空を見上げる大蛇   作:函南

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軌道の戦闘

ライン戦線、最前線補給駅ーーーー。

 

「エッフェンベルク大尉の車輌は出ました‼︎フリングス大尉の車輌はもう乗れません‼︎」

 

「よろしいゲイリー准尉。出したまえ‼︎」

 

「少佐‼︎もうフランソワ兵は1000mのところまで迫ってんですわ‼︎限界じゃねぇかと‼︎」

 

「ノイヴィル中尉、2センチ四連装を水平射だ。7.5センチも対空弾を詰めてぶっ放せ‼︎」

 

「諒解‼︎ヘブナー‼︎対空砲水平、砲車は対空弾で同じく水平、斉射だ‼︎弾の限りばら撒け‼︎」

 

『諒解‼︎景気よく‼︎』

 

無線に怒鳴りつけたノイヴィルに、ヘブナーもまた叫び返すのが聞こえる。バシンという砲撃音と、対空砲のばら撒かれる音が一帯の空気を大きく揺らす。フランソワ軍が乾坤一擲と言わんばかりに仕掛けた攻勢は、三日と少しでライン戦線の一部を大きく後退させるまでの打撃を受けていた。

後に「陸軍の魔の四日間」と呼ばれるこの四日で将官2名を含む大尉以上の将校100名超、総勢2000名を超える戦死者を出した戦いはド・ルーゴなる軍司令の魔導部隊と機動部隊の集中運用によって食い破られた戦線を徹底して叩かれた結果だった。

 

「で、マイヤーの車輌はまだ乗せ切っていないのか‼︎」

 

「マイヤー大尉の車列は陸戦隊を回収したら完了です。乗車率150%超です‼︎」

 

「マイヤーは走らせろ。准尉、戦車なぞ捨てていけ。手榴弾でも放り込んで破棄しろ。」

 

「今更です‼︎それではまるで敗走です‼︎」

 

「何言ってんだ‼︎これは潰走ってんだぞ‼︎」

 

「ノイヴィルの言うとおりだ。我々は順当に潰走する。」

 

流石に戦車を捨てろと言うのは不味かったか。軍の装備は陛下から賜った物、国民の税金で賄われている。敵上空ではまだ魔導部隊が戦っている。8対1と言ったところか。寡兵ながら健闘しているが、このままでは各個撃破がオチだろうな。捨て石にするには優秀な兵隊だ。

 

「准尉、歩兵部隊は収容できているか?」

 

「もう歩兵は乗車、陸戦隊も天井まで乗っています‼︎積み残しなし‼︎」

 

「いい仕事だ。それでは我々もケツを捲るとしよう。ヘブナー中尉、水平射を続けろ。7.5センチは真横に撃つと横転の危険がある。注意しろ。ノイヴィル中尉、魔導部隊に無線を開け。」

 

『諒解‼︎斉射続けます‼︎2センチの弾を追加注文できますか‼︎』

 

「ある限り回してやろう。遠慮するな。」

 

あれだけの勢いで斉射を続ける2センチ対空砲は、加熱する砲身を冷やし続けながら在らん限りに弾を吐き出している。ここを凌いでも帰りの防空は心配だろう。

 

「少佐、無線繋がってんぞ‼︎」

 

「よろしい。魔導部隊指揮官は誰か‼︎こちらは第101装甲列車大隊最終便指揮官、ビッター少佐だ。」

 

『第225魔導強襲中隊指揮官代理コッセル軍曹であります‼︎申し訳ありませんが立て込んでまして墜ちろクソッタレッ‼︎…手短に願います‼︎』

 

「わかった。積み込みは完了だ。防空支援、心から感謝を。我々はケツを捲る。これが最終列車だ。駅舎は15分後に発破する。なんとか敵魔導部隊を振り切れ。」

 

『乗車券は持ってませんぜ‼︎』

 

「よかろう。乗車券がないのなら貨物として積載しよう。」

 

無線から笑う声がいくつも聞こえる。乗車券を持っていない、それは彼らがここで玉砕する覚悟なのだろう。魔導士というのは非常にタフな奴らだ。ここで彼らを見捨てる様なら帝国の未来は…彼らを見捨てる程度の国家なら滅びて仕舞えばいい。人材は国家の財産だ。

 

『次の停車駅はどちらで!?』

 

「各駅停車で行こう。120km先に小さな駅がある。次の停車はそこだ。」

 

「少佐‼︎それでは敵に追いつかれる可能性があります‼︎」

 

『いいんですかい?砲兵が来たら射程圏内ですぜ‼︎』

 

「貨物を積み残したとあっては鉄道部隊の名折れだ。拾わせて貰おう。」

 

ゲイリーの悲鳴の様な声は聞こえているが、ここは譲れない。

 

「少佐、彼我の距離から停車出来るのは30分が限度だぞ。准尉、その辺でどうだ。」

 

「わかりました。皆に伝えます。」

 

「コッセル軍曹、次の駅で到着から30分待つ。必ず来い。」

 

『お前ら帰りの足が出来たぞ‼︎全力で戦え‼︎』

 

『『『応‼︎』』』

 

「よし、諸君。我々も美事に潰走するぞ。発車だ。」

 

 

走り出して十数分後、駅舎の発破を確認した。未だ上空の戦火は消えない。まだか、と思うが仕方ない。地上部隊から魔導部隊まで彼らだけで受けているのだ。無理も無い。出来る限り生き残ってくれと願いながら、最後尾の障害物排除車の天蓋に立つ。

 

「無力だな。」

 

「そうでも無いでしょう。少なくとも拾えた命は多いです。」

 

「そうか。ノイヴィル、状況は。」

 

「後部車輌の対空砲が焼けて使用不能、予備の砲身と次の駅で入れ替えます。残弾は心配には及びません。7.5センチは一度、砲撃戦を行うには寂しい残弾です。エッフェンベルク大尉は既に発車、フリングス、マイヤー両大尉が駅で待機中です。」

 

「では、7.5センチ砲弾は後部砲塔に集めろ。前部では射界が取れまい。」

 

「次の駅で移します。」

 

今一度、大きな爆発が見えた。爆裂術式か燃焼術式だ。あれがもし、殿を務めている味方のものなら残存魔力は集合地点まで保つのか。敵だとしたら…彼等の生存は絶望的だろう。その証拠に戦火が止んだ。どちらだ。願わくば、味方の発動した術式であると思いたい。

ノイヴィルの指揮をもって、次の駅で待機していたフリングス、マイヤー両名の列車に出来る限り回収した歩兵を積載し、砲身の交換、弾薬の再分配を行った。なんとかもう一度交戦できるだけの用意は整った。

 

「フリングスとマイヤーは走らせろ。准尉、あと何分だ。」

 

「多く見て10分かと。」

 

「そうか…。兵員輸送車に空きはあるか?」

 

「指揮車の廊下まで使えば10人程度でしたら。」

 

「それほどの人数、戻ってくるかな…。」

 

「信じましょう。」

 

『少佐‼︎魔導反応感知‼︎味方です‼︎』

 

レーダー員の無線を聞いて双眼鏡を覗く。6人…いや、担がれている者も含めたら9人だ。よくも生き残れたものだ。叙勲の申請をせねば。銀翼くらいは貰いたい気分である。

 

「第101装甲列車大隊だ。第225魔導中隊、聞こえるか‼︎」

 

『第225魔導強襲中隊、コッセル軍曹であります。貨物便はまだ空きはあるんで?』

 

「指揮官の権限で臨時乗車券を発行しよう。臨時なので廊下の床に座って貰うがね。」

 

『そりゃ貨物と比べたら一等車ですね。』

 

「歓迎する。これ以降はベルンまで直行便だ。」

 

『みんな帰れるぞ‼︎』

 

各々の歓喜の叫びを聞きつつ、准尉に出迎えの準備をさせる。なんとか間に合った。

 

「少佐、直行便でいいんで?」

 

「なにがだ?」

 

「勝手に行き先を決めたら閣下に怒られるんでは?」

 

「そうだな。ノイヴィル中尉、通信室に入る。」

 

 

そう言い残して指揮車の通信室に入る。

 

「ライン方面軍司令部、取れますか。第101装甲列車大隊。」

 

『こちらライン方面軍司令部、第101装甲列車大隊どうぞ。』

 

「参謀本部にチャンネルDを繋いでほしい。」

 

『チャンネルD、承知しました。』

 

チャンネルD…戦務局に繋がるホットラインだ、いい様に使ってくれるゼートゥーア大佐に直接繋がるチャンネルだ。相手取られたくなかったら…と言って用意させた回線。ここで使わなければいつ使うのか。

 

『戦務局、ゼートゥーア大佐だ。』

 

「ビッター少佐であります。」

 

『前線の水は合うか?…で、状況は?』

 

「我が大隊は地上部隊を回収、潰走真っ只中であります。」

 

『よくやってくれたが…相変わらず辛辣な物言いだな。』

 

「対空砲の砲身を一揃い焼きました。魔導部隊ですが…。」

 

『玉砕したか。』

 

参謀連中の嫌なところだ。損失を数字でしかしらん。だから、参謀将校は嫌いだ。

 

「9名回収しました。」

 

『生き残りがいるのか‼︎』

 

「たった9名。一個大隊はいたと思うのですが…戦線を見れるまでになった頃はよく言って8対1といった状況でした。そこで二つ要望が。」

 

『要望、普段と比べて控えめな物言いだな。』

 

「彼等、魔導師をベルンに移送する任をいただきたいことと、面談願いたい。」

 

『良かろう。手配しよう。』

 

「では、戻ります。」

 

『ライン方面軍に指令を届けておく。』

 

 

 

なんとかこの四日間を終えた。昼過ぎにに戦線整理の名目で定められた駅に到着した後、駅舎で方面軍からの指令…移送命令と出頭命令を受領し車列へ戻る。ノイヴィル中尉を探して操車場を彷徨う。退却してきた部隊が溢れ雑然とする中で、あれこれと指示を飛ばすノイヴィルを見つけた。

 

「中尉、新しい指令だ。」

 

「どこからの指令で?この後に及んでまだこき使うんですかい?」

 

「参謀本部からのお呼び出しだ。あとコッセル軍曹たちを後送する。」

 

「随分お優しい事で。」

 

「どのくらいで走れる?軍曹たちは?」

 

「夕方には走れます。運行管理官には16時発と。野戦病院の診療所が車庫に。治療を受けてるんじゃないかと。」

 

「よろしい。とりあえず、ベルンまで帰れる分の補給を受けたら走るぞ。」

 

「承知。」

 

「エッフェンベルク、マイヤー、フリングスはライン方面軍の支援に残す。エッフェンベルク大尉を指揮官に支隊を編成、砲撃、輸送任務に従事させる。」

 

「では、伝えときます。」

 

 

受領した諸々の書類をノイヴィルに渡して、車庫の方に足を向けて歩き出しタバコを咥える…が、流石に明るい内は良く無いと思い火はつけない。

車庫に入るともう散々な状況だった。右に負傷兵、左に負傷兵、前に負傷兵、歩けば負傷兵に当たるといった具合だ。重症者を集められたエリアを抜けて中軽傷者のエリアに軍曹は横になっていた。気付いた軍曹が起きあがろうとするのを制止して、傍に座る。

 

「軍曹、怪我はどうか?」

 

「少佐、申し訳ありません。少々の怪我で済んでます。防殻に救われました。」

 

「魔導師はすごいな。で、私は二つの命令を新たに受領した。少々軍曹にも協力いただきたい。」

 

「協力でありますか?」

 

「一つは諸君ら9名のベルンまでの移送、もう一つは参謀本部への出頭だ。我々は16時に発つのだが、乗車可能だろうか?」

 

「支度させます。本当にベルンまで連れて行ってくれるのですね。」

 

当たり前だ、補給の都合から一度寄り道してしまったが。

 

「では、今が14時前。15時半くらいまでに乗車してくれると助かる。」

 

「承知しました。」

 

こうして我々は帝都ベルンへと帰還した。

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