シュピーゲル 〜不眠の傭兵と猛毒の令嬢、17歳の暗殺事件〜 作:氏家まさら
降りしきる雪が、冷たく肌を刺す。
肩で息をしながら、カレンは雪肌を朱に染めていく暗殺者の死骸を見下ろしていた。
ゾクッ…………
「……!」
背筋を、冷たい刃でなぞられたような戦慄が駆け抜ける。
カレンが振り向いた。
ザッ……。
重い足音が、雪を踏みしめる。
そこに立っていたのは、ブロンド髪の男。
一面の
その右手には、重厚な
「…ほお」
「…………」
カレンの目が見開かれる。
次の瞬間、その顔が歪んだ。
「ジャック……!てめぇか……!!」
「……見覚えのある
「……!」
「しばらく見ない間に、随分と『良い女』になったな。…驚いたぜ」
ヨハンが目を細める。
「……やはり俺が見込んだ通りだ」
「ああ、おかげさまで、まだまだ
カレンは口元を歪めた。
右手の指先で、顔の左側に刻まれた傷をゆっくりとなぞる。
サッ……サッ……。
二人は距離を保ったまま、円を描く。
「……忘れちゃいねえよ。雪が降るあの日、死体の山を背に立ってた――てめぇのツラをな。てめぇは金袋だけ握りしめて、私たちを泥舟ごと焼き払ったんだ」
「…………」
「『向こうに行く』……。
左手の剣が、僅かに揺れる。
「答えろよ……!ジャック!!」
「…そんな奴はもういねぇ」
「…………」
「…『あの時』――言ったはずだぜ」
「…!」
カレンの視線が止まった。
ヨハンの胸元。
古びたロケット。
そして、左手の薬指に光る銀の指輪。
「…………」
「笑えるぜ……!『
乾いた笑いが、雪原に響く。
「あの時……私を
カレンの左手。
その剣先が、小刻みに震える。
「日向ぼっこの香りはお前には似合わねえよ――!てめえには今の人殺しのツラがお似合いだぜ!!」
「…………」
ヨハンの目から、何かが消えた。
「お前にはわかんねえよ―――」
ゴォォォォッ…………。
右手の
「永遠にな……」
ドンッ――――――!
黒い光彩が、ヨハンの全身から立ち昇った。
「……ッ!」
カレンの身体が動かない。
指先が強張る。
膝が震える。
喉が、ひゅ、と鳴った。
彼女は目の前の男から――目を逸らすことができなかった。
~ 【最終決戦.1】へと続く ~