコン……。

 

 静寂を破り、部屋の扉が叩かれた。

 

「エルザ様、エルザ様」

 

 扉の向こうから、執事モーゼスの声が響く。

 二人の視線が同時に扉へ向いた。カレンが応対しようと一歩踏み出すが、エルザがそれを左手でやんわりと制止した。

 

「……待って。私が行くわ」

 

 カレンは口元をわずかに緩め、一歩引いた。

 エルザは入口に向かって歩を進めた。カレンはその三歩後ろを黙って追従する。

 

 ガチャ…。

 

 エルザが右手で扉を開けた。

 

「ああ、エルザ様。いらっしゃいましたか。エレノア様がお呼びです」

 

 扉の向こうでモーゼスが恭しく告げた。

 

「……分かったわ。すぐに行く」

 

 エルザは短く応じた。

 その傍ら、カレンは入口の壁側に背を預け、腕組の姿勢を取る。

 

 エルザがカレンを見た。

 カレンも一瞬だけ視線を返す。

 

 エルザは何の荷物も持たず、ただその身一つで廊下へと踏み出す。その三歩後ろをカレンが続く。

 一方モーゼスは少し離れた場所で二人の様子を観察していた。

 

 …ガチ。

 

 金属が噛み合う冷たい音が響く。

 エルザは右手で自室に鍵をかけた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 三人は静まり返った廊下を歩き始めた。先頭を行くモーゼスの数歩後ろで、エルザとカレンはほぼ並んで歩調を合わせている。

 

「……あなたは呼んでいませんよ?傭兵」

 

 モーゼスが歩みを止めることなく、振り返りざまに冷ややかな視線をカレンへと向けた。

 

「悪いな。お嬢さまを護衛するのが私の仕事なんでね。忘れたのか?」

 

「……ふん」

 

 モーゼスは視線を前へ戻した。珍しく、それ以上の皮肉は続かなかった。

 

「……ふ」

 

 エルザの肩が僅かに揺れた。口元をきゅっと結ぶ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 エレノアの執務室前。

 入口の脇にはモーゼスが控え、その向かいにエルザとカレンが立っていた。

 

「……どうぞ。エレノア様がお待ちです」

 

 モーゼスが淡々と入室を促す。

 

「……待って。ここは私一人で行くわ」

 

 エルザはカレンへ微笑んだ。

 

「……心配しないで。私は大丈夫」

 

 カレンはしばらくエルザを見た。

 やがて口元を緩め、頷く。

 

「……そうかい」

 

 コンコン…。

 

 エルザが扉をノックする。

 

「……お姉様。入るわよ」

 

 ガチャ…。

 

 重厚な音を立ててエルザが中へ入っていく。

 

 廊下にはカレンとモーゼスの二人だけが取り残された。

 モーゼスは入口を塞ぐようにその場へ移動し、対するカレンは反対側の壁に背を預け、腕を組んで斜に構えた。

 

「……突っ立ってるだけでお給金がもらえるんだ。美味しい商売だよなぁ。なあ、執事さんよ?」

 

 カレンの嫌味な問いかけに、モーゼスは姿勢を崩すことなく、視線だけを僅かに動かして彼女を射抜いた。

 

「……ワタクシに振らないでいただきたい」

 

 モーゼスは視線だけを僅かに動かした。

 

 

 ~ 次回『エルザの決意 ~ 共犯者と共鳴者 ~』へと続く ~

 

 

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