転生したのに念能力が使えない男 作:ゴリラ廻戦
第六話 依頼&メンチ
第六話 依頼&メンチ
「──もしもし、ガイです。どうしたんですか?」
ハンター試験が終わって数週間。ハンターになった俺は、賞金首狩りの仕事に明け暮れる毎日を送っていた。そんなある日、メンチから電話がかかってきた。
『あんたに仕事の依頼をしたいの。久々に大きい仕事が入ってきちゃって』
「メンチさんの大きい仕事って、例の?」
それは電脳ネットやニュースでも大々的に取り上げられていた話だ。なんでも一ツ星の美食ハンターであるメンチが──
『あら、知っていたのね。なら話は早いわ。あたし、V5の会食のシェフをすることになったの。あんたにはそのお手伝いをして欲しいってこと』
「お手伝いって……。いやいやいや、料理の腕には多少の自信はありますけど、流石に役不足ですよ」
V5とは、世界の経済と軍事を実質的に動かしている五つの大国による同盟のことだ。
数年に一度、各国の首脳が一堂に会する会食が開かれ、そこで振る舞われる料理は世界中の美食家やメディアが注目する一大イベントとなる。そのシェフに、一ツ星美食ハンターのメンチが選ばれたというわけだ。
うん、俺には絶対無理。なにか粗相でもすれば首が飛ぶ。物理的にな。
『ちょっと、話を勝手に進めないでよ。料理を手伝ってほしいわけじゃないの。食材の調達に付き合ってほしいのよ』
「なるほど、それなら納得です。しかし、メンチさんの実力ならば私は必要ないのでは?」
美食ハンターとはいえ、メンチの戦闘力は並の賞金首ハンターを凌駕している。食材調達くらいで苦労するとは思えない。
『あのV5を恨んでいる勢力なんて数えきれないほどいるわ。そんな奴らにとって今回のイベントは目障りなものだから、ぶち壊したいのよ。つまり──』
「シェフであるメンチさんを狙う不届き者がいる、ということですか。お任せください。このガイ=アウスナーメが、メンチさんのことをお守りします」
メンチを狙うゴミは俺が始末してやるぜ。指一本も触れさせんぞ。
『そ、そう?助かるわ。それじゃ詳しい話は会って話しましょ。また連絡するわ』
了解の返事をして電話を切る。メンチと一緒に仕事かぁ。護衛だから、四六時中付きっきりということだよな。ふへへへへ。
──ンっーー!ンっーー!
おっと、こいつの口を押さえたままだった。息ができずに顔色が青ざめている。ハゲエプロンが死にそうだ。悪い悪い。
「ぶはっ!はぁはぁ……。ひでぇよ旦那!死ぬかと思ったぜ!」
「お前が
こいつは
「旦那が部屋を出ればよくないか!?それに、興奮すんなってのも無理な話だぜ!なんせ──
A級賞金首の死体、だからな!!!
この肉付きはたまんねぇぜ!」
布に包まれたまま台の上に横たわる、まだ体温の残っていそうな塊。この死体に興奮している男の名前は──クミヤ。頭はハゲており、上裸エプロン姿という色んな意味で変態な男だ。以下、ハゲエプロンと呼ぶ。
えっと、どこまで話したっけか?メンチからの依頼が嬉しすぎて忘れた。
「A級賞金首【
「──こいつは59人殺してるらしい。確認できているだけで59人。おそらくもっと殺してるだろうな。なんせ死体が残ってないんだから」
「残っていない?そりゃどうやってだ。死体処理は大変だぜ」
「念能力だ。こいつは操作系でゴキブリを操っていた。殺した死体に卵を植え付けて繁殖させ、
こいつと戦ったときは、気持ち悪くてしょうがなかったな。操られて強化されたゴキブリは、万を超えていた。
「なるほどな。それでどうやって狩ったんだ?」
「殺虫剤と炎だ。超強力な殺虫剤をばら撒いてゴキブリを弱らせて、その後に炎で大爆発させた」
自分ごと爆発させる作戦は上手くいったが、誤算だったのはあの男自身も生き延びていたことだ。ゴキブリ並みの生命力を持っていやがった。……じゃあ俺は何なんだ?
「だからこいつ焦げてんのかよ。皮を焼くのは勘弁してくれよな、一流の素材が勿体無いぜ」
そんなん知るか。ハゲエプロンの話は聞いてるだけで気が滅入る。話すことは話したし、さっさと出よう。
「もう行くのか?少しくらいは俺様の仕事振りを見ていってくれよ」
見るわけねぇだろぶん殴るぞ。人を殺すのはいいがそれ以上は絶対に見たくない。
「……念具が完成したら連絡してくれ。じゃあな」
そう言って工房を後にする。狭い通路の壁には、用途の分からない道具が所狭しと吊るされていた。
頭がイッてるから腕がいいのか。腕がいいから頭がイッてるのか。下らないことを考えながら帰路につく。
クミヤは、念具を作る【
念具が生まれる方法は、大きく二つに分けられる。
① 作成──材料と神字を用いて、意図的に念を宿す方法。稀に、一流の職人が無意識のうちに念を込めて作った道具が、そのまま念具になる場合もある。
② 自然発生──念能力者が長年愛用することで念が道具に馴染み、自然と念具となる方法。あるいは、死後の念が宿ることで呪物化する場合もある。
あのハゲエプロンは、この二つの方法を組み合わせて使う。察しているだろうが、あいつは人間を材料にして念具を作っている。それだけでなく、死後の念を意図的に宿すこともできる。
まず、死体から死後の念を抽出し、どこかに保存する。次に、死体と様々な材料、神字を組み合わせて器を作成する。最後に、その器に死後の念を宿せば──念具の完成というわけだ。
俺が持っている念具の中にも、ハゲエプロンの作品がいくつかある。今回はかなり強い念能力者だったから、いい念具が出来るだろう。
しっかし【
武器を振るったところで、群れの奥にいる男に辿り着けそうにない。かといって、手持ちの殺虫剤だけでは絶対に足りない。さて、どうしたものかと頭を悩ませた結果は──
ゴキブリを喰って減らす
というものだった。大量のゴキブリをバクバク食べて数を減らし、それから殺虫剤を撒いて大爆発。それでもあの男は生きていたもんだから、最後は心臓をブスリというわけだ。
「今日の晩御飯は、エビにしようかな……」
──────
ハゲエプロンの工房を訪ねて数日たった。
メンチに指定されたレストランは、街の中心部にひっそりと佇む、隠れ家のような店だった。落ち着いた照明と、テーブルの上で揺れるキャンドルの灯り。メンチが選ぶ店だけあって、内装にも品がある。
「来たわね。座って座って」
先に来ていたメンチが、対面の席を手で示す。俺が腰を下ろすと、すぐに前菜が運ばれてきた。
今日はオフなのか、髪を結ばずに下ろしている。服装はラベンダー色のブラウスだ。かわいい。
「早速だけど、本題に入るわね」
メンチはナイフとフォークを手に取りながら、真剣な表情になる。
「あたしが狙う食材は『
「黄金鶏……初めて聞く名前ですね」
「無理もないわ。世界でもまだ4件しか捕獲例がない、超がつく希少種だもの」
メンチは前菜を食べ終えた。そして運ばれたスープを口に運んだ。食べるのがとても速い。お腹でも空いてたんだろうか。
「元々は『
「それはすごい。しかしたった4件ですか……相当な狩りになりそうですね」
「そういうこと。だから、V5の会食にこれを出せたら──」
メンチの目が、わずかに輝いた。
「あたしの名前は、間違いなく世界に轟くわ」
箔をつけたい、という野心が、その一言だけで十分に伝わってくる。かっこいい。
「サンタ大森林は、ミンボ共和国の中でも特に自然が濃い地域なの。人の手がほとんど入っていない、貴重な原生林よ」
「なるほど。だからこそ、そんな希少種が生き残っていられる、と」
「そういうこと。それで、あんたに護衛を頼みたいってわけ。分かってると思うけど、V5絡みであたしを狙う奴もいるかもしれない。それに、その森自体、それなりに危険な生き物も多いらしいから」
「承知しました。命に代えても、メンチさんをお守りします。そして必ず黄金鶏を見つけましょう」
ふん。A級賞金首が襲ってきてもボコボコにしてやんよ。かかってこいや!
「大袈裟ね……。でも、まぁ、頼りにしてるわ。よろしくね」
そう言って、メンチはくすりと笑った。めっちゃかわいい。
──────
メンチ視点
「承知しました。命に代えても、メンチさんをお守りします。そして必ず黄金鶏を見つけましょう」
「大袈裟ね……。でも、まぁ、頼りにしてるわ。よろしくね」
キザった言葉だけど、ガイが言うとなぜか似合うのよねぇ。顔はワイルドな感じだけど、丁寧な言葉がギャップになって──
「こ、このステーキ美味しいわよ。最高級のジャポン牛でね、脂身と赤身のバランスが絶妙なの!それで──」
「……確かに美味しいです。とろけるような脂の美味しさの中に、赤身の肉肉しさが際立ちます」
あたしが突然ステーキをオススメするもんだから、ガイが少し怪訝な顔してしまった。やってしまった……。ていうか何であたしはこんなに動揺してるんだろう。
──カチャ カチャ
……ナイフとフォークでステーキを丁寧に食べている姿は上品だ。だけど不思議なことに野生味も感じる。唇の端にある傷のせいだろうか、それとも鋭い八重歯のせいだろうか。肉食動物が肉に喰らいついている様な錯覚がする。でも、全然不快には感じないわ。むしろ──
「出発は三日後ね!近くの街までは飛行船で移動して、そこからは陸路でサンタ大森林を目指すわよ」
「承知しました。滞在期間はどれくらいを想定していますか?」
「長くて一週間ってところね。黄金鶏だけに時間を割くことはできないのよ」
仕事を話をした瞬間に目が変わった。鋭い視線に体が硬直してしまう。
「なるほど。移動中の警護は問題ないとして……現地での宿泊はどうするんです?森の中で野営、それとも近くに拠点を?」
「森の入り口に、小さな村があるの。そこの宿を予約してあるわ。毎日森に入って、夜は宿に戻る形になると思う」
本当は野営して少しでも時間を節約したいけど、メニューも考えないといけないし、他のスタッフとの打ち合わせもある。やることが山積みだわ。
「なら部屋割りは、一部屋でお願いします」
「へっ」
な、な、へっ?それは、それって……
「護衛は私一人ですから。何かあった時にすぐ動けるよう、同じ部屋の方が合理的です」
「………」
「私が寝るところはソファでも床でも構いません。もちろんお仕事の時は邪魔はせずに、ドアの前に立っておきます」
「そうっ、ね。ひ、一部屋で予約しとくわ」
合理的、合理的!そうよね。ガイはあたしの護衛だもの。同じ部屋でも不思議じゃないわよ!あー、喉が渇いた、水を飲もう。
「そうだ!森の中の話をしましょうよ。危険な生き物とかについて、事前に共有しておかないと」
「そうですね。サンタ大森林特有の魔獣とか、何か情報はありますか?」
「あるわよ。ちょっと待って、資料が入った端末を出すから」
バックの中をごそごそと探す。……入れたはずなのに見つからない。なんか暑いし、指が震えてちゃって余計に焦る。──あった!
「これよ、これ。サンタ大森林の生態系についてまとめた資料。ハンター協会から取り寄せたやつ」
「用意周到ですね、流石です。では早速──」
端末を差し出すと、ガイは感心した顔をした。端末に目を落としながら、真剣な顔で資料を読み込んでいる。薄暗い部屋の中で、キャンドルの火がその横顔をやわらかく照らしていた。
……このお店はミスったからしら。なんかちょっと薄暗いし、キャンドルは熱いし。なんか、なんか、はぁ、もうとにかく暑いわ。息もちょっと……。もっと薄着でこればよかったわね。
ガイが読み込んでいるうちに、あたしも宿の予約をしないと──この部屋けっこう狭いわね。シングルベットだし、それにソファもないし…。でもこの部屋しか空いてない。よ、予約しないと。……指が震えて押せないっ。
なんとか予約ボタンを押し終えて、端末をバッグにしまう。ふぅ、なんとか終わった。ガイの方をちらりと見ると、まだ真剣な顔で資料を読み込んでいた。あの顔と体で真面目なのよね、この子。
「ふぅ……大体、頭に入りました。あとは現地でも確認しますが」
「頼りにしてるわ」
そんな話をしているうちに、食事はすっかり終わっていた。デザートの皿も綺麗に空いている。
「じゃあ、お会計を──」
バッグから財布を取り出そうとした瞬間、ガイがすっと立ち上がって、先に伝票を手に取っていた。
「え、ちょっと、待ちなさいよ!ここはあたしが──」
「今日は私から誘ったわけじゃないですが、これから世話になる分の先払いということで。それに、メンチさんに奢ってもらったら、私の気が済みません」
「そ、そんなの気にしなくていいのに……」
結局、あたしが何を言っても聞かず、ガイはさっさと会計を済ませてしまった。まったく、変なところで頑固なんだから。まぁ、悪い気はしないけど。
店を出ると、夜風がひんやりと肌を撫でた。とても涼しい。さっきまであんなに暑く感じたのは、絶対にキャンドルのせいだ。
「ホテルまで送ります」
「え、いいわよ別に。すぐそこだし」
「じゃあ……護衛の予行練習ってことで、私に付き合ってくれませんか?」
「ふふっ、なにそれ」
誰かとこうして夜道を歩くのなんて、いつぶりだろう。ずっと師匠のもとで修行して、その後も美食ハンターとして頑張ってきたから……。
あっという間に、ホテルの前に着いてしまった。
「じゃあ、三日後に空港で」
「ええ。準備、しっかりしておくわ」
「何かあれば、いつでも連絡してください。夜中でも構いません」
「大袈裟ね、あんたは」
思わず笑ってしまう。ガイは少し首を傾げてから、小さく笑い返してきた。
「今日はご馳走様でした。それでは、おやすみなさい」
一礼して、ガイは踵を返して歩いていく。その背中が夜の街に溶けていくのを、あたしはしばらく見送っていた。
三日後か。
ホテルのベットで横になりながら、あたしはさっき予約したばかりの部屋を思い出していた。
あの狭い部屋で、一週間…………。っ。