再異世界転生~今度は謎幼女キャラで現代ファンタジー~ 作:昔邪道今王道展開好き
エレベーターで上層へ移動しながら、寮についての説明を受ける。
どうも寮というよりビジネスホテルみたいだと思った、内装が落ち着いていてかつ綺麗なのだ。
エレベーターから降りて、少し移動し角部屋の前まで来る。
「で、ココがあなたのお部屋ね。」
ミホがドアの鍵を開けて彼女に促されるがまま中に入る。
普通のワンルームめいた部屋で、ベッドや家具が備え付けになっていた。
「パソコンとかゲームは?」
「無いに決まってるでしょ、欲しかったらお金を稼いで買うんだよ。」
幼女にアルバイトは無理だろ。
と思ったけどこの口ぶりや俺のゲーム脳は別の真実に気が付いている。
「お金ってどうやって稼ぐの?おれじゃバイトも雇ってもらえそうにないよ。」
「魔獣を倒した時に魔石っていう宝石が落ちる事があって、それを直にセバーに買い取ってもらうの。ちっちゃいトキでもお金稼げるよ!」
「よかった。」
よかった……本当に。
ニートだった頃は単発バイトですら怒鳴られてクビになるぐらいの無能さを発揮するから、何かに雇われるのは本当に向いていない。
普通にアルバイトして稼いでくださいなんて言われていたら、アカツキ片手に強盗していた所だ。
「で、事情が事情だからお洋服とか制服も勝手に用意しちゃったから、入学式の前に着てみてね。」
ドサドサと大き目のボストンバッグが複数地面に落とされる。
「制服?着なきゃダメ?」
「私服での登校は禁止だよトキ。」
ボストンバッグからぞろぞろ服たちをとりだしてベッドの上に並べる。
やはり最初に出逢ったときから今に至るまで、ミホが着続けているのがこの制服というわけだ。
そしてそれが意味する所とは、休日や外出以外では基本制服という事なのだろう。
デザインに関しては所謂どこにでもありそうなブレザータイプで言うこと無しだ。
他には妙なセンスなダボダボTシャツや変なネコめいたキャラクターのシャツ。
清楚系を目指せるワイシャツ等、お洒落アイテムの他に色気のない下着がぽろぽろ出てくる。
「おお、下着まで。」
「そう、トキちゃんはぁ~もう12になるんだから流石に胸は保護しなきゃね~。」
ガチャンと扉が閉まる音がする。
え?
あれ、何で個室を作る必要が⁉
「じゃあ、これもオトナのお姉さんになる為の訓練だから、ブラジャー着けてみよっか!私が手伝ってあ・げ・る!」
み、ミホさんの顔が怖い……!
「え、あ、ちょっと……くすぐったい……。」
女性の身体を触ったことは無いとは言わないが、俺が女性側だった事なんて無い。
もはや恥も何もかも忍んでミホに一から十までそこのところを教えてもらうつもりで挑んだ。
……が、数分と持たず着せ替え人形みたいにさせられる俺。
「な、なんかおっきい。ダボダボ。」
「かわいいねぇ!それパジャマがわりに使ってね!」
ヘンテコなネコのキャラクターが全面にデザインされている妙なTシャツは俺の上半身だけでなく足まですっぽりと届く。
「これ……気に入った。」
普通の白いシャツに大人しいグレーのミニスカート。
「制服風なんだよね、ワイシャツとシックなスカート。大人しい子風でトキにはお似合い!」
制服で外に出るなとは言われていないし、お世話になることもあまりないかも知れない。
だが、シンプルイズベスト。
可愛さを武器に出来て尚且つ、おかしな目で見られないお洒落な装いは俺にとってプラスだろう。
……しかし、寮の案内なのにこんな所で着せ替えショーをやっていていいのだろうか。
「じゃあ最後に制服を着てみましょうか!」
「なるほど。」
確かに寮の案内時に他の生徒らしき人達からジロジロ見られた。
外部の人間だと丸わかりだったということだろう。
これから先、寮を歩くにあたって制服の方が良いって事か。
「うんうん、十分お似合いだよ。ウチの制服は特別で、頑丈かつ魔力を高める効果も秘めていて便利だよ。無くしたら怒られるから気を付けて、でも損傷したら取り換えてもらえるから。」
姿鏡の前に立つ俺。
制服に着られている様な幼子。
顔は嘘の様に整っていて、誰もが認める美少女にやがて成長するだろうお顔だ。
やがて、がミソで今はなんだかほっぺがもちもちしているぷにぷに幼女感がぬぐえない。
不思議系ってのはミステリアスな雰囲気が纏えないといけないのだが、路線変更は無理だろうか。
無知ロリってのは演技が疲れるし、今現在も不思議系特有のテンポがズレた会話を演出するのに疲れ始めている。
それに人から何かを聞き出す時は自然と口数が多くなるモノだし、表じゃ不思議、裏じゃ実はしっかり者って感じでどうだろうか。
「それじゃあ改めて寮を案内するからお部屋から出ましょ、あとこれがここの鍵。無くしたりしたら大変よ。」
寮としての共用部分は1階2階に集約されており、ココからダイレクトにA棟からF棟まで自在に戻れる様だ。
ビジネスホテルみたいだと言ったが、このシステムはリゾートホテルに近いかもしれない。
一通り多目的室やホール、ラウンジ、実戦ドームなどをぐるりとして、目玉である学食にやってきて腰を落ち着ける。
「基本的に22時以降は外出禁止、共有部の機能も落ちちゃうからそのつもりでね。学食は残念だけどお金がかかるから、ちゃんと用意して来る事。先輩の中にはツケ払いをしてる人たちが居るってウワサだけど券売機制でどうやってツケなんかしているんだろう。」
晩御飯にうどんを啜るミホ。
俺には約束通りハンバーグが出されており、肉の上には旗が立っていた。
最近じゃ見ないな、ハンバーグの旗……っていうか子供扱いしすぎじゃないか⁉
立っていたシーランド公国の旗を綺麗にして取り除いてから食べ始める。
「おや?貴女がウワサの飛び級少女?」
普通の人間の気配だったし声をかけられると思わなかったから無視していたが、急なご指名で焦る。
「む、むごご!」
「こらこら、のみこんでから喋りましょうね。」
いや、そりゃそうだけど。
こんなんお母さんと娘じゃん!
12歳ってそんなにガキんちょ扱いされるのが普通だったっけか?
「ふう、よろしく。おれ、黒羽トキ、未来のエース。」
「はっは!これは頼もしい事ですね!」
「ごめんなさい、会長!ほら、目上の人には丁寧語を使いなさいね。」
だ、だめだ!
ラドタルクの世界で丁寧語なんて本当に国王とか親身な貴族相手にしか使わなかったから出てこない!
それに、生意気なエースっぽい演出もこの容姿じゃマジで逆効果だ!
「おれ、黒羽トキ……です。よろしくおねがいします。」
「うん、私は
「門坂さんは私と同じ春から2年なんだけど、3年生を押しのけて会長にまでなっちゃったすごい人なんだよ。」
朧げに彼女と握手を交わし、ハンバーグを食いに戻る。
ミホは何やら世間話をしているが、あまり内容は理解できない。
研究施設に居た時、窓の外から流れてくる空気は若干寒いものだったし、これから入学の下りや春から2年の下りも合わせれば今は3月下旬なのだろう。
テレビも備え付けられていない上に、今だ端末の類を持っていないから日時が分からなくて若干不安だ。
それにしても、初めてミホと顔を合わせた時彼女は学年をさばよんでいたんだろうか。
それともこの施設では年度ではなく年で学年が変わるんだろうか。
「いやあそれほどでも。っとと、まだやんなくちゃいけない事が沢山だ。これにて失礼!」
「ええ、会長もお忙しいのは分かりますがご自愛くださいね。」
「ごきげんよう。」
「お嬢様じゃないんだから、そこはさようならでいいわよトキ。」
本当に忙しかったのか、話も早々にスタコラと帰っていく生徒会長殿。
……だが、握手した時の魔力、魔素の流れ。
既視感がガツンガツンと頭に侵入してくる。
何かに気が付かなければならないという強迫観念を振り払って、口元のソースをナプキンでふき取った。
今深刻になっても仕方がない。
それにちゃんとミホからツッコミが入る程、ボケ役になれたという事。
不思議系への階段を着実に上っている事に喜ばなければ。
「じゃあ、これで一旦終わりだけど何か質問があったらいつでも呼んでね。これ支給品の携帯端末、トキのよ。」
食べ終わった食器たちの中を縫ってこちらに差し出されたのが無骨なスマホだった。
起動してみると、どうもOSが俺の知っているものじゃない。
そりゃ元の世界とは別の歴史をたどっているんだ、中身が別でも不思議じゃなかったな。
「携帯端末も私達セバー生徒専用で、魔素によるサポートやスキル登録なんかに必須なの。入学の後最初らへんの授業でオリエンテーションあるからきちんと受けてね。」
……すごいな。
って事はこの世界はSFファンタジーに片足をつっこんでいるっぽい。
魔力やら魔素やらってラドタルクではおなじみのワードが出てきたから、少しはそんな気はしていたが、まさか電子機器と魔力を組み合わせる事が出来ていたなんて。
そうなると検査室の機材も当然そんな構成なわけで、そこで解析不能な俺の魔力や魔素っていうのはなんなんだろう。
それにスキルっていうのもラドタルクではおなじみだった。
妙にクサいぞこの世界。
ラドタルクのモンスターに、同じ概念である魔力や魔素、そしてスキル。
そして神の転生に対して追従できていたアカツキ。
「はーい、それじゃミホとはここでお別れ?」
「うん、ごめんだけど付きっきりって訳にもいかないからね。それじゃあ、良きセバーライフを!」
彼女はうどんの容器を返却棚に返して去っていった。
ゴールデンタイムの学食だって言うのに人でごった返していない上、割り振られた部屋の隣の号室も、その隣の部屋も空き部屋に見えた。
まあ、入学式から後に入寮が始まるのかな?
っていうかセバーライフってなんだ?
とりあえず出来る事もする事も無かったので、大人しく割り振られた部屋に帰る事にした。
ドアを開けてしっかりと施錠し、ベッドに座る。
ココから見えるデジタル時計は2015年の3月30日20時を示している。
……そうか、この世にダンジョンと魔獣が現れてからたった10年と少々。
その最中、対魔獣のため学徒であろうが動員させるのは仕方のない事なのだろうな。
俺はミホに貰った施設のパンフレットや重要書類にさらさらと目を通した。
セバーは施設名称であると同時に生徒たちの固有名詞でもある、内情は《適合者》の若輩を集め高等教育と同時に将来対魔獣の戦力となる様に指導する施設であるとの事。
以前近代史を読んだ時に思った専門学校みたいだという感想はあながち間違いではなかった。
しかも、在学中に企業からのスカウトがあったり、卒業すれば国家資格を得られたり、そもそも国営であり入学費も割安であるらしい。
そりゃあ今の世の中に魔獣を殲滅できる人材はのどから手が出る程欲しいだろうさ。
そしてそんなセバー達は、校内のダンジョン攻略や魔獣撲滅に対して報酬とランク付けを行われ、それが国家資格にプラスされて将来を左右させられる。
簡単に処遇の部分に目を通したが、そんな感じだ。
今得られる金や今後の地位、名声がこのセバー内の生活ですべて確定してしまいそうな勢いに思わず嫌悪感を抱く。
俺からすればこの施設に入学できる時点でエリートな気がするんだけどな。
ニートだった頃の俺だったらそもそも『適合者』ですらなれなさそうだし。
自虐しながらファイルをめくると、自分の写真が貼り付けられた仮の身分証と検査結果報告書の様な物が現れた。
『黒羽旬/MA:Ex/FAC:D/Pe:A』
浅葉とかいう白衣の男に宣言された通りのランクが付けられている。
結局魔力、魔素値がEXと判断された事は消えず、しかもマイナス印象なのが気に食わない。
身に纏う魔の判別がつかないってのはしょうがないとして、量がめっぽうあるんだからそこを評価してくれてもいいのに。
他の測定値は俺では想像がつかず、Dって言うのはテストでの戦闘評価だからFACはそれに起因したものだと思うんだが、最後の項目は何なんだ。
しかも、それだけではなく小さくぞろぞろと文章が書き連なっており、裏面にまでびっしり記載がある。
……わざわざ読みたくない。
現実逃避に再度写真を見てみたが、確かに黒羽トキは見たら撫でたくなるような可愛さがある。
ミホの可愛がりっぷりはしょうがないなぁ。
——さて。
たしかに今後のセバーでの生活は俺にとって重要だと理解した。
しかし、それ以上に重要なことがある。
卒業を目指しながら暗躍をしてこの世界の仕組みを調査し、なにやら『救う』事が出来ればまた神様に褒めてもらえると。
ヤツが言っていた俺がこの世界に転生して来た理由だ。
……神からの報酬と裁き。
それを考えた時にふと気が付いた。
自分の今着ている制服、重要な書類が全て詰まったファイルや元々着ていたボロの和服をまさぐっても全く見つからない。
アカツキまで抜刀して確かめてみたがどこにも無い。
(さっきからドタバタと落ち着きがないでござる、一体何をしているので?)
(『猶予時計』が無い!アレがなければ、指標が立てられん!)
(ああ、この世には無いみたいでござる。)
「無い⁉」
すこし大きな声を出してしまったが、某建築物の様に壁は薄くなさそうだし、そもそも隣は推定空き部屋だ。
「確かに今回、ヤツは時間の指定や解決すべき事象の念押しをしてこなかった。それに俺も今回は『猶予時計』を貰った記憶がない。」
(じゃあ無期限という解釈で問題ないのではござらんか、また呼び立てされたら文句を言えばよいのです。)
「……イレイザーの成果って事だったりしない?」
(流石の我らでも、幾つも神に反抗は出来ないでござるから多分そんな事はないのでしょう。)
今回は神による裁きも…………裁きが無ければ報酬も無い?
道理だ。
っていう事は今回この世からの転生も無い。
つまり俺は、元、大元の俺に戻る事は終ぞ出来ないって言う事なのか⁉
……。
勇者ランヴェルを惜しむ気持ちは確かにあった。
皆が俺を讃えてくれ、皆が俺の道程に驚嘆し、皆が祝ってくれる、あの勇者。
今はソコから力を引き継いでいる。
希望はある。
しかし、大元の俺、黒羽シュンはどうだろう。
誰からも必要とされず、誰からも称賛されない、罵倒され続ける日々。
そして自分も自分を不必要に思う、そんな世界。
(トキ殿は……ランヴェル殿だった時もそうでしたが、随分センチメンタルな方にござるな。)
「おれの苦しみを分かってくれとは言わないが、それを愚弄するのか。」
怒りではなく、悲しみが俺に禄でもない発言をさせる。
自分ながら子供じみた口答えが出てしまったのは、この外見につられたのだと思いたかった。
(いいや、それどころか拙からすればそれこそ真とお見受けいたす。自分で自分を必要とする事、それが人の生の一歩目ではござらぬか。)
「当たり前すぎて見落としがちな事だが、アカツキのいう通りだな。」
(拙は生まれた時から刀でござるから、トキ殿に説法できる立場には無いのですが……。申し訳ございません。)
「いや、いいさ。」
そうだ、ただ生きているだけで容姿が可愛い女の子になったんだ。
しかも魔獣と戦う力まである。
……そして何より若い。
また同じ失敗を犯すとしても、再び自分の手の内に湧いた希望を無くす選択肢は除けやしない。
——俺は黒羽トキとして精一杯生きる、この世界で。
若ければ可能性がある、再びその若さに溺れようとも今はその事を喜びたい気持ちだった。