青白い光の線が幾重にも交差し、果てしない渦となって無限の彼方へと流れていく。
ハイパースペースのトンネルを滑るように進むガントレット・スターファイターの船内は、メインエンジンの発する微かな低振動を除けば、どこまでも静かな空間に包まれていた。外部の宇宙空間とは切り離された独特の静寂の中、規則的な船内システムの作動音だけが静かに響いている。
コックピットから居住エリアへと続く中央区画のシートで、アソーカ・タノは落ち着かない様子で膝を揺らしていた。
まだ幼さの残るトグルータの少女は、自らの膝の上に置いた両手を握ったり開いたりしながら、船内の雰囲気を探るように視線を巡らせている。その視線の先には、整然と並んで設置されたメンテナンスデスクがあった。そこでは、全身を鈍色に輝くベスカーアーマーで覆った正道と、同じく重厚なアーマーに身を包んだ詩乃が、極めて洗練された無駄のない動作で手元の装備やコンソールの最終チェックを進めていた。
アソーカの研ぎ澄まされた感性は、二人から静かに漂い出る規格外の武の存在感を克明に捉えていた。フォースの波長とは異なる、純粋な肉体と精神の極限——『人間の身体能力限界強化』を宿す正道の隙のない佇まい。呼吸一つ乱さず、無言のまま完璧な連携で作業を進めるその挙動は、訓練された兵士という言葉すら生ぬるいほどの領域に達していた。
アソーカは好奇心を抑えきれなくなり、座席から身を乗り出すようにして声をかけた。
アソーカ「ねえ……ちょっと聞いてもいい?」
詩乃はヘカートⅡの稼働状態を確認していた手を止め、穏やかな声音で応対した。
詩乃「なあに、アソーカ。何か気になることでもあったかしら」
アソーカは少し言葉を選びながら、ずっと胸の中に抱いていた疑問を口にした。
アソーカ「その……二人はヘルメットを脱いだりしないの? マンダロリアンって、誰にも顔を見せちゃいけないっていう厳しい掟があるって聞いたんだけど……」
アソーカの素朴な問いに、正道はコンソールのチェック作業を続けながら静かに答えた。
正道「ジェダイにも掟がある様に俺達にもルールはある。だが俺達は過激な教条主義者じゃない。必要な時は普通に外す」
詩乃「ええ。今はこれから戦場に潜入する直前だから装着しているだけよ。自分たちの身を守るための正当な装具としてね」
アソーカ「そうなんだ……! なんだか勝手にすごく堅初で堅苦しい人たちなのかと思ってたから、ちょっと安心したかも。でも、フォースを使えないのにどうしてそんなに強い気配がするの? あたし、ジェダイ・テンプルで色んなマスターやナイトを見てきたけど、二人から感じる圧迫感は、なんだか全然違うの。まるで、何が出てきても絶対に崩れない岩みたい」
アソーカは素直な驚きをそのまま言葉にした。
ジェダイが放つ力は、宇宙全体に満ちるフォースとの調和や集中の結晶だ。周囲の環境と溶け合い、流れに乗ることで発揮される自然体な強さとも言える。だが、目の前にいる二人が醸し出す気配は、超自然的な力に頼るものではなく、彼ら自身の肉体と精神、そして徹底的に鍛え抜かれた技術そのものが強固な領域を形成している。他からの干渉を一切許さない、独立した圧倒的な密度を持っていた。
詩乃はヘカートⅡのレシーバーを愛おしそうに撫でながら、静かに語った。
詩乃「強い、か……。それは私たちが特別な力を持っているからではなくて、守るべきものと、果たすべき目的が明確だからだと思うわ」
アソーカ「守るべきもの……?」
詩乃「ええ。私にとってのそれは、隣にいる正道よ。そして正道の背中を完璧に護るための相棒が、このヘカートⅡ」
詩乃の視線が背中に固定された巨大な対物ライフルへと向けられる。
拠点惑星アステリオス内の時間断層工廠(60倍)において、パーツの精度を極限まで引き上げ、この世界のエネルギー環境に最適化させたカスタム品だ。実体弾と高エネルギー照射の双方に対応したその威容は、並の兵器とは一線を画す重圧感を漂わせている。その存在感を詩乃は隠そうともせず、しかし誇らしげに語った。
詩乃「正道が前を向き、あらゆる困難を切り拓いていく。私はその数歩後ろから、正道に迫るすべての脅威を遠距離から排除する。お互いが自分の役割を疑わず、完璧に遂行する……その積み重ねが、あなたに強く見えているのかもしれないわね」
アソーカ「二人だけの、完璧な信頼関係ってこと……?」
正道「信頼というよりは、当たり前の前提だな」
正道がコンソールから手を離し、ゆっくりと立ち上がった。ベスカーアーマーが擦れ合い、重厚な金属音を周囲に響かせる。
正道「アソーカ。お前はこれから、オビ=ワンやスカイウォーカーの元へ赴き、戦場に立つ。ジェダイとしての教えやフォースの导きも大切だろうが、土壇場で己を支えるのは、自らが積み上げてきた経験と、背中を託せる仲間への信頼だけだ」
アソーカ「背中を託せる仲間……」
正道「言葉や理屈じゃない。命を預け合えるかどうかだ。俺と詩乃は、その答えをすでに得ている。だからこそ、どんな激戦地であろうと迷いなく踏み込めるのさ」
正道の言葉には、一切の飾りや誇張がなかった。淡々とした口調でありながら、そこには絶対的な真実としての重みが宿っている。数々の死線を潜り抜け、互いの命を背負い合ってきた者だけが持ち得る圧倒的な説得力だった。
アソーカはその言葉を噛み締めるように、黙って小さく頷いた。新米のパダワンとして意気込んでいた胸の中に、確かな芯のようなものが芽生えるのを感じていた。
アソーカ「……あたしも、マスター・スカイウォーカーとそんな関係になれるかな」
アソーカはふと視線を落とし、抱えている小さな不安を漏らした。
アソーカ「本当は……すごく緊張してるの。あたしが押しかけ弟子みたいになって、足手まといだと思われたらどうしようって。マスター・スカイウォーカーは凄腕のナイトだって聞くし、あたしなんかが隣に立って、ちゃんと認められるのか不安で……」
正道は肩をすくめ、バイザー越しにアソーカを見下ろした。
正道「安心しろ。アナキンは確かに腕の立つジェダイだが、あいつは元々そういう型にはまった考え方をする奴じゃない。それに……あいつと俺は親友でな。あいつの性格ならよく知っている」
アソーカ「えっ……! マスター・スカイウォーカーと親友なの!?」
アソーカは目を丸くして声を上げた。予期せぬ事実に驚きを隠せない様子で、座席の上で大きく体を揺らす。
詩乃「ええ、そうよ。正道とアナキンは色々と気が合うみたいでね。だから大丈夫、あいつがどれだけ型破りで頑固でも、ちゃんと真摯に向き合えば認めてくれるわ」
正道「そうだ。まあ、もしあいつがお前を邪険にするようなら、俺が直接文句を言って叩き直してやるさ」
アソーカ「ふふっ、マスター・スカイウォーカーを叩き直すなんて言えるの、きっと二人くらいだよ! でも……なんだかすごく心が軽くなったかも」
アソーカの表情が一気に明るくなり、小さな笑い声が船内に響いた。先ほどまで彼女の胸を占めていた重苦しい緊張感が、温かい会話によって綺麗に溶けていくのを、アソーカ自身もはっきりと実感していた。
アソーカ「ありがとう、二人とも。あたし、逃げないでスカイウォーカーにまっすぐぶつかってみる!」
詩乃「ええ、その意気よ。応援しているわ」
正道「よし。目的地まではまだ時間がある。航行中、少し身体を休めておけ」
アソーカ「うん!」
アソーカは素直にシートへと深く体を預け、安心したように息をついた。
窓の外では、青いハイパースペースの光の線が、静かに、そして絶え間なく流れ続けている。
ガントレット・スターファイターは、広大な超空間のトンネルを安定した速度で滑走していく。船内の静寂は先ほどまでの張り詰めた緊張感とは異なり、穏やかで満ち足りた気配を含んでいた。
詩乃は正道の隣へと歩み寄り、コンソールのモニターに表示される航海データを指先で軽くタップした。サブモニターには、目的地のクリストフシス星系に関する最新の宙域情報と、セパラチスト艦隊の最新動向が刻一刻と更新されている。
詩乃「正道、クリストフシス周辺のセパラチストの包囲網、かなり密度が高いようね。事前の情報通り、主力艦が複数配置されているわ」
正道「ああ。ルクレハルク級にプロヴィデンス級か。だが、慌てる必要はない。俺たちの目的は敵艦隊の壊滅ではなく、地上への物資搬送とアソーカの送り届けだ。力任せに打ち破るのではなく、確実な道筋を選べばいい」
詩乃「そうね。センサーの死角や熱源の薄いポイントは、私が事前解析で割り出しておくわ。時間断層工廠で調整した本機の隠密性能なら、交戦せずに潜り抜けるのも容易なはずよ」
ふたりの会話は実に淡々としており、目の前に立ちはだかる巨大な敵艦隊の存在すら、解決すべき単なる工程の一つとしてしか捉えていない。その動じることのない姿勢が、船内の空気をより強固なものにしていた。
シートの上でふたりのやり取りを聞いていたアソーカは、感心したように目を輝かせながら呟いた。
アソーカ「凄いなあ……。普通ならセパラチストの封鎖網って聞いただけで、どうやって戦うか頭を悩ませるのに、二人にとっては通り抜けるのが当然なんだね」
詩乃は振り返り、アソーカへ優しく微笑むような気配を向けた。
詩乃「無意味な戦闘は消費を生むだけよ。弾薬もエネルギーも、命もね。必要な場所で必要な分だけ力を発揮する……それが私たちのやり方なの」
アソーカ「必要な場所で、必要な分だけ……うん、覚えておくよ!」
正道は操縦席の前に立ち、ゆっくりと腕を組んだ。
バイザーの奥に隠されたその瞳は、はるか先、ハイパースペースの出口の向こうに広がる戦場を見据えている。
正道「戦場へ着けば、いやでも騒がしくなる。今のうちに静けさを堪能しておけ」
正道の低く落ち着いた声が、静かな船内に溶け込んでいく。
青白いハイパースペースの光が窓の外を流れ続ける船内の中、三人はこれから訪れるであろう激動の刻に向け、穏やかで確かな信頼の時間を共有し続けるのだった。