再異世界転生~今度は謎幼女キャラで現代ファンタジー~ 作:昔邪道今王道展開好き
豪華絢爛な柱が玩具の様に吹き飛び、雷が奔る。
美しい調度品は全てその雷の餌食となり、焔に包まれて消えていった。
「クッ……凄まじい魔力!魔王の名は伊達じゃないのか!」
半裸にマントを纏った筋肉ダルマ、戦士『ヘルマン』が自慢の大戦斧を構え直しながら大声で吠えた。
しかし、語り掛ける相手は闇の魔力で身を覆いつくし、対話に乗らない姿勢だ。
何より既に雷魔法と火魔法の攻撃を放っている。
賽は投げられたのだ。
「ヘルマン!前衛は任せた、私は魔王に届かないかもしれないけど、己が魔道を貫くわ!」
謎の紋様が刺繍されたローブと煌めくアクセサリーに身をつつみ、マジカルステッキを掲げる少女が戦士ヘルマンに呼応する。
彼女こそ、この世界「ラドタルク」で1,2を争う天才魔法少女『コラリー・クロー』である。
魔王を倒すための旅路の果てに彼女は大賢者エリヤスをも超えた、魔族を圧倒するマジックユーザーに成長した。
その杖から凡人であれば50回は死ねる光線が幾千と放たれ、魔王に向かってゆく。
しかし、その光のシャワーは魔王に躱され、彼に届いた光線は片手で数えられる程だ。
彼女の光の雨に紛れ人外の速さで魔王に接近したヘルマンは、自慢の戦斧を振るい魔王にダメージを与える。
「グッ……小癪なネズミ共め、貴様等如きこの『魔王ロシュディ』が跡形も無く屠ってくれる!先ずはこの能無しからだ!」
戦士の中でも大柄なヘルマンと同じ程の背丈をもつ魔王は、一番近いヘルマンを指名してその指を突き立てると、先端から闇魔法が光線となって彼を襲う。
数回戦斧で傷を負わせた筈の魔王が軽々と身を翻して、闇魔法を放つ様に唖然としたヘルマンは彼の闇の矢に次々と襲われる。
「クソぅ!俺は誇りあるボア族の戦士、この程度の魔法などこうしてくれるッ!」
巨大な戦斧をクルクルと自在に操り、襲い掛かる闇の矢を叩き落していくヘルマン。
それでも彼はその闇に染まり目に見えて技のキレが悪くなっていた。
このままでは先陣切って戦っているヘルマンは魔王に真っ先にやられてしまう。
だがしかし、ここで我ら『勇者一行』は倒れてはいけないのだ!
何年も前から修行の旅を続け、絆を深め合ったこのチームが魔王に負けるわけがない!
「俺もヘルマンと前に出る!」
俺自身もワザと大声をだしまるで宣言するように言った。
魔王に小賢しい戦法は通用しない、後は俺達の心の持ちようだ。
「ミリアム!ヘルマンと俺に回復を頼む!」
「はっ……はいぃ」
ビクリとしながらも、長杖を一振りする彼女は癒術士『ミリアム・エリス』。
そのびくびくとした姿は建前で、やる事はキッチリやってくれる頼もしい術士だ。
「魔王よ!その名を掲げるのであれば、この俺と勝負だ!」
剣を抜き放ち高らかに宣言し、その切っ先を魔王に向ける。
ヘルマンはああ見えて引き際の分かる男で、闇の矢で受けたダメージを癒すためヤツと距離を置いていた。
その中挑発しながら正面へ突っ込む俺は、ハンサムなマスクの勇者『ランヴェル』、魔王と一騎打ちをするに相応しい身なりである。
「勇者などと古の戯言をほざく!ええい、なれば貴様が先だァ!」
筋肉ダルマのヘルマンが予想以上にしぶとく、また防戦も得意だったことが魔王としては意外だったのか、その苛立ちを露わにし俺に向かって剣を抜く。
(ランヴェル!我の、そして同胞の力を信じろ!作戦は全てうまく行っているぞ!)
俺が両手で持つ長剣から声が聞こえてくる。
両目を閉ざしていないにも関わらず、魔王と剣を交えているにも関わらず、イメージが脳裏によぎる。
霊脈の上に剣を突き刺し、祈る世界に散った仲間たちの姿。
そしてその力がラドタルクを一周し、最後に俺の剣に注入される感覚。
「集え魔力、我に呼応せよ!《ファイナルブレイク》‼」
おぞましいほどの魔力が俺の背から渦巻くが、その声は良く聞く少女のものだ。
「生命の鼓動よ、舞え……《イモータルインデュエレ》!」
「ランヴェル!共にやるぞ!」
仲間たちがそれぞれ魔王に立ち向かい始め、俺の隣には回復したヘルマンが立っていた。
「チィッ!小癪な……」
天から降り注ぐ爆裂の嵐の中、強化魔法を纏いながら戦士と共に魔王へ肉弾戦を仕掛ける。
振るわれる戦斧を避ければ、その先を俺の魔剣が貫く。
魔剣の斬撃から命を拾えばその先は極大の戦斧が打ち破る。
魔の王と言うからには魔術は非常に手慣れであったが、その行使を俺とヘルマンが懸命に邪魔をした。
そしてそこから漏れた魔法はコラリーが跳ね返し、負った傷はミリアムが回復する。
勇者一行として恥じない戦いの後、魔王が仕掛けた。
「勇者!感じぬか、この力を!貴様の剣と魔力の流れを!」
「なにっ!」
魔王が掲げてみせた漆黒の魔剣をよく見れば、俺の魔剣や仲間たちの剣と同じような意匠が施されていた。
まさかとは思うが……。
(なんということだ!最後の一振りがヤツの手の内だと……!)
長剣から声が聞こえた。
「イレイザー!その事は大丈夫じゃないのか⁉」
(ヤツの手にある事が問題なのだ‼——しかし、ランヴェルよ!)
イレイザーから言われずとも分かっていた。
もはや手を加えるには時間が無さ過ぎる。
後は実力でこれを破るしかない。
「ふははは‼絶望しろ人間ども!最後の希望が目の前で失われたぞ!」
「く、くくくふはははは‼」
高笑いする魔王に切っ先を向けて、笑い返してやった。
すると、仲間たちも声を上げて笑い始める。
「ぐ、何が可笑しい!負けるのは貴様ら——」
「いいや、何がどうであれお前は今日ここで打ち倒す!」
闇で隠れて見えなかったが魔王の奴はこの時だけ顔を真っ赤にしていた事が分かった。
「ふ、ふざけるな!貴様らの運命、そして人類はこの私によって潰えるのだ!」
「ゆくぞ、イレイザー‼ヤツを真っ二つにしてやれ!」
俺は大声を上げて魔王に斬りかかっていった。
——
————
鋭い光線の中、気が付けば柔らかいベッドの中に居た。
先程までの決戦が嘘の様に静かな居室の中、一筋の光が差し込む。
チチチ……と小鳥たちの鳴き声が外界の平和を謳っていた。
「また……あの時の夢か。無理も無い。」
自分で声を出して慰める。
モノを覚えるにしろ、鼓舞するにしろ声に出すのは良い事だと学んだ。
ベッドからもそもそと起き上がり、カーテンをまとめると日差しが大きく部屋の中に入って行き全てが照らされる。
少しばかり高価な調度品たち、椅子や天蓋の在るベッド、応接セット、それらがあっても尚広い部屋。
俺が今まで暮らしていたどこの場所よりも居心地が良い豪華さだった。
王都の冒険者ギルド、その最上階。
魔王の首を取り帰還した勇者に与えられた褒美だった。
今思えばギルドマスターという地位は少し報奨としてはケチだったな、なんて思う。
貴族にしてもらって領地や豪邸でスローライフなんて言うのが良かったんだが、勇者たるもの謙虚でなきゃ皆を失望させてしまうから文句は言わない。
見慣れようとしている日常の風景の中、迷わずテーブルの上の懐中時計を開いた。
数字が何処にも書いていないが、丁度12時の部分を時針と分針が指し示し重なり合おうとしている。
そしてそれは昨日、一昨日から何も変わっていなかった。
時計の蓋を勢い良く閉じてひとりごちる。
「いつが最期か分からないもんな、悔いなくってヤツだ。」
魔王を倒して2カ月も経っていないというのに、余韻に浸る時間すらないのは寂しい限りだ。
すると、トントン、とドアがノックされる。
入る様に促すと、いつもの様にメイドさんが朝の挨拶と朝食の用意をしてくれるのだろう。
「おはようございますランヴェル様!」
「おお、おはよう。」
いつもならば寸分の無駄も無く、ぞろぞろと他のメイドさんたちがやってきて朝食の用意や着替えを置いて行ってくれるのだが今日は部屋に入ったきり動かない。
何か不都合でもあったかと思い、そのポニーテール黒髪メイドさんに声をかけようとしたところでその剣呑な雰囲気に唾をのんだ。
「平和ボケか、勇者サマ。」
……一本取られたか。
「ふぅ、驚かすなよリン。」
互いにニヤリと笑いあう。
彼女がメイド姿でココに立っている事自体が不穏であったが、どんなにマズイ事でもなるべく俺が解決したい所だ。
なぜなら俺はこの世界で勇者をやっているからな。
「そうみがまえるなランヴェル、主に定期報告後は、まあ微妙なニュースなんだが。」
「ああ全部聞かせてもらうさ、悪い事だろうと良い事だろうとな。」
魔族の襲来を期に同盟を組んでいた王国、通商連合、帝国の国々が水面下でバラバラに動き出し始めた事。
落ち延びた魔族による陰謀の陰。
そして各地に散った魔剣を持つ仲間たちの動向。
俺にどうにかできる時間は残されていないかもしれないが、解決してやれるのであれば最後まで寄り添ってやりたいものだ。
「さて、じゃあ新鮮なニュースだ。私の相棒アカツキから言伝があってな、魔剣同士でその『猶予時計』をどうにか出来ないかの論がまとまったらしい。」
「どうにかって……できるものなのか?」
俺は急いでその忌まわしき懐中時計をテーブルからひったくって蓋を開ける。
相変わらず時針と分針が頂点を示そうとしており、変わった所はない。
「さあ?私には勇者サマの苦悩はわからんが、魔剣達ならその一端は分かるんじゃないのか?……イレイザーに話を聞きに行くんだ。彼はこの下だろ?」
「なんでもお見通しか、ああ分かったよ。」
ハァ、と息を吐いた彼女のトーンが下がり再び話を続ける。
「悪いニュースだ、早くイレイザーの所へ行くといい。魔剣達によればお前に残された時間は僅か、との事だ。」
一瞬気が遠くなるような感覚を覚えたが、逆にソレが己の魂に火をつける。
寝巻のまま壁に飾られた剣を手に取り、鞘に納め押っ取り刀で部屋を飛び出す。
「……さらばだ、ランヴェル。いつか、また。」
小さな声が低く聞こえたが、聞こえなかった事にした。
階段を急いで下り、その俺の様子に血相を変えたメイドや衛兵達から何事かと問われる度に地下への扉を開けろ、鍵を寄越せと声を上げる。
他から見たら気を違えたかと思われるかもしれないが、俺がどう思われるかなんてもう知ったこっちゃ無かった。
東の隠れ里の正当なるニンジャ、「リン・イガ」が真剣な顔で俺に最後通牒を出したんだ。
やはり俺の命はあと僅か。
そうなればその対抗策を練っていた魔剣達の声は何としても聴きたかった。
魔道エレベーターに乗り、ギルドの地下深くに封印されている扉のロックを解除して中にズケズケと入って行くと、最奥に安置された長剣がひっそりとたたずんでいた。
「イレイザー!アカツキから話を聞いたんだって⁉」
彼の元までたどり着けば、こんな鈍らは必要ない。
寝床から持ってきた長剣を捨てて彼に近寄る。
(よくぞきたランヴェル!早くこちらに来るんだ、我が柄に手を!)
台座に安置されている剣であるが引き抜こうとすれば誰でも引き抜ける。
だが柄に手をやれと言っているだけだったので柄を握ってそのままにした。
魔剣の封印はいくら勇者であっても勝手に解いて良いものではない。
(む、むう。やはりこれでもムリか。)
「だ、だめなのかイレイザー。ランの奴がアカツキに案があると言っていたが。」
半信半疑ではあったがやはりだめか……。
だが彼は諦めていない様だ、彼等には顔も無ければ声もイメージだが魔剣使いには分かる。
(おお、そうだ。ならば……柄に手を、我が炉に魔力をくべるのだ!)
再び柄を握り今度は言う通りに魔力を剣に組み込まれている『炉』に流し込んだ。
(む、むむ。なるほど、とは言えこれもまた奴次第ではあるがな。あ、もう手を放してよいぞ。)
「で?どうなんだ、俺は助かるのか?」
(助かる?いや、それは無理だ。)
「お、おいおい。最後の伝手だってんで急いできたのに、最初からだめでしたなんてお前らしくないぞ。」
イレイザーは堅物ではあるがアホでは無い。
それに俺には解らないが魔剣同士は離れていてもつながりがあるらしい。
今この瞬間にも猶予時計対策が生まれてもおかしくないのに、真っ向から否定するのは彼らしくない。
(いや、最初に無理だと言った筈。いま我らが行ってるのは主が去った先の対策なのだ。)
「去った先、後ではなく……どういう事だ?」
(ランヴェル、主の猶予時計は主が死ぬシステムでは無い。主が言葉を略しているだけ、そうだな?)
「言って無い事はあるが、違いはない。」
既に手を離した剣と真っ向から会話する大の大人。
ギルドマスターであり元勇者である俺が1人にしてくれと言ってあるからココに来るものはいないだろうが。
しかし、現役の頃から剣と会話するのはこそばゆいものがあったな。
(いいや、大きな違いだ。主の魂は乖離されやすいように加工されている、他のラドタルクの人々とは違う。ランヴェルよ、お前はこの世界を去り他の世界に飛ばされるのだな?)
旅の途中幾千と聞いて来たイレイザーの声が心に溶ける。
フラッシュバックする『神』との契約。
——この刻限を示す時計、これが一周するまでに世界を救え。
——一周したのであれば貴様に天の裁きが下りる。
——裁きは貴様の働きに左右される、ゆめ忘れる事でないぞ。
口外してはいけないという取り決めも無い。
だがこんな事誰にも信じてもらえない、それは旅の道中が物語っている。
信じてくれたのは他の魔剣達と大賢者、それにニンジャぐらいだ。
イレイザーに真っ向から相談する理由も無かったんだ。
「ああそうだ。世界を救えなければ死、世界を救えたのなら、多分飛ばされるのだろう……別の世界にな。」
(ふ、主の口から聞けて少しは心が晴れた。英雄が報われぬ話など悲劇であろう。)
英雄なんかじゃない。
俺は神から力を授かってこの世界に降り立った。
転生して勇者として十分な力を持っていたんだ。
努力だって少しはしたけど、でも一般人には到底できなかった事を時間も掛けず成し遂げてしまったんだ。
才能におんぶにだっこ……それは努力なんて言えないし、英雄ですらない。
真の英雄は俺に付いて来てくれた仲間たちだと言うのに。
「で?先の対策って何だよ?」
(主の飛ばされた先が苦難に満ちたものであれば、手助けが必要だろう?それぐらいはこの世界から持ち出してよいと思うてな。)
「そりゃありがたいね、でも剣も力も不要な世界だと思うけどな。」
結局有無も言わさずにつれてこられて、力は貰ったけど戦わされた。
だから元の世界には返してくれるだろ。
もともとニートの俺は家族から要らないなんて言われそうだけど、でも世界を救えたんだ。
今度は仕事の1つくらい見つけられるさ。
なんだか剣と立ち話をするのも馬鹿馬鹿しくなって、地べたに胡坐をかいた。
なんなら今連れ去ってくれても構わない。
(どうかな?剣も力もあれば有るだけ心強いではないか。カネとおなじだ。)
「じゃあカネ、ゴールドだ。それを持って帰りたい、金の含有量なんか知らないけど金貨を持って帰った暁にはニートが続けられる!」
(たわけ。魂なき金属など世界の狭間を超えられるものか。)
1人と一本でケラケラと笑い合う。
最後に見送ってくれるのが冒険を共にしたインテリジェンスウェポンだなんて、かなりロマンティックじゃないか?
寂しいとは思ったがこれもオツだな。
——カチリ。
ポケットに入れていた筈の猶予時計からなぜか音が聞こえた。
普段は耳を傾けていないと聞こえない程の作動音だというのに今回は特別らしい。
示す時間を見てはいないが分かっていた。
体中に光の粒が集まり、目の前も白く染まっていく。
「後は頼んだ、イレイザー。俺の仲間たちに遺書を見る様に言っておいてくれ。」
(封印されている身だがそれぐらいはやってやろう。)
「不躾だが、その、お前と戦えて楽しかったぜ。」
(それは、冥利に尽きるな。)
別れを惜しむ会話も出来ず光の粒が体中を覆いつくし、視界も真っ白に染まり目も耳も聞こえなくなってしまう。
胡坐をかいていた筈の身体の感触すらなくなり、意識だけが残った。
これから起こる出来事は唯一つ。
「それで、神様。俺はどうなるんですかい?」
声を出そうとしたが、既に喉は無かったのか情報だけが飛んでいく。
俺は便宜上神様なんて呼ぶが本当はどんな存在なのか分からない。
ただ誰もが手をかけられない程の存在なのだという事は理解していた。
俺の前に存在感は無く、何かが降臨した感覚も無い。
ふと、情報が頭の中を突く。
——貴様は我がシステムに相応しい、よくやった。
「そりゃどうも?やる事やったんだからさっさと元に戻してくれ。」
声は出ないがそう声に出そうとした。
一番最初に邂逅した時から彼等に対話の意思は無く、唯告げるだけの者という印象が深い。
だから今回も返答を期待した訳では無かったのだが。
——次の世界を救え、それが貴様への褒美ともなろう。
……え?
それってサービス残業ってこと?
「ちょっとまて話が違う!そんなの褒美でもなんでもない!」
そう叫ぼうとしたが、目の前がだんだんと暗くなり始めた。
最初に異世界転生を果たした時と同じ感覚。
くそ、言う通り世界を救ってやったのに訳の分からない事を言い始めやがって!
憤る気持ちも強制的に鎮静化させられたのか、目の前は完全に闇に飲まれ、意識も遠のいていった。