禪院の式神姫 作:いかいしんしょうまこーら
第一話 西と東
東京校の校舎が木立の向こうに見えてきたところで、後ろから真依の舌打ちが聞こえてきた。
振り返る。真依は何でもない顔で階段を歩いていたが、視線は一度も校舎から外れない。さっきまでウチの斜め後ろを歩いていたのに、いつの間にかさらに半歩ほど遅れていた。
「そない嫌がらんでもええやろ。まだ真希の顔も見てへんのに」
「名前、出さないでください」
「見つけても黙っといたる」
「そういう意味じゃありません」
返事だけはすぐに飛んできた。
真依はウチを追い越し、加茂たちの後ろへついた。歩く速さだけは、さっきより上がっている。追いついたところで加茂が横目を向けたが、真依は気づかないふりをしてそのまま進んだ。
ここまで来てしまえば、避けたところで会わずに済むものでもないだろうに。
階段を登り切ると、石畳の先に東京校の生徒たちが待っていた。
真依の足がわずかに鈍る。その程度の変化でも、長く近くにいれば分かるものだ。
赤い縁の眼鏡を掛けた真希が、こちらへ顔を向けた。
真依も逸らさない。二人の視線が正面からぶつかったが、どちらも口を開かなかった。
真依はさっきまであれだけ嫌そうにしていたくせに、いざ顔を見れば目を背ける気はないらしい。真希も同じだった。
ここで横から何か言えば、揃ってウチへ噛みついてくるのは目に見えている。黙って成り行きを見ていると、先に真希が視線を外した。
そのまま、今度はウチを見る。
「朔弥。お前も出るのか」
「今回だけや」
「直毘人がよく許したな」
「そっちに十種がおるからな」
真希が一度、得心したように鼻を鳴らした。
直毘人を呼び捨てにするのも、昔から変わらない。家を出てから多少丸くなるかと思ったが、そんな気配は欠片もなかった。
真希の視線が、肩越しに後ろへ動く。
「恵、朔弥はお前を見に来たらしい」
真希の少し後ろにいた黒髪の一年と目が合った。
細身ではあるが、立ち方に妙な緩みはない。こちらを窺う目も、単に年上を見るだけのものではなかった。
直毘人から聞いていたのは、伏黒甚爾の息子で、五条の庇護下にいること。それと、十種が発現したらしいという話だけだ。
顔を見るのは、これが初めてだった。
黒髪の一年──伏黒恵が、わずかに眉を寄せた。
「なんでお前、去年新宿におらんかったん」
「……去年はまだ、入学前です」
「入学前言うても、五条の下におるんやから動いとったんちゃうんか」
「……俺は五条家の人間じゃ、ないですからね」
「ふーん……なるほど? ……ま、どんなもんか楽しみにさせてもらうわ」
伏黒はウチを見返したまま、眉間の皺をもう一段深くした。
生意気で分かりやすい。
「迷惑な話ですね」
「ハッ、一年のくせに威勢ええやん」
「おまたー!」
場にそぐわないほど明るい声が割り込んできた。
「やぁやぁ皆さんおそろいで!」
全員の視線がそちらを向く。
大きな箱を載せた台車を、五条が勢いよく押してきていた。車輪が石畳の継ぎ目を踏むたびに荷台が跳ね、そのたび箱までががたがたと揺れる。
真正面にいたパンダが轢かれる寸前で横へ跳んだ。
「危なっ!」
「大丈夫、大丈夫。パンダは丈夫だから」
何が大丈夫なのか分からない。
減速する気配もなく突っ込んできた台車が、ウチらの前でようやく止まった。箱が一度大きく傾き、荷台から落ちかけて戻る。
押してきた本人だけが、やり切った顔で胸を張っていた。
五条が箱の側面を二度叩く。
中から小さく身じろぎする音がしたかと思うと、次の瞬間蓋が内側から跳ね上がった。
「皆さんどうぞ! 故人の虎杖悠仁君でぇーす!」
「はい! おっぱっぴー!」
薄い桃色の髪をした少年が、箱の中から勢いよく上半身を飛び出させた。両腕を広げ、満面の笑みを浮かべたまま東京校の面々を見回す。
誰も声を上げなかった。
伏黒は目を見開いている。その隣にいた一年も、口を半ば開けたまま固まっていた。真希は露骨に眉を寄せ、パンダはさっき跳び退いた場所から身体を起こしたまま止まっている。
歓迎の声も、驚きの声すら上がらない。
少年の両腕が、少しずつ下がっていった。
「あれ……?」
箱から上半身を出したまま、少年が周囲を見回す。死んだと聞いていた宿儺の器らしい。
一度死んだはずの人間が目の前で元気に動いている以上、少なくとも生きていることを意図的に伏せていたのは間違いない。上の連中から隠すためか、宿儺絡みで何か企んでいたのか。五条なら、どちらもあり得る。
ただ、上に隠すことと、身内にまで死んだと思わせておくことは別の話だ。その再会を、わざわざ箱に詰めて見世物にする神経に至っては、相も変わらずよく分からない。
「……五条。お前、趣味悪いで」
「せっかくなら驚かせたいでしょ?」
「普通に引いとるやろ」
「……おかしいな。悠仁、出るタイミングは完璧だったよね?」
「練習どおりだったんだけどな……」
少年が箱の縁に手をつき、肩を落とす。
どうやら本人まで乗り気だったらしい。
五条は教え子たちの反応など気にも留めず、今度はウチと伏黒を交互に指した。死者が生き返ったも同然の場から、もう興味が次へ移っている。
「それよりさっきの話だけど、今日の見どころも決まったね。西の十種と東の十種対決だ。同じ術式でやったら、面白いでしょ」
「西いうんはさておき、ウチはかまんで。おもろそうや」
「俺は承知してません」
「ウチとぶち当たって逃げれる気いうんやったら、自分、おもろいこと言うやん」
伏黒の目が細くなる。
一度だけ、その視線がウチの足もとへ落ちた。
十種を使うという話が本当なら、まず見るところはそこになるか。
ほんの一瞬で、また顔へ戻ってくる。
ウチも、伏黒から目を外さなかった。
◆
『──それでは姉妹校交流会、スタートォ!!』
『ゴラァ! 五条、先輩を敬──ブツッ』
五条による開始の合図が、木に括りつけられた拡声器から石畳を叩いた。歌姫の声も聞こえたが、いつも通りという感じだ。
東堂が真っ先に石畳を蹴り、木立へ続く道を駆けていった。その他の面々も一塊となって後を追う。ウチだけがその場に残って手を組んだ。
加茂は走り出す前に一度こちらを見たが、止める言葉はなかった。東京校の一人を引きつけるなら、人数の勘定は合うらしい。
開始前、楽巌寺の爺はウチらを見回し言った。
──虎杖悠仁を殺せ
──一級昇格。それが条件や
──……これは命令だ
──あほくさ、ほなパス
爺の眉間に皺が寄ったが、それ以上ウチへ話は振られなかった。リターンがないなら、ウチが引き受ける価値もない。東堂も障子を蹴破って出て行った。
「玉犬」
足もとの影へ呪力を流す。白と黒の頭が影を割り、前脚を石畳へついた。ハクとクロが身体を引き抜くと、すぐに鼻先を上げる。
「人の気配、拾うてきて。見つけたら知らせてや。呪霊おったらそのまま祓ってもええで」
玉犬は左右へ分かれ、塀を越えてそれぞれ林を探索するように走っていった。
続けて、鵺を呼ぶ。
「黒い詰襟の黒い髪のやつや。鵺は上からな」
大きな翼が頭上で開き、石畳へ風を叩きつけて舞い上がった。鵺が玉犬の間を行き来するように建物の屋根を越えていった。
ウチも境内を進む。
しばらくすると、右手からクロの短い吠え声が二度続いた。少し遅れて、梢の上から鵺の甲高い声が落ちてくる。
そちらへ進むと、クロが折れた枝の脇で鼻を鳴らしていた。湿った土についた靴跡は、林の奥へ一人分だけ続いている。クロは鼻先をその先へ向けた。
「ようやった」
頷くと離れていたハクの気配が途切れ、足もとの影の縁が一度だけ揺れた。鵺が木の上で一度旋回し、林の奥へ翼を傾ける。
その影を追って木立の間を進むと、黒い詰襟の背中が見えた。
足を止めた伏黒が振り向く。呼び戻した鵺がウチの足もとの影へ沈み、その脇からハクが身体を引き抜いた。クロと並び、二頭が左右へ広がった。
「やっと見つけたわ、東の十種」
「その呼び方、やめてもらえますか」
「ウチは結構気に入っとるで、東の十種?」
伏黒の両手が胸の前で重なった。足もとの影が、獣の背のように盛り上がった。
◆
伏黒の影から現れたのは、一頭だけだった。
黒い毛並みに、額の赤い印。大きさも体つきも、ウチのクロとそう変わらない。身を沈めた次の瞬間には、土を蹴っていた。
狙いはハクでもクロでもない。式神使いに対してのセオリー通り、真っ直ぐウチへ、だ。
「基本はできとるやん。せやけど──」
ウチが一歩前へ出る。その脇を、ハクとクロがすり抜けた。そのまま玉犬には目もくれず、伏黒へ走る。
ウチは開いた玉犬の顎を下から蹴り上げる。牙が頭上で噛み合い、黒い玉犬が短い悲鳴を上げた。跳ね上がった頭に引かれて身体まで浮き、土へ転がる。四肢を突いて止まったものの、すぐには飛びかかってこなかった。
力も速さも、通常顕現のクロと大差ない。
視界の端では、ハクが正面から伏黒を追い、クロが退路へ回っていた。伏黒は木の幹を蹴ってハクをかわし、幹の裏へ回る。回り込んだクロの牙も身を沈めて避け、二頭との間に太い幹を挟んだ。
伏黒の玉犬が身を低くし、主人のもとへ戻ろうとしていた。ウチは一息で距離を詰め、玉犬の首元へ手を回して地面に押さえ込んだ。掌の下で前脚が土を掻く。影からもう一頭が出てくる気配はなかった。
「白い方は?」
「……破壊されました」
「さよか」
合点がいった。さりとて。
「そないなんでウチに勝てる思てんか」
舐められたものだ。
伏黒自身は答えなかったが、その返事は手の中から返ってきた。手中に収まっていた支えが抜け、玉犬が影へ沈んでいく。
「渾」
伏黒の足元から、さっきの玉犬より二回りは太い前脚が影を割った。
黒い毛並みに白い紋が広がる。影から抜け出した背は、四肢を地面につけた状態でさえ伏黒の胸元に迫り、胴回りもウチの玉犬とは比べものにならない。首も四肢も太く、開いた顎にはウチの頭ごと噛み砕けそうな牙が並んでいた。
白を失った黒が、その術と力を引き継いだ姿。禪院家の記録にあった、玉犬・渾。
「それでええ、仕切り直しや。クロ、ハク一旦戻り」
伏黒を挟んでいた二頭の身体が足もとから黒く霞み、地面へ沈んだ。二頭分の気配がウチの影へ収まる。
伏黒は渾を前へ置いたまま、追撃してこなかった。
「ちょっと行儀良すぎひん? 隙なんか突いてなんぼやろ、早よ来ぃや」
返事の代わりに、渾が地を蹴った。開いた顎が正面から迫り、その巨体に伏黒の姿が隠れる。
ウチも正面から踏み込んだ。鋭い爪が届くよりも先に、焼き増しのように顎を下から蹴り上げる。そのまま宙へ浮いた渾の首元へ、両手を掛けた。
それと同時に、巨体の陰から伏黒が飛び込み、ウチの脇腹に拳が届いた。
「シッ……! ──硬ッ……!?」
けれど、ウチの軸を崩すには力不足。鈍い衝撃は体表を覆う呪力に散り、ウチの体幹は小揺るぎもしない。
「なんか、したかっ……!」
構わず腰を捻る。突進してきた勢いのまま、渾を頭から地面に叩きつけた。
土が跳ね、渾の巨体が横倒しになる。続けて伸びてきた伏黒の拳を回転しながら前腕で受け、外へ弾きながら懐へ踏み込む。そして腰を切って、背中からぶつかった。
「ガッ……!?」
いわゆる、鉄山靠。伏黒の胴体に遠慮なしに叩き込むと、その身体が跳ね飛んだ。面白いくらいに土を跳ね上げ、木々をへし折りながら後方へ転がっていく。
渾が土を掻いて跳ね起き、伏黒が消えた方へ駆け出した。ウチは両手を組む。
「玉犬」
足もとの影を割って飛び出したハクとクロは、木々の合間を縫うように伏黒に迫る。
この環境下なら、大柄な渾より小柄な玉犬の方が速い。このままなら、伏黒のもとへはウチの玉犬がひと足先に辿り着くだろう。
ウチは悠々と歩きながらその時を待った。これで決まるようならそれまで。粘るなら、粘れるだけ付き合ってやろう。
倒木の向こうで、片膝をついた伏黒が顔を上げ、胸の前で両手を組んだ。
あと一歩で二頭の牙が届く。その直前、後を追っていた渾の巨体が地面へ沈んだ。
代わりに、伏黒の影が膨らむ。
渾が二頭の前へ割って出る。振り抜いた前脚がハクを弾き、開いた顎がクロを外へ追いやった。その間に、伏黒は倒木に手をついて立ち上がった。
ハクとクロはすぐに向きを変え、渾を挟む。渾は追わず、伏黒の前に立って低く唸った。
ウチも折れた幹を踏み越える。伏黒は渾の後ろで腰を落としていた。
「せや、最後まで走らせんでもええ。呪力気にせぇへんのやったら、なんぼ出して引いてしてもええんやからな」
「……何が、したいんですか?」
「見極めや。お前が今使えるんかどうか、な。先に言うといたるわ、ウチはお前が使うた式神を使うたる。少しでもウチに手傷つけられんなら、及第点言うところやな」
◆
伏黒の指が組み替わる。
渾の巨体が足もとに沈み、代わりに枝の隙間へ大きな翼が開いた。ハクとクロも影へ引く。伏黒の鵺が羽ばたくより先に、ウチも同じ印を結んだ。
「鵺」
影から飛び出した鵺が、頭上から伏黒の鵺へ覆いかぶさる。ぶつかった翼が枝を薙ぎ、青白い電光が二羽の間で弾けた。
光に紛れ、伏黒が低く踏み込んでくる。呼吸はまだ浅い。それでも拳の軌道はぶれず、まっすぐ顎を狙っていた。
掌で受け止め、そのまま空いた脇腹を蹴り返す。
届く寸前、伏黒の身体が横へさらわれた。
木陰で、蝦蟇が伏黒の胴に巻きつけた舌を縮めていた。鵺の光に紛れて印を結び、ウチの攻撃を躱すために仕込んでいたか。
頭上では、伏黒の鵺がウチの鵺へ鉤爪を振り下ろした。翼で弾いたところへ青白い電光が走り、枝の隙間から地面を照らす。
伏黒は幹へ足をつくなり蹴り返した。胴へ巻きついた舌を支えに、木々の間を横切ってくる。
「蝦蟇」
ウチも鵺を残したまま、伏黒の進路に蝦蟇を出した。伸びた舌がその腹を捉える──より先に、伏黒は自身の蝦蟇を影へ還した。胴を支えていた舌が失せ、身体が地面に落ちる。そのまま片手をつき、ウチの蝦蟇の舌を潜り抜けた。
伏黒の鵺が翼を畳んで影へ消える。体勢を起こした伏黒の指は、すぐに次の印を組んでいた。
「満象」
伏黒の影を押し広げ、太い脚が地面を踏んだ。巨体が枝を押しのけ、振り上げた鼻から水を吐く。
ウチも鵺と蝦蟇を引き、同じ印を結ぶ。影から現れた満象が鼻を向け、正面から水流をぶつけ合った。
二つの水が木々の間で衝突する。白い飛沫が視界を埋め、土が足もとから崩れていった。幹にぶつかった水が左右へ割れ、落ち葉も折れた枝もまとめて押し流していく。木の根と抉れた地面にせき止められた水が、足もとへ浅く溜まっていった。
先に伏黒の満象が沈んだ。
押し返す相手を失ったウチの水が、飛沫の向こうへ雪崩れ込む。だが、そこに伏黒の姿はない。
水音に混じって、いくつもの羽音がした。
「不知井底」
水煙の上を、翼を生やした蝦蟇が三体飛んでいた。そのうち一体の舌が伏黒の胴に巻きつけられ、濁流の外へ運んでいる。
鵺でも蝦蟇でもない。両方の性質を併せ持つ、拡張術式のひとつ。
「そう来たか」
何を出してもそのまま返されるなら、混ぜる。筋は悪くない。
だが、混ぜられるというのは、こちらも同じだ。
足もとの影から、同じく翼を生やした三体の蝦蟇が飛び出した。
伏黒を水の届かない地面に下ろした一体。それが正面に回り込もうとしたところへ、先んじてウチの一体が舌を伸ばす。胴に巻きつき羽ごと締め上げ、反撃の暇を与えない。
残る二体は、頭上と水面すれすれから舌を放っていた。ウチはそれぞれの軌道に身体を差し入れさせる。胴が叩かれ、ウチの蝦蟇の体が大きく後退した。
それでも、こちらの二本の舌は自由なままだ。返す刀で、放つ。
上から迫った一本を伏黒は身を沈めてかわした。もう一本は水面を切り、その足を狙っていた。
「渾」
伏黒の足もとから巨体がせり上がり、低く伸びた舌の前へ割り込んだ。渾が舌を掴み取り、蝦蟇の一体を引きずり出す。
「玉犬」
ハクとクロが影を割り、渾へ飛びかかった。ハクが舌を掴んでいない前肢へ噛みつき、クロが首もとへ牙を立てる。狙いが分かたれ、それぞれに異なる力がかかることで渾の前身が沈んだ。巨体が浅い水へ突っ込み、引きずられていた不知井底も勢いのまま渾の足もとまで滑っていく。
ウチは絡み合う式神の脇を抜け、そのまま伏黒へ踏み込む。伏黒も迎え撃つように腰を落とし、拳を突き上げた。
手の甲で払い、手首を掴む。引き寄せてさらに踏み込めば、伏黒の喉が空いた。
ウチは反対の拳を突き出した──
直後。
足もとの浅い水が下から突き上げられたように跳ねた。
拳を伏黒の喉元で止め、掴んでいた手首を離す。
遅れて、地の底を割るような轟音が響いた。
木々の向こう、会場の中央あたりから無数の太い根が空へ突き上がった。絡み合った塊は、木々の高さを優に超えてなお膨れ上がり、どこからでも見えるほど高くそびえる。
狙いがウチでも伏黒でもないのは明らかだった。これだけの異変を起こしているのに、根の主らしい呪力の輪郭は妙に掴みにくい。まるで、森そのものに溶け込んでいるみたいだった。
「勝負はここまでや」
「分かってます」
伏黒も巨大な樹木へ目を向けたまま、追撃してこなかった。
そのとき、木々の間へ差していた陽が翳った。上空では黒い膜が山を包むように広がり、会場を囲う帳が降り始めていた。
Tips:十種影法術の熟練度について。伏黒恵も小学1年生ごろから五条悟のもとで実戦経験を積んでいるが、五条家という十種影法術の本家筋ではないため、術式に関する文献・記録は禪院家と比べて相対的に少ない。そのため、朔弥との差のひとつとなっている。
Tips:伏黒恵の百鬼夜行参戦について。原作で確認できなかったため、不参加として処理。
Tips:朔弥の式神。伏黒のように形を定めて使役することも、宿儺のように形を定めず使役することも、どちらもお手のもの。また、部分顕現も可能。本腰入れる時は不定形で使役することが多い。鵺は不定形にすると乗り心地が悪いため、定形で使役することが多い。