禪院の式神姫   作:いかいしんしょうまこーら

5 / 10
幕間 禪院直毘人の場合①

 

 襖が閉まり、廊下を遠ざかる足音もじきに聞こえなくなった。

 

 ──言われたんは、『おったら見とけ』やろ。

 

 まったく、よく言う。

 確かに、探せとは命じていない。夏油の敗北も乙骨の名も持ち帰っておきながら、伏黒恵のことだけは「見てへん」で終わりだ。

 悪びれるどころか、言い足りなかったこちらが悪いとでもいうような顔で、さっさと席を立った。

 

 初めてこの座敷へ通された日も、あの調子だった。

 母親を亡くした翌日、白と黒の玉犬を両脇に置き、当主には何ができるのかと尋ねた。

 分家の者に医者を呼べるか。女子に木刀を持たせられるか。病人を休ませられるか。

 三つともできると答えると、朔弥は一度だけ頷いた。

 

 ──ほな、ウチが当主になる。

 

 十種があるだけで当主になれると思うなと告げても、答えは早かった。

 

 ──誰にも無視できんくらい強うなったらええんやろ。

 

 子供の大言壮語なら、そのうち忘れると思った。

 だが、朔弥は忘れなかった。

 

 その後、庭を通れば、朔弥が木刀を振る姿を見かけるようになった。

 術式を教える老人も別に付けた。何をどこまで沈められるようになったかは、蔵から持ち出す呪具と、たびたび消える庭石を見れば分かる。

 真希と真依も、十種が出てから朔弥のそばへ付けた。身の回りの世話をさせるつもりだったが、真希はじきに木刀を手にするようになった。真依が寝込んだ日には、玉犬が部屋の前を塞ぎ、起こしに来た者を通さなかったとも聞いた。

 

 今では真希は東京校、真依は京都校の一年生だ。家の廊下で三人揃うことも減った。

 朔弥にも京都校の寮を用意したが、家の記録と呪具が要ると言って戻ってきた。

 

 ──信用してへんから、ここへ帰る。

 

 戻れば、蔵の鍵を出せ、呪具を貸せ、庭を使わせろと注文ばかり増える。信用していないと言うわりに、誰より遠慮がない。

 

 酒器を取り、残った酒を口に含む。

 新宿へ出れば呪霊を祓い、五条に東京校へ回され、夏油と乙骨の決着を見て帰った。肝心の小僧を見ていないことを差し引いても、役に立たないわけではない。

 

 直哉は、自分が継ぐものと疑っていない。

 朔弥は、高専へ出る朝、いつか直哉を潰すと言い切った。止めなかった。息子だからと譲るほど、当主の座は安くない。

 真希も家を出るとき、当主になると啖呵を切った。今のところ、候補に数えるには足りない。

 その上、甚爾の息子にも十種が出たらしい。見る価値はある。だから朔弥に命じた。

 直哉はまだ笑っている。朔弥もまだ当主ではない。外の小僧は、家に顔すら出していない。

 決めるのは、まだ先だ。

 

 朔弥は「自分を選べ」とは、一度も言わない。代わりに今夜のような土産を持ち帰り、蔵から呪具を引っ張り出し、また次の任務へ出ていく。

 世話係だった二人も、もうそれぞれの制服で呪霊を祓っている。

 朔弥は、あの日の大言をまだ引っ込めていない。

 

 酒器を傾けたが、一滴も残っていなかった。舌打ちして、膳へ戻す。

 今度は、『見つけてこい』と命じてやる。




禪院朔弥レビュー 2.2 ★★☆☆☆
禪院甚壱
 任務で組む分には文句はない。終わったあとまで指図してくるのが面倒だ。

禪院扇
 相伝を持っていようと、分家の娘だ。周りが持ち上げるから、身の程を忘れる。

禪院蘭太
 話しかければ普通に返してくれます。直哉さんと一緒にいるときだけは、近づかない方がいいです。

禪院長寿郎
 直哉が名前を出す回数だけなら、もう本家の誰よりも多い。本人は認めんやろうが。

禪院直哉
 十種だけなら五点。使うとるんが女やから零点。

炳の術師①
 女に相伝が出たところで、女は女だ。俺らに命じたければ、せめて男を通せ。

炳の術師②
 影から何が出てくるか、本人以外は分からん。呪具ならまだいい。たまに下着を出してくる。

炳の術師③
 直哉様と言い合っているところへ一度だけ割って入った。二人そろってこっちを見た。もうやらない。

炳の術師④
 顔はいい。体もいい。けど、性格は直哉様を女にした感じ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。