再異世界転生~今度は謎幼女キャラで現代ファンタジー~ 作:昔邪道今王道展開好き
「ねぇその鼻歌、故郷の曲なの?」
不意を突かれた。
テンポを取っていたのは俺がまだニートをやっていた時の曲。
この世界でも忘れられず脳裏に焼き付いていたらしい。
「ああ……いや、どうだったかな。お前と出会う前から旅をしていたから、その時に聞いたりしていたかもな。」
そっけない言葉で返す。
数年前に俺の故郷は焼かれて消えた。
そしてその2人の生き残りの内、1人は俺が殺した。
だからあの村の文化なんて残っていないんだ。
「そっか……勇者の旅ってそんなに辛い?」
「急だな?」
コラリーが何の話をし始めたいのか、てんで分からなかった。
何かの説得でも……そう、今日の夕飯で1人だけ肉を多く取っていた事をなし崩しにしたいのだろうか。
「ランヴェル、あなたってさ笑わない人なんだよね。自覚している?」
そんなことはないだろう。
それは俺が元々そういう人間だったからだ。
「ああ、可笑しなことも無いからな。」
「私は変人だって自覚はあったから、人間の観察は人一倍頑張って来たつもり。……人間ってね、可笑しなことは作り出す生き物なんだ。」
俺がそれを怠っている、と。
テレビも映画も見ない、見るとすればニュースだけ。
下らないバラエティやドラマは胸やけがして見たくない。
ネットじゃゲームの情報だけで、他は何も見て……いや、見たくなかった。
確かにそうかもしれないが、そんなことで非難される所以は無い。
「俺はきっと昔から笑い所が変な人間なんだ。……ヘルマンにでも聞けば俺もしらない、俺の笑い所が聞ける筈さ。」
「口元は緩むのに、笑わない。あなた、笑わないんじゃなくて笑いたくないの。」
コラリーは異性、しかも年端もいかない少女だ。
ヘルマンにはそっけない態度をとっても、彼女にはそうしない様に努めていたんだが、何かが気に食わなかったのだろう。
「だとしたらどうした。笑わなくっちゃいけないのか?」
「そういうんじゃない。……あなたは魔王討伐の宿命を帯びているけど、人生を謳歌しちゃいけない決まりなんてないわ。」
「……俺にそんな暇などない。」
「ううん、人は生きている限りその人生を楽しむべきだと言っているのよ。あなたに長期休暇を取ってほしい訳ではなくてよ。」
コラリーは天才魔法少女だったが大の変人で、それらしく言っている事の意味が分からない時が度々あった。
今回も彼女に分かった風を装えば、その忠告から逃れる事が出来るとその時は思っていた。
「分からない?私の同郷にいた年上の男、あなたと同じぐらいの年齢かしら。もっと余裕があったわ、人間的にもその選択も。」
冗談ではなく、キレそうだった。
イレイザーがいなければきっと、激昂していた筈だ。
彼には感謝してもしきれない。
「狭量だと言いたいか。……全てを投げうって魔王を討つと決めたんだ、俺はさぞ中身の無い男だろう。」
「違うの!あなたを!責めているのではないわ!」
キレたのは俺じゃなくて、コラリーだった。
逆ギレ。
彼女は激昂して、肌身離さず持っていた自分の貴重品入れをその場にぶちまけた。
秋の不穏な街の外れの公園。
ある大木の下には沢山の趣味のものや、記念の品が撒かれた。
「何を……。」
「勇者の旅についていくと決めた時!私は魔王を討った暁には、自伝を執筆して売りに出すって決めた!これは後になって振り返る為の材料よ。」
「それが……それが俺の狭量と何の関係がある!」
「何も楽しめないあなたの人生、果たして振り返る事が出来るのかしら。きっと何も覚えていないわ。そして物事を振り返る事の出来ない人が、旅で成果を上げる事が出来て?……人は前だけ睨み付けていては進めない時が必ず来る!」
怒りに震えていた己の頭脳は秋の寒風に晒され、幾ばくか落ち着きを取り戻し、彼女の言葉を反芻していた。
がむしゃらに闘い続けて来た自分の勇者としての人生。
思い返しても、ひたすらに魔獣や魔人を、帝国人や王国人を、『敵』を殺して回っていた事しか浮かばない。
強くなるため、俺は何を捨てて来たのか。
捨てたものすら忘れ、生きる兵器となって俺は唯、魔王の心臓へ向かう針になってしまっていた。
「お、俺には魔王を斃す事にしか生きる意味も術もない!それに、今この瞬間にも人々は魔族に殺されている、安穏としていられない!」
「あなたはそれが答えになってしまうのね。人は何をしなくても死んでいく、例え魔族が台頭していなくても人は人を殺すわ。人は、大義だけで立っていられない事すら忘れてしまったの!?」
コラリーは夢を持って立っていた。
ヘルマンは戦士の誇りでもって立っているのだろう。
俺……俺は。
『今、この時』を立ち続ける事が出来るだろうか。
何も持ちえないこの俺が……。
——
————
「で、さあそろそろ相槌の一つでもくれや。……まあいい、どこまで喋ったか——そうだ、テメェの代りにぶち込まれたってヤツに話したらよ、それはテメェで勝手に考えて先走っただけだって言いやがってよ。んだよ、勝手に考えて行動したって。人間ってのは絶えず何かしら考えてるモンだろうが。」
なにか懐かしい夢を見ていた気がする。
初めてラドタルクでの人生を、いや人生全てを鑑みるきっかけになった出来事のひとつ。
感慨にふけっていると突然大声が聞こえてくる。
懐かしい思い出が台無しだと、少々不機嫌になりながらも段々と耳も聞こえるようになってきた。
音の響くコンクリート打ち放しの部屋に鉄格子が幾つも刺さっている。
この留置場は4部屋用意されていて、囚人が居るのは縦に2人。
俺と、もう1人。
男の声が響いていて、それがわんわんと響いている。
話が長いわりにまるで要点を得ないし、それに一番大切なオチってものが無い。
この房はお前の日記帳か!
「うるさい。しずかにして。」
「あぁ⁉てめ、ここじゃ俺様がセンパイなんだぞ!お前、センパイの言う事聞かなきゃいけねェんだからな?分かってっか!?」
すごくテンプレートな不良だ。
というか受け継がれてきた伝統か何か知らないけど、それを後生大事に守ってるからここにぶち込まれてるんじゃないんですかね。
「メロンパン買って来いつったらお前、独房の中に入っていても買ってこなくちゃいけないんだからな!」
「どうするのさ。」
「あ゙?……いいか、よく見とけよ——看守サアん!助けて!あ、イタタタ‼」
大声が響き渡ると、足音を鳴らしながら警棒を持った男が留置所の扉を開けて入って来た。
「どうし——またお前か!」
「アタタ、いたい、腹がいてえ!もう死ぬほど……」
腹痛の演技を続けているらしいがここからでは絶対に見えない。
それに見たくも無い。
「お前それで脱走しようとするのもう4回目だぞ!バカなんじゃねえの!?」
その言葉が嘘か真か、直後に死ぬほど痛かった筈の腹痛も収まったのか声を出さなくなってしまった。
看守も専門で雇われている訳では無く、制服に腕章をしているところからセバーの生徒が報酬と引き換えにやっているのだと見える。
「あのぅ~ちょっといい?」
俺が言葉を漏らすと、めんどくさそうな表情をしながら俺の房の前にきてくれた。
「ああ、なんだお前……黒羽トキか。どうした?」
「なんか隣の人寝ても覚めてもずっとうるさくて、なんとか黙る様にいってやれない?」
「何度も言ってるんだけどなぁ、バカだし……ていうかもうお前にはもう関係よ、お前釈放。」
一瞬すごい温情を感じたけど、捕まった時に拘束は数時間で解けるなんて言われていた事を思い出した。
時計も無ければPDAも無いからどれぐらいたってるか、知らないけどガッツリ寝てたから1日経ってんじゃないのコレ!
鉄格子のドアの鍵が解除され、扉が自然と開く。
もう一時も居たくなかった俺は自発的に外に出ると見知った顔に出くわした。
「こちらの先生に話伺ったんでね、ちゃんと礼しておけよ?」
「寝心地どうだった?問題児の黒羽クン?」
ニヤつきながら手をクルクルと回し、早くこっちに来いと言わんばかりの浅葉が居た。
問題児っていうか、今回貰い事故だし、なんなら元はと言えばアンタの寄越した仕事でこうなってんだからな!?
迷惑男はそれきり言葉を発しなかったし、俺からしてもどうでも良かったので一瞥もせず外に出る。
この別棟から出る前に、没収された私物PDAやアカツキを返してもらって、渡り廊下を進む。
「あのな?仕事を頼んだけど、問題を起こしてくれって頼んだわけじゃないんだよ?」
「仕事帰りの巻き込まれ事故、言わば労災ですな。」
ずんずん歩きながら喋る。
PDAを操作し、今まで居た留置所が保安部が丸々仕切っている棟の中にある事を確認する。
また、さらにそこからどうやって校舎まで繋がってるのかをちょこちょこ見ながら歩いた。
「何その手。」
「労災、おりるでしょ?いや、おろせ。」
無表情で平手を上に突き出す。
この手に金を握らせろと言わんばかりに。
「いやそれ保険入ってる人が貰えるんであってお前……いや、しゃーなし今回はお小遣いをあげよう。」
手に握らされたお札の感覚に、それをひったくり目の前に持ってくる。
千円札だった。
「小学生のお小遣いなんだからその程度に決まってるだろ?ま、後は仕事頑張ってくれや。」
……ま、いいか。
浅葉のせいにしたかったが、結局俺がダンジョンの奥で不法投棄をしなかったせいなんだから。
落ち度は俺にある。
「ありがと。一応品物は無事、あとで研究室にどしどし送る。」
送る、言い終わる前に並んで歩いていた筈の浅葉が目の前を塞ぎ、驚愕した顔を見せていた。
「ま、まさか……保安部に没収されていたものとばかり!じゃ、じゃあ期待して良いんだな!?」
「そ、そんな嬉しいの。じゃあなんとかしてすぐにもっていくから。」
そういうと、歓喜の表情を浮かべ俺の前で謎の小躍りを披露し、高らかに宣言し始める。
「す、すぐに!?もう!?じゃ、じゃあ俺!研究室で待ってるから!黒羽クンが来るまで、ずっと!待ってるからァ!」
全速力めいたドタバタ走りで俺を置いて突き当たりの角を曲がって行ってしまった。
——まあ、なんとかしてって《アイテムボックス》から持っていくだけだから重労働でも何でもないんだが。
自室で《アイテムボックス》からリュックサックに荷物を移した上で、事前にPDAで確認した浅葉の管理している研究棟の一角にお邪魔する。
本人の性格上そんなに優秀な存在と思えないのが現状だが、こうやって実験室や機材を任されている所を見ると、嫌でも有能かつ地位がある存在なんだなと思わざるを得なかった。
「トキ!」
クリップボードに何やらメモをしていたミホがそれらを放り投げて、俺に抱き着いて来る。
そんなに誰かれ構わず抱き着いていたら誤解されますよ、なんて考えたが俺小学生ぐらいの同性だったわ。
そりゃ抱きしめる位しちゃうのも分かる。
「私心配しちゃったよ!トキが悪くない事は分かってたんだけど、保安部の人たちは怖いから。」
「むぐ、むぐぐ。くるしい……。」
「あ、ごめんね。そうだ、浅葉先生から聞いたけど研究物質を持ってきてくれたんだっけ?そのコンテナの中に入れてくれるかな?」
ストッパー付き台座の上に如何にも「化学物質が入りますよ」というデザインのコンテナが鎮座している。
大きさは衣装ケースみたいで、当然中身はカラッポだった。
そのまま入るかな?と思って、身長の三分の一以上ありそうなリュックサックをぶち込むと、少し頭が飛び出てしまう。
「浅葉先生そこら辺気にしない人だから、そのリュックのまま入れちゃっていいから。」
「いや、でも収まりきらないし。」
「あ、いいのいいの。文句言われたら私がやっとくし、トキは午後の授業参加してきたら?一年から沢山サボっていたら、後で後悔しちゃうかも。」
授業?
午後?——PDAを見れば確かに今は正午。
そ、そうだ、ここのヘンテコなダンジョンと謎の因縁男のせいで、この施設が一応学校だったって事を忘れていた。
確認すると、午後に基礎魔術訓練が登録されている。
「あ、ありがとう。じゃあおれ、授業いってくる。」
「すこしは何か食べておいた方がいいかも!今度はお友達を吹き飛ばさない様に~!」
背を向けて歩き出した俺の背に見当違いのエールを送ってくれるミホ。
ありがたいと思う反面、2年生は授業とか無いのだろうか、と不思議に思った。
留置所から研究室を巡り巡って、1年5組に帰ってくると超歓迎ムードで迎えられる。
「保安部に逮捕されたんだって!」
「ダンジョンへ密航?何考えてんだろ。」
「実はダンジョン探索許可下りてるってウワサが……。」
「あいつのせいで1組に目ェつけられたら嫌なんだけど」
すごくデジャヴだ。
聞こえない、或いは聞いていても効いていませんって顔で自分の席に座ると、隣の男が話しかけてくる。
「なァ、お前さ俺の居ない間に何冒険してんだよ。」
「お、りゅうじ。無事?——ぶれない態度がおれの矜持、今何時?」
「もうすぐ13時だけどって、韻を踏んでんじゃねぇバカ。心配して損したぜ。」
「心配してくれるの?」
必殺、超美幼女憂い顔!
目を潤せたらもう最高だったかもしれないけどそこまでの演技力は俺に無い!
「そりゃあな。俺を吹っ飛ばしてその後何気なく授業に出ていたと思ったら、逮捕なんて。なんか勘繰っちまうだろ?」
「そうかな?」
おお、全く気を遣わずに会話ができる。
コレは友人、というか仲間として認めても良いのではないだろうか。
少なくともヒサトより余程信頼できるし、浅葉はイカれてるし、ミホは彼の傘下だし。
ナチュラルな友人としては望ましい人選、我ながらグッド!
「はい、着席してくださいな!基礎魔術訓練の授業をはじめますよ。」
入室して来たのは、40代ぐらいの女性だ。
彼女の言葉に従って、全ての人間が着席する。
「魔術訓練だってよ、すげえ興奮するぜ!」
魔術……ラドタルクでは魔法も魔術も言い方が別なだけで大体同じものを差していた。
いわゆる一般的なファンタジーと同じ要素を持ち、超自然的な力で大気中或いは自分の中にある魔素と言われる燃料を魔力に変化し、そこから呪文により加工して、それが現実世界に作用する。
呪文も、詠唱や無詠唱で効能や効果時間、さらに効果そのものに大きな変化を与える事から、魔術分野はラドタルクで大きく研究されていた。
俺の仲間だったコラリーは、詠唱、無詠唱問わずその場の最適解の魔法を繰り出しながら戦う魔術師のスペシャリストだ。
そして俺もそれをちょっとカジった半端者である魔法戦士だからして、今回の魔術訓練は楽勝に決まっている。
でも教室でやる魔術訓練ってのはなんだ?
「では、今日は魔素の流れを適切に感じ取り、適切に魔力へ加工してPDAに該当する魔術の行使が可能かどうか判断してもらう訓練をします。」
「何が何で、何だ?」
「リアクションありがとう、でも私語は謹んで。」
思わず出てしまった声は、かなり大きかった様だ。
幾つかの視線を感じるがそれがどうした、俺は幼女なんだぞ。
ちょっとリアクション取っちゃうぐらいカワイイって思え!
で、本当に何を言っているのか分からない。
ラドタルクでは魔力への加工はまるで息をするかのように出来るし、魔術の行使が可能かどうか判断なんてしていなかった。
あの世界で……コラリー曰く魔法は完全発動とそれ以外に分けられて、魔術協会の定める現象以上や以下の物以外が正しいものだとされていた。
戦闘に支障が出たとしても現象として発動できるなら、規模が縮小されようとされまいと魔法の行使としては認められていたんだ。
つまりは、この世界の人間はPDAに認められなければ不完全な形でも、現象を起こさせる事さえ出来ないという事なのだろう。
先生の話を聞いていると、ますますその疑いが強くなる。
俺はセンスが無かったから、身を守ったり能力を向上させる魔法を不完全に無詠唱で重ね掛けするという選択肢を取っていた。
——しかし、他人との致命的なズレは関係に亀裂を生む。
俺のPDAは未だに俺の魔素や魔力を判別できず、スキルの登録すらさせてもらえない。
それに今までのクラス内評価もそうだ、他人の顔色をまったく意識しない生き方というのもいつか足を引っ張られるかもしれない。
大衆と何もかもが違う個というのはいつか破綻する。
……何か、手はないか。