転生したのに念能力が使えない男   作:ゴリラ廻戦

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第五話 最終試験&メンチ

 

 

 

──メキッ!

 

 俺はゴンの腹を殴りつける。ゴンが44番(ヒソカ)の番号札を釣竿で奪おうとしたので、カウンターでやり返したのだ。

 

「俺とヒソカが殺し合っていたのを観てたな?隠れながらずっと」

 

「う……う……」

 

 ヒソカと戦っている最中、何度かゴンの気配を感じていた。姿を見せることはなかったが、森のどこかからこちらを見ている視線がずっとあった。

 

「何が起きているかわからなくて怖かっただろう。だが、目を逸らさずに最後まで見届けたのは称賛に値する」

 

 ゴンの瞳に映る俺。その瞳には、はっきりと恐怖が浮かんでいた。

 

「この番号札はあげよう。俺に挑んだ勇気に免じて」

 

 血濡れた44番(ヒソカ)の番号札を、倒れているゴンの目の前に投げて渡した。

 

「い、いらない……! オレは……オレはっ!」

 

「──だったら、それは貸しにしておく。さっきみたいに俺の腹に一発ぶち込めたら受け取ろう」

 

「借りなんてまっぴらだ……!おえッ…ちくしょう……ちくしょう!!」

 

 地に伏して涙を流すゴンを横目に、オレはその場を後にした。

 

 はい。というわけで子どもに腹パンしたカス、もといガイです。

 

 ゴンには申し訳ないことをしたが、これが最善だと考えた。ゴンの成長にはヒソカという存在が大きな影響を与えていたはずだ。そのヒソカをヤってしまった俺は「ど、どうしよ?」と本気で悩んだ。悩んだ末に出した結論が──俺がヒソカの代わりを務める、というものだった。

 

『では、到着した人から番号札を確認しまーす』

 

 はぁ……やっと四次試験が終了したな。こんなに疲れる試験になるとは思わなかった。どっかの誰かさんのせいでな。右足がまだ痛い!

 

 四次試験の合格者は以下の九名だ。俺とヒソカ以外は原作通りとなった。ポックルよく頑張ったな。

 

401番、ガイ=アウスナーメ

53番、ポックル

99番、キルア

301番、ギタラクル(イルミ)

191番、ボドロ

294番、ハンゾー

404番、クラピカ

403番、レオリオ

405番、ゴン

 

 少し遅れてやってきたゴンが、何か言いたげに俺へ視線を向けてきた。ゴンは俺に対してどう思っているんだろうか?あんまり悪くないといいなぁ。そりゃ無理か。

 

 

 

――――――

 

 

 

 飛行船の中でご飯をもりもり食べながら、最後の試験の事を考える。

 

 最終試験は"逆"トーナメントだ。1回でも勝てれば試験合格で、負け続けた最後の1人は不合格。ただし、相手に「まいった」など降参の意思を言わせないと勝利とはならない。ネテロ会長が考えた性格の悪い試験だ。

 

 その前に、ネテロ会長による面接が始まるけどそろそろかな?

 

『受験番号401番のガイ様、お部屋にお越し下さい』

 

 おっ、一番最初か。何を質問されるか知ってるけど、面接っていうのがすごい嫌。前世の就活を思い出して震える。えーっと……ノックは3回だったよな。

 

──入ってよいぞ

 

「失礼します」

「ま、座りなされ」

 

 そう促されたので、座布団に正座をした。背筋は綺麗に伸ばして手は膝の上。そして自己紹介。

 

「本日はよろしくお願いします。受験番号401番、ガイ=アウスナーメです。年齢は20歳、特技は料理と裁縫です。趣味は──」

 

「あ、うん。お主はなぜハンターになりたいのかな?」

 

 うわ、志望動機だ。本音は「ライセンスが便利そうだから」なのだが、それを正直に言うほど俺は馬鹿ではない。元就活生を舐めるなよ。

 

「社会の役に立ちたいからです。私は賞金首ハンターになり、社会に潜む念能力者(クソやろう)を片っ端から捕まえます。少しでも──」

 

「本当の理由は?」

 

「ライセンスが便利そうだからです」

 

「うむ、正直でよろしい」

 

 どうも馬鹿です。嘘が下手すぎたのか、あっさりバレてしまった。流石はネテロ会長だ。人生経験がエグすぎる。

 

「お主以外の8人の中で、一番注目している者は?」

 

「405番のゴン=フリークスです。この試験で彼の溢れんばかりの才能を感じました」

 

 ネテロ会長はどこか納得したような顔で、手元の紙に筆を走らせた。

 

「では最後の質問じゃ。8人の中で今、一番戦いたくない者は?」

 

「それも405番ですね。四次試験で彼とは少しばかり因縁ができました。『貸しにしておく』みたいなことを言った手前、今戦うのは少々気まずいです」

 

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、そうかそうか」

 

 なんかウケが良かった。これは好感触だぞ。そこから少しだけ雑談が続いた。

 

「そういえば、メンチさんの体調は大丈夫でしたか?」

 

「検査をした結果、何も問題はなかったぞい。メンチを助けてくれたこと、礼を言おう」

 

「いえいえ、無事でよかったです。……誘拐の実行犯はおそらく301番のギタラクルだと思うのですが」

 

「うーむ。被害者本人が何も覚えておらんし、証拠もない。ギタラクルを犯人扱いすることはできんのじゃ」

 

「そうですか……。ちなみに今、私が一番戦いたいのはギタラクルですね。別に、深い理由はないですが」

 

 指をパキパキさせながら、イルミと最終試験で戦う想像をする。まずは右ストレートだな、次にアッパーで、最後に膝蹴り。もちろん金的な。

 

「くくくっ……。もう下がって良いぞ」

 

「本日はご貴重なお時間をありがとうございました。失礼します──」

 

 最後に一礼をして部屋を後にした。ふぅ、緊張したぁ……。最終試験の組み合わせはどうなるのかな?

 

 

 

──────

 

 

 

『第6試合、ガイ対ギタラクル。始め!』

 

 俺は、ギタラクルと戦うために第2試合のクラピカと第4試合のボドロに「まいった」を言って、あえて負けたのだ。第6試合が始まった瞬間、対面に立つイルミが口を開いた。

 

「まいっ──「わ!!!」

 

 言わせるか。俺の声が「まいった」を上書きして、爆音がホテル中に響き渡る。

 

──メキッ!

 

「!!?」

 

 怯んだ瞬間に渾身の右ストレートを顔面に叩き込んだ。吹き飛んだイルミは壁に激突し、体をめり込ませる。

 

「やってくれるね……」

 

 顔面の針が取れたせいか、ギタラクルの顔が徐々にイルミに戻っていく。顔がボコボコ変形してなかなか気持ち悪い。

 

「あ、兄貴……!?」

 

「やぁ、キル。久しぶりだね。ちょっと今は忙しいから次の試合で話そうか」

 

 ギタラクルの正体がイルミだったことに、驚愕しているキルア。それを横目で見つつも、簡単に「まいった」と言わせないように拳を構える。

 

「少し待ってくれ。君と敵対するつもりはない。謝罪ならするから、矛を納めてくれないか」

 

「謝罪だと?例えば?」

 

「賠償金を試験官(メンチ)と君に払おう。そして君からの仕事の依頼を半額で請け負う。それで手打ちにしないか?」

 

 なるほど確かにそれは破格と言ってもいいだろう。ゾルディック家の長男を半額で使えるのは──

 

「だが断る」

 

「……!」

 

 このガイ=アウスナーメが最も好きな事のひとつは、自分で強いと思っているやつに「NO」と断ってやることだ。

 

「謝罪はいらない。そっちも仕事だったのだろう?なら仕方ないさ。残り1発でいい、頑張って耐えろよ」

 

──腹にいくぞ

 

 そう警告だけして、俺はクラウチングスタートの構えをする。深呼吸をして息を止めると、全身の筋肉がビキビキと隆起する。3、2、1、ファイヤ!

 

 俺は、地面を蹴り抜き右腕に全身に力を込める。

 

 イルミは、腹に硬を使い全力の防御をする。

 

「これはメンチの分だッ!!」

 

──メキッ!!!

 

「くッ!!!?」

 

 くの字に折れ曲がった体は、試験部屋の壁をぶち抜いて、ホテルの中庭までぶっ飛んだ。

 

 ヤッてしまったかと少し焦ったが、流石はゾルディック家の長男だ。口から血を流しながらも、立ち上がり戻ってきた。

 

「ゴホッ…まいった……」

 

『第6試合、勝者はガイ=アウスナーメ!』

 

 

 

――――――

 

 

 

 結論から言うと、最終試験ではキルアが不合格となった。

 

 第6試合の俺とギタラクルの戦いが終わった後、第7試合ではキルアとレオリオが戦うことになった。しかし、キルアは試合開始直後に「まいった」と降参した。おそらく、その前にイルミから何かしらの圧力をかけられていたのだろう。

 

 そして最後の第8試合は、キルア対イルミ。ここでは原作と同じようなやり取りが繰り広げられ、最終的にキルアはイルミに「まいった」と言わされる形で敗北した。あと、イルミがずっと腹を押さえてたのが笑えた。ざまあみろ。

 

 こうして、キルアの不合格という結果だけは原作と変わらなかった。唯一の救いはボドロを殺害しなかったことだろうか。

 

 あのやり取りを実際に目にすると少し不愉快になったが、首は突っ込まなかった。まぁ、イルミに腹パンをした時、もっと力を込めれば良かったと後悔はしたけど。

 

「これが、ハンターライセンスか……」

 

 むふ、むふふふ。手元にあるライセンスを眺めながらニヤニヤしていると中庭にいるゴン達と目があった。ゴンと喋るのはちょっと気まずいけど、声をかけようかな。

 

「ガイ……」

 

「ハンター試験では世話になった、ありがとう。俺は賞金首ハンターになるつもりだ。みんなは何を目指しているんだ?」

 

「こっちこそ、本当にありがとな!オレは医者になるために勉強をするつもりだ」

 

「私も賞金首ハンターになろうと思っている。同業として一緒に仕事をするかもしれないな」

 

 レオリオとクラピカと雑談を続けるが、ゴンは俯いたまま黙っていた。どうした?と聞くと顔を上げて俺を見た。

 

「……オレ、ガイより絶対に強くなるから!これを返しに行くから約束通り待っててね!」

 

「──あぁ。ゴンなら必ず強くなれる。それを楽しみに待っているよ」

 

 ポッケに入っていた44番の番号札を突きつけてきた。ゴンの瞳に映る俺。その瞳には、はっきりとした覚悟が宿っていた。ゴンに惚れ込むヒソカの気持ちがわかったような気がする。

 

「なるほど、これからキルアを追いかけてククルーマウンテンに行くのか。場所はわかるか?パドキア共和国だ。入国したら観光バスで行くといい」

 

「か、観光バスで行けんのか!?伝説の暗殺一家の寝床が!?」

 

「ゾルディック家も別に隠してないからな。地元じゃ有名だ。ゾルディックせんべいとか売ってた」

 

「詳しいんだね。行ったことがあるの?」

 

「昔な。自分の力を試しに行ったことがある。その時にキルアの祖父に世話になったな」

 

 懐かしい……。試しの門で筋トレしてたら、ゼノさんが俺に興味を持ったんだよな。そこからは……うっトラウマが……。

 

「──これは俺の連絡先だ。何かあったら遠慮なく連絡してくれ。それじゃ」

 

 連絡先を3人に渡して別れた。家庭訪問に着いて行きたかったが、これからメンチとの約束があるのだ。

 

 原作では、ゴンたちはキルアを連れ戻した後、修行のために天空闘技場へ向かう。そこで念を覚え、二人はさらに強くなっていく。そして最後に立ちはだかるのが俺の役目だ。

 

 それまでは久しぶりに仕事でもしますか。正式にプロハンターになったし、これで大手を振って賞金首を狩れる。今までは色々と面倒だったんだよな。戸籍がないってだけで、何かと後ろめたい扱いをされるし。

 

 早く稼がないとなぁ。武器を色々買ったせいで貯金が悲惨なことに……。

 

 まぁ、なんとかなるか!

 

 

 

──────

 

 

 

メンチ視点

 

 

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 とある超高級レストランで、今年のハンター試験の運営側の打ち上げをしている。私以外に、ブハラ、サトツ、リッポー、ビーンズ、そしてネテロ会長も参加している。テーブルには豪華な料理と上等な酒が並び、これだけで数千万ジェニーはするわね。勿論すべてが協会持ちだ。

 

──うまい!うまい!

──少しは上品に食べたらどうなの?

──会長、お注ぎします。

──上等なジャポン酒じゃわい。

 

 みんないい感じに酒がまわって場が盛り上がっていった。話は自然と今年の合格者について移っていく。ネテロ会長がこんな質問をした。

 

「今年の合格者で皆が注目しているのは誰じゃ?」

 

「……っ」

 

 あたしが、注目している合格者か……。

 

「そうですね、私はゴン君です。彼は人を惹きつける何かがあります。とても良いハンターになるでしょうね」

 

 サトツは試験終了後にベンチで仲良く喋っていたわね。あやうく、ゴンに裏試験のことまで言いかけてたし。

 

「私はクラピカですねェ。アイツの頭脳と判断力は合格者中でも随一でしょう」

 

 クラピカね。身体能力はまずまずだけど、自分にできる最善を尽くしてきてたわ。

 

「ぼくはガイですね〜。豚の丸焼きすっごく美味しかった!」

 

「っ!?」

 

 ……まぁ、あいつが作った丸焼きはよく出来ていたわね。あたしも美味しいと思ったし。それに──

 

「ほうほう。それで、メンチはどうなんじゃ?」

「ふふ、メンチはどうなんですか。誰に注目を?」

「クククッ!誰なんだァ?」

「ぼく気になるな〜。メンチの気になる人」

 

「な、なんなのよ!なんで皆んなこっち見るわけ!?」

 

 皆んながニヤニヤしながら、どうなの?と聞いてきた。生暖かい目で見てきてとても居心地が悪い。

 

「ガイよ。ガイ=アウスナーメ。あの圧倒的な強さは目につくわね」

 

「それだけじゃ、ないじゃろ?」

 

「そ、それは……」

 

 ネテロ会長がニヤニヤしながら口を開く。

 

「メンチの言う通り、まずは戦闘力じゃな。あの圧倒的な肉体はもはや怪物じゃわい」

 

「えぇ。会長が怪我をしたのは心底驚きましたよ」

 

 テーブルに身を乗り出すようにして、サトツが眉をひそめた。

 

「そういえば、彼のオーラなんですが……あれは、結局何だったんでしょうね」

 

「絶はありえなそうよね。念なしであの身体能力はありえないわ」

 

「制約と誓約では?対価としてオーラを封じることで何か別の力を得ている……そういう可能性もありますよね」

 

「ぼくは単純に、オーラを隠す発だと思います」

 

 ブハラがぼそりと呟くと、また別の誰かが「いやいや、それにしては発動時間が長すぎる」と口を挟む。テーブルのあちこちで、好き勝手な憶測が飛び交い始めた。

 

「わからん。じゃがそのどれでもない気がするのぉ」

 

 その全部を聞いていたネテロ会長が、ぽつりと呟いた。

 

「あやつと対峙して感じたのは、凄まじい闘気と『穴』じゃ。周囲の空間に、あやつだけが馴染んでおらんというか……そこだけ何かが欠けているような妙な感覚じゃ。ワシにも正体はわからん。じゃが──オーラそのものが無い、に一票じゃ」

 

 その一言に、テーブルが一瞬、静かになる。

 

「会長、それはさすがに気のせいでは……」

 

「かもしれんの。ただの勘じゃ、忘れてくれ」

 

 ネテロ会長はそう言って、また静かに酒を口に運んだ。

 

 珍しくネテロ会長が、素直に「わからない」と口にした。テーブルに、少しの沈黙が落ちる。

 

 その空気を破ったのは、ずっと黙って料理を突いていたビーンズだった。

 

「……あの、実は」

 

 全員の視線が一斉にビーンズへ集まる。

 

「アウスナーメという名前、聞き覚えがあったので調べてみたんです」

 

「あら、珍しいわね。ビーンズが自分から喋るなんて」

 

 からかい半分でそう言うと、ビーンズはこほんと咳払いをして続けた。

 

「アウスナーメ家は、とある国の名家でした。武を尊ぶ一族で、代々優れたハンターや武人を輩出してきたそうです」

 

「過去形なのね」

 

「ええ。4年前に幻影旅団の襲撃に遭い、当主が殺害されています」

 

 その一言に、テーブルの空気が一気に張り詰めた。幻影旅団。あの名前を知らないハンターはいない。

 

「そのまま一族は……?」

 

「当主亡き後、後継者争いが起きました。詳細な記録は残っていませんが、内輪もめの末に、アウスナーメ家は崩壊しています」

 

 あたしは、ガイの顔を思い浮かべた。あの飄々とした表情の裏に、そんな過去があったなんて。

 

「──で、ここからが本題なんですが」

 

 ビーンズが声のトーンを落とす。

 

「一族の崩壊と時を同じくして、賞金首ハンターの間で名前が広まり始めた者がいます。異名は──『鬼人』」

 

「鬼人……?」

 

 どこかで聞いたことのある響きだった。裏の業界では、それなりに名の知れた通り名だったはずだ。

 

「格安の報酬で依頼を請け負う代わりに、対象が念能力者だった場合、必ず殺害し、その遺体を引き取っていく。それが鬼人のやり方です。生存のみ(オンリーアライブ)でも、念能力者相手だと結果は変わらない。理由は本人しか知りません」

 

「遺体を引き取る……?何のために?」

 

 ブハラが顔をしかめる。

 

「わかりません。ただ、依頼主にも遺体は絶対に渡さない。それが噂を呼びました。『念能力者を殺して食っているのではないか』と」

 

「えっ……」

 

 思わず声が出た。テーブルの誰かが、ごくりと喉を鳴らす音がした。

 

「その『鬼人』の正体こそが、ガイ=アウスナーメです」

 

 沈黙が落ちる。ネテロ会長だけが、静かにグラスを傾けていた。

 

「ふぉっ……。なるほどのう。あの強さと、その経歴。無関係とは思えんな」

 

「会長、まさか……」

 

「わからん。じゃが、その鬼人(ガイ)があそこまで念能力者に容赦がないのには、それなりの理由があるんじゃろう」

 

 テーブルの誰もが、口を開かなかった。豪華な料理が並んでいるはずなのに、誰も箸を伸ばそうとしない。重たい空気だけがそこにあった。

 

 あたしは何も言えなかった。ただ、ガイが助けに来てくれた時の、あの静かな目を思い出していた。あの目は、噂で聞いたような、狂気に染まったものじゃなかった。むしろ──

 

「……別に、悪いやつではないと思うけど」

 

 気づけば、口からぽろりとこぼれていた。

 

「あたしを助けに来てくれた時、すごく丁寧だったし。試験官が受験者に手を貸すのは違反だから、って言って自分の怪我は放っておいて、あたしのことばっかり気にしてたのよ。それに──」

 

 言いながら、だんだん自分でも止まらなくなってくる。

 

「あのスシだって、味付けも火の入れ方も完璧だったし。デザートの抹茶プリンも、初めて食べる味なのにちゃんと美味しいって思わせてくれたのよ。人を食ってるような奴が、あんな繊細な料理作れると思う?あたしは──」

 

 そこまで一気に喋って、ふと我に返る。

 

 テーブルの全員が、さっきまでの重たい空気などなかったかのように、にやにやとこちらを見ていた。

 

「……なによ」

 

「いえ、その……ふふっ」

 

「クククッ、鬼人相手にすっかりメロメロじゃないかァ」

 

「ぼくも同じ意見だよ〜。メンチ、顔真っ赤」

 

「ち、違うわよ!!事実を言ってるだけ!!あたしは試験官として公平に──」

 

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。よいよい、メンチがそこまで庇うんじゃ、悪い男ではなさそうじゃな」

 

「会長まで!!もう、うるさい!誰かお代わり持ってきなさいよ!!」

 

 顔が熱いのは、絶対に酒のせいだ。そういうことにしておこう。

 

 

 

 






ハンター試験編はここで終了です。ゴン達が家庭訪問中は、オリジナルの話を投稿しようと思います。
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