禪院の式神姫 作:いかいしんしょうまこーら
襖が閉まり、廊下を遠ざかる足音もじきに聞こえなくなった。
──言われたんは、『おったら見とけ』やろ。
まったく、よく言う。
確かに、探せとは命じていない。夏油の敗北も乙骨の名も持ち帰っておきながら、伏黒恵のことだけは「見てへん」で終わりだ。
悪びれるどころか、言い足りなかったこちらが悪いとでもいうような顔で、さっさと席を立った。
初めてこの座敷へ通された日も、あの調子だった。
母親を亡くした翌日、白と黒の玉犬を両脇に置き、当主には何ができるのかと尋ねた。
分家の者に医者を呼べるか。女子に木刀を持たせられるか。病人を休ませられるか。
三つともできると答えると、朔弥は一度だけ頷いた。
──ほな、ウチが当主になる。
十種があるだけで当主になれると思うなと告げても、答えは早かった。
──誰にも無視できんくらい強うなったらええんやろ。
子供の大言壮語なら、そのうち忘れると思った。
だが、朔弥は忘れなかった。
その後、庭を通れば、朔弥が木刀を振る姿を見かけるようになった。
術式を教える老人も別に付けた。何をどこまで沈められるようになったかは、蔵から持ち出す呪具と、たびたび消える庭石を見れば分かる。
真希と真依も、十種が出てから朔弥のそばへ付けた。身の回りの世話をさせるつもりだったが、真希はじきに木刀を手にするようになった。真依が寝込んだ日には、玉犬が部屋の前を塞ぎ、起こしに来た者を通さなかったとも聞いた。
今では真希は東京校、真依は京都校の一年生だ。家の廊下で三人揃うことも減った。
朔弥にも京都校の寮を用意したが、家の記録と呪具が要ると言って戻ってきた。
──信用してへんから、ここへ帰る。
戻れば、蔵の鍵を出せ、呪具を貸せ、庭を使わせろと注文ばかり増える。信用していないと言うわりに、誰より遠慮がない。
酒器を取り、残った酒を口に含む。
新宿へ出れば呪霊を祓い、五条に東京校へ回され、夏油と乙骨の決着を見て帰った。肝心の小僧を見ていないことを差し引いても、役に立たないわけではない。
直哉は、自分が継ぐものと疑っていない。
朔弥は、高専へ出る朝、いつか直哉を潰すと言い切った。止めなかった。息子だからと譲るほど、当主の座は安くない。
真希も家を出るとき、当主になると啖呵を切った。今のところ、候補に数えるには足りない。
その上、甚爾の息子にも十種が出たらしい。見る価値はある。だから朔弥に命じた。
直哉はまだ笑っている。朔弥もまだ当主ではない。外の小僧は、家に顔すら出していない。
決めるのは、まだ先だ。
朔弥は「自分を選べ」とは、一度も言わない。代わりに今夜のような土産を持ち帰り、蔵から呪具を引っ張り出し、また次の任務へ出ていく。
世話係だった二人も、もうそれぞれの制服で呪霊を祓っている。
朔弥は、あの日の大言をまだ引っ込めていない。
酒器を傾けたが、一滴も残っていなかった。舌打ちして、膳へ戻す。
今度は、『見つけてこい』と命じてやる。
禪院朔弥レビュー 2.2 ★★☆☆☆
禪院甚壱
任務で組む分には文句はない。終わったあとまで指図してくるのが面倒だ。
禪院扇
相伝を持っていようと、分家の娘だ。周りが持ち上げるから、身の程を忘れる。
禪院蘭太
話しかければ普通に返してくれます。直哉さんと一緒にいるときだけは、近づかない方がいいです。
禪院長寿郎
直哉が名前を出す回数だけなら、もう本家の誰よりも多い。本人は認めんやろうが。
禪院直哉
十種だけなら五点。使うとるんが女やから零点。
炳の術師①
女に相伝が出たところで、女は女だ。俺らに命じたければ、せめて男を通せ。
炳の術師②
影から何が出てくるか、本人以外は分からん。呪具ならまだいい。たまに下着を出してくる。
炳の術師③
直哉様と言い合っているところへ一度だけ割って入った。二人そろってこっちを見た。もうやらない。
炳の術師④
顔はいい。体もいい。けど、性格は直哉様を女にした感じ。