再異世界転生~今度は謎幼女キャラで現代ファンタジー~ 作:昔邪道今王道展開好き
灼熱の地獄がそこにはあった。
家々は破壊され、田畑は焼かれ、人々も焼かれた。
夜空には竜が襲来し、広場は魔獣が闊歩し、人の気配は既に感じられない。
炎が燃え盛る音だけが正常であり、それが延々と続き町を覆っている事が異常だった。
その光景を、今も覚えている。
目の前で世話になった村が破壊されつくし、逃げる事しか出来なかった。
「今、はっきりと分かったぞ!」
あの時と同じ、町を破壊しつくす炎が燃え上がる。
違うのは、己の力、そして町。
時は過ぎてもまた同じ惨劇が繰り返された。
そしてその衝撃はそれぞれの人の心を蝕む。
彼もまたそうだった。
「お前のせいだランヴェル!お前がトゥリオおじさんと皆を殺した!」
俺が転生して6カ月、何も分からずに彷徨っている最中世話をしてくれて、世界の事を教えてくれた人たちがいた。
目の前で俺のせいだと、憎しみを顔に出して叫ぶ男はその中の1人だった。
俺にとって兄貴分と呼べる男。
「兄貴!一体何を言っているんだ⁉」
「ランヴェル!ヤツは気が触れている、魔族に心をやられたかもしれない。」
勇者として旅に出てから仲間になった戦士、ヘルマンが俺を庇う。
「どいていろヘルマン!これは俺とランヴェルの問題だ!」
言葉が一応通じる様を見て、ヘルマンは戦斧を構えながらも俺から距離を置く。
「思えばそうだった、連中が何を狙っていたのか!孤児院だ!執拗に狙っていた……」
「でも俺は兄貴の機転のおかげで、そこから助かったんだ、感謝している!」
「うるさい!オマエをあの時助けるんじゃなかった!」
兄貴——ステリオの腰から長剣が抜かれ、切っ先が俺を向く。
「や、やめてくれよ兄貴……意味が分からない、俺が殺したって。」
「孤児院に居たのはルカやキアラたちだけでなく、お前も居た。連中はお前を狙っていたんだ!勇者のお前を‼」
激昂はその手を震わせ、切っ先は定まらない。
しかしその怒りの強さはヘルマンが身構えるに値するモノだ。
そして、口から発する言葉は俺を絶望へ突き落す。
「各地で勇者、勇者というから会いに行けばお前が居た。出逢ってからも、もしや、と思っていた。」
「俺、俺だってそんな!」
「最初からお前は勇者の自覚があったんだ!……魔族に狙われている身と知りながら、何故エンバーの村に留まり続けた‼答えろ‼」
兄貴のいう事は至極的を射ていた。
俺は元の世界からこのラドタルクという世界に連れてこられた時に、この世界での役割を与えられて、それを覚えていた。
それにも関わらず、己の責務から逃げ出して人の温かみに溺れていたんだ。
「……こ、怖かったんだ魔獣と戦うのが、魔族と戦争を始めるのが怖かった!」
思えば俺のこのセリフが火に油だったかもしれない。
しかし、出た言葉を取り消すことは叶わない、そしてその言葉に嘘も無かった。
「怖かった、だと⁉勇者のくせに、そんな事で皆を死なせたのか……!」
「ご、ごめ……」
「いいや、欲しいのは詫びの言葉じゃない。死んで償え、勇者ランヴェル!」
死ね、と言われたが兄貴は何も動く気配を見せない。
ただただ、剣を俺に構えながら怒りに震えるのみだ。
「どうした!剣を抜け!この期に及んで俺を、死んでいった村の皆から目を背けるか!」
「戦え、ランヴェル!この男の話がどこまで本当かはわからんが、真だとすればお前には戦う義務がある。勇者、いいや1人の戦士として剣を抜け!」
この時はヘルマンさえも叫び、俺の事を責めている様に感じていた。
あの時と同じ、火と、怒りと、悲しみが渦巻いている。
(打ち倒せランヴェル、過去を清算する時だ。)
脳裏に響く低いイレイザーの声。
「うっ……うわああああッ‼」
俺はイレイザーを鞘から抜き放ち、身体を震わせながら兄貴分に斬りかかった。
——
————
「うわあアッ‼」
「うるせえ!急に大声出すんじゃねえよ!」
「……‼」
気が付くと、オレンジ色の夕日が差し込む病室の様な場所に男子生徒と共に居た。
彼はベッドの上で胡坐をかいていて、俺はパイプ椅子に座りながら上半身をそのベッドに預けて寝ていた様だ。
懐かしくも、悲しい夢を見ていた気がする。
いいや悲しいのは俺じゃない、ステリオの兄貴の方だ。
「ご、ごめん。……あれ?」
目じりから水が滴り落ちていた。
「なんかよ、お前寝ながら兄に謝ってたぞ。悪い事したなら本人に謝るんだな。」
「謝ったけど、分ってくれなくてそのまま。」
そう言えば、周りの大人の助けを借りてリュウジを保健室に連れて来たんだ。
それで保健室の先生が軽く身体の様子を見て、経過確認としてベッドに彼を寝かせて、俺が付き添っていたんだった。
……途中で寝ちまったのか。
「……そうか、涙を流すほどつらい事か。」
冒険を続け魔王を倒す為、ヘルマンに戦士として認めてもらう為、それにあの場所に居なかった仲間にとって勇者となる為……彼を殺した。
ステリオが斃れたおかげで、ランヴェルという勇者がラドタルクに現れて数か月の間腐っていた事実はエンバー村と共に消え去った。
俺のしでかした事は、自分が涙する事さえ許されない行為だろう。
そういう悔いと共に、大の大人が涙を流すと言う恥ずかしさも相まってリュウジへの答えにつまってしまった。
しかし、今の俺は幼子なんだ。
わんわん泣くのは、流石にはしたないが少し涙を流してしまった事を認めても良いだろう。
——すまん、皆。
「ううん、もういい。それより、起きたから先生を呼ぶよ。」
涙の跡を拭き、先生を呼ぶブザーを鳴らしに行った。
「いい訳ねえだろ、言いたくなった時でいいから聞かせろ。全部聞いてやる。」
少し手を触れるだけで押したことになるブザーに指を3秒、4秒の間置き続けてしまった。
手を払って、声の主の方へ向き直る。
黒羽トキの何が彼を執着させるのか。
……出逢って始めての日だと言うのに、俺を庇い俺に興味を持ち、俺と共に行動した。
——そう言えば、勇者の仲間、ランヴェルの旅路で彼に同行した者達とパターンが似ている。
出逢って、互いに無視できなくなり、仲間にならざるを得なくなり、旅路で絆を深める。
「どうして?おれ、お前に会ったの今日が始めて。なのにどうして。」
「……俺には妹が居た、居たんだ。似てる、お前が……雫。」
虚ろな、そして極めて小さな声で漏らした。
誰だ雫って。
だが、まあそんなところだろうと思ってはいた。
「私はトキ、雫じゃない。」
「どうでもいい。雫に似ていた、それだけでいい。」
気持ちの悪い男だ。
だが、諦めが悪い所、闘志を失っていない所が俺に刺さった。
そんな間の悪いタイミングで扉がガラガラと大きく、ワザとらしく音を立てて開かれる。
「ああ、黒羽さん、本当はもっと早く来る筈だったんですけどねぇ……ド忘れしちゃって、あはは。」
白衣を着た妖艶な女性が、へらへらと笑いながら現れた。
彼女こそが保健室の先生なのだが、全くのステレオタイプで、上役の連中が見た目だけで選抜したのかと思えるほどの美人さんだ。
「生徒がケガして寝込んでるっていうのに、ド忘れ。薄情。」
「いやあ、失敬失敬。でも、運ばれてきた時点で痛い、痛いとは言っていたけど回復魔法が掛かっていて、問題なさそうだったし。」
あははは、と愛想笑いを忘れない。
保健の先生は、この施設の先生らしく魔術や魔素の判別に長けている様だった。
……彼女の言に嘘偽りが無ければの話だが。
「いーや、心配してくれなくてもいいぜ先生。俺はこの通り十分休んだからよ、明日からまたぶん回せるぜ!」
「あら、若いっていいわねぇ。お姉さん惚れ惚れしちゃうわぁ。」
リュウジの事を若いとは言うが、彼女も十分若い。
30に届いていないんじゃないだろうか。
そんな彼女の前では男として張り切ってしまうのか、肩を大きくブンブン回し始める。
「うへへ、どおっスか俺の若さ溢れるボディー‼ッ!いてえッ!」
お調子者は数秒で終わり、身体に奔る痛みに悶えた。
「はい、わかったら今日の内は大人しくしておく事。真っ直ぐ自分の部屋へ戻って寝ていなさいね。」
「グウッ……わかったよ、
「それから、トキちゃんは浅葉先生が呼んでたから今日中に職員室へ出頭すること、いーい?」
俺なにかやっちゃいました⁉
……そりゃあ、推定友人をケガさせたんだからお叱りがあってしかるべきかもしれん。
「あい、職員室……ってどこだっけ?」
「校舎の2階よ、迷ったらPDAを使うか案内板を見なさい。早くココに慣れるためにも、ネ。」
リュウジと大丸に手をぱらぱらと振って背中で別れを告げ、廊下を進む。
教えられた通り、PDAでマップを確認しながら自分の位置を把握して、階段を上った。
ディスプレイは17時を回った事を示しており、人がまばらな校舎の意味を知る。
リュウジと一緒に保健室でお昼寝を始めた時は確か14時手前だった筈、随分と一日を無駄にしてしまった気分だ。
……だが、もう逃げ出したい現実や、迫ってくる期限は無い。
どんな体たらくで過ごしていても良い筈なのに、俺は未だに昔の恐怖に縛られていた。
「おっと」
「ヴェフッ!」
何らかの壁に正面からぶち当たってしまったのか、俺の口から勝手にへんな呻き声が出てしまった。
「歩きスマホならぬ歩きPDAは未熟の証拠だ、ダンジョンで位置を確認するのに夢中では敵と戦えないぞ。」
後ずさって当たった相手を見てみれば、長髪のイケメンだった。
リュウジと比べると線が細く、かといって筋力も劣らぬ感じ。
そして一番の目玉はその美貌だ。
男性アイドルグループのトップを張っていると言われても信じてしまいそうな顔。
「だいじょうぶ、いま油断してただけ。おれダンジョンじゃ気をぬかない。」
「キミ……噂の飛び級チャンかな?」
ニヤリと笑って俺の目線まで屈む彼。
あら……さっきのセリフじゃマジメ一貫って感じだったと思ったのに。
「2年1組、
何故かシェイクハンドでなく、サムズアップ!
「ええっと、おれは1年5組黒羽トキ。……よろしくぅ。」
俺も真似してサムズアップだ!
そして2人してその拳をぶつけ合った。
「いやぁ、学級新聞が出てからいの一番で会いに行ってやろうかと思ってたんだ。廊下でばったりなんて、こりゃ運命だねぇ!」
運命感じちゃう!
当校初日にイケメン2人と交流を深める幼女俺、始まる乙女ゲーの予感⁉
……いや、正確に言えばミホや浅葉を入れればイケメンだらけってワケではないんだが。
お、おいちょっと待て。
コイツ今何て言った⁉
「学級新聞……?」
「あー新入生だもんなぁ、生徒会が発行してるんだ。ほら見てよ、ココ!」
うれしそうにブレザーの内側から、畳んだ新聞めいた物をバサァっと広げる彼。
そして素早く見せたい所を指で指す。
「噂の飛び級美少女の正体はいかに……」
「こらこら、美、なんてどこにもついてませんから。」
ったく珍しいってだけでやり玉に挙げやがって。
ツッコミを受けながら、マスコミの嫌な部分を感じつつ音読する。
ほら、黙読だと嫌な間が空いたり相手が自分のターンを自覚できなかったりするじゃん。
俺流の心遣いってワケ。
「若干12歳の彼女は何処からともなく入学し、すれ違う人々に《ブレイズオン》した愛刀を見せつける……。」
「うーん、すごいねぇ。1年じゃ周りの連中、それこそ1組でさえも《ブレイズオン》できる連中は2人か3人だよ。」
そう、ココだ。
圧倒的専門用語の多いこの世界で、知らない事を野放しにしているとこうなる。
なんだよ、見せつけるって!
別に俺はアカツキをこれ見よがしにしたいわけでは無いんだ。
(拙は一向に構わないでござるよ。)
イレイザーだって、知り合いに専用の鞘を作ってもらって仕舞っていたし。
「なに、《ブレイズオン》って。おれしらない。」
「……本当に?本ッ当に知らないでその刀担いでんの?」
さて、選択肢だ。
出逢ったばかりのミーハーイケメン君へ、正直に知らないと言うか。
あるいは祖母の形見だと言い訳するか。
……言い訳して後でコッソリPDAで調べるのがいいかもしれない。
あ、アカツキ知ってたりしません?
(都合のいい時に、都合よくモノを知ってるわけではござらん。拙もラドタルクの刀故。)
くそ、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ!
「しらない。アカツキは相棒、それだけ。」
「相棒ねぇ……」
ヒサトの眼が妖しく光った……様な気がした!
コイツはまずい!防ぎ切れるかッ!
腰のアカツキを鞘ごと自分の身体の前へ素早く突き出すと、衝突音が響く。
アカツキの鞘に阻まれたのは鋭くも優雅なサーベルだ。
「なにをする!」
「はっはァ!この感触、正にキミの右腕って訳だ!」
何か勝手に納得して、ヒサトはその手にしていたサーベルに込めた力を抜く。
当然、握っていた拳を開けば、持っていたモノは落ちる。
しかし、落ちるべきサーベルは落ちきる前に光の粒子となって消えていった。
「《ブレイズオン》ってのはこう。己の魔素に共鳴した武具が同期し、出したい時に出現させる事が出来、仕舞いたいときは消えてくれる。その一環のシステムの事さ。」
先程まで刃を向けていたとは思えない態度で話を続ける彼。
鞘で受け止めた感触は確かに、魔剣の類であって練習用の道具ではない。
「しぬかと思った。ひどいひと。」
「ふふん、酷い人って言われ慣れてるんだよねぇ。それにさぁセバーになったって事は、生きるか死ぬかって人生を覚悟したって事なんだよね。今更剣を向けられて驚くなんて、ちょっと甘いよ。」
「おれたちセバー同士なんだ、仲間じゃないの⁉」
「……特殊な能力、特殊な場所、ソコには価値が付く。」
落ち着いた声で、俺を無視した様に語りを続ける。
「ゾンビパニック物の映画やドラマって、どんな展開が有名か思い出せるかい?——そう、一番怖いのは人でした、ってね。」
……まさか。
いや、たったの10年だぞ?
ヤツの言うゾンビものであれば、映画が始まって30分ってところの癖に?
「キミはテレビゲーム……オンラインゲームをやったことあるかな?」
「知ってるよ。」
「なら話は早い、PVPVEっていう状況、解るかな?今の日本はまさにソレなんだよ!」
人と人が争って、更にエネミーとも争う。
何処にも味方がいなくて、全ては敵だと言うのか。
……いや、でもその例えならば違う。
パーティーやギルドを組めば味方は居る、だが敵も同じという事。
魔石は価値があるとミホは言った。
日本に超自然的に発生したダンジョンと魔獣。
日本以外に発生したとはあの教科書に書いていなかった。
であれば、魔獣に必要不可欠であり、魔法の行使に必要不可欠な魔素はどこからどこにまで広がっている⁉
まさか。
「この第六セバーにも交換留学生が幾つもいる。魔石、魔素、魔力……それらを駆使して作られるハイテクノロジーは、ダンジョンやその関連施設に設置されている。」
彼は畳みかける様な演説の中、とどめとばかりにニヤついた。
「仲間ばかりじゃないって事、解るよね?」
「おれは12歳だぞ、解ってたまるか。」
俺はクルリと奴に背を向けてセリフを吐いた。
そうだ、解ってたまるかってんだ!
12歳、小学生と言えば正義に憧れ、友達百人をめざして、弱きを助けて強きを挫く、そんな世界観で生きているに決まっている。
そして勇者と呼ばれる人間もそうだ。
ラドタルクの勇者は色々な環境を訪れ、人や魔の波に揉まれ、それでも尚付いて来た絆と共に巨悪を打ち倒した。
この学園生活だってそうしてやる。
誰が味方で誰が敵か、なんて俺が決めてやる。
決めつけてやるんだ!
「親切でやってるんだけどなぁ……。」
「本当にそうなら随分よゆーが無いんだな、お前。」
彼の言い訳を聞かせれる前に職員室へ急いだ。