再異世界転生~今度は謎幼女キャラで現代ファンタジー~ 作:昔邪道今王道展開好き
白を基調とした清潔な空間に、病院でよく見る電動ベッドと各種謎の機材が所狭しと押し込まれている。
爽やかな風が少し空いた窓からカーテンを揺らし、日の光が禍々しい装置を明るみに照らしていた。
それと同時に窓の外をぼうっと眺める小さな美少女が1人。
機械達から生えた幾つものチューブが突き刺さるその美少女こそ、この俺黒羽トキである。
俺がニートだった頃の世界ではどう見ても薄幸の美少女で、治療不可能な疾患を負っていてストーリー上で死ぬ運命にある設定だ。
だが内情は違うし、格好は病院服でなく貸与されたジャージとTシャツだから、なんだかしまらない。
ダンジョンの最奥で拾われた俺はそのまま研究施設に連れ込まれ、ココでまる一週間検査を受け続けている。
最初こそ良く知ってる採血やCTなどだったが、どんどんオカルト的な検査へと変わっていった。
例えば魔力測定と題して機械に手を当てるだけで何かを調べられたり、或いは属性測定として謎の液体を注射されその後の経過を見られたりした。
更には見たことのある制服の高校生が訪ねて来て、霊能測定と称して手をかざされて祖霊がどうのこうのと調べられ、魔素測定と言う魔力測定と何が違うのか分からないカプセルに入るだけの測定もさせられた。
そして仕舞いには全く意味の分からない機械から根こそぎチューブを引っ張ってきて俺の身体に突き刺し、大人しくしていろの一点張り。
なんだかもう脱走したくなってきたがそうはいかない。
「記憶喪失なんですよね、それなら第六セバーでの保護が一番かと。……ハイ、失礼します。」
あの後ワープ盤とやらを使うと、ラドタルクでの転移魔法の様に別の場所へ飛ばされ巨大な施設に着いた後、俺は一時拘束を受ける事になった。
それで俺の処遇についてミホが何やら携帯端末で喋っていた。
様子から見て相手は多分偉いさんだろう。
……見た目からして現代チックだったけど、スマホまであるとはな。
早くこの世界で自由にならなくては、元より世界救済など夢のまた夢だ。
「ねえ、トキちゃん?」
「うん?」
「トキちゃんは長く独りぼっちだったんだよね?」
「うん。多分。」
記憶喪失は断片的だと朧げに伝えた。
全くの記憶喪失であれば、全てのモノに対する反応を全て想定して行わなければならない。
例えば椅子を椅子と判断できないとか、トイレの便器と椅子の判別がつかないとか。
そんな事は到底出来っこない。
だからこそ、社会常識はあれど自分の事を思い出せない風を装った。
「だから身体になにかあっちゃいけないから検査をします。トキちゃん病院嫌い?」
「いや、べつに……。」
正直言って病院は嫌いでは無かった。
ラドタルクには無い施設だったが、幼少の頃の俺はあの静けさや一定のモラルがある様が好きだった。
「じゃあちょっと面倒かもしれないけど、検査受けてね。その後お姉さんとお喋りしよう!」
「うん!」
ミホと名乗った女の子はなかなか面倒見がよさそうだ。
これならハンバーグを奢るという話も満更な嘘でもなさそう。
病院の検査入院程度で音をあげるなんて元大の大人、元ラドタルクの勇者である俺様がそんな目に逢う訳がない!
…………。
「と思っていた時期がおれにはありました。」
少し体を動かしたり虚空に独り言を放ったり部屋の隅にあるアカツキと喋ろうとすると、機械が一斉に鳴り響く。
エラー音の様なけたたましいものでも、検査対象をなだめる合成音声でもない。
ただただ俺の行動や身体を把握する様な、シュー、という音や、ピピッという電子音が俺の行動に一斉に反応するのだ。
気味が悪くて仕方ない。
「はあ、嫌だな。はやく外に出たいな。」
ウソは言っていない。
(アカツキ、どうにか出来ないのか。)
(やろうと思えばいつでも出来る癖にやらないなら、ソレは受け入れてるって事でござる。トキ殿であれば秒で私を抜いて全てを切り裂く事が出来ます故。)
(そうかな……俺等の会話は洩れているのか?)
(拙には分かりません。ですが隠したい事であれば、念の為この会話にも話題を上げない事でござる。)
(重ね重ねの正論をありがとうごぜえますだ。)
魔剣——彼等彼女等、意志を持つ武具たちに認められるとその人格と会話が出来る様になる。
こうやって口に出さずとも、脳内でチャットをするが如く会話が出来るのだ。
俺自身頭が悪かったから補佐役が居ると十分頼もしいし、今の様に退屈してるときの相手としてぴったりだ。
だがアカツキの思案では、思念通話でもこのオカルト機械達に察知されるかもしれないとのこと。
なら大人しく1人で黙々と出来る事をやろう。
俺は度々様子を見に訪ねてくるミホにお願いをして幾つかの本を借りていた。
それが重ねてあるサイドテーブルから一冊を取り出して読む。
中学生用の近代史の教科書だ。
俺は勉強が大嫌いだが、今置かれている世界の簡単な状況は知っておきたい。
ラドタルクでは被差別部落にて何も知らずに突っ走った挙句、痛い目を見てパーティーメンバーにも失望された。
同じ轍を踏まない為にも、暇を潰す為にも文章を読んで理解するのは大事だ。
この世界では00年代の日本に超自然的に生じた異界、つまりダンジョンとそこから這い出る魔獣が現れてそれに適応していた。
ダンジョン攻略には、内部での異常な体力消耗を抑える事が出来る《適合者》が必要で個人差がある。
そして彼等を専門的に育てる国家機関として専門高校が生まれた、と記載されている。
近代史なので、当然ここ数年での出来事は記録されていないが、あのミホという女子が言っていた第六セバーという名も6番目の機関という事だろうか。
国語や数学の教科書を読んでも、元居た世界との判別がつかない程度だったから、日常が180度変化してしまった、とか滅亡の危機とかではないらしい。
「ほわぁ~わからん。難しいねぇ~。」
あくびをしながら独り言をつぶやく。
内容は嘘偽りないが、俺が目指す不思議系幼女の様に軽く演技をするのは忘れない。
その時、こちらからは開かない無骨な自動ドアが開いた。
「トキちゃん、勉強?偉いねぇ!」
「ミホ……そんな適当に見ていただけ。もう検査は終わり?」
あの時の少女、ミホが現れその後ろから研究員らしき白衣の連中がいそいそと俺からチューブやらケーブルを外していく。
「ええっと、記憶喪失のトキちゃんにはあまりピンとこないかもだけど、検査結果は本人に伝えなきゃいけない決まりだから。じゃ浅葉センセ……」
ミホと並んで立つのは俺が目覚めた時に白衣の連中の中に紛れていたオッサンだった。
白衣連中には特徴が無く覚えるのは難しいが、この人だけはピンとくる。
いつでもハンドヘルドコンピュータを肌身離さず、それでいて切れ味のある顔をしているからだ。
「黒羽トキ、検査結果を発表する。能力ランクEX、魔力、魔素共に観測データ解析不能。現時点では大容量としか判断できず、コレが戦闘にどう直結するかも不明である。また身体の形状も極めて不自然であり、外観で判断できない筋力や精神力が期待できる。……簡単に言うと訳の分からんスーパーマンだな。」
いやあ、やっぱり元勇者は転生先でもチート級でしたなんて事じゃないの?
これからは能力をそそくさ隠しながらバラ色の生活が待ってるんだなぁ~。
……なんてな。
「浅葉先生、ランクEXなんて……それじゃ彼女これから検査漬けなんじゃ。」
ゲッ……。
EXなんて仰々しい響きは喜ばしかったが、不明不明の連続じゃあ確かに処遇はそうだ。
それにミホ嬢の不安そうな顔と言ったら。
ランクEXの連中が辿る末路はバラ色では無いんだな。
「その通り、例に洩れず人類の発展の為黒羽クンには標本になっていただきたいぐらい——。」
「浅葉センセ!小さな子を怖がらせるのはサイテーですよ!」
「ハハハッ、そんな顔しなさんな2人共。外見で判断できない筋力と精神力が見込めると言ったろ。これから行う戦闘テストで役に立つと証明できれば、標本から検査しながら学園ライフくらいには昇格できる、心配するな。」
強張った顔を緩めないミホと、安心できるんだか出来ないんだか分からない発言の浅葉という男。
だが、これで少しはつかめた。
学園ライフという言葉からすれば、ミホが所属するのは高校生気分を味わいながらダンジョンで仕事ができる組織なのだろう。
それに浅葉の言う通りなら、好都合だ、ラドタルクの勇者の力の一片でも見せれば合格はするだろ、多分。
「あ、心配しないでトキちゃん。トキちゃんには暁がついてるもんね。」
「言いにくいでしょ、トキでいい。」
「……じゃあトキ、一応その刀で戦う事はできるの?」
チューブの無くなった身体を起こしてベッドから降り、置かれているアカツキを握って宣言してやった。
「できる。みじん切り。」
お前たちの用意する魔獣がどんなものか分からんが、全て断ち切ってやる!
の意だ。
「みじっ……でもやる気があるのは良かったわ。」
(トキ殿にはセリフ省略のセンスはない様でござるね。)
浅葉の案内通りにミホの後に続いて施設の中を歩く。
彼女は慣れていそうだったが俺は長居したくない場所だ。
延々と人がランニングマシンで走らされている小部屋だったり、大の大人が10人ぐらいで輪になって無言で見つめ合っている薄暗い部屋だったり、手術台に乗せられた非検体を前に魔的儀式か何かを行う部屋も沢山あった。
恐ろしくて何とか彼等と目を合わせずに浅葉についていき、何らかのドーム状の建物に着いた。
そこから幾つかあるうちの1つの入場口の前に立たされ、待たされる。
数分の後、浅葉が戻って来た。
「それでは黒羽トキ、これより戦闘テストを始める。立会人は河合光穂、今回は入学テストに準拠しDクラス相当の魔獣『ヴァルツァー』1匹を討伐対象とする。河合は僕とモニタ室へ、黒羽は目の前の扉が開いたら入り魔獣を倒しなさい。」
「はい!じゃあトキ、がんばって。」
「おうよ~。」
ミホは小さく手を振りながら浅葉と共に別室の方へ向かった。
そして俺の前の頑丈そうな扉が独りでに開く。
「アカツキ、おれ、わすれてた。」
(なんでござるか?)
(俺刀で戦った事無かった……。)
これ、結構致命的じゃないのか⁉
だが『ヴァルツァー』一匹程度……うん?
ラドタルクのモンスターが何故ここに⁉
しかも文化や歴史何もかもがかみ合わない世界で、命名すら一緒だなんて!
いや、こんなところで混乱しているわけにはいかない!
とりあえず用意された敵を倒さなければ!
(ド素人でも手にした時から戦える。ゆりかごから墓場までがインテリジェンスウェポンの骨頂にござる、己が手腕を信じられぬ時拙を頼られよ。)
(——そうか、イレイザーの時もそうだったな、よし行くぞアカツキ!)
意を決して開かれた扉に飛び込むと、広い洞窟の様な場所を模したドームがそこにはあった。
頑丈そうな扉が音を立てて閉まるとブザーが鳴り、虚空に闇が集まり始め集合体となってやがて一匹の翼を得たトカゲの様な魔獣が現れる。
魔獣『ヴァルツァー』の出現だ。
ヤツは鳥の様なけたたましい鳴き声と共に突撃してくる。
俺はそれをひらりと躱し、アカツキを抜刀した。
幾つかの構えを試したが全くしっくりこない。
戸惑っている中、『ヴァルツァー』は口から火の弾を俺に向けて吹き出してきた。
「じゃま!」
思いがけず可愛らしい声を出してしまいながら、その弾を真っ二つに切る。
反射的に出したその技は片手で繰り出されていた。
しかし刀は両手で持つものではないのか……しかもアカツキは俺、トキの身体に対して片手で持つには大きすぎる。
(戦に迷いは禁物!その技は経験により出でしモノ、自分の直感を信じよ!)
俺の気の迷いにアカツキから喝が入った。
「おうともさ!」
迷っている間に背後を取られたのか、敵の気配は自分の背にみるみると近づいていく。
ここで重心を一気に降ろして、ある事を思い返していた。
義賊と共に飛び回った日々に手にしていたインテリジェンスウェポン、短刀の『サルザール』を振るった経験。
己の直感のままに飛び上がり、身体を回転させると、丁度目の前には『ヴァルツァー』の背が見えた。
そのままアカツキを振り下ろし、綺麗に一刀両断させる。
俺の着地と共にその死骸は闇となり周囲に溶け込んでいった。
闇が全て消え去るとブザーの後、ミホが俺に駆け寄ってくる。
「すごい、すごーい!その歳でヴァルツァーを一撃なんて!将来は立派な『対魔獣士』になれるよ!」
「たいまじゅうし?」
「魔獣を倒すプロの事。」
ミホに抱き寄せられながら頭を撫でられる。
こんなの俺が小さかったころ母にされて以来だ。
——アンタみたいな穀潰し私の息子なんかじゃない!
……いいや、その感覚は思い出さないでおこう。
それにしても、魔獣殺しのプロが居ながら高校生がダンジョンを潜って魔獣と戦うとはどういう了見なのだろうか。
まさか、魔獣に対抗できる人間が少なすぎるという事なのか。
そう言えば今が西暦何年なのか調べても居なかった、社会常識は結構盲点だぞ。
「黒羽トキ、戦闘しかと見させてもらった。そして解析も終了した、今ここで結果を告げる。」
別の部屋から音声を送ってきているのか浅葉の声がドームに響く。
「お前の戦闘ランクはDに決定だ。」
……なんだかえらく低評価だな。
大したダメージも受けず、一撃でヴァルツァーを両断した。
確かにラドタルクの冒険者ギルドでは、低ランクの人間に駆除を任せられる程度のモンスターだった。
しかしこの世界において数十年前に現れた魔獣という存在に、この程度で対応できる人間は少ないんじゃないのか?
「おお、おめでとう!」
ミホはさっきから喜びっぱなしで頭をしきりに撫でてくる。
「う~ん、Dって低いんじゃ……」
「そんなこと無いよ!ね、浅葉センセ!」
どこから音声を取っているのか、ミホの声に対応してスピーカーから浅葉の声が聞こえる。
「うむ、新入りのテストにおいて上限はCランクだ。今の戦闘を解析に回した結果、最初の数秒の戦闘は素人同然。ただし最後の曲芸は達人の域との事だった。」
解析って言うのが何に解析させているのかわからないが、まるわかりというのは随分気に入らない。
戦い方が少しの時間で露呈されてしまうのであれば、真の実力の様なものは隠しておくべきかもしれない。
たとえ味方であろうが、組織という存在に手数が全てバレるのはよした方が良いしな。
ミホに撫でられながら気配を感じて6時方向を見れば、ヘッドセットを肩にかけた浅葉が歩み寄って来ていた。
「自分の得物、特に《ブレイズオン》した武器を使いこなせないのは痛恨の減点対象だ、しかし解析不能ではあるが膨大な魔力や魔素、そして後半の曲芸で見られる身体能力。激しい減点と激しい加点が合わさり、結果は普通という意味でDクラス。」
彼はブツブツと俺のテスト結果を言いながら俺の肩に手を置く。
「しかし、その歳でココまでやれるなんて。随分優秀だと言わざるを得ない。」
歳、歳って……。
結局俺自身、トキとしての歳なんて分からないし。
いや、俺の肉体はくまなく検査されたんだよな?
「あさばセンセ」
「お?どうした黒羽クン?」
「おれの歳っていくつ?記憶ない。」
直球で疑問を投げかけたが、その返答には顔を顰める様だった。
「う~ん、背も極端に低い訳でもないし知能もそこそこある。しかし、体細胞や内臓からするに、お前さんは大体12歳程度だろうな、断言はできないがね。」
その返答に衝撃が奔った。
あれほど不思議系美幼女を目指すと言っておきながら脳内で勝手に14か13ぐらいを想定していたのだが、まさかそれを下回るなんて。
「じゅうに⁉ろ……ガチろり。」
「ま、まあトキは十二分にロリだけど、自称するのはちょっと……。」
ミホは俺の頭を撫でるのを辞めて、ほっぺたをブニブニとつつき始めた。
(改めて歳を言われると本当に童にござるな、打刀の拙が大きく見える筈でござる。)
(子供だろうと何だろうとランヴェルの力が使えてアカツキのスペックが引き出せるのならなんでもいい、どうだ?)
(この拙にお任せあれ!ただの童であろうと振り続けるだけで名人になりますれば!)
「はぁ、これからどうなるんだろう。」
「そんな疑問を呈する黒羽クンに朗報だ、お前さん飛び級。今春からウチの第六セバーに入学で一年生だからな、メシ喰い放題、寮も完備。」
学園ライフ……。
陽キャやヤンキーにビビりながらゲームや漫画に逃避する日々をまた送れって?
そんでテストは赤点だらけで補修のフルコース?
どうしよう……ちょっと不安だ。