「早く降ろせ‼︎ここに置いて行く物は赤札、このまま前線に持って行く物は白札だ。間違えるな‼︎」
「石炭は積めるだけ積め‼︎積載限界まで積むんだ‼︎」
「ゲイリー少尉、ここでK5の追加砲弾と前線へ運ぶ物資を受け取る。ヘブナーと物の確認をしてくれ。ミュラー機関長、貨物用の貨車をここで一輛増やして行く。ケツに連結させろ。いいところで一度積み方をやめて、入れ替え線の貨車を引っ張ってきてくれ。明朝、0600時に出る。機関の調整は任せる。」
「「「諒解」」」
朝方の外は随分冷える。
前線に近くなったターミナル駅は後方の軍集団管轄の駅より小さいものの、盛況だ。行き先は違うし所属も違うが、車列も多く停まっている。いや。やけに軍用列車が多い。この先の地図を小脇に抱えて、駅舎の方へ向かって歩く中で何度か軌道を跨いでゆく。
普段から使っている軌道は光っているが、予備線や入れ替え線のレールは錆びついている。駅舎の二階へ足を踏み入れると、運行管理官を捕まえて運行予定表を受け取る。ダイヤは空白と訂正が目立っている、どういうことだろうか。というか軒並み軍用列車がここと、この先の駅の予備線に待機させられている。
他に気を付けるべきは臨時で一本、夜中に前線まで走る列車があるが、我々の停車している線路は関係ないが隣だ。都合、四本の貨物が走る。乗せてきた魔導兵に伝えておくべきだろう。街に出るのであれば夜中に戻ってきては挽肉にされる可能性がある。
「管理官、空白と訂正が目立つ上に我々の発車時間も仮決定とある。積んでいる物資の事情から定刻で届けたいと考えているが。」
「はい。中佐殿の麾下であるK5列車砲が通過した後、四区288km700m付近の軍用通信ケーブルに異常が見られました。というか、切断されている事が確認されたのです。」
聞いた地点周辺の地図を開きつつ場所を確認する。あぁ…どう考えても、客観的に見て明らかに自然の現象ではなさそうだ。
「聞くところによる破壊工作か。四区290km前後…地図上、街や山林その他、全く何もない地点だな。倒木、飛来物の可能性はないな。」
「はい。全く完全に開けた場所であります。」
「ゲリラ、工作員か、パルチザンだな。」
「そう見ております。」
「なるほど。それでこの混雑か。」
「はい。中佐殿の列車以降は受け入れすら出来ない状況であります。」
「そうか…BP19は自前で高出力通信機を搭載している。線路上に問題がないのなら定刻で発車してもいいだろうか?」
「はい。諒解しました。その様に調整させます。」
「申し訳ない。二時間ほどは余裕を見て支度をさせる。」
「はっ。お手数おかけします。」
軌道上の将軍との交渉を終えてシュワルコフ中尉のいる兵員輸送車の顔を突っ込むと、部下とカードに興じる中尉を見つけた。
「中尉、少しいいだろうか?」
「あっ、失礼しました‼︎」
こちらに気付いた皆が起立敬礼をしようとするのを左手で制止して話を続ける。
「現在、8時を回ったところだ。この先で破壊工作があって、現在軍用列車は軒並み停められている状況だ。」
「破壊工作でありますか?」
「あぁ。軍用通信ケーブルが切られているらしい。だが、このBP19は自前の通信機がある。ので、そこまでの問題ではない。」
「では、定刻通りでありますか?」
「一応、そうなる様には閣下に依頼している。積み下ろしを予定通りに行うと明朝6時に出発できる。その間、自由にしてもらっていい。駅の周辺は街になっているので、出歩くのも可能だ。余裕を見て、出発二時間前には乗車していて欲しい。進行方向に向かって右から出入りしてくれ。左は民間の列車と貨物が走る。22時以降、四本列車が走る。酔っ払って轢かれんように。」
「閣下とは?」
「運行管理官だ。軌道上では彼らが将軍だ。」
「なるほど、諒解です。総員、聞いた通りだ。軍曹、後部にいる連中にも伝えてくれ。」
「諒解しました。」
伝達事項を伝えて、列車を降りようとすると声をかけられた。
「中佐殿、ここら辺にいい店はありませんか?」
そうか。これは不親切だった。不案内な街に放り出すのは良くなかったな。
「駅舎を出ると目の前に大通りがある。そこで東に行くトロリーバスに乗って二駅ほど行って降りた目の前に気の利いた店がある。101装甲列車大隊と言えばボトルを出してくれるだろう。飲み切ったら、新しく入れてくれ。アルビオンウイスキーだ。」
「ありがとうございます‼︎」
中尉に伝達を済ませて、次の伝達相手を探しに操車場を彷徨く。整然と動いてる人間の中から、兵員輸送車の天井から見下ろす一団を見つける。輸送車の中から天蓋を開けて天井に出た。
「ヤニングス中尉、よろしいか。」
「はっ。何事で?」
うちの陸戦隊は少々クセが強い。誰一人立ち上がらない。まぁいい。彼らもエリートといえばエリートだ。なにせヤニングス始め初年の一等兵に至るまで最低でも騎士なのだ。新しい兵科である装甲列車部隊の陸戦隊を組織する上で…というか第101装甲列車大隊を編成する時に近衛騎兵連隊から引き抜いた。これには各所から批判を喰らった。
というか、歩兵からは誰も来なかったからの苦肉の策だったのだが。
なにせ、近衛騎兵連隊といえば陛下の騎兵隊だ。そこから引き抜いたというのは、陛下から引き抜いたに等しい。代々プロシア騎兵として帝室に仕えてきたビッター家当主、もとい騎兵中将たる父上にはぶん殴られた。
「陛下の近衛を抜くとは何事か‼︎不敬をどこに置き忘れたか‼︎」
だそうだ。仕方ないので手間のかかる宮廷工作は、母方の叔父上であるブラウンシュヴァイク公にお願いした。尚書職も務めた叔父上は宮廷に伝手もあり、帝室の遠縁でもある。もちろんここでも足蹴にされている。
求人を出せはしたものの、なかなか集まらなかった時に応募してくれたのがヤニングスの小隊だった。ヤニングス自身は男爵家のエリート…不良貴族として有名だった…なのだが、その小隊は貴族とは名ばかりの下級貴族や一代貴族で構成されていた。転向を志願した理由が更に面白かった。
「俺はさて置いても、俺の部下たちは出世に限度がある。本物の貴族にはかなわない。そして、ここなら俺が出世すれば部下も出世する。なら新しい道を選ぶまでだ。」
と。当時、まだ少佐で編成官を拝命していた自分にそう宣った。男爵位を持つ貴族家なら才覚さえあれば出世はできるが、一代貴族には限界がある。その部下を引き連れての転向。もはや愚連隊と言える様な集団だった。だが配下も気にしている。貴族としての役割を果たす気概はある様だ。
「面白い。卿らの志願を歓迎しよう。第101装甲列車大隊へようこそ。」
そうして騎兵だった彼らは装甲列車大隊の陸戦隊となった。今も、胸だけに切り取った胸甲と肩当てを黒く塗って使っている。騎兵であった誇りはある様だった。
「この先の四区で破壊工作が確認された。」
「我らが帝国に逆らう様な不逞の輩がいたんで?」
「軍用通信ケーブルが切られた。軒並み軍の輸送に支障をきたしている状況だ。」
タバコに火をつけながら話を聞くのは凡そ上官に対する態度ではないが、弁える時は弁えているので煩くは言わない。
「なら、四区に入った時点で警戒体制としましょうか。」
「うむ。そうしてくれ。」
「だ、そうだ。お前ら走り出したらキロ程と現在地、把握しておけよ。四区までに銃剣とサーベルの刃付けを忘れるな。」
「「「応‼︎」」」
「以上だ。質問は?」
「出は何時で?」
「0600時に出してくれと閣下とは話した。」
「なら0400時、乗車完結だ。軍曹、全員に伝えておけ。乗り遅れたら脱走とみなす。」
「承知‼︎」
ヤニングス以外が天蓋から車内へ戻って行く。聞こえる会話からして街に飲みに出るのだろう。愚連隊の様ではあるが、騎兵の制服で出歩く彼らは最低限の行儀はある。心配には及ばない。
「中尉は行かんのか?」
「今日は遠慮します。あとで買い物には出ようかと。」
「で、あるか。ならいくらか渡す。ちょっと頼まれてくれんか?」
「コーヒーとタバコ、あとは?」
「そうだな。寒い土地に行く。ルーシーのヴォトカでも探してきてくれ。」
「諒解しました。酒屋を回ってみましょう。」
「頼んだよ。」
これで伝達事項は皆に周知はできた。これで職務は以上だ。時間を見ると11時を過ぎている。あとは自室に引き篭もるか…駅舎の仮眠室を割り当てられているものの、停車駅では列車で寝起きするのが待機する上での暗黙の了解だ。指揮車に入ると、隣室に人の気配を感じた。ノックをすると返答があってドアを開ける。
「少尉は外に出ないのかね?」
「はっ。いいえ。自分はこの辺に不案内なので迂闊に出歩くのは控えようかと。」
「ちょっと待っててくれ。」
自室に戻ってコーヒーを二つ用意する。完全に冷え切っているが、容赦してもらおう。というか、出歩かないから小銃の手入れとは…真っ当に将校らしい。いや、年相応ではなさすぎて絶句ものである。
「待たせた…休憩がてらコーヒーを馳走しよう。ヤニングスが豆を手に入れてきてくれるから在庫は気にしなくていい。」
「それは‼︎ありがとうございます。」
「冷えてるが許してくれ。色々と出回っていたのでね。」
「中佐殿は出られないのですか?」
「色々と事情があってね。ゲイリーとヘブナー、ミュラーたちが積み込みやら連結作業をしている。何かあったときに責任者が酔っ払っていたのでは示しがつかん。」
タバコを取り出そうと思ってやめる。ここは今は他人の部屋で、見る限り灰皿がない。吸うべきではないだろう。
「そうだ。駅舎に食堂がある。昼食はそちらに行くといい。ヴルストが美味い。」
「それはいい情報ですね。伍長が戻ったら行ってみるとします。」
「今のうち暖かい物を食べておくといい。前線ではそうも行かんだろう。」
「装甲列車の皆さんは意外と普通の食事をされるのですね。」
昨日の食事のことだろうか。あれは実はちょっと贅沢な物だったのだが。
「乗せる客人は皆そう言う。だが、あれは特配だ。缶詰とKパン、時折干し肉がいつもの食事だ。忙しいと缶詰の中身をパンに挟んで食べている。」
「そうなのですか?」
「我々の仕事にはムラがある。全力で砲撃に勤しんでいる時は食事もままならない。客人を乗せた時はシチューや煮込み物も用意する。」
「お気遣いいただいていたのですね。」
「歩兵や魔導兵と違って最前線と言う訳ではないのでな。父が騎兵だったので前線の事情は知っているつもりだ。」
「ですが、場合によっては敵地にも赴くと。」
「補給列車が危険な場合は我々がその列車を引き摺って最前線の補給所まで走るさ。ラインでは押し返されて最前線と前線補給所が同義だったこともあった。」
少し前の懐かしい思い出が頭をよぎった。