果てしない宇宙の静寂を切り裂くように、ガントレット・スターファイターがジェダイ・テンプルの壮大なハンガープラットフォームへと静かに滑り込んでいた。
重厚な接地音と共に着陸脚が固定され、反動推進エンジンの残響が徐々に収まっていく。コックピット内のシステムチェックを手早く終わらせた正道は、シートベルトを外して立ち上がった。
正道「よし、着いたな。外へ出よう」
詩乃「ええ。何が出てきても驚かない準備はできているわ」
ガントレット・スターファイターの降下ハッチが圧力を逃がす音と共に滑らかに開き、外界の風が船内へと吹き込んでくる。正道と詩乃はバイザーに覆われたヘルメットを深く装着したまま、並んでステップを降り、整然と磨き上げられたハンガーの床面へと足を踏み出した。
広大なプラットフォームの中央で、二人を静かに待っていたのは一人の人物だった。
小柄な体に質素な茶色のローブを纏い、木製の杖に身を預けるようにして立っている。その佇まいは一見するとただの小さな老人に過ぎないが、全身から滲み出る静かなる圧力と深遠な眼光は、彼が銀河の歴史においてどれほどの重みを持つ存在かを雄弁に物語っていた。
銀河系の秩序と平和を護るジェダイ評議会のグランド・マスター、ヨーダである。
正道「アンタが直接出迎えてくれるとは思わなかったな。ジェダイ・マスター・ヨーダ」
正道は腰に手をあて、バイザーの奥の表情を隠したまま、静かに、しかし一切の隙を見せない力強い声で問いかけた。
ヨーダはその大きな耳をわずかにピクリと動かし、バイザーで顔を覆った眼前の青年に向けられた視線をじっと注ぎ込む。ヨーダの視線はまず正道へ、そして正道の隣で愛銃である大型対物ライフル「ヘカートⅡ」を背負う詩乃へと向けられた。
ヨーダ「……ほう。強い、実に見事な精神と肉体を持っておるな、緒形正道。フォースの力にあらざる、純粋な人間の限界を極めし力……。その若さでそれほどの領域に達しておるとは、驚きじゃ」
ヨーダは深く感銘を受けたように呟いた。
正道の持つ力は、神の手違いによって死を迎を迎えた際に与えられた『人間の身体能力限界強化』だ。それは異能やフォースといった超自然的な波長ではなく、純粋に肉体と精神が到達し得る絶対的な極限値である。そのため、フォースによる探りや干渉を力づくで撥ね退けるのではなく、ヘルメット越しにも伝わる隙の無い強靭な存在感そのものが自然と干渉を成立させない鉄壁の領域を作り出していた。
ヨーダの視線は次に、詩乃の背中に固定された巨大な漆黒の長距離火器、対物ライフルヘカートⅡへと移った。
ヨーダ「そして朝田詩乃。お主の背負うその兵器……この銀河で見かけるブラスターとは根本的に異なる、異質の気配と精巧さを感じる。恐るべき集中力と技術を内に秘めておるな」
詩乃「見抜くのが早いわね、マスター・ヨーダ。このヘカートⅡは私の相棒であり、正道の背中を守るための大切な銃よ。必要な時に、完璧な仕事をするだけ」
詩乃はヘルメットのバイザー越しに前線を見据えつつ、愛銃のストラップに軽く手を添えて余裕を感じさせる落ち着いた声で返した。
彼女が担うヘカートⅡは、時空の狭間に位置する拠点惑星アステリオス内の時間断層工廠(60倍)において、極限までパーツ精度の向上とカスタムが施された最高峰の逸品である。元の実弾仕様から、この世界で汎用性の高い高出力エネルギー弾への打ち分けも可能となっており、詩乃の超精密な射撃技術と合わされば、いかなる遠距離からでも確定した死をもたらすことができる。
ヨーダ「ふむ……頼もしい限りじゃ。お主たち二人をこのテンプルへ招いた理由は、他でもない。一刻を争う火急の依頼があるからじゃ」
ヨーダは表情を厳しく引き締め、手にした杖を静かに床へと突いた。コツンという硬い音がハンガーの静謐の中に響き渡る。
正道「仕事の話だな。事前にもらっていた件だが、詳しい状況を聞かせてもらおう。俺たちも暇じゃないんでね」
ヨーダ「現在、アウター・リムのクリストフ星系……都市惑星クリストフシスにおいて、独立星系連合のドロイド軍隊による大規模な包囲戦が展開されておる。現地では我がジェダイの将軍、オビ=ワン・ケノービとアナキン・スカイウォーカーが戦線を維持しておるが、敵の物量は凄まじく、状況はきわめて苛烈じゃ」
詩乃「クリストフシスの戦い……。巨大な結晶構造の都市で広げられている泥沼の包囲戦ね。通信や補給網も寸断されがちな激戦地ということかしら」
ヨーダ「その通りじゃ。そして今回のお主たちへの依頼は、現地への救援物資の輸送……そして何より、一人の人物を現地にいるオビ=ワンたちの元へ安全に送り届けることなのじゃ」
正道「人物? そんな前線中の前線へ、わざわざ誰を送り届けるつもりだ?」
正道がヘルメットの向きをわずかに傾けて問うと、ヨーダは深く頷き、背後に立つ巨大な大理石の柱の影に向けて静かに声をかけた。
ヨーダ「入ってきなさい、アソーカ」
ヨーダの呼びかけに応じ、柱の陰から一人の少女が軽快な足取りで姿を現した。
頭部に特徴的な青と白の縞模様を持つヘッドテール(レック)を備えた、トグルータ族の少女だ。腰には訓練用から実戦用に切り替えたばかりと思われる小ぶりなライトセーバーを下げ、どこか生意気そうでいて、強い意志と好奇心を秘めた瞳で正道と詩乃を見つめている。
アソーカ「初めまして! あたしはアソーカ・タノ。ジェダイ・パダワンよ!」
アソーカは元気よく胸を張り、自信たっぷりに自己紹介をした。
しかし、彼女が正道たちの数歩手前まで近づいた瞬間、その足取りがわずかにピタリと鈍った。重厚なベスカーアーマーとヘルメットで全身を包んだ正道から静かに溢れ出る『人間の身体能力限界強化』による規格外の肉体構造と絶対的なプレッシャー、そして詩乃が背中に担ぐ、自分の胴体ほどもある大口径の対物ライフルヘカートⅡが放つ圧倒的な武の存在感に、アソーカは息を飲み、驚きで丸く目を見開いた。
アソーカ(な、なにこの人たち……!? 全身アーマーで顔は見えないし、ものすごい威圧感……。それにあの背中の巨大な銃、一体何なの!? ブラスターライフルなんてレベルじゃないじゃない!)
心の中で叫び、素直な驚愕を隠しきれないアソーカに対し、詩乃はヘルメット越しに優しく語りかけた。年下の少女に向けられる大人の女性らしい、穏やかで落ち着いた声調だ。
詩乃「よろしくね、アソーカ。私は朝田詩乃。こちらの頼もしいパートナーが緒形正道よ。あまり怯えなくても大丈夫、私たちはあなたの敵じゃないわ」
アソーカ「ひ、怯えてなんてないわよ! ちょっと驚いただけで……。あたしはマスター・スカイウォーカーのパダワンとして、クリストフシスへ向かうことになってるの。本当なら、一人でも行けるんだから!」
正道「へえ、強がりは一人前だな。なるほど、激戦地へ新米のパダワンを送り届ける護衛、兼運び屋というわけか」
正道はヨーダに向き直し、胸の前で腕を組みながら思考を巡らせた。ヘルメットのバイザーに反射する光が、その思考の深さを伺わせる。
二人の背後には、次元の狭間に隠された拠点惑星アステリオスが存在する。時間断層工廠(60倍)を使えば、弾薬や資材の補充はいつでも一瞬で完了し、さらに持ち運びに関する制限は『四次元収納空間』によって完全に踏み倒すことができる。ガントレット・スターファイターの機体性能も正道の限界強化された操縦技術と合わされば、並のドロイド戦闘機など敵ではない。クリストフシスのような激戦区への強行突破も、十分に安全圏でのミッションとして成立した。
正道「報酬と条件は事前の取り決め通りでいいな? クリストフシスへの安全な進入ルートと回収手続きの保証、そして銀河系内での自由航行権の付与だ」
ヨーダ「異論はない。ジェダイ評議会はお主たちの尽力に対し、相応の報いと権利を約束しよう。アソーカを無事にオビ=ワンたちの元へ届けておくれ」
ヨーダは静かに頷くと、身に纏ったローブの深い袖口からずっしりと重みのある革袋を取り出した。
ヨーダ「これは前払いの報酬じゃ。手配した共和国通貨(クレディット)が入っておる。受け取るが良い」
正道は手を伸ばし、ヨーダから前払いの共和国通貨が入った小さな革袋を受け取った。そのズシリとした重みを確かめるように軽く手のひらで弄ぶと、動作の途中で何もない空間――『四次元収納空間』の口を開き、滑り込ませるようにして瞬時に消し去ってみせた。
アソーカ「えっ!? いま、手元から袋が消えた……!? フォースじゃないのに、どうやって!?」
目の前で起きた怪現象にアソーカが再び目を丸くして声を上げる。正道はヘルメットの奥から低く鼻を鳴らすだけに留めた。
正道「確かに受け取った。前払いの用意まで手回しが良いな」
詩乃「任せて頂戴。私のヘカートⅡと正道の操縦があれば、どんなドロイドの防衛網だって突破してみせるわ」
詩乃はヘカートⅡの銃身を軽く叩き、全幅の信頼を正道へ寄せた。二人の間に漂う、他者の介入を許さない絶対的な絆と信頼感に、ヨーダもまた満足そうに眼を細める。
正道「よし、依頼を受諾しよう。アソーカ、ガントレット・スターファイターへ乗り込め。すぐに発進するぞ」
アソーカ「了解! よろしく頼むわ、正道、詩乃!」
アソーカは先ほどまでの驚きを吹き飛ばすように威勢よく返事をすると、二人の後を追ってガントレット・スターファイターのリアハッチへと向かって走り出した。
ヨーダ「フォースが共にあらんことを、マンダロリアンの勇者たちよ……」
ヨーダの見送りを受けながら、正道と詩乃、そして新たな同行者アソーカ・タノを乗せたガントレット・スターファイターのハッチが静かに閉じる。
垂直離着陸用のエンジンが重低音を響かせ、機体はジェダイ・テンプルのハンガーを離れ、コルサント上空の広大な雲海へと向かって急上昇を開始した。
船内の居住区スペースへアソーカを案内し、コックピットのシートに腰を下ろした正道と詩乃は、ヘルメットを装着したまま手早くハイパードライブの設定に入る。
詩乃「正道、ハイパースペースの計算は完了しているわ。ターゲットはクリストフ星系、都市惑星クリストフシス。現地宙域は敵ドロイド軍の艦隊によって封鎖されている可能性が高いけれど、どう着陸する?」
正道「正面から突破するさ。俺の操縦と、詩乃の射撃。それに四次元収納空間に溜め込んだ物資があれば、ドロイドの封鎖網なんてただのザルだ。アソーカにも俺たちのやり方ってやつを見せてやろう」
正道はヘルメットのバイザーの奥で不敵な気配を漂わせながら、ハイパードライブの始動レバーを力強く引き倒した。
正道「ハイパードライブ、始動!」
ガントレット・スターファイターの加速フォトン・エンジンが爆音を上げ、窓の外に広がる無数の星々が青白い光の線へと引き伸ばされていく。瞬時に空間を歪め、機体は光速を超えた次元の彼方へと消え去った。
オビ=ワン・ケノービとアナキン・スカイウォーカーが待つ激戦地クリストフシスへ向け、正道たちの新たな戦いと交渉の旅が、いま壮大に幕を開けたのだった。