誠実な悪の政治家とは、こうである 作:匿名の筆者
自分の考える理想あるいは思想からちょっと外れたら反理想郷、そこは暗黒の社会ってのはアバウトがすぎる。誰かにとって現実から良い方向に物事が進んでいくのが理想郷なら、他人にとっては反理想郷だ。
現代社会において著しく目立つ経済の不況はない。が、衰退する経済こそが我が国に訪れる未来を表す……とか、最もらしい証拠を使ってわざわざ人を特定の無気力に染めようとする悪辣な人間も居る上、現代ではインターネットでこれらの情報が広まる。
これはものすごく悪質で、無気力さは心の怠惰ではないから治らないのだ。
しかも閲覧数が多いほどアルゴリズムが多くの人に記事を推奨するようになるが故に、こうした無気力へと導く記事が目に付きやすい環境に置かれてしまう。
しかし、ならばこの解決方法は?と聞かれた際、最も素早く達成可能な行為は何であろうか?
民間人が利用可能な人工知能を規制し、自動生成記事をアルゴリズムから完全に破壊して、有意に軽減した。これらの事実から悪質な記事は、悪意ある個々人によって作成されているという考察が可能。
これは……根本からさらに断つ必要がある。
無気力は社会を蝕むウイルスに等しく、そして自己増殖的であることを鑑みても、緊急的な対策が必要であることに異論は認めない。
便利な自動生成ツールを奪われた悪意ある個々人は、今度は自らの手で、より巧妙に、より生々しい悪意を込めて記事を書き始めた。人工知能の文章よりも遥かに高い感染力を持って人々の心を蝕み始めている。
データは残酷なまでに、真の敵は機械ではなく、人間の内面にある『他者を引きずり下ろしたい』『自分と同じ絶望を味わわせたい』という暗い欲望であることを示しているのだ。
これから私が行おうとしていることは、まさしく誰かにとっての『反理想郷』の創造にほかならない。世界から悲観的な言葉を、絶望を誘発する概念をネットワーク上から検閲する。
これは明確な思考の統制であり、自由の弾圧だ。歴史に悪名として刻まれるのは私の方かもしれない。
十五年ほど前に、大学生になったばかりの弟を失った。彼は優秀な学生で、講義にもよく出席していると言っていた。
が、ある時期を境にして……『未来には何の希望もない』『努力はすべて搾取されるだけだ』という言葉に染まり切ってしまった。……物理的な暴力だけが人を壊すのではなく、心を緩やかに凍らせてしまう言葉もまた、凶器だと痛感した。
私は、その凶器をこの世から排除することができるのであれば、やるべきだと考えているし、その過程にあるどのような汚名でも受け入るつもりだ。
表では高潔な文民政府、しかし私のように、個人の理想を国益として捉え、実現しようとする者が部門のトップになれてしまう。
既に人工知能の規制は成った。ならば、本懐をやり遂げるまで私は辞められぬのだ。
誰が言葉で止めようとも検閲は行うし、インターネットの不介入など戯言と受け止めさせはしない。