透き通る世界に怪人はいる 作:むらさめ
AIの力を借りて、好きなライダーの小説を書きます。
「……朝か」
俺は一人、誰もいない部屋で呟いた。
ベッドからゆっくりと体を起こし、学校の支度を始める。
カーテンの合間から差し込む光に目を細める。
制服に袖を通しながら、窓の外を見た。乾いた風が、アスファルトに積みあがった砂を薄く巻き上げている。
学園都市キヴォトス。
数え切れないほどの学園とその自治区によって構成された都市。
銃を持つことが常識であるこの街の一角、「アビドス高等学校」の学区で俺は暮らしている。
自宅もアビドス学区の端にある寂れた住宅街だった。
アビドス高等学校は在籍者、三名。教師、ゼロ名。負債、約9億円と今にも潰れそうな瀕死の学校である。
しかし、数ある学校の中で俺はアビドスを選んで入学した。
この学校を選んだ理由は単純だった。
今でも忌々しく思っているが、このキヴォトスにおいて男という存在は稀である……いや、稀という言葉も間違いだった。
いないのだ。俺以外の男性……二足歩行で歩くアニマルなオス以外に俺はあったことがない。
ヘイローと呼ばれる光の輪を頭上に戴く女生徒たちの世界に俺という存在が紛れ込めば、好奇の目に晒されるのは避けられなかった。
物珍しさは最初こそ興味という形を取るが、それはすぐにやっかみや値踏みするような視線に変わっていく。
小学生までは良かったが、知恵のつく中学の三年間は地獄のような日々であった。
それこそ、人の視線がその内容を問わず嫌いになるほどに。
だから選んだのだ。誰も来たがらないような、在籍生徒が一人しかいない負債まみれの学校を。
人と関わらずに済むのならばそれでよかった。
放課後は一人でバイトをして学校に貢献し、夜は一人で読書や映画鑑賞に勤しむ。
友達とワイワイやることだけが青春だと思っている連中からしてみればとんだ灰色の生活なのだろうが、俺はこの生活に満足していた。
必要以上に人と関わらず、自分の時間を楽しむ。
学校にいる2人とも絡むことはないだろう。卒業の時に「ああ、こんなやつもいたな」と思い出す程度の関係性を保つと、そう思っていた。
――思っていたのだが。
「ショウイチくーん! 朝だよー!」
部屋の出口からから響く底抜けに明るい声。
この学校には、俺の理想のスクールライフを容赦なく壊してくる先輩が一人いる。
「ショウイチくーん? 寝てるのー?」
梔子ユメ。
この先輩が、どうしても俺から離れてくれない。
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アビドス高等学校の教室。案の定そこには先輩――ユメが、テーブルの上に地図を広げて座っていた。背中まで伸びた緑色の髪。頭頂部にぴょこんと癖毛が撥ねている。
「見て見てショウイチくん! 昨日図書室の本に挟まってた古地図、砂漠の東側に何か印があるの。絶対お宝だよ! ついにアビドスに眠れる秘宝の地図を見つけたんだよ!」
「……先輩。それ、本校舎の備品台帳の紙です」
「えっ」
「裏を見てください」
先輩が地図をひっくり返す。裏には「アビドス高等学校 備品管理表」という文字がゴシック体で印刷されていた。
「ま、まあまあ! 裏に書いてあるってことは、逆に本物っぽくない!?」
「テストの裏に落書きする小学生じゃないんだから、そんな理屈は通りませんよ」
淡々と切り返すと、先輩は唇を尖らせながらも、地図を丁寧に折りたたんで鞄にしまった。怒っているわけではない。それがわかるくらいには、俺もこの一年で梔子ユメという人間を理解し始めていた。
最初は正直なところ苦手だった。距離感が近いし、遠慮がなさすぎるし、何を考えているのか読めないし……
けれど今は――
「あ、ホシノちゃん」
先輩の声に振り返ると、教室の扉から見慣れた同級生が姿を現した。
「おはようございます、二人とも」
丁寧な口調でそう言いながら、ホシノは軽く会釈をする。制服の着こなしは寸分の乱れもなく、伸びた背筋に揺らぎがなく。ついでに愛想もない。
相変わらずの敬語口調と無表情を保ったまま、ホシノは自分の席へと座った。
「先輩、また変なもの拾ってきたんですか?」
「今日は備品台帳だった。明日は何かな……」
「はあ……どうでもいいですけど、寝癖くらい直して来たらどうです?」
先輩は慌てて頭を押さえ、洗面所へ駆け出していく。そのいつも通りの光景につい口元が緩んだ。
ああ、なんて変な朝だ。
教師もいない。金もない。世間からは半ば見捨てられたような学校で、来月の利息返済の目処すら立っていない。
それでも――この時間が嫌いではないと思うようになった。
いつからそう思うようになったのか、はっきりとは思い出せないけれど。
ただ確かなことが一つ。
この学校に来る前の俺は、こんな風に誰かの寝癖を見て笑うことなど、一度もなかったということだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「また市民からの通報が入っていますね」
放課後。
ブルーレイディスクの内容を眠気を堪えながら聞き続けるという地獄のような時間が過ぎてから、アビドス生徒会の定例会議は始まる。
用意されたお茶菓子の一つを手に取りながら、ホシノがテーブルに一枚の紙を置く。学校が受け付けている、便利屋まがいの依頼票だ。
負債返済のため、俺たちは学業の傍ら、バイト以外にもアビドスの住人たちから寄せられる雑多な仕事をこなしている。
「アビドスの商店街から。最近、あのガダガダヘルメット団が、また悪さをしているそうです」
「また来たんだね……」
ユメが顔をしかめる。ガダガダヘルメット団。ごつごつとしたヘルメットをトレードマークにした不良グループで、アビドス周辺をうろついては住人たちから金品を巻き上げていた連中だ。
名前だけ聞けば間の抜けた響きだが、やっていることは悪質だから笑えない。
以前にホシノによって痛い目を見せられ、アビドスから去ったはずだが、どうやら戻ってきたらしい。
「私が対応します。ショウイチ、手伝ってもらえますか」
ホシノの視線が、まっすぐに俺へ向く。
「……ああ、わかった」
短く頷きながら、俺は自分の中に、かすかな緊張と――それに勝るとも劣らない、奇妙な高揚感があることに気づいていた。
誰かと共に、何かをする。
かつては煩わしいとしか思えなかったその感覚に、今の自分がどう向き合っているのか。俺自身、まだうまく言葉にできずにいる。
窓の外では、今日も乾いた風が砂を巻き上げていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
アビドス市街にある商店街の。
依頼票に書かれていた場所はシャッターの下りた店が並ぶ一角だった。空き缶が転がり、周囲の壁にはスプレーでされたであろう落書き。
「ガタガタヘルメット団参上……子供みたいな落書きだな」
「やっていることは子供のいたずらでは済みませんけどね」
まったくである。
落書きも十分悪質だと個人的には思うのだが、恐喝は度が過ぎている。
アビドスの治安を守る生徒会としては、見過ごすわけにもいかない。
「……いましたね」
ホシノが低く呟く。商店街の路地裏に六人の人影があった。
ゴツゴツとしたヘルメットにセーラー服――ガダガダヘルメット団だ。何度見ても間抜けな格好である。恥ずかしくないのだろうか?
「あぁん? なんだお前ら」
リーダーであろう赤いヘルメットが、こちらに気づいて振り返った。ヘルメットの下から覗く目つきは濁っている。
「お前……覚えがあるぞ。アビドスの小鳥遊ホシノか!」
「覚えていたんですね……記憶する脳味噌が腐っているとばかり思っていましたが。まあ、いいでしょう。商店街の方々の邪魔なので、とっとと出て行ってください」
ホシノは表情一つ変えずに淡々と告げる。
「あぁん? 出て行ってくれと言って素直に従うとでも思ってんのかよ!」
「一度勝ったくらいで調子に乗んじゃねえ!」
赤いヘルメットが噛んでいたガムを道端に吐き捨てる。汚い。
「金払わねえクソ共が悪ぃんだろうが。あたしたちはよ、正当な
「暴力を伴う金銭の要求は、恐喝と呼ぶんですよ? それぐらい理解できませんか?」
「はぁ? お綺麗な言葉使いやがって、ムカつくんだよ、その澄ました面を恐怖に引きつらせてやるぜ!」
わかりきっていたことではあるが、交渉の余地はないようだ。
赤いヘルメットが啖呵を切ると他の黒ヘルメット共も一斉に銃を構える。
「大体なんだよ、そっちの男。キヴォトスに男なんていたのかよ。もしかして、お前がここのボスかぁ? それとも……女に守られてるだけのお荷物か? 情けねえなあ、オイ!」
「泣いて詫びるなら今のうちだぜぇ? 土下座して財布を差し出せば見逃してやるよ!」
どっと下卑た笑い声が上がる。
俺は、その侮蔑の視線を黙って受け止めた。
言われ慣れた言葉だ。思っていたのと違うだの、もっと強くてかっこいいと思っていただの……外面だけで人を見る連中の言葉と視線は鬱陶しくて仕方がない。
こんな軽い挑発に今更、怒る気力も湧いてこなかった。
「口は達者で結構なこった。腕っぷしもさぞいいんだろうな?」
「言ってくれるじゃねえか!」
赤いヘルメットが一歩踏み出した瞬間、ホシノがすっと前に出る。
「──もういいです。話す価値もない」
そう言うが早いか、ホシノの体が沈み込んだかと思うと、次の瞬間には赤ヘルメットの眼前に迫っていた。
「ぐぼぁッ!?」
ショットガンの発砲音と共に赤ヘルメットの体が宙を舞う。黒ヘルメットたちが呆気に取られる中、ホシノが次の敵へと肉薄していく。
「な、な、なんだこいつ……! ふざけやがって!」
「くそッ、囲め! 数で押し潰せ!」
「その台詞、前にも聞きましたよ」
抑揚のないホシノの声が響き、突っ込んできた黒ヘルメット二人の頭がハンドガンで撃ち抜かれる。
しかし、ヘルメット団というだけあってその数は厄介だった。5人だけだと思いきや援軍でも呼んだのかわらわらと路地から敵が飛び出してくる。ゴキブリみたいな連中だ。
俺は走ってくる集団の先頭にいた黒ヘルメット二人の足を撃ち抜いて転倒させた。
「「うわあ!?」」
「「「おわああああ!?」」」
ドミノ倒しのように先頭の二人に躓いて後続の連中が転倒する。
その頭上にホシノが手榴弾を放り投げた。
爆発。断末魔の叫びを上げながら援軍の黒ヘルメットたちはあっさり倒すことができた。
「おら! どけどけどけーー!!」
改造されたジープのような車両が、唸りを上げてホシノめがけて突っ込んでいく。
「ホシノ!」
「――っ!」
ホシノの意識は目の前の敵に向いているようだ。気づくのが一瞬遅れている。
空のマガジンを捨て去り、次のマガジンを銃身に込めて狙いを定める。呼吸を止める。引き金を引く。
パン!パン!と乾いた銃声が二度。
ジープの前輪が弾け飛び、車体は激しくバランスを崩して横転した。金属の擦れる甲高い音、敵の悲鳴。運転していた赤ヘルメットは投げ出され、地面を転がって呻いている。
「……ッ、化け物かよ……」
誰かがそう呟くのが聞こえた。残っていた数人が、顔を見合わせて後ずさる。
「くそっ! 覚えてろよーー!!」
捨て台詞を吐きながら、ガダガダヘルメット団は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。倒れていた仲間を引きずっているくせに、去り際だけは一流らしい、
路地に残ったのは、俺とホシノ、それに横転したジープだけだった。
銃をしまいながら、俺はホシノの様子を窺う。息一つ乱していない。当たり前のように見えて、少しだけ、いつもより頬が上気しているようにも見えた。
「大丈夫か」
「……はい」
「らしくないぞ。あんなにのめり込むなんて。まあ、車に撥ねられてもお前なら大丈夫そうだけど」
「……ほっといてください」
そう呟いた声は、いつもの淡々とした調子とは、どこか違って聞こえた。
「なにはともあれ助かりました。ありがとうございます」
「……大した事じゃない」
こういう時に気の利いた返しができれば、きっとうまく生きられるのだろう。
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商店街を抜けると、あたりは夕暮れの色に染まっていた。
ホシノと二人、砂の混じったアスファルトを踏みながら歩く。街灯はまばらで暗い場所も多いが、もう慣れた道だった。
会話はない。
気まずいわけではない。ただ、会話の種がないだけだ。
友人と呼べるほど親しいわけではない。放課後に他愛のない話で盛り上がるような間柄ではない。
それでも――さっきの路地では言葉を交わすまでもなく連携をとれた。
一言で言い表せるほど、この不愛想な同級生との関係は単純ではなかった。
「……先輩は、一人で大丈夫ですかね」
ホシノがぽつりと呟いた。
「母親かよ。大丈夫……と言い切れないのがあの人か……」
「前もバイト先で報酬を中抜きされそうになってましたからね……」
ユメ先輩は絵に描いたようなお人好しであった。
こんな性分の俺に声をかけるのもそうだが、やはり貧乏くじを引かされやすい性質である。
だから、悪い連中が群がるのだ。その人の好さにつけ込まれ、痛い目に遭いそうになるたびに俺かホシノが助けに入るのはもはや日常の一コマになりつつあった。
「……」
「……」
話題の種が尽き、再び沈黙が訪れる。
ホシノは何を考えていたのかは知らないが、自然と俺はホシノと初めて会った時のことを思い出していた。
たった二人だけの入学式を終えて教室に入るなり真っ先に目についたのが、窓際の席に座るホシノだった。俺の入ってきた物音に気づいたのかこちらを一瞥するその目には、値踏みするような色があるように見えた。
覚えのある不快な視線だった。
「……どうも、相模ショウイチです」
喉から出た声は、自分でも驚くほど無機質だった。
「……小鳥遊ホシノです」
返ってきたのも、同じくらい無機質な声だった。
握手を交わすでもなく、笑みを浮かべるでもなく。ただ形式通りの挨拶が交わされただけの、それだけの出会いだった。
初日に会話らしき会話はなかった。
俺自身、誰かと関わる気などさらさらなかったから、それでちょうどいいとさえ思っていた。
友人になろうとすら思わなかった。あっちも同じように考えていたと思う。
たぶんあの頃の俺は、自分の抱える不快感を隠そうともしていなかっただろうから。
しかし、そこに現れたのがユメ先輩だった。あの人はあふれ出る陽の者パワーで俺たちを生徒会に入れ、強制的に交流の場を作ったのだ。
そこからなんやかんやでこの距離感に収まった。
知人以上、友人未満の関係。
「ショウイチ」
「ん?」
ホシノが再び口を開いた。
「私は……」
ホシノが何かを言いあぐねている。
「何だよ」
「……あなたは、怒ったりしないのですか?」
「はあ?」
「さっきのヘルメット団にです」
「ああ……まあ、別に」
何を言うかと思えばそのことか。
「連中の言葉なんて半分も聞いてなかったよ。くだらないことを言うだろうと思ったからな」
「……そう、ですか」
「お前、まさかさっきの言葉に……」
「……同級生があんな口を叩かれたんです、腹ぐらい立ちます」
ホシノの言葉に俺は思わず頭を抱えた。
まさか俺に対する言葉であそこまで激怒するとは思わなかった。話している連中がくだらないんだから、話す言葉もくだらないと切り捨てる程度がちょうどいいのに。
しかし、怒ってくれたのか……俺のために。
「……まあ、なんだ。俺は大丈夫だから……その、ありがとう」
「……別に、礼を言われることはしていません」
「……」
「……」
空気が変わった気がする。
いつも通りの空気が若干気まずくなってきた。
「……ユメ先輩、大丈夫だといいな」
「……はい」
俺たちはユメ先輩に逃げた。
口下手が二人そろうと地獄絵図になるといういい見本だと思った。
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ヘルメット団とのごたごたの翌日。
「またやってるんですか、先輩」
放課後、校舎裏でスコップを振るうユメ先輩を見つけて、俺は思わず声をかけた。
「あ、ショウイチくん! 見て見て、今日はここら辺が怪しい気がするんだよね!」
「マジでトレジャーハンターにでもなる気ですか?」
「いいね! トレジャーハント! 冒険家って憧れるんだよな~!」
「どっから出てくるんすか、その宝探しへのフロンティアスピリッツ……」
「ふろ……なに?」
現在俺たちが使っている校舎は、実は本校舎ではない。
元々は大きな学校だったアビドスは、頻発する砂嵐の影響を受けて衰退し、本校舎はアビドス砂漠の下へ埋没した。
今使っている校舎は別館として使われていた建物だ。
かくいうこの別館の校舎裏にも、砂に埋もれた倉庫なんかがある。ユメ先輩の話によれば、過去に掘り出し物が見つかったこともあったそうな。
そんな前例を根拠に今日もユメ先輩はスコップを振るのだろう。
「先輩、たまには休憩してくださいよ」
「大丈夫大丈夫! 私って体は頑丈なんだよね!」
「この前、脱水症状起こしてぶっ倒れてた人のセリフとは思えませんね」
「うぐっ、それは……」
「はあ……今日はどこやるんですか?」
「えっ! 手伝ってくれるの?」
「この前みたいに珍しいもの見つかったら売れるかもしれませんからね。まあ、あれは売り物にはなりませんでしたけれど」
入学して3週間くらい経ったころのことだ。
せっせとスコップを使うユメ先輩を見ていると、一緒にやってみないかと誘われたのだ。
無論、俺は断るつもりでいたが、ユメ先輩の押しの強さに流された結果、気づいたらスコップを握っていた。
ユメ先輩の押しはアビドスの砂嵐以上の猛威だった。
「よーし、掘るぞー!」
先輩はスコップを迷いなく砂に突き刺していくが、正直、気は進まなかった。
この砂の中から果たしてロクなものが出てくるだろうか?
いや、ありえない。掘る意味があるかと言われれば十人中十人が首を横に振るだろう。
しかし、俺は三十分ほど無言で砂を掘り続けた。出てくるのは錆びた工具や、割れた食器の欠片ばかりだったが、なぜか手は動き続けた。
意外とこういう作業に没頭するタイプだったのかもしれない。意外な発見だった。
「……先輩、これまだやるんですか?」
「もう! ネガティブなこと言わないの! 楽しいことしてるんだから、楽しまなきゃ損だよ!」
先輩はそう言って、また新しい場所を掘り始める。汗だくになってきれいな髪に砂をつけながら、それでも楽しそうに。
──元気だな。本当に
「あ!」
不意に先輩の声が上がった。
「見て見て、これ!」
先輩の手に握られていたのは、古い携帯ゲーム機だった。年季の入ったボディにひびの入った画面がついている。
「……ただのガラクタじゃないですか」
「わかんないよ! もしかしたら動くかも!」
「無理でしょう。何年どころか何十年も埋まってそうですよ?」
「こういうのは試した者勝ちだよ!」
先輩は迷うことなく電源ボタンを押し込んだ。
「……さあ、動け、動け……!」
先輩が祈るように呟く。
その時、小さな起動音と共にひび割れた画面に淡い光が灯った。
「……マジか」
「動いたああああ!!」
先輩は飛び上がって喜んだ。俺はその画面をしばらく黙って見つめていた。
誰も知らないような古いゲームのタイトル画面が、ちかちかと明滅している。
「見て見てショウイチくん! ほら、ほら、動いてる!」
先輩は満面の笑みでゲーム機をこちらに向けてくる。俺はそれを、ただ黙って受け取った。
「……こんなこと、実際にあるんですね」
「滅多にないけどね! このゲーム機は売り物にはならないけど、記念に取っておくよ!」
ゲーム機を大事そうに抱える先輩は満面の笑みを浮かべていた。
「ね! 探してみれば見つかるもんなんだよ!」
先輩は得意げにゲーム機を抱きしめていた。
この体験から、ユメ先輩の日課である宝探しを一応の実績のある活動だと認めた俺は、こうやってユメ先輩の探索活動を手伝うことにしたのである。
「なにをやっているんですか二人とも……」
スコップを握ったタイミングでいい道ずれが現れたな。
「ホシノ、これから発掘作業だ。手伝ってくれ」
「……一応聞きますが、一体何を発掘する気ですか?」
「夢! 希望!」
ユメ先輩が胸を張って答えると、ホシノは何ともいえない微妙な顔を浮かべた。
「……帰っていいですか、ショウイチ」
「ダメだ」
「……ユメ先輩」
「一緒にやろーよ!」
「ふう……わかりました。言っときますけど、今日だけですからね」
ホシノは珍しく微笑むと、俺が手渡したスコップをとった……
「よっ、ほっと」
俗に言うインベーダーゲームとやらは奥が深い。
横にスクロールして敵を倒すだけのゲームがなぜか癖になる。
「ホシノ先輩。そのゲーム機、動くんですか?」
私の持つゲーム機を見たアヤネちゃんが尋ねる。
無理もない、外見を見れば動くかどうかも怪しいガラクタだ。
「ちっちっちっ、甘く見ちゃいけないよ、アヤネちゃん。こいつはやるときはやってくれるんだから」
「新しいの買えばいいのに……」
「いいんだよ……これが、いいんだ」
このボロボロのゲーム機が、彼との数少ない繋がり。
今はもういない、彼の名残。