再異世界転生~今度は謎幼女キャラで現代ファンタジー~   作:昔邪道今王道展開好き

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ダンジョン探索許可証にある記述「該当者が死亡した場合、その全ての所有物並びに当人はセバーに還元される。」

 職員室への入り方。

 それが常識だったのは何年前の事だろうか。

 高校を卒業して10年、ラドタルクの勇者を5年。

 

 もう覚えちゃいない。

 ノックをして入るだけで良かったっけ?

 

 一応3回のノックの後に扉を開けて言った。

 

 「浅葉先生に御用があって来ました。」

 「ああ、浅葉先生なら向こうです。」

 

 名もしらぬ先生が俺を誘導してくれる。

 彼の白髪の混じった茶髪が見え、一心不乱にパソコンでお仕事をしていた。

 

 「で?めんどくさい奴に絡まれてくたびれた顔をしてるな黒羽クン。」

 

 「覗いてたの?えっち。」

 

 「いやマジで職員室でそうやって先生をからかっちゃいけません。——じゃなくてよ、どうだった岩手ヒサト。」

 

 「なにに追い立てられてるのやら、気負い過ぎ。人には背負える重みに限度がある。」

 

 少しの間しか相手していなかったが、自分で勝手に己を追い込んで周りの人間をも巻き込むタイプに見えた。

 

 「……そんな顔して随分酷な事をいうのね。まあいいや、気を付けろよ。お前さんみたいな人気者目当てに、あのレベルの厄介さんたちがドカドカ来るからな。」

 

 「なんとかして、先生のやくめ。」

 

 「……ハァ、お前にやるわ、コレ。PDAの通知を見てみろ。」

 自分のPDAをポケットから出し、通知を見れば、ダンジョン探索許可証の交付が案内されていた。

 

 「夏以降みたいな話していなかった?」

 「お前に限って解放だ、練習と称して周りの奴等を全員吹っ飛ばされちゃかなわん。」

 

 勝手な事を言った後にムクリと立ち上がって、手で付いて来るようにジェスチャーされる。

 連れて行かれた先は、鍵こそかからないが後付けで個室になっているブースだ。

 ココで声をだしても外には届きそうにない。

 

 「お前に1つ頼みがあるんだ黒羽クン、いや、ダンジョンの最奥で見つかった少女クン。」

 

 名前というのは付ける事に意味がある。

 

 属性の変更、認識の付与、印象の操作。

 

 俺を、それこそ名前とは言えない名称で呼ぶ。

 彼はどうやら自分の裏を読んで欲しいらしかった。

 

 「様子見しなくていいから言える事を全部言ったら?」

 

 「γダンジョンを最先端の連中より先に攻略して欲しい。いや攻略は大仰だな、探索して欲しい、だ。」

 

 最先端の連中?より先に探索?

 正直に話せと言った筈だが歯切れが悪い。

 

 「言葉がたりない。くわしく。」

 

 「ダンジョン生まれの娘の癖になんも知らないんだな。いいか、ダンジョンってのは奥に行けば行くほど貴重な物資が取れる。入り口に近いエリアより奥のエリアの方が魔獣は強くなるが、取れる魔石にも変化が見られ、後者の方が貴重で効果だ。」

 

 転移した先のラドタルクもそうだったが、こっちのダンジョンも含めてなんだかゲームの設定みたいだ。

 

「でも先生には関係ない。」

 

「あるんだなぁコレが。」

 

 あからさまにニヤケ面を見せつけると、彼はハンドヘルドコンピュータで何やら操作を始めた。

 すると、俺のPDAの画面が勝手に動き始める。

 

「ちょっと、まだやるって言ってな——」

「悪いが、なんとしても付き合ってもらうよ。なに、損はさせないさ。」

 

 俺は渡されたばかりのデバイスのハッキング阻止なんて出来る訳もなく、前もって準備されていたであろう浅葉の作戦に呑まれた。

 画面を見ると再起動完了の文字が浮かび、変哲もないホーム画面が戻ってくる。

 

「これで、黒羽クンのPDAは更に進化した。俺開発、題して『クエストアプリケーション』だ!」

 

 浅葉はニヤケ面から満面の笑みに進化し、どうだすごいだろう、と言わんばかりの様相だ。

 

「……?」

「もぅ、付き合いの悪い黒羽クン!——あの、新しく追加されてるアプリを立ち上げてよ、話進まないからさ。」

 

 知ってた。

 そう言う流れにしたい感じはひしひしと伝わっていたが、あえて無視したのだ。

 だってそうじゃん、人のPDAを勝手にいじくりまわした挙句、俺の指示に従えって随分無法だ。

 

 遂には俺から勝手にデバイスをひったくり机の上にのせて、実際に動かし始めた。

 

 アプリケーションが全画面表示され、起動されていく。

 すると、青色を基調とした背景にでかでかと文字が浮かんで来た。

 

 Qualify

 Uncertain

 Earns

 Sample

 Target system

 

 ああ、やりやがった。

 コイツ自分の作ったシステムのバクロニムを作ってる……。

 

「俺自慢のアプリケーション1号。『不確実収益評価サンプルターゲットシステム』通称Q.U.E.S.Tシステムだッ!」

 

「センセ、心の中14歳ぐらいから変わってないでしょ。」

「こんなアニメみたいな世の中になっちまって、アニメみたいな研究所の職員やってんだ。伊達に厨二心はもってないわ!」

 

 面白くも無い漫才に付き合ってやっていると、画面が変化していて、上にピックアップボーナスと題された文字が踊り、下には何かしらの物質の名前が羅列されている。

 所々に数量も設定されているらしく、これをみて思い出すのは小さい頃にやらされたおつかい表だ。

 

「分かりやすく頼みたい事を言えば、このアプリに表示されている物体を採取し、浅葉研究室宛てにどしどし送って下さい。」

 

 彼の下には彼しか見えないテロップがあるのか、自分の腹の部分を人差し指で示す。

 

「目的は?」

 

「君達セバーは、魔獣を退治して魔石を得てそれを換金して生活する。俺達研究員は、月給と研究の成果で金が振り込まれる。つまりは俺の研究の為だ。」

 

「見返りは?」

 

「独自通貨AsabaPoint、通称APの支給額を設定してある。金には変えてやれんが、俺の技術力をくれてやるのさ。具体的には第三者機構や生徒会の規制を掻い潜った、浅葉特製独自装備をプレゼント!」

 

 このおっさん結構なんでもできるな。

 もう少し人間性がマトモだったら滅茶苦茶モテるだろうに。

 

 っていうか、第三者機構とか、生徒会って……。

 後者は聞いたことあるけど装備の規制もやっているのか。

 考えが追い付かない俺に浅葉はさらに畳みかけて来た。

 

「今ダンジョンに潜ってる一番優秀な連中、通称『優者パーティー』と揶揄されてる連中より、先のエリアで想定される物質を拾って他の研究員より先に俺が研究する!お前も貴重な魔石が拾えて、俺も儲かる!Win-Winってヤツだ!」

 

「えっ、この表記されてるリストの物体って存在が予期されてるだけで、実際にある訳じゃないの?」

 

「そりゃ誰も潜った事が無い場所なんだからそうよ。お前さんは儲かりそうな魔石とか、貴重そうな物体を適当に拾ってくるんだ。そうすれば、俺の超技術によって勝手にアプリに登録される。規定数ひろったらアラームを鳴らしてやるから、浅葉研究室宛てにどしどし送って下さい。」

 

 浅葉は自分の胸板を両手の人差し指を使って指図していた。

 応募はこちらまで、ってか?

 

「装備もいいけど、ほしいものがある。」

「俺の心はやらんぞ、一生徒に買われるほど安かねぇんだ。」

 

 無視だ無視。

 話が進まないとか言っておきながら、進ませないのお前じゃん。

 

「情報が欲しい。おれは地上の世界にくわしくない、だから先生達にとって普通の事でも知らない事が沢山。例えるなら24時間サポートみたいなのが欲しい。」

 

 彼はボサボサの髪をガシガシと掻きながら少し思案した後に頷いた。

 

「それぐらいならいいか。PDAのチャットに応答用アカウントを作っておくから、そこに連絡してくれ。通話でもテキストでも構わんが、24時間は勘弁してください。」

 

 個室から出ると、何事もなかったかのように彼は手を振り、もう用はないと言うジェスチャーをして俺を追いやった。

 使うだけ使っておいて用が済むとポイですか、酷い男……。

 

 職員室から出ると、タイミングを見計らった様にミホが立っていた。

 

 「大丈夫?トキ、浅葉センセから色々聞いたよ。」

 「ん。」

 

 不思議系幼女特有のたくましさを一言で表す完璧な一文字と、豪快な俺のサムズアップが交差し最強に見える。

 

 「でも、友達できたんでしょ?午後は男子と保健室デートしてたって、浅葉センセが。」

 

 あの野郎、ホントに自分が面白ければ何でもいいと思ってやがる!

 しかし、不思議系が冷やかしを否定するのは、我が出てしまうから良くない。

 ここは話題を変える意味でも……!

 

 「ミホは浅葉先生のお手伝いさん?浅葉ゼミナール?」

 

 ゼミナールってのは大学生の一教室みたいなものだ。

 1人の教授に大体10人弱が弟子みたいに付きっきりで、専門分野を学ばせてもらう。

 そして、中高では無かった面白さが、ゼミを主催する教授によって雰囲気が全く違う所にあるのだが。

 

 そう、ミホには色々特徴があった。

 口を開けば浅葉がどうのこうの、最初に会った時もミホ率いるチームに浅葉もくっついていた。

 

 「ゼミではないけど、お手伝いはしているよ。派閥ってやつだね、1年の後半ぐらいになってくると、皆どの先生を個人的に支持するかっていうのが生まれてくるから。」

 

 不思議だ……とも言い切れない。

 大学では確かにゼミの風潮もあってか、大抵の教授にファンがつく。

 中高でもその学校に1人や2人いる名物先生に魅せられる生徒もいた。

 

 「支持って、よいしょするの?」

 

 「トキは妙な言葉を知ってるね。私の場合、偶然に縁が出来て……。トキは知らないかもだけど、浅葉センセって親切な方なんだよ?他の先生はなんだか事務処理みたいな人達とか、生徒を利用してやるって悪い感じの人達ばっかり。」

 

 「浅葉先生は?生徒を利用しない?」

 

 つい先程取引を強行されたばっかりだ、これを利用と言わず何と言う。

 

 「あはは、利用してるかもしれないけど、私達の事も考えてくれてるんだよ。」

 

 ミホを見れば、朗らかな、あるいは何かを諦めきった顔をしている。

 彼女は嘘を吐いている訳では無い、そう直感した。

 

 あんな無茶苦茶な大人に頼るしかないっていうのは、セバーという生き方は随分過酷なのだろう。

 それは第六セバーだからなのか、研究棟もくっついているからなのかも分からない。

 

 さっさと浅葉と持ちつ持たれつになって、カネを稼いでパソコンなどの情報収集用機器をそろえるのが得策だ。

 

「まあ、ぶっちゃけ言っちゃうとね。お誘いに来たの、浅葉ゼミ。最初にトキを研究して保護をしてくれた浅葉先生へお世話になるのが多分、一番だと思うから。それに私もいるし。」

 

「おしい、ついさっき浅葉先生からお誘いがあった。」

 

「答えは⁉」

 

「ん。」

 

 サムズアップで返してやると、ミホが抱き着いて来た。

 女の子に抱き着かれるってのは不思議な気分!

 

 ……俺の身長が小さく図体も細身なせいで押しつぶされそう!

 

「やった!これからは本当に仲間だね!」

 

 ——仲間。

 

 ミホの態度で、ヒサトの言っていることへの裏付けがとれてしまった。

 

 第六セバーの人間全員が仲間で、協力して魔獣と戦っている訳では無いという事。

 そして、直接邪魔立てが入るかもしれないという事。

 

 魔獣の牙でなく、人の刃が俺に向けられるシチュエーションが在るのだという事。

 今日の夕暮れだけで、むざむざと見せつけられたその理は超えるべき壁に見えた。

 

 「今日だけで随分な収穫があったな。」

 

 21時を超え、1人と一本で過ごす夜。

 この推定パラレル日本で未だに一週間すら過ごしていないのだ。

 

 (しかし、ヒサトや浅葉と濃い面子でござったな。トキ殿はツいております!)

 

 ビジネスホテルによくありがちな、少し洒落ているけど座り心地はイマイチな椅子に座りホットの紅茶を飲む。

 ミホの差し入れにあったものだ。

 

 「それはどうだろ、要らぬ注目を浴びただけの様な気がするけど。」

 

 リュウジを吹っ飛ばしてしまったのは痛恨のミスだ。

 しかし、長剣を握っていたのなら未だしも、慣れない刀での戦いでは手加減が分からない。

 

 情報収集とは別に刀の戦闘経験も積む必要があって、この2つは誰にも頼れない……と。

 いや、後者は1人というか一本に頼る事が出来るか。

 

 「それに、敵味方入り混じってるって状況が気に食わないよ。予想が出来ないというか。」

 

 (ラドタルクでも同じことがあったとイレイザー殿から聞いてござるが。)

 

 「ああ、でも俺はあの時何も出来なかった……仲間でさえも。」

 

 ——

 ————

 

 「ランヴェル!補給を済ませたらとっととこの街から出ましょ!もう爆発寸前よ!」

 

 夜の宿屋、相部屋で適当に物品の整理をしながら休んでいた所に、魔法少女コラリーがドタバタと入り込んで来る。

 このベルクダウンの街に到着して数時間と経っていないのに、出発という言葉が出るなんて思いきり変だ。

 

 「落ち着け、コラリー!爆発って言ったって仕掛けが作動するのは2日先の事だろう!それに、借りは返しておかなくちゃ!」

 

 城塞都市ベルクダウン。

 帝国都市の特徴でもある過剰な防衛設備の整った、難民が押し寄せる街。

 

 街の管理は帝国が行っているが、今の状況では帝国人よりも王国や連合の人々が多く詰めかけていた。

 

 周囲の街が魔軍により陥落していく中、人々が集う外壁と防衛力のある街。

 人々はその些末な安心感を得て、余裕が生ませる愛憎に振り回されていた。

 

 「何かあればアッシュ直々に俺へ通達に来るはず、それまで街を離れるわけにはいかない!」

 

 「そうは言っても、砦前の大きな通りですら暴動が起こっているのよ!杖の調整をしに行ったら店も放りだされていたわ!」

 

 陥落した帝国の領地からは奴隷が逃げ延び、崩壊した王国や連合の村や街からは種族出自も違う人々が次々に移り住む。

 魔族襲来までに帝国が成して来た侵略戦争の事を考えれば、坩堝と化した都市はいつ何が起こってもおかしくなかった。

 

 そんな街にワザワザ寄ったのは、他でもない。

 王国特殊部隊に所属するアッシュ・デュール。

 

 旅の途中、何度か帝国兵にいちゃもんを付けられた時に助けてくれた軍人だ。

 

 そんな人に、魔族の領地へ突撃する前に寄ってほしい所として挙げられた土地、それがベルクダウンだった。

 

 何者かの足音が聞こえ、コラリーはすぐに俺の方に寄り、俺はイレイザーに手をかける。

 

 「ああ、すまないランヴェル計画変更だ!」

 

 颯爽と現れた金髪の優男こそ、待ち焦がれたその人だ。

 

 「ねえ、どんな事を私達に頼むか分かんないけど、魔王退治の旅に影響が出るなんて事があったら困るんだ!」

 

 「大丈夫ですよ。シナリオ通りにコトが進めば、悪の帝国の妨害を破り勇猛果敢に魔族領へくりだした勇者一行になるんですから。」

 

 そこはかとないキナ臭さを感じるセリフ。

 彼はいつもこうだった。

 帝国人と見れば威嚇し、魔族よりも帝国を敵対視するその心境。

 世界的に余所者の俺からすれば、あまり考える事が出来ない部分だった。

 

 戦士のヘルマンはボア族とかいう超閉鎖空間で育ってきたし、コラリーは連合の変人でそんな事考えないし、ミリアムは世界宗教である女神教に心酔し切っていて、今も教会で祈っている。

 

 国と国、人と人が生む怨嗟や陰謀にこのパーティはめっぽう弱いのだ。

 

 「今暴動が起こっているウィトン通りから直接北へ、暴動の中を潜り抜け、北ロセトフ門を開錠の後砦の一階を突っ切ってそのまま魔族領へ向かってください。」

 

 無茶苦茶だ。

 補給もままならない中、陣中突破を敢行しろとの仰せにコラリーは怒り出し、それを宥めている間に食料を買い込んできたヘルマンと祈りを済ませたミリアムが戻って来た。

 

 「滅茶苦茶です、こんな魔族領の目と鼻の先で人間同士諍いを起こすなど。」

 

 ミリアムはその凛々しい顔でピシャリと言い放った。

 その顔を戦闘中でもずっと続けて欲しいものだが。

 

 「滅茶苦茶でも何でも、帝国人を叩くのは今なんです。ここで我らが立ちあがり勝利を収めなければ、戦後処理の間で帝国に食われてしまう。」

 

 「俺達は魔王を斃す、絶対だ。だがな、今そのあとの事を考えるなんて皮算用もいい所なんじゃねえのか?今は人間同士強力して、全力で魔族と戦うのが吉と思うが。」

 

 買い込んできた干し肉や乾パンを取り出して見定めては『アイテムボックス』にぶち込みながらも話をするのはヘルマンだ。

 彼の態度はアッシュに対して、「馬鹿馬鹿しい」と言い放っている様なものだった。

 

 「違う、対魔族、対魔獣へ全力を出すために後顧の憂いを断っておかなければならない。魔王を斃したその次は、帝国の皇帝が次の魔王になるのですよ!」

 

 これは比喩だ。

 魔王は突然魔族から発生した個体、そして彼は人間の事を心底見下している。

 だから万が一にも、魔王がその座を帝国の皇帝にくれてやる事など想定外だ。

 

 「どういうこと?魔族も人間も亜人ですら魔の継承なんてできないわ!」

 

 比喩に引っかからない純粋な魔法オタクがビックリした顔をする。

 

 「……案外企んでいるのかもしれません。先ほどのは比喩でしたが、帝国の魔法研究は進んでいますから。」

 

 一瞬シンと静まり返った宿屋の中に外部からの大声が届く。

 

 「帝国兵だァッ!」

 「やつら暴動に参加した連中を見境なく攻撃している!」

 「逃げろ!逃げろ!」

 「もっと南に逃げなくちゃ!」

 

 それらの声に反応したアッシュは窓を少し開けて周囲を確認した。

 

 「計算より随分早い、皆さん、早急で申し訳ないのですが今すぐ北ロセトフ門へ!」

 

 「なあ、ランヴェル。本当に手を貸すのか?」

 ヘルマンの問いに他のメンバーも俺を注視した。

 

 (お前も損な役回りであることは我も同情しよう。しかし、物事には必ず結果がついて回る。それを受け止めるのもお前の仕事だ、忘れるな。)

 

 イレイザーも忠告めいた何かをささやいてくる。

 

 己の行動とそれに対する結果、そして責任。

 俺は兄貴分であるステリオを殺したその日から、全てを背負う覚悟で臨んだ。

 

 旅の途中何度も野党や盗賊、暗殺者などの類は殺して来た。

 今更人の命がどうのこうの思うことも無い。

 

 だが、強大な策略に手を貸すことへの怖れがあった。

 俺の純粋な魔王を斃すと言うその想いが、誰かに利用され巡り巡って人々を破滅へ導く様であれば、俺はどうすればいいのだろう。

 

 手が自然と『猶予時計』に触れる。

 皆が見守る前で、その懐中時計を見れば半分をとっくに過ぎていた。

 

 そう、俺は俺を救う為にも、何を犠牲にしても魔王を斃さなければならなかったのだ。

 

 「ああ、手を貸してやるぜアッシュ。コレで借りはチャラだ、悪いが皆付いて来てくれるか?」

 

 皆が一斉に首を縦に振った。

 

 燃え盛る街の中を疾走して、門へ向かう。

 立ちふさがる『敵』は全て切り捨て、門を開き、そのまま北へ進み魔族領に入った。

 

 「なあ、ランヴェル。奴さん信じて本当によかったのか?」

 

 「借りを返した、ソレだけだ。それに、ココへは来なくちゃならなかったんだ。結果的に良しとしようじゃないか。」

 

 ヘルマンの言に振り返らず答える。

 

 「でも、なんか開いた門から魔獣が入り込んでますよ?」

 

 ミリアムの言葉に思わず振り返って彼等と、彼等の後ろにあるベルクダウンの街を見た。

 そこには多くの人間の死体と、闊歩する魔獣、魔族が見えた。

 見えてしまった。

 

 全滅と言う訳では無い、勇猛果敢に戦う兵士たちが町民を守っている様子が確認できた。

 その兵達の兵装は王国軍のモノだ。

 

 「借りを返すために他人の命を払ってちゃ、私達もあの連中と変わらないかもね。」

 

 コラリーの声は沈み切っていたが、そのきっぱりとした断罪は俺の心を武者震いさせた。

 俺達の道がどんな非道であっても、魔王は必ず斃す。

 

 「旅を、続けましょうか。それが死んでいった者達へのせめてもの償いになります。」

 

 ラドタルクの旅で何度か、策略に巻き込まれたり、陰謀の手先として使われてきた。

 しかし、ベルクダウンの一件は心に深く刻まれた。

 

 人と人の恩義という究極の個人的感情、それすらも利用して人を憎む。

 

 俺は果たして唯の駒以外の何であるのか。

 目的地へと続くのは荒涼とした印象の魔族領。

 

 俺の心も似たようなものだった。

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