再異世界転生~今度は謎幼女キャラで現代ファンタジー~ 作:昔邪道今王道展開好き
人が人を肩車しても上部に届かない程の大きく巨大な鉄の門。
そしてその左下には人ひとりが出入りできるほどのドアが付けられていた。
そして俺はその手前に立っている。
「黒羽トキ……1年だから改めて警告しておくぞ、外出時は必ずこの正門を通りPDAで入退出の管理をすること、門限は22時だ。それと——」
正門の警備隊の1人が俺に向かって説明をしてくれていたが、何か言いづらそうに躊躇いを見せた。
「聞いていると思うが、世の中には『セバー狩り』もいる。悪い事は言わない、一通り訓練が終わるまで外出は止したらどうだ。」
「おれはだいじょうぶ。浅葉センセのお墨付き。」
「そ、そうか。浅葉さんか……。じゃあせめて1つだけ聞いていってくれ。制服を着て外出するなんて自殺志願もいい所だぞ。」
俺はセバーだと宣伝している様なものだった。
「わすれてた、着替えてくる。」
「はぁ~ほんとにこんなおとぼけ小娘を通していいもんかね。」
踵を返して急ぎ寮まで戻る。
今日は休暇日、授業もテストも無い日で一年生は一般的に自習やトレーニングをするらしいが、外出をするという選択には俺の目的がある。
情報の獲得。
《ブレイズオン》の件にしてもそうだったが、俺はこの世界をまるで知らない。
セバーとして知らないという点に加えて、この世界の人間として失格というほど色々を知らないのだ。
ヒサトの一件でも思い知らされた。
セバー、ダンジョン、魔獣。
それらの存在が諸外国に対してどのように影響を及ぼすか。
事情を知っていたら俺もこぼす言葉を間違えなかったかもしれない。
俺も元ニートとはいえ一端の大人だった訳だから、外交について一般人レベルの考え方ぐらいは出来た筈。
ヒサトに与える情報を少なくできたかもしれないのだ。
そしてPDAはスマホの様な使い方も出来るが、いかんせんネットにつなぐには微妙なデバイスだ。
スキル、魔素、魔力に特化しているだけであってスペックは全てそちらに持っていかれている。
パソコンも持っていないし、買う金もないしな。
手持ちの魔石があるが、今の時期の1年が換金すること自体がおかしいから無理だ。
例え、俺が浅葉の懇意を受けているとバレていたとしても、大量の換金は浅葉との取引をもばらす事になりかねない。
だから世の中の風潮や情報は、実際にフィールドワークで確かめる事にした。
随分と古風だって?
元ニートかつ元アラサーなんだぞ。
着替えて来た俺を待ち受けるのは巨大な門に仕掛けられた扉の先。
そこには日本の地方都市の原風景……そこに爆発痕や倒壊した建物、崩落した道路などの過激なトッピングの付けられた景色が広がっていた。
——一体日本に何があった⁉
あれほどのクレーターなんて、空爆でもされて無ければ生まれないんじゃないか?
それにあの建物や道路のザマはなんだ、地震でも起こって復興ができていないのか。
混乱する俺を尻目に、背後で扉の閉まる音が聞こえる。
振り返ってみれば巨大な門に、巨大な校舎、その後ろに聳え立つ寮のタワーがあった。
周囲には下り坂しかなく、山の頂上或いはそれに近い山中にこのセバーは建てられた様だ。
打ち捨てられていた、だれかの自転車をぱくって山中を滑り降りる。
標識の多くは倒れており、字は褪せていて良く見えなかった。
大通りまで来れば、道路状況の悲惨さも目に付く。
脇道は全てボロボロで見捨てられて、大通りしかも必要不可欠めいた部分のみ修復されている様に見えた。
所々は鉄の板にされて、ある部分は見捨てられた車線があり、1つになっていたりした。
人里……に見える場所。
民家が並ぶ家々を巡ってもヒトの気配はない。
家々は風化し破壊され、半公共の建物である郵便局でさえガラスが割られ機能を停止していた。
至る所に雑草が生え、管理が行き届いていない、いや全く管理されていない事が分かる。
とある民家の外にさび付いていた自動車は、随分と前のモノに見えた。
下山すれば適当に人里に入る事が出来て、適当に資料館や図書館があって、調べ物が出来ると思っていたら大間違いだった。
これでは在りし日が分かっても、現代の文化や事情が分かる筈も無い。
とりあえず民間人を探すべく、自転車を走らせた。
(トキ殿、よくその恰好で拙を腰に下げようと思ったでござるな?)
「ダメなのか?」
白い捲った長袖のシャツに、少し短いスカート、歩きやすいスニーカー。
ベルトにアカツキを帯刀していた。
確かに和装していた方が似合うが。
(民間人になりすますなら《アイテムボックス》に拙を収納すればよいのでは?)
「別に偽装しようってわけじゃない。それにメインウェポンを仕舞うってのはおれには出来ないな。ピンチの時反応に時間差がある様では死ぬ。」
いくら《アイテムボックス》が優秀であろうが、中からモノを出すのは同じ。
意思決定に時間が取られてしまう。
その点帯刀していれば、抜刀までいかずとも鞘ごとで事態は良い方に転がる。
(言わせてもらえばそんな窮地に陥った時点で失格でござる。)
「こりゃ手厳しいな……っと、アレは。」
少し遠くにさび付いていない業務用のバンめいたものが数台止まっている。
使い古されているが動きそうだ。
そしてそれに襲い掛かる様に狼型の魔獣『ウィットハウンド』 が群れている。
人々はバンの後ろに退避する者と、取り残されている者、既に逃げ始めている者などまちまちだ。
生きている現地人にあえるのなら僥倖だと思い、自転車を打ち捨てアカツキを構えながら走り出した瞬間に出来事は起こった。
そのバンの後ろから、片手剣を持った人が飛び出してくる。
その人は群れの中央を斬撃しながら突破し、『ウィットハウンド』を引きつけバンから遠避けていた。
「こっちだ!」
中性的だが、高い声。
見かけはあいまいだが、女性だ。
……どこかで見たか?
雄たけびを上げながら、ワザとらしく剣を振るう彼女。
剣は両手剣ほどの長さがあるが、持ち手は狭く、実際片手で握られている。
きっとオーダーメイドの様な物に違いない。
剣技は見せつけられる度胸に見合わず、どこか拙い。
魔獣共は着実にその剣の前に斃れていくが、同時に剣士も傷ついていく。
最初は片手剣にしては長い刃の重さが、狼型魔獣のスピードと連携の前に劣ってしまっているのだ、と思っていたが近づいていくとそうでないと感じる。
彼女自身の技、そして経験が見合っていないのだ。
幾ら振りの遅い武器でさえも、鋼の肉体があればあの魔獣の速さをも上回る。
そして数多の戦いを生き残って来た人間であれば、次に攻撃を仕掛けてくる個体と攻撃方法まで予測が出来る筈。
奴らの攻撃に対して受けに甘んじている事が、何よりの未熟だ。
囮としているのであれば、勝負は短期決着でなく長期戦を覚悟するべき。
であればこの戦いは防戦一択。
どれだけ長くかかろうとも、自分は倒れない事を強く意識しなければならない。
それが分からずに闇雲に戦っている様に見えた。
——ヘルマンだったら何と言っただろう。
「グッ……くそぅ、解っていたけど、このまま終わってたまるか!」
左右からの連携攻撃に振り回されていた彼女だったが、群の中の一体だけに集中攻撃を食らわせ始める。
「でやあッ!《ドラッグエッジ》!」
引きずる片手剣が地面から火花を散らし、その炎が不自然に大きくなって周囲の魔獣を巻き添えにしながら、カチ上げの一撃を食らわせる。
彼女が目の敵にしていた一匹は闇と散ったが、炎に巻き込まれていた残り3匹はいまだ健在だ。
……この世界の生き証人に死んでもらうわけにはいかない!
ちょいと過保護かもしれないが助太刀させていただく!
「……《シイッ》‼」
奴らの群れに対して素早く走り込み、スラディングをしながら360度回転しつつ周囲に斬撃の嵐を繰り出す。
切り刻まれ、消えていく魔獣たち。
消えゆく闇と、魔石の落ちる音と同時にゆるりと納刀をした。
「一体……何が⁉って君は!」
驚きを隠せない整った顔。
黒く、短い髪。
凛とした立ち振る舞い。
いや、見たことあるぞ。
「おせっかいだった?」
「黒羽トキ……ほら、覚えてない?ミホに学食で紹介された。」
「生徒会長!」
「はは、また逢ったね——私の名前、覚えているかい?」
長片手剣をクルクルと回して背の鞘に仕舞う彼女。
ジャケットにパンツルックでアクティブな服装だ。
武器の扱いは手慣れているようだが、あの苦戦はなんだったのだろう。
「マオさん?」
「そう、門坂真央。」
彼女と顔を合わせていると、バンの中からちょこちょこと人が顔を出してくる。
その内の1人がマオに近づこうとすると、彼女はそれを手で制した。
民間人……彼等彼女等と会長の関係は何なのか。
知る所以も無ければ時間も無い。
「悪いけど、会長命令って事で少々旅に付き合ってくれない?」
「ごーいん。見返りは?」
「コネクション。」
「ん。」
かなりの報酬に俺様も思わずサムズアップ!
彼女とバンの旅路についていく事になった。
舗装具合の酷い道をぐらぐら揺れるバンで高速移動する。
だがそんな過酷な状況下でも彼女に伺う必要が有った。
「なにやってるの?慣れてない剣で、こんな事。」
その凛々しい顔を歪めたり、目をギュッとつむったりして短時間で濃厚に考え込んだ末に解が出される。
「うー、なんだ……まあ見られてしまった事だししょうがない。」
曰く、数日前から悪夢に苛まれている。
その夢の中ではある男と激しく戦い、その末にいつも敗れ殺されてしまう。
そしてその戦いの経験が自分に浸透してくるのだと言う。
彼等が何を喋りながら、どんな雄たけびを上げながら戦っているのか分からない。
だが、その剣技、脚運び、戦況の見極め、そして声が聞こえない筈の五感でさえもが脳裏に刻み込まれる。
己が使うは刃渡りの長い片手剣。
禍々しく、そして想像範囲外の使い方は彼女自身の心に驚愕を与えた。
——思わず現実世界で確かめたくなってしまうほどに。
「まあ、私の得意は槍なんだけどね。でもダンジョンの外に滲み出る魔物はレベルの低い連中が多い傾向にあるから、練習がてら彼等の頼みを聞く事にしたの。」
「へぇ。ちなみに頼みって?」
「密航。地下鉄だとほとんどうまく行かないから、危険な地上を使うの。」
み、密航?
このお天道様が眩しい時間帯に。
一体どこからどこへ……。
緑が茂り過ぎている地方都市だが標識の言語に日本語が見えた。
そして至極当たり前だが、この国に陸上の国境は無い。
と、すると既に密入国は果たしており後は目標地域に着くだけとか?
「そう、か。」
どうしようか。
そんなにセバーはブラックな事もやるのが普通なのか。
あるいはこの俺には解らない天変地異が起こった末に常識が塗り替えられて、セバーでなくとも密航の舟渡が年端の女に託されることが普通だったら。
ミホのいう所の『味方』かどうか。
俺は嫌っている考え方だが、俺が嫌いなのと有用か無用かという判断基準は次元が違う。
例え嫌いだとしてもやるべきならば、やるだけだ。
そういえば、彼女との同行による報酬は『生徒会長とのコネクション』だったな。
「ねえ、会長。落ち着いたところで話がしたいんだけど。」
そう訊ねると彼女はにっこりと笑った。
「じゃあ、目的地に着いたらって事で。あと1時間も揺られれば着くと思うから。」
ジャングルの様な山道を抜け、ボロクソになった国道と破壊され尽くしたロードサイド店舗が瓦礫を並べる。
密航というにはあまりにも粗雑で大胆。
ガタガタと揺れるバンはもう一段階進化して、めまいや酔いを運んでくるようになった。
これがウワサの4DXってヤツか!
誰かの嘔吐した音の臨場感と、吐しゃ物の臭さが五感を刺激する。
おもむろに停止したバスから目を回しながら、 彼女に押されて半強制的に降ろされる。
「うげぇ……止まってくれたの?」
「いいや、私達はこっから歩き。一応戦闘用で雇われていただけだからね。」
地面しか見えていなかったその眼を正面に向ければ左右一杯に広がるゲートと壁、そしてその奥に鎮座する近代的メガロシティが存在していた。
このデカさならさぞ目立つだろうに、奇跡的に第六セバーからは見えなかったのだろう。
砂埃をまき散らしながらバン一行はそのままゲートに向かって直進する。
入場の手筈が整っているのだろう。
しかし、俺達は?
「歩きって、相当怪しまれない?それに入場にはそれなりのチケットが必要では?」
「そこはセバーっていう至極まっとうでお高い身分を使えばバッチリ。PDAさえあればどんな都市でも出入りできる。」
マオは自分のPDAを取り出して人差し指を立てた。
なるほど、確か浅葉辺りがセバーの身分証とPDAの関連を謳っていた様な気がする。
ゲート近くまでとぼとぼ2人で歩いて行くと、声をかけても居ないのに向こうから武器を携帯した兵士のような人間が寄ってくる。
現代の兵士めいた格好だ。
アサルトライフルに、ハンドガン。
迷彩服にマガジンポーチの付いたベスト、ヘルメット。
今まで専門的な場所に居ただけであって、やっぱりここは『現代』と言える時間軸なのだと実感した。
「止まれ!」
兵士に呼び止められた彼女は慣れているかの様に両手を挙げた。
「第六セバー所属、門坂真央。PDAは右手にある!」
「よし、そのままだ。そっちは⁉」
首をクイとまげて俺の方を一瞬向いた。
だが、俺が答える前に彼女の声が響く。
「こっちもセバーよ!……ほら、PDA出して」
「あい。……第六セバー所属、黒羽トキ。」
彼女の真似をしてデバイスを掲げる。
すると兵士も謎の危機を取り出してこちらに向けて来た。
どうやら、向こう側のデジタルな機材らしく情報を無線で読み取っているのだろう。
「トキ、PDAのアプリで『身分証』の選択を。」
彼女は確かにこなれているが言葉の端に緊張が見え、いつもより口調が速い。
期待に応えるべく、俺も片手で掲げていたデバイスをその手で操作して自分の身分を証明するモードを立ち上げる。
「……第六セバーの会長サンがはるばる陸路とは、そっちの子に関係あるのか。」
「そんなところです、目をかけた新人で。」
「その新人、魔素の測定にエラーが出ている。どういう事か。」
彼はその銃口を俺に向けた。
銃弾は切れるのか、避けられるのか。
魔王と戦う直前の俺だったら出来るかもしれなかったが、万が一にもそんなことはありえない。
なぜなら、彼の後ろには何十人もの兵士が陸路のゲートを守っていたからだ。
コイツを何とかできてもその先が続かない。
俺は早々に諦めて、上げた両手をフラフラとさせたが彼女は違った。
「PDA……デバイスの故障でしょうか。この子は私の責任で面倒見ますんで。」
「第六セバーの代表がねぇ……いいだろう、ここのゲートは初めてか?」
「いえ、何回か。案内は大丈夫です。」
「じゃあ、さっさと行け。」
兵士は片手で「あっち行け」とジェスチャーをして、俺達が来た道の方へ向いた。
それを期に、彼女にサッと片手を引かれ連れて行かれる小さな俺。
関所というにはあまりにも人がいなさすぎる、まるで博物館の様な有様の建物を引きずられながら通過する。
果たしてその先は——。
「しゃれてんな」
「そうでしょ、ニューカケイは『街』の中でも最先端のカルチャーシティなんだから。もしかしてトキは初めて?」
目の前に広がっていた光景は石畳やコンクリートの道々が交差し、赤いレンガが色気を出す建築物、超高層ビルがそのお洒落な風体を無視するが如く無骨にしかし無難にそびえ立っている現代ではあり得ない都市の姿だった。
異質なのはその風体だけでなく、広さによってごまかされてはいた『街』そのものが壁で覆われている点にもある。
その壁の継ぎ目には監視塔があり兵やロボットの様な異形が番の様に立っていた。
「まあ、いいか。私の行きつけにお洒落な喫茶店があって——。」
車や人々が何気なく往来し、生活をしている様を見れば生活が『成り立っている』事は把握できた、そこは安心している。
だが、その風体が問題なのだ。
彼等の中に居たある若者はテープを手に、プレイヤーに差し込みそのイヤホンジャックから伸びるコードを耳に歩く。
ある壮年は角張った高級そうなセダンを乗り回していて、そのミラーはボディから生えている。
街の至る所にはまるで数歩の感覚で公衆電話が乱立していた。
マオの言っている事が耳に入らないぐらいのショックを受けながら進められるがままに入った喫茶店の入り口には、レコードプレイヤーが現役を満喫している様だった。