再異世界転生~今度は謎幼女キャラで現代ファンタジー~ 作:昔邪道今王道展開好き
視界がだんだんと晴れていく。
身体の感覚が徐々に戻っていく。
まるで深い眠りから覚める様に。
水の中で浮いていた身体が岸に打ち上げられるかの様に。
己の身体の重さと、意識の困惑に身をよろつかせながら必死に周囲を確認する。
とんでもない大きさの和風大広間で新品の畳敷きだ。
周囲は全て襖で閉じられている。
なんて異様な場所だと思ったが、同時に日本を感じられる造形と襖という鍵の無い扉に安堵した。
ヤツは次の世界を救えと言った。
そして俺は転生以外の世界の跨ぎ方を知らない。
転生でなく転移で勇者ランヴェルとしての俺がココにあるのか、はたまた現実世界で腐っていた
或いは全く別の転生体で赤ん坊からスタートなのか。
意を決し深呼吸をして己の腕や胴を確認する。
神秘的で真っ白な細い腕、胴衣は和装だったがボロボロでこれも細く白い脚が見えていた。
「赤ん坊、にしては大きい……あれ。」
声が出せる。
だが、薄くて甲高い声。
周囲を見ても畳と襖ばかりで鏡の様な物が無かった。
己の姿を確認したかったが、十中八九女になっている!
他意は無いが恐る恐る股間に手を伸ばすと、ある筈のモノが消えていた。
「やれやれ、今度は女の子に転生かよ。」
立って身体を良く見回せばそれも少し幼めだ。
14歳ぐらいだろうか。
コレで顔が美少女だったら最高なんだけどな。
何て漠然とした思いとは裏腹に深刻な考えが浮かんでいた。
あの存在は再び世界を救えと俺に命令していた。
悪いが幼女の身体に世界を救える程の力なんて見込めない。
一体どうすればいいんだ⁉
修業が必要なのか⁉
混乱した頭を冷やすためになんとなく力こぶを作ってみたが、まるで一般幼女だった。
これならば、天才魔法少女コラリーの方が力があるんじゃないだろうか。
——力、か。
そう言えば魔力はどうなっている?
俺は勇者としてオーソドックスな魔法戦士タイプだった。
己の力と魔力を混合させ、戦いの時には自己強化の魔術を駆使して戦ったものだ。
あの頃を思い出して体に纏っているであろう魔素を呼び起こし魔力を練ろうとする。
生み出される膨大な魔力とその渦を自覚し、ホッと胸をなでおろした。
筋力は爆下げかもしれないが、勇者だった頃の魔力は引き継げている様だ。
自分に魔術系統の感覚が戻ってくると、何やら足元に違和感を覚える。
先程まで畳敷きと襖のみの和空間だったのだが、自分の足元に鞘に納められた刀が出現していた。
腹を切れ、って事では無さそうだが……。
(なにを呆けてるんですかランヴェル殿!)
急にどこからか声を感じて傍にあった刀を腰に差して身構える。
「うわあ!急に誰だ!どこに!……って、なるほど。」
だが、タネが分かったため身構えを辞め、畳に胡坐をかいた。
「喋る日本刀、それに俺をランヴェルと呼んでくれた。アカツキだな。」
(ご明察、拙はアカツキ!インテリジェンスウェポン10振りの内の1本。お久しぶりでござる。)
「ああ、隠れ里で分かれて以来だな。だがここに転生する前イレイザーと話をしてくれただろう。」
腰に差した刀を自分の目の前に横たわらせ、話を続ける。
(この様子では成功にござるな。サトの村に伝わる禁呪、世渡りの術を改良して発動した拙の策略は我ながら見事!)
アカツキは悪い奴じゃないんだが、イレイザーと比べるとどうしても落ち着きがない。
これがニンジャの愛刀で大丈夫だったのだろうか。
「そうか、じゃあこの世界でアカツキが相棒になってくれるんだな。」
(然り。ですが、他のインテリジェンスウェポンの方々の数振りもこちらにお見えでござるよ!)
ラドタルクで魔王を倒すために親交を深めた意志を持つ武具たちが、俺を助けるためこっちに来てくれるなんて。
これがイレイザーの策だったのか。
うん?
「じゃあイレイザーもこっちに?」
(ランヴェル殿には申し訳ないが、イレイザー殿は自らを軸の役割にされた故この世界に来ることは出来ないのでござる。)
「……そうか、それは寂しいな。」
勇者として手に取った最初で最後の剣。
幾つもの旅路を支えてくれたあの壮年を思わせる口ぶりの剣はもう無い。
アカツキの言う「軸の役割」とやらも作戦である「世渡りの術」というのもよく分からないが、イレイザーがもう居ないという寂しさと、それでもあの世界から助けにアカツキが来てくれたという嬉しさで年甲斐も無く複雑な気分になってしまった。
「なあ時にアカツキよ。」
(なんでござろう。)
「お前の相棒のリンは正当なニンジャだったが、ござるござる言わなかったぞ。なんでお前はそんな口調なんだ。」
(イレイザー殿と同じで武の神から与えられた人格にござる故、拙の語尾に文句があってもどうしようもないのでござる。)
「そう……そんじゃあアカツキよ。」
(なんでござるか。)
「俺達を包囲している結界って破れるか、さっきから俺の魔力を通しているが一向に解呪できん。」
(じゃあ拙で切ってみてはいかがでござろう。)
畳と襖、正にそれしかなく、出ていくのであれば襖を開ければよいと思っていたのだが、見えぬ壁が阻んでいた。
ラドタルクにもよくあった魔術結界で、何かを封印する為に外部との接触を絶たせるモノで何度も破ったことはある。
勇者としてのパッシブスキルで解呪は何を考えなくても出来ていたのだが。
彼女のいう通りに、刀を鞘から抜き放ち、想定される見えない壁に向かって切りつける。
だが、虚空を裂く音とその力がビリビリと室内に響くだけで、結界は傷1つついていなかった。
「くそ、何故だ。アカツキも妖刀として十分な霊的スペックもあるし俺は……もしや。」
(考えられるとすればソコにござるな、ランヴェル殿はこの世界では勇者ではないのかもしれない。)
「チッ、解呪なんて大体ミリアムの仕事だったからな。そうなると、どうなんだ。当たり前だが脱出しなければ何も出来ないぞ。」
(果報は寝て待て、というでござる。もしかすれば誰かがこれを解きにやって来るのを待つという筋書きかもしれません。)
俺を閉じ込めて人に救出に向かわせる。
あの神なら試練だとか言ってこの世界の人間にそんな義務を課していてもおかしくはない。
「待つ苦労も知らないで悪趣味だな……んじゃ言葉に甘えて。」
畳の上に大の字でふて寝しながら今後の事を考える。
幸い一人じゃなく喋る相手がいるから退屈はしなさそうだ。
「……実は俺は元々ランヴェルって名前じゃなかったんだ。」
(ほう、名を騙っていたのでござるか?それとも何らかの洗礼名だったり?)
「まあ環境ががらりと変わったし、世界に沿った洒落た名前にしてたのさ。本当は姓は黒羽、名を旬って言うんだ。これからは女の子だし、読み方を変えて黒羽
(おやランヴェル……トキ殿は場所によって名を変える人なのでござるね。)
「元々複数名義を使ってたからな、そういう文化なんだ。」
大雑把に一括りに説明してしまったが、要するに俺はゲームによってキャラ名を変える男だったと言うだけの話だ。
勇者をやっていた頃のランヴェルという名前も、ニート時代にハマっていたRPGのキャラ名からとったものだった。
(ではさっそくで不躾でござるがトキ殿、1つ提案にござる。)
「結界を突破する作戦でもあるのか?聞かせてくれ。」
(トキ殿はラドタルクでサバイバル訓練を受けたでござるね?)
「ああ、冒険者ギルドでの講習は冒険の最中に受けた。ちゃんと卒業認定も受けている。」
(じゃあ、山中遭難時の魔術的対処を試みてはいかがか?)
あっ、現実的かつ割と嫌な対処法だ。
「ゲッ……救難信号を発した後自分に仮死状態を施し、疑似的に冬眠の状態に入って救助を待つってアレか。」
(救難信号もこんな謎広間で役に立つか分からないでござるが、救助を待つしかない以上死なない為にも自己保持は必要でござるよ。)
「くそッ、眠りから覚めた様に異世界転生したあと、更に冬眠するなんて寝てばっかりで嫌になるぜ。」
ラドタルクからこちらに転生する際に役に立ったのはアカツキが施した禁呪だった。
だから今回の彼女の提案もそこそこ信頼に値する……のか?
俺は体力が尽きれば魔力から変換させ生き延びれるようになっているから、冬眠から誰も起こしてくれなければ正味80年先に勝手に目覚めてしまう。
そしてその時には全ての力を使い果たしていて、結界も割れず餓死してしまうのだろう。
アカツキを信頼しない訳では無いが、ココは1つ目覚めの時を設定しておいて誰も起こしてくれなければ余力を残して目覚めるという形にしよう。
「他に手はなさそうだな。アカツキ、そっちは自己保持が可能なのか?俺が起きたらさび付いていたなんて事は……。」
(そんなはしたない姿は見せないでござるのでご安心を。)
俺の不安をきっぱりと切り捨てる。
やはり剣に向かって錆びないか、と無暗に言うのは失礼だったかもしれない。
俺は無詠唱で己に最大の防御魔法を重ね掛けする。
そして、加えて魔法を詠唱した。
「深淵なる眠りよ、ここに加護を《グラヴヒュプノス》」
慣れない睡眠魔法をしかも自分自身にかけるという、手探りな状況に疲弊した精神を魔法が包み込み、すぐに俺は眠りについた。
——もう20代後半だって言うのに定職につけないなんて、いつまで脛をかじれば気が済むの⁉
——早く家を出ていけ未熟者‼
…………。
——あなたには随分と助けられました勇者殿!あなたはこの街、いいえこの世界の恩人です!
——ずっとここに居て下さればよいのに……ですが世界の為旅を続けるというのですね。
夢、そう夢を見ていた。
何処からが夢であってどこまでが現実か分からない、そんな夢だ。
夢の内容は……。
現実世界で堕落した生活を送っていた俺が遂に家族から見放される。
挙句の果て野宿の最中嵐に遭って、気が付けば自らを神と称する存在にある世界を救う使命を与えられ、俺は異世界転生を果たした。
15歳ぐらいの素朴な見た目の少年の身体と、勇者と呼ばれるに相応しい素養を手に入れた俺は、使命である魔王討伐を成す為に旅に出る。
旅は世界を跨ぐ大冒険と言っても過言では無かった。
大草原の村を襲う魔獣の群れから村民を救い、猛吹雪の山中で魔族と死闘を繰り広げる。
船を使って大海原を進み海賊と戦闘をし、砂漠のバザールで義賊と共に魔族の陰謀を暴いた。
さらに古代文明の遺跡の謎を解き明かし、世界に10振りあるインテリジェンスウェポンの在処を突き止め、そして……。
まだまだ色々な冒険譚の末に魔王と直接対決し、世界に平和をもたらした。
だが、俺にはその報酬を堪能する時間も無く神により強制的に再転生させられて、幽閉の身となってしまった。
そんな荒唐無稽な夢。
夢……だったのか。
そうだ、そうに違いない。
ニートの俺が、働く事もままならない様な男が勇者になって世界を救うなんてそんな子供じみた夢が現実であるわけがない。
きっと目を覚ませばいつもの様に厄介になっているネカフェで目が覚めて、やっと決まった単発アルバイトに行かなくちゃならないんだ。
「起きて下さい!」
……ネカフェの店員さんだろうか、俺のブースからボヤでも起きない限り店員が来るなんて事ありえない。
「——大丈夫⁉自分の事分かる⁉」
女性の大きな声が聞こえる。
いくら店員でもこんなに親身に自分の事を心配してくれる人は少ない。
アルバイトの対応とは言えツンケンしていないのは良い店員だ。
なんだか身体が重いけど彼女の為にも声を出さなきゃ。
「——大丈夫、です。」
なんだ、この高い声。
俺が声を出したんだよな⁉
うん、夢……⁉
「大丈夫じゃない‼」
お、思い出した!
今までの事は全部夢の様で現実で、最終的に俺、女の子になってたんだっけ⁉
「えっ!どこかケガしてるの⁉場所は⁉」
目を見開くと、眼前には大きな女性が立っていた。
いや、大きくは無いんだ。
俺が小さい!
ああ、もう混乱する!
「え、は、ああ、ごめんなさい。ちょっと混乱してて。」
一気に夢から舞い戻った俺は状況を整理する。
アカツキの提案を呑んだ俺は冬眠状態に入ったが、目が覚めたら目の前に人が立って話しかけてきていた。
つまるところは、外部による干渉により結界は解けて俺達は助かったという事だ。
だが、重要なのはこれからだ。
俺達に解呪できない結界を簡単に解いてしまった目の前の彼女と、後ろからぞろぞろと付いて来た集団は間違いなく手練れだ。
もしかすれば元勇者のステータスをある程度引き継ぐ俺と魔剣アカツキのコンビをも上回る強さかもしれない。
ココは素直に自分の事を表に出さない方がよさそうだ。
「ううん、けがは無いの。お姉さんは?だれ?何しに来たの?」
笑いたくば笑え、俺様の渾身の幼女仕草を。
でも外見が小さい女の子ってだけだし、そもそも俺はそんな女の子の観察もしたことが無いから、どういった言動が正解か分からない。
こうなれば一か八か、不思議系キャラをねらえば多少のミスは許してくれるだろ!
「ええっとね。私は第六セバー所属の2年生でミホっていうのよろしくね。」
「よろしくぅ?」
何だセバーって。
第六というからには一もあるって事か?
「あなた、お名前は?どこから来たか言える?」
言えるかバカ。
「俺……あぅ」
「俺っ子⁉」
目の前の女子がビックリとしたジェスチャーを取る。
チッ、言い間違えた……こうなりゃ俺っ子不思議系美幼女で通すしかない!
ダメなら野生児にクラスチェンジだ。
「おれ……トキ、黒羽トキ。なまえ言えるけど、あとは分からん。記憶そーしつ。」
「トキちゃん、かわいいね!幾つ?」
目の前の女子は手を差し出してくる。
記憶の混乱という言い訳が通っているのか、はたまた外見がマジで幼女なのか鏡がなかったから分からないが、手をつなぐアシストが欲しいと思われる程幼女か重症なのだろう。
差し出された手を弱弱しくを意識して握って上目づかいをしながら言う。
「わかんない……あっ、アカツキは?」
幼女が愛刀を持つなんてフィクションでしかないから、祖母の形見とでも言い訳しよう。
そこで名前を付けて可愛がっている設定を出すのだ!
「暁って?」
「カタナ……おれのだいじなもの。」
「なんだって⁉」
いままで俺の相手は目の前のミホと名乗る女性だけだったが、後ろで何やら調査をしていた白衣の連中がやって来る。
その中の1人が興奮気味に刀を差し出して来た。
「コレはキミのものなのか⁉」
差し出された刀は確実に今の相棒であるアカツキそのものだ。
(起きろアカツキ!我が手に戻れ!)
(お目覚めですね!承知にござる!)
「かえして」
言うと同時に鞘に入ったままのアカツキが独りでに白衣の男の手から離れてクルクルと回りながら俺の掲げた手に収まった。
「な、なんだ今のは!」
「おお!」
「魔素の乱れ、魔力の発生が測定されました。魔を帯びた剣と共にその子供の魔力パターン一致!」
「これは、その年で『適合者』しかも『ブレイズオン』が可能なのか。流石はダンジョンの最奥で封印された少女だな。」
「研究が楽しみだよ。」
ノートパソコンを持った研究者たちが口々に俺の事を喋る中に重要そうなワードが飛び出る。
あの専門用語は何なんだ⁉
それにダンジョンの最奥だって⁉
どう見ても豪華で広すぎる和室にしか見えないのに。
だが、土足で踏み込んでいる研究者や、ミホという女性とその後ろにいる武装した人達。
確かに何処かの邸宅という平和な結論ではあり得ない。
「ミホ、一応敵影は無いとは言え最下層だ。この子を拾って早く撤退しよう。」
「俺もそれがいいと思う、何せボスを倒してそのまま来たんだ身がもたねぇよ。」
大剣やレイピアで武装した高校生みたいな制服を着た連中が、彼女に進言していた。
彼等は胸当てや肩当などを装備しており防具は心許ない。
「よし、研究チーム!そっちはいかがです⁉」
ミホは俺の手をつなぎ、辺りを見回しながら大声を上げた。
「もう少し長く居たいが仕方ない、撤収準備は10秒で済む。」
白衣の無精ひげのオッサンが、ハンドヘルドコンピュータに何かを入力しながら声を上げる。
それと同時に武装したチームも呼応した。
「よし、俺達も動ける!」
「第二チーム撤収!1つ前のエリア、ワープ盤を使用します!」
「「了解!」」
その場に居る全員がミホの判断に従いきびきびと動き始めた。
エリア?
ワープ盤?
俺は何かゲームの世界にでも飛ばされてしまったのだろうか。
それにしては制服も白衣の連中も俺がニートをしていた世界と違いはない。
どうなっている……?
「さあ、トキちゃん私たちと行こう!人も沢山居るし、美味しい食べ物もたくさんあげるから!」
願ったりかなったりだが、少々気がかりだ。
あの白衣連中に標本にされなけりゃいいが……。
「たべもの⁉くれるの?」
こうやって上目遣いで目をしいたけにしておけ!
「うんうん、そう来なくっちゃ!お姉さんがおいしいハンバーグを御馳走してあげようねぇ。」
「わーい!ハンバーグ!」
父さん、母さん、それにラドタルクの皆!
俺は別世界でも立派にやってるよ!
高校生っぽい女生徒の脛をかじって、ぶりっ子をして食い扶持を繋いでるよ!
俺、成長したかな⁉